TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~ 作:あずももも
「こはね君の専攻は、経済学。この大学においては文系に属するものの、そこへ入学した時点である程度の数学の知識と素養はあり、基礎教養授業のスコアは平均以上。特にサークルへの積極的な参加などはなかったようだが、勉学面では模範的な学生だ」
あれ?
僕、そこまで教授に話したっけ?
いや、ここまで知ってるんなら言ったんだろうけどさ。
大学に入ってから酒飲みになったのは教授のゼミでの飲み会からだし、べろべろになったところで言ってたんだろう。
「常に助手の足りない我が研究室は以前から度々他の学科の名簿を拝借し、時期が来るとその時点でゼミに所属していない生徒を物色していた。だからこそ、こはね君のことも引き込むことができた。君自身のことは知らずとも成績と出席率で判断し、君が応募した君の学部のゼミからの面接予定メールへ、私のところのものも混ぜてね。何、中身など、選択した授業の傾向で大体分かる」
言ってなかったみたい。
ていうかちょっと怖い。
「……初耳なんですけど」
「言っていないからね!」
そうだった……!
この人は……こういう人だった……!
根暗で基本会話のない僕へはこういうのが向けられていなかったから忘れていただけで、被害担当は他のゼミの人たちで、よく阿鼻叫喚が繰り広げられていたんだ。
僕たちが居る、この部屋で……!
当時は――初対面で会話が不可能という難問を抱えていた僕は、人気のゼミから順に応募して順に撃沈していた。
校内情報誌を読んで、みんな、そうしていたから。
……サークルや部活に所属していればもっと精度の高い情報も紹介もあったんだろうけども、僕にはそんなのはなかったから。
だからこそ前半戦は壊滅で、だからこそ応募日程が遅いゼミへはよく調べもせずに片っ端から面接に応募していた。
いや、「なんだか変だな」って思った記憶はあるんだ。
そもそも学部も違ったし、どう考えても受かったとしてまともについていける分野のところじゃなかったし。
――でも、そんなところに受かっちゃったもんだから、そして教授のゼミ1個にしか受からなかったもんだから、上塗りされたっていうか……。
「高校から2年までの勉強を通じ、理系に関して完全な素人ではない、けれども向上心がある生徒なら興味さえ持たせれば……とね。何、別に我が研究室のゼミ生は、そこまで私の研究へ熱心である必要はない。難しいのならば別の勉強を、としているわけだしな。……今から思えば、こと、こはね君にとってはあらゆる面で致命的だったのだがね」
僕は、教授のゼミに受かったからこそ地獄のゼミ面接何十連敗という地獄から――それはまるで求人倍率が低いタイミングで卒業するハメになった世代が経験するという、企業からのお祈りメールで痛めつけられる予行演習みたいな地獄。
そこから脱出できたんだから――その後のは完全に僕が逃げただけだし、むしろ感謝もしている。
でも……そっか。
当時は何考えてるのかさっぱり分からなかったこの人も、そういう考えで僕を……だから人間関係以外ではむしろ快適で。
「――――ひとつ、よろしいでしょうか」
「うむ。妹君……それとも姉御君。ご家族としては思うところも多いであろう。忌憚なく罵ってくれたまえ」
うつむいた優花の低い声へ、教授が向き直る。
普段のハスキーボイスが「こんなに低くなるんだ」ってくらいに。
「優花……」
もちろん、僕だって言いたいことがないわけじゃない。
けども、これはどっちが悪いって話じゃないんだ。
悪いところがあったとすれば、ミスコミュニケーション――教授も僕も、意思疎通ができなかった。
だから優花には穏便に――――
「実は私――――――――将来は『極めて近親の関係でも遺伝的に問題の無い子を成す』ことへ興味を抱いて高校から理系を選択したので、分かります。ついでに遺伝的問題を解決できる治療法にも。ですから将来を考えて、勉強へは人一倍取り組んできました」
「ふむ」
「?」
優花は何を言ってるんだろう。
「法学や政治の道へ進んで制度や世論から変えることも考えましたが、あまりにも不確実で時間もかかります。それよりは技術的な問題を取り払う方が――私が子を成せるうちに、可能なら1年でも若いうちに達成できる確率が、高いと判断しまして」
「?」
なぜか僕は頭を働かせたくなくなって、優花の言うことを理解するのを放棄している。
「ふむ? 確か、その方向性への技術的な研究なら友人がしているが……コンタクトを取るかね? それに法律関係や政治家の先生たちとも月1で呑むゆえ、紹介はできるが? 頼むのであれば多少でも世論誘導は可能だが? 何、私がこはね君へしでかした罪に比べたら軽いものだ。優秀な妹さんと聞いている君になら――」
「お願いします!!!」
がしっ。
優花が教授と仲良くなっている。
僕が苦労して馴染んだ教授と、一瞬で。
「……えっ」
どういう流れでこうなってるんだっけ?
………………………………。
僕は、なにか聞いちゃいけない話を聞いている気がする。
だから、あえて意識をふんわりさせて……あ、窓の外にちょうちょ。
君はひらひらしてて綺麗だね。
僕も君と一緒に羽ばたきたいよ。