TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~   作:あずももも

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195話 教授と会った4

「しかし、だ。妹君」

 

「優花と呼んでくださいますか?」

「積極的な生徒は好きだよ優花君」

 

優花と先生がなかよしさんだ。

いいなぁ。

 

「遺伝的な問題さえクリアされたなら、あとは法律と倫理の問題だけではある。が、TS――『肉体が別人のそれへ完全に置き換わる』という未知の現象で肉体的な問題をクリアした妹君には、残るは後者の2つだが?」

 

「兄さんが元の体に戻る可能性は残っていますので。子を成すときだけ戻るパターンも、ゼロではありません」

「なるほど……確かに。興味深いね」

 

何が「確かに」なんだろうね。

僕にはさっぱりわからないや。

 

「法律の方は如月先生の手引きでの養子縁組による戸籍ロンダリングを駆使すれば法的な婚姻が可能ですが、私は背徳感にもそそられますので家族のままでの方が良いとも考えています」

「君は予想以上に私の仲間だったようだね……歓迎するともさ」

 

「??」

 

僕の妹が、僕の知らない生き生きとした表情になっている。

 

何を言ってるのかは……窓の外のちょうちょとひらひらしてるからさっぱりだけどね。

 

「……ちなみに兄さんは、こちらではどこまで着いていけていたのですか?」

 

「もともと私が欲していたのは大学からの支援をもらうための生徒数であったし、後継者候補の生徒は数年に1人で充分。なにしろ私のすべてを叩き込むのだ、留年させまくって付きっきりでないと……ね」

「なるほど」

 

「あとは主に飲み会での面倒ごとを引き受けてくれ、若い風を取り入れてくれる奴れ――パシ――雑事をこなしてくれて場を盛り上げてくれる生徒だ。研究室のための金と実績を大学からむしり取ることができればよく、すなわち学生たちへは分野を問わず、なにかしらの研究に熱心な子だけを欲していたのでね」

 

教授って話が長いんだよね。

 

そんなことよりも、お空、飛ぶ方が楽しいよね、ちょうちょさん。

 

「……彼には無理をしなくていいと言って無理をさせてはしまったが、私の求める分野の基礎的な内容には充分手が届いていたよ。3年になってから追いかけ始めてな。……こはね君は、真面目が過ぎるのだ。無理せずともよろしいと言っておいたのに無理をして無理を隠して無理にも着いてきてくれていると、悟ることができなかったほどに」

 

「兄さん……」

 

あ、話が戻ってきてる気がする。

 

しばし付き合ってくれていたちょうちょもどこかへ行ったみたいだし、頭を働かせよう。

 

「僕、勉強と読書だけは耐性があったから。……ここに来ると分からないところを教えてくれる教授や先輩同輩たちとのコミュニケーションすら厳しかったけど」

 

彼らはみんな、良い人たちだった。

ただ……生きる世界が違っただけ。

 

花畑に咲く色とりどりの花々と岩の下に棲息するダンゴムシとでは種族が違いすぎて、快適な環境がまるで違うんだ。

 

「勉強――点数を取る取らないにかかわらず、望む分野の勉学を自分からできる。その才能があればどの道へ進んでもいずれは……とは思っていたが。ふむ」

 

じっ。

 

教授の――男のときは、ここから逃げ出す直前のときは見つめ返すだけで胃が苦しかった中性的な美人の顔に座する、僕の中のすべてを見通してくる気がする目が、僕を見つめている。

 

「……まさか、君とは最も縁の遠いジャンルであるアイドル――コミュニケーション能力で開花するとはね。いやはや、だから人間とは実に愉快で愛おしい。私のしでかしてしまったせいで巻き込まれた地獄から、完全に予想だにしない方法で脱出してしまったのだから」

 

ばっ。

 

上を仰ぎ、両腕を天へ突き出し、興奮した声を上げる教授。

……こういう奇特なところは、今でも苦手かな。

 

「え、ええと……?」

 

「――君は、まだ若い。いや、さらに若くなり、可能性は無限大だ。若者の特権である期間を、事実上10年ほど多く獲得した」

 

教授の目が輝いている。

 

「人生とは何が起きるか分からない。――『気まぐれな上位の次元からの干渉により、ある日突然に平行世界の君の肉体』となることがあり得るほどに」

 

 

……あ、なるほどね。

 

僕がそれを話したとき、配信のほとんど誰もが――表面上は「うんうん」とか「そうだね」とか「わかる」とかそれらしいことを、女性配信者への常套句として連呼していたけども――信じていなかった。

 

けども僕はもう1人の僕と接触して知ったことを、配信でしゃべっていた。

 

その配信のアーカイブを観ていたのなら――いや、介護班の人たちと接触したのなら、ちょっとSFチックな表現になってはいても知っているんだろう。

 

……上位存在ってのはよく分からないけども。

 

「時に、こはね君」

「なんでしょう」

 

「私はね。実は――――『TS連呼厨』と呼ばれる存在と、知己なのだよ」

 

「あっはい」

 

あのアカウント――最初から僕のことを「TSっ子」とか決めつけて来ていた、どう見ても小学生みたいな精神年齢の視聴者。

 

あのよく分からない言動はなるほど、教授とシンパシーを感じる類いのものだったか。

 

ひょっとして親戚とかなにかかな。

 

「その存在も謝罪していた。『いっぱい迷惑をかけちゃったからなんでも言うことを聞くよ』と。何かあるかね?」

 

「よく分かりませんけど、気にしてないので」

 

「兄さん、そういうときは『今は思いつかないから後でいただきます』と言えば良いのですよ」

「優花、良くないって」

 

「正当な権利ですよ?」

「妹がしたたかになってる……」

 

「……くはははは……! 分かった、確かに伝えよう……!」

 

急におたけびを上げる教授。

 

「――――――――最も。君が声を上げたなら、確実に聞き届けてくれるとは思うがね?」

 

突然にテンションが海溝から月まで反復横跳びをする教授。

 

……僕、やっぱりこの人のこと、苦手だ。

 

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