TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~ 作:あずももも
「――――という流れになった。いや、てっきり罵声を叩きつけられる――いや、今の彼だと泣かれる方が私には辛いか――とは思ったが、やはり彼は彼だった。ああ、ゼミに居たころから何も変わらずにね」
【なるほどね!】
「しかし上位存在――――いや、『神』よ」
【個人的には神様扱いは好きじゃないなぁ】
「個人的……なるほど。それは、この島国や地中海の神々などのような存在でもだろうか」
【あ、いいね うん、そっちの、親しみやすいし完璧じゃない神様なら大歓迎だよ 実際にそうだし】
こはねと優花が退出した研究室。
窓とカーテンとドアをすべて閉め切り、監視カメラすら手を回してオフにしてある室内。
そこで「教授」と呼ばれた人間は……スマホの画面に映る【言葉】と対話していた。
通信の隔絶されているはずのスマホで、何者かと。
「確かに彼は魅力的な青年――今は童女か。ともかく、うむ。若いゆえのナイーブさはあろうとも、見ていて実に愉快な人間だ。目立たずともこつこつと愚直に興味の方向へ深く深く掘っていき、掘り当てる――研究者に相応しい人間。彼が望むのであれば私の全力をもって、いかなる方向へでも導くつもりではあるほどに……だが、神ともあろうものが直接に介入するほどのものなのかね?」
【君はいつも直接的だね】
「回りくどいのは好かないのでね」
【分かるよー みんな、ねちねちだからねー】
マイクと、画面越しの対話。
――「スマホの電波を切っている」上での対話が、成立している。
【こはねちゃんはね かわいいんだ】
「うむ。実に愛いな。肉体も精神も」
【片方は肉体が滅びかけているのに、健気にも周囲を動かすくらいに笑顔で もう片方も精神が滅ぶ道を進んでいるのに、やっぱり健気に周囲を動かそうとしていて】
「……先ほどのこはね君と『もう1人のこはね君』のことか。しかし彼が男性配信者と認定されていた時期には、それほど有名でなかったと思うが?」
【その時点ですでにコアなリスナーの人生の方向性を――うち2人は「予定」とは違う人生へと、それも良い方向へと変えさせるほどなのに? あ、あと、あの妹ちゃんはこはねちゃんの影響で、「どっち」にしたって世界を揺るがす変革をもたらす「予定」だよ?】
「なるほど。共感性の高い彼がなってはならない職業だが、あのように一方的に語りかける方法ならば、カウンセラー――それとも意図せず、メンターとしての適性があったと」
【細かいことは彼女たちのプライバシーだからダメだけど、だいたいそう それにこはねちゃん自身も、「予定」ではあと2年でやっぱりバズってのを起こして有名にはなってたよ ジャンルも方向性も違ったとしても、ね】
「なるほど。こはね君は、そういう運命だったと」
【こはねちゃんそのものが、ね だから、好きなんだ】
「……ところで神よ」
【なぁに?】
教授は、ひと呼吸置いて伝える。
「ネタバレは良くないそうだ」
【あはは、ごめんごめん、つい】
教授はシャツの首元を緩め――ちらりと女性用下着を覗かせて、言う。
「では、やはり――――『私のように』不安定かつ不確定に異なる世界と重なり合う存在とは……違うのか」
【残念ながらね まぁTS『させて』あっちの肉体情報を上書きしたせいか、こはねちゃん『たち』の魂が移動できるようになってるのは……ある意味で、君の仲間かもね】
「ふむ。ならば『彼も』また両性にもなることが可能ということかね?」
【できるけど、TSと生えてるのはジャンル違いだからなぁ……どっちか、あるいは両方のこはねちゃんがすごく望めば、かな? でも個人的には……こはねちゃんが『どうしても』って言わない限りはヤだなぁ こればかりはこはねちゃんの頼みでも、こはねちゃんへの贖罪としても、ね】
「なるほどなるほどなるほど……創作ジャンルには『解釈違い』という概念がある……か。違えてしまえば、文字通りの宗教戦争――――ただの研究者は首を突っ込まないでおこう」
【君のそういうところが好きだよ 理解が早いから】
彼女――いや、その腰につけている『男性用の下着』の中身を意識した彼は、そっと胸元を閉じていく。
「いずれにしても、彼は君のおかげで幼く可愛らしくなり、そしてすでに世界へと羽ばたいた。彼が言うには、もう1人の彼もまた……」
【ちょっと怒られちゃったけどね でも、それくらいはしてもいいって思ったんだ】
「肩入れかね?」
【推し活だよ?】
「神々も推し活の時代かね」
【なにしろヒマだからね!】
「……ははははは! どうやら退屈を持て余した知的生命体の行き着く先は理不尽のようだ!」
【だって、ヒマすぎると死んじゃうし? なら忙しいところで生きてる好きな子、応援する方が楽しいでしょ?】