TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~   作:あずももも

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17話 様子がおかしい優花と複雑なモテ具合とユニコーンと

「……兄さん」

 

「?」

 

ある朝。

 

僕にとっては不定期に訪れる、けれども世間一般と太陽の位置としては定期的な朝の時間。

 

いつもの優花との会話。

 

「……風邪。もう治りましたよね」

 

「え? あ、うん」

 

「カゼを引いてる」っていう言い訳をすっかり忘れてたのを寸前で飲み込む。

 

大丈夫、すっかり忘れていただけで、嘘は吐いていない……はず。

大丈夫だよね?

 

「………………………………」

 

「本当に大丈夫。ほら、声とか元通りでしょ?」

 

違和感あったかな。

いや、でも声質的には配信でのそれで問題ないって判断してるんだけども。

 

「家事も、最近はすっかり元通りにしてくれていますよね」

「うん。何か足りなかった? トイレとか、何日か前に掃除したつもりだったけど」

 

僕たちニートは、雇い主もとい養い主の不満を速やかに解決せねばならない義務を負う。

さもなくば「就職して?」っていう最後通牒を突きつけられるんだ。

 

「いえ……そうではなくてですね」

 

うん?

 

優花が……かなり言いづらそうにしてる?

 

「……夜中の散歩で、外の空気を吸うのと体を動かす日課。風邪を引いてから……もう、かなりしていませんよね」

「あっ」

 

やばい。

 

「さすがにそろそろ体だけでも動かしてもらわないと」

「え、えっと、へ、部屋の中でダンベルと踏み台程度は……」

 

「リビングのサイクルマシンは?」

「あ、えっと」

 

「それよりも、外に出ないと……兄さんなら分かっていますよね?」

 

やばい。

 

優花が理詰めモードに入っている……これは本気だ。

 

優花に嘘は吐かない――必要のない明確なものは――って決めてるし約束してるから、この体のこと以外で嘘は言っていない。

 

ときたま体を鍛えたくなる衝動で揃えたダンベルとか、その場でふみふみできる踏み台とか、場所を取らなくて手軽だから部屋に置いているそれらは――男のときの何分の1しかできなくとも、ちゃんとやっている。

 

けども――体のサイズ的にどうあがこうと無理だったサイクルマシンには触れていない。

 

あれは使った記録が残るし、なにより優花も使っているからイスの高さでバレているんだろう。

 

まずいまずい。

 

「無理にとは言っていません。……けれども、理由を作ってでも外に出ないと」

自分から出ようって思っても出られなくなる重症の引きこもりになる……うん、分かって――」

 

「――――――――何か。出られない理由。あるんですか?」

 

「ひゅっ」

 

僕の幼くなった目元から涙があふれ出す。

僕の幼くなった口元が歪み、カラカラになる。

 

「……ひっ、ひっ……」

 

僕の横隔膜は勝手に痙攣を始め、気持ちはどんどん悲しさと気持ち悪さと恐怖に包まれていく。

 

「……ごめんなさい、兄さんに当たってしまいました」

 

あれ?

優花の声が一瞬で元に戻っている。

 

「……その。体調が悪い時期でして……あの、風邪とかではなくてですね……」

「あー……うん、僕こそごめん、ずっとサボってて」

 

優花は――女性としての宿命である、生理ってのが重い体質らしい。

 

兄妹とはいえ男女、しかも歳が離れていてさらには彼女の方が年下だから、こういう話題はとても気まずい。

 

けども女性の、生物としての性別的な機能のせいで――僕たち男には無い代わりに「命」を生み出すっていう唯一無二なそれのせいで、女性たちは中学生くらいから毎月、つらい思いをしている。

 

優花は月によっては学校を休んで寝込むレベルだから、そんな気まずさとかの前に、彼女が中学のときからそれを伝えられている。

 

さすがに中学に入るあたりから毎月何日か、顔が真っ青になって食も細くなり、笑顔もなくなったりするしトドメに僕の前で吐いたりすれば……言うしかなかったんだろう。

 

彼女は――かつての同級生いわく「気分とか体調で『兄貴キモいウザい臭いモテないのは死ね』って言ってこない……うぅ……素晴らしい存在なんだ。お前はその幸運をかみしめろ。ところで優花ちゃん、最近バストサイズ……待て、誤解だ、俺はただ――」などと言われるくらいに、稀少な存在らしい。

 

全員が全員でないにしても、女性は女子の段階から体のせいで気分のアップダウンが激しい。

でも、優花はそういうタイプではない。

 

「……うん、そうだね。最近サボってた。できそうになったらまた外に出るよ」

「分かりました。無理はしなくて構いませんので」

 

まぁ最近はこの体にも慣れたし、薄暗い時間帯なら外に出てもバレないだろうし。

良い子な優花は夜中に起きないし、問題はないはずだし。

 

「本当に……すん……無理は……すん……」

 

「? どうかしたのか?」

「!? い、いえ! それでは学校の準備をしてきます!」

 

「………………………………?」

 

たったったっと彼女が廊下を後にする足音は、珍しく急いでいた。

 

……けども、特に最後の方……なんか声が妙に近かった気がしたけども……気のせいかな。

 

 

 

 

「……ふぅ。――――――――兄さんの匂いが、9割減」

 

ぱたん。

 

自室のドアを閉めた優花は、胸元で片手を握りしめ、呟く。

 

「――――――――そして、知らない女の匂いが9割増」

 

彼女の声は、氷点下まで落ちる。

 

「年齢は小学生ほど――つまりは小学生女子。制汗剤や香水の成分はなく……だから外から来た泥棒猫だったとしても、色香で堕としたわけではない……そもそも兄さんは、そんな色仕掛けに堕ちるような人ではない……」

 

彼女の口元は、冷静な分析を奏でる。

 

「シャンプーの匂い……兄さんと私が使っているものと同じ……でも、風呂上がりだったり『髪が私以上に長くないと残らない』レベルまで濃い……はぁ……」

 

彼女は部屋を歩き、机の上のタブレットを前にする。

 

「――やはり、かすかではありましたが『兄さん以外の女の声』がかすかに聞こえました」

 

彼女の目は、見るものを凍らせる温度になっている。

 

「声質までは……危険すぎたので、あれ以上ドアに近づけませんでしたが」

 

彼女は「こはねちゃん」のアーカイブ画面を操作し、通学時間に聞く予定だった「数時間前」の再生画面を見る。

 

――薄紫の髪を伸ばした少女。

 

Vtuberとしてのアバター。

 

「兄」の性癖だろうと、それを発見して以来――横髪を伸ばし、そろそろお揃いの三つ編みを前に垂らすファッションができると喜んでいた、憧れの姿。

 

「………………………………」

 

――メールの受信画面。

 

毛髪の分析結果。

『DNA』の――彼女との繋がりのない存在の、実在。

 

「けれど……んっ……」

 

彼女のもう片手が、体の一部から離される。

 

「――先ほどの匂いでも、この声でも興奮できました」

 

彼女の声は、高温多湿の性質を帯びている。

 

「科学的な事実よりも、直感を信じるべき――特に恋愛においては」

 

彼女の思考は、支配されている。

 

「つまり、あのドアの向こうに居たのは確実に兄さん。兄さんと同じ産道を通って生まれてきた私の本能が示しているのだから、間違えるはずはありません……んっ」

 

そして数分間――彼女の周囲の重力が、無限大になる。

 

「……ふぅ」

 

彼女は満足し、スカートを直し、少し着崩れた制服を鏡の前で直す。

 

「――――――兄さん。配信。嘔吐。酒。躁鬱の内の躁の時期独特のテンションや軽口。ドッキリ企画。子供のように……んっ……ギャン泣き。そして――――――『TS』」

 

彼女のスマホの画面には「TS――性転換が現実的にあるのかどうか」という問いに対する答え。

 

それは、部分的に人類を超えた存在による「否」の回答。

しかし、別のメールの画面には『或いは』という見解の綴られたレポート。

 

「……私は、兄さんの妹。血の繋がりさえなければ、兄さんの倫理観がなければ――私自身の歯止めが緩ければ。そう、何千回と後悔したはずの気持ち」

 

彼女の目は――「彼女の兄」が見ていたら、その場に座り込んで盛大に漏らしながら泣きじゃくること必至な覚悟をたたえていて。

 

「それが、もし。もし。――――――もし、『根本』から変わっているのだとしたら。いえ、そうでなくとも――――――『万が一にでも子供ができない』のなら。生物的な問題も倫理的な問題も感情的な問題も世間体的な問題も……母さんも父さんも、そして兄さん自身も拒む理由が、この世界になにひとつ存在しなくなる――――――――うふ、うふふふふふふふふふふふふ……」

 

彼女は、数十秒間――呼吸すら忘れて笑った。

 

「………………………………ふぅ。いけません。まずは、そうだとしたら兄さん自身が相当困っているはず」

 

かつての兄を思い浮かべた妹は、「風邪で配信を休んだ始めの日」の前日のアーカイブを探し――そこのコメント欄を、ひとりずつピックアップしていく。

 

「……兄さんが心を許している人たち。古参と呼ばれていて、悪意のないはずの人たち。彼らなら――」

 

 

 

 

「………………………………」

 

あみあみ。

 

「………………………………」

 

あみあみあみあみ。

 

「………………………………」

 

あみあみあみあみあみあみあみあみ……はっ!?

 

「……三つ編み……」

 

イスを回して鏡を見ると、そこにはメデューサみたいになっている僕の姿。

 

何本もの三つ編みが――手慰みに、動画をぼーっと観てるときとかにお酒を飲む代わりにと動かすようになった手が、無意識で房を量産していた。

 

みあみあ。

 

みあみあみあ。

 

みあみあみあみあ。

 

それをひとつずつ丁寧にほぐし、元に戻していく不毛な作業。

 

「……なるほどな……優花とか女の子が髪の毛触るのって、ただ触りやすいからってのがあったのか……」

 

――考えるだけで恐ろしいけども、この体になったあの日からすでにひと房、横に流れる髪の毛のうちひと房が三つ編みになっていて、房が肩の上で揺れる姿だった。

 

最初は当然結ったりもしないでほったらかしだったけども、なぜか――怖いから考えない考えない――なんで見知らぬリボンがあるのか、捨てるのもそれはそれで怖いからずっと着けてるのがさらに怖くて――――――――

 

「くぴっ……!」

 

ふぅ。

 

まるで下にぱんつを穿かないでスカート姿で外に出たときのように――そんなことはしてないけども、あくまでたとえだ――落ち着かないんだ。

 

「だからって何本も量産して……いやまぁ誰に見られるわけでもないし、つい買っちゃったリボンとか髪ゴムとかあるけどさぁ……」

 

机の上には、通販で買っちゃった系統のいろいろ。

それを無意識で――本当に無意識でつけたり外したり。

 

最近の僕は、いつもそうだ。

 

「……ま、まあ、頼るべきものが僕基準での朝はコーヒー、夕方からはお酒だけよりはマシか……」

 

僕は、まるですだれのようにことごとくの横髪が結ってある、なんとも奇妙な――それでも悔しいことにかわいい女の子の姿を見つめていた。

 

――こんな、情けない兄だったものの果て。

 

優花が見たら――なんて言うんだろうか。

 

 

 

 

「かわいいですよ……? ええ――歯止めが効かなくなるくらいには」

 

 

 

 

「うぅ……」

 

僕はつらい思いをしながらも配信を始める。

それしかできないとも言う。

 

「おはよう……うぅ……」

 

僕は悲しい存在なんだ。

 

【おはよう】

【草】

【開幕いつもので草】

【かわいい】

 

【かわいいけどかわいそうな声】

 

【興奮する】

【分かる】

【かわいそうだけど興奮する】

【えぇ……】

 

【本気でつらそうで草】

【のっけから苦しそうで草】

【1回減った同接も、前から比べたら明らかに増えてるしなぁ】

 

「違うんだ……ぅひゃぁっ!? ……う、ううん……もちろん知らない人が多くて怖いけど、そっちじゃなくって……」

 

同接って聞いて思わず見ちゃった数字で変な声が出たのは無視。

 

【は?】

【草】

【かわいいけど変な声で草】

【ボイチェンってすげーな】

 

【ボイチェンも数ある中から自分に合っているものと設定と声の出し方極めたら実質地声だからね】

 

【ああ、いくら造った声だと言っても、数ある選択肢の中からたったひとつを選び、設定を決め、それに合った地声を鍛えたらなら、それはもう第2の地声……偉業は誇るべきだ】

 

【ボイチェンってね、無限の可能性があるんだ  そう、PCとスマホとスピーカーとbluetoothに遮音のマスクをを活用すれば――現代では、見事に異性になり切ることが可能だ】

 

【ああ、いくつか試せば違和感がないのがあるはずだ  設定を細かく調整して出た声を録音し、何度も微調整  そしてボイストレーニングを重ねれば実質地声だ】

 

【ボイトレはムーチューブにいろいろあるから、自分に合ったものを探すんだ】

【有志が無料で教えてくれることもあるぞ!】

【まずはYに「女声に興味があります」って書き込むことからだ】

【ずっと見てるからね】

 

【お前も――――――――ネナベやネカマにならないか? 異性に目覚めるというのは……とても気持ちが良いものだぞ?】

 

【バ美肉はね、バーチャル美少女受肉でもバーチャル美少年受肉でもあるんだよ】

 

【リアルの年齢も性別も声も顔も体も関係ない  かわいいは、作れるんだよ】

 

【ボイチェンでメス堕ち……しようか  大丈夫大丈夫、VRなChatではいつでも俺たちが純粋無垢なお前たちを手ぐすね引いて待ち構えているよ<URL>】

 

【やさしくしたげる<URL>】

 

【<URL>】

 

【ひぇっ】

【急に湧いてきたやべーやつら】

【唐突な長文はNG】

【一瞬で加速してて草】

【TSネタのせいで定着してしまった界隈民】

【急にメス堕ちさせてこようとするんじゃねぇ!】

【なんだこいつら……やべぇよぉ……】

 

【ひぇっ】

【こわいよー】

 

【TSっ子だからもう同位体を受肉してるし必要ないってば】

 

【まーた言ってる】

【一瞬でコメントが100超えてて草】

 

【でも、リアルでもこんな声出してるって思うと……】

【それにしても、まーたコミュ障こじらせてる……】

【しゃあない、経緯的にPTSDみたいなものらしいし】

 

【それでどしたん?】

【話聞こうか?】

【とりあえず……閉じちゃったDM、開放しようか……】

【男ワラワラで草】

【ちょ、この前もだけど勢い速すぎ】

 

「僕は男だから意味なんてないって……んくっ」

 

とりあえずのお酒。

困ったらお酒なんだ。

 

「ぷはっ」

 

……この体が女の子だって気づかれてるわけはないんだけども、それはそれとして体がこわばったから脱力のためにも必要なんだ。

 

「……あ、今日は日本酒です。スーパーで売ってる普通のやつ。えっと、銘柄は……」

 

【はいはい】

【「猪の大脱走」……さては高級スーパーだな?】

【こはねちゃんの実家は太そうだ】

【これならいくらでもニートできるね!】

【草】

 

【こはねちゃんこはねちゃん、空きっ腹にお酒は良くないぞー】

【メンタルのためだと言われたら強くは言えないけどなぁ】

 

【まぁ20代までなら治療必要なアル中レベルで飲まなきゃ大丈夫だとは思うが】

【そもそもアル中とか急性アルコール中毒、継続的でも血液検査で異常が出るレベルのそれはよっぽど飲まなきゃならないしな  絶対じゃないけど】

【可能なら減らすのが理想だけど……無理強いはできないか】

 

【体質にもよるけどな】

【すぐに真っ赤になったら弱い証だからやめとこうね】

【急性のは飲み会とかで無理して飲むのとかフリードリンクでよくばるのとか見栄で一気ってのが原因だしな】

 

【まぁ毒は毒だから飲まない方がいいけどな】

【大丈夫、今どきの若者はかしこいから酒メーカーが嘆くくらい健康だよ】

 

【若者っていえば、若さって何よりの武器よね】

【分かる】

【30近くになったある日から急に飲み会が辛くなって】

【うっ……】

【つらい】

 

「はぁ……実はね」

 

年齢談義に加わりたいけども、何かでうっかりバレないとも限らないから今回は無視。

 

そんなことより、このつらさを分かってほしいんだ。

 

【うんうん】

【なんでも聞くよ】

【言ってみ?】

【だから通話……できないんだったわ、このコミュ障っ子……】

【ならDMだけで満足しておくか……だから開放して♥】

【草】

【出会い厨も諦めるガチっぷり】

 

「……最近、コラボの誘いとか案件のDMが……うぷっ、……ぷはあっ……! だから閉じたんだけど……うぇっ」

 

昨日ひと晩の苦労が思い出される。

 

「げぇっ……くぴくぴくぴくぴ……」

 

吐きそう。

ちょっと上がってきたのを、アルコールで下す。

 

「……うげぇ……うぇぇ……え゛ぇ……」

 

【ふぅ……】

【興奮した】

【お前ら……】

【草】

 

【あー】

【これはガチで気持ち悪そう】

【アル中の友人と全く同じで草枯れる  離脱症状を抑えるためのがぶ飲みに】

【かわいそう】

 

【吐き気をお酒で飲み込んでる……】

【マジでストレスになってるっぽいな】

【DM開放とかしてたから……最近閉じたみたいだけど】

 

「違うんだ……こんなとこになるだなんて。もう閉じたし、全部お断り……できないから無視してるし……」

 

多大なストレスを受けての無視だけどね。

 

……寝起きの悪夢は毎回知らない人から追われるのだけどね。

 

【えぇ……】

【正解ではあるな】

【バズって認知度上がるとそういうのがあるのか】

【数字取れるって分かるといろいろ来るからなぁ】

 

【こはねちゃんの場合、秘められていたトーク力とかわいさじゃね?】

【確かに】

 

「トーク力……そんなもの、ある? 僕に。あとかわいさはボイチェンね」

 

トーク力なんてものがあったなら、僕は高校でも大学でもやらかしてない。

僕には人の心が分からないんだ。

 

たぶんみんな、僕が女の子だっていう「設定」を楽しんでいるだけなんだろう。

 

【はいはい】

【分かってる分かってる】

【そうだねだからDMひらいてメシ……はだめだからおしゃべりしよ?】

【投げやりで草】

【だって……】

 

【いやいや  ほぼ毎日数時間、前はぽつぽつとだったけど無難なしゃべりとかリアクション取れて、調子が良いっていうかテンション上がってる日はノリが良くなるじゃん】

 

【アーカイブ見たけどさ、数分静かになったりしても聞いててはらはらしたりする静寂じゃないから普通に聞けるし】

【それな】

 

【新人Vとか配信者のは痛々しいことが多いからな】

【それが大好物なんだが?】

【必死なのが良いよね】

【素人感……良いよね】

 

【それを求めて俺たちは同接0からひとケタへダイブするんだ】

【素人ものを否定する人間だけが石を投げる資格がある】

 

【ひぇっ】

【ま、まあ、そういう需要は新人さんにはありがたいから……キモいけど……】

【草】

 

【あと  普通に滑舌いいし】

 

【それな】

【みんな、ちょっと何かしゃべってみるのをスマホで録音してみよう】

 

【      】

【      】

【      】

【      】

 

【即死魔法はNG】

【絶望するよね……】

【最初は誰もが通る道だ  安心しろ、家族と友人にはその声でろろろろろ】

【草】

 

………………………………。

 

……完全に視聴者を気にしないでのひとりごとに近いトーク、場合によっては数分に1回しかしゃべらない。

 

そんな、気楽すぎて真面目にがんばってる配信者さんからは怒られそうなダメなのなら……それくらい、普通じゃない……?

 

それが顔も合わせなくって良いネット越しなら、なおさらにさ。

ほら、誰だってひとりごとならいくらでも怖じ気づかずにしゃべれるでしょ?

 

優花からも「兄さんはネットで完結する仕事が良いかもしれませんね」って言ってたし、家から出さえしなければ何も問題はないんだ。

 

あ、そういえば昨日の彼女はなんか様子が変だった気が。

 

……後で何かあったか、さりげなく尋ねるチャット投げとこ。

 

【しかもボイチェンも自然に使いこなしてるし】

【TSっ子って設定もなぜか浸透して、その界隈に知られてきているしな】

【草】

 

【やった!!!】

 

【お前……】

 

「お前……いや、もう良いけどさぁ……『違う』ってはっきり言ってるから大丈夫だろうし……今の悪ノリも、分かっててのだから大丈夫だし……」

 

――TSとか連呼してる小中学生。

 

本当にそれしか連呼しないし、それ以上のことは言わないしで、最近はなんだかかわいく思えてきた哀れなやつ。

 

今の僕でも拒否反応がそこまで出ないってことは、悪意は存在しない。

そういう悲しいセンサーが敏感だからこそ、分かる事実。

 

普通なら人間は自然発生的に性転換なんてしないんだから、きっと変な性癖を垂れ流してるだけなんだと――同じ男として生暖かい目で見てあげられるんだ。

 

「ふっ……ボイチェンで実にちょろい視聴者たちだよね」

 

本当にね。

 

TSとかいう、きっと夢だろう事象での声に――こんなにも脅されている、哀れな視聴者たちなんだ。

 

【??】

【そういうことにしておこう】

【そうだね】

 

【まぁしょせんはネット越しだし、真偽はお互いに分からないままってのも悪くはない】

【そうそう、Vtuberとかそういうものよ】

【分かる】

 

【演技でも設定でも良いから、夢を見させてくれたら何でもね】

【同意】

【ぜんぶ分かってるより半々くらいが良いよね】

【分かる】

 

【古来より「アイドル」ってのは大衆に夢を見させるとかなんとか】

 

【でも肝心なとこでやらかして夢はじけさせそう】

 

【草】

【急に不安になってきたな……】

【こわいよー】

【こはねちゃん、またドッキリとかはやらないよね……?】

 

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