TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~ 作:あずももも
「……んく。つまりさ、TSものの醍醐味ってのは、いかにTSした主人公が異性の肉体になって羞恥心に悶えながら慌てるのかとか、性別の違いでいろいろやらかすのかとか……TSF、男が女になるものなら男の距離感な女の子で壊される周囲を楽しむのかとか、少しずつ女の子の体に染まっていく男の心とかなんだけど、それが秀逸な作品は……そういやなんでこんな話してるんだっけ?」
深夜。
パソコンのモニターだけの光で照らされる空間。
そこで僕は、回って疲れた口を癒やすためにお酒を飲み込む。
そんなしょうもない話を延々としていた僕は、アルコールで正気に戻った。
【草】
【雑談の経緯は忘れたけどTSについてはわかる】
【そして深いところまで首を振るしかない解像度】
【わかる】
【わかる】
【これ以上なく深く同意】
【正気に返ってて草】
【返らないで】
【飲み会って意味のない話をする場所だから……ここ配信だけど】
【草】
【ざ、雑談タイムだから……】
【ちなみに「こはねちゃん」はTSした元男が女の子とくっつくTS百合派? それとも男とくっつく精神的BL派?】
【あ?】
【お?】
【やるか?】
【やるかしないな】
【TS百合とTS薔薇は水と油だぞ】
【TS百合って精神的にはノーマルなカプで、TS薔薇は肉体的にはノーマルなカプなだけだから大した違いはないんじゃ……】
【は??】
【あ??】
【えっ】
【お前は何も分かっていない】
【TSの基礎教養を理解していない】
【この穀潰しが】
【えっ?】
【草】
【なぜか三つ巴になってて草】
【こんなとこでケンカすんなよ草】
【そうだぞ、「こはねちゃん」さんが居心地悪くなったらBANされるぞ】
コメント欄のじゃれあい。
それに、僕も混ぜてもらう。
ついでに僕の優位性も強調しつつで。
「そうだぞ、ここは僕の配信なんだ。気まずいだけでメンタル壊れる僕の配信なんだからな、ケンカするならくだらない話題で笑える感じにしてね。トラウマ刺激されたら……吐くぞ。マイクに話しかけようとして思いっ切り。無駄にお高くて品質の良いマイクからサラウンドでゲロを耳元にぶちまけるぞ。良いのか?」
【草】
【ひでぇ脅し文句で草】
【はーい】
【はーい】
【それはそれで……】
【ひぇっ】
【こわいよー】
【こいつをつまみ出せ!】
【でもケンカ自体は良いのか……】
【気まずくならない範囲でね】
【コメント数が多いと、この配信がおすすめされやすくなるとかなんとか】
こんな僕の配信に住み着いている視聴者たちだ、基本的に僕が不快になることはない。
ないん……だけども。
「それは良いけど『こはねちゃん』呼び、やめない……? 僕、男だけど? この配信、男の地声配信だけど? 男でしかないじゃん? ていうかそれがきっかけでTSもの談義になったんだよ確か。なんでこれまでずっと『配信主』とか『こはねさん』呼びだったのに、全員で急に変えてるんだよ……怖いよみんな、ある日突然急に呼び方変えてくるの……コメントもなんだかやたらと多いしさぁ……」
僕は震えた。
【草】
【それはそう】
【だってかわいいもん】
【でもアバターの「こはねたん」はかわいいし……】
【ほんそれ】
【耳をふさげばこの立ち絵の見た目なボイスが聞こえる聞こえる】
【↑配信で聞こえないのは意味なくて草】
【音声コンテンツ……どこ……ここ……?】
【今は自動翻訳で誤訳は多くても字幕は出るからへーきへーき】
【外国勢の配信とかも楽になったからね】
【バ美肉な子の配信もあら不思議、脳内変換でかわいいボイスに!】
【上級者過ぎて草】
【ちょっと男勝りで男を完璧に理解してくれる僕っ子、幼なじみだから遠慮がなくって軽い下ネタまでなら返してくれるTSっ子……】
【しかも男の価値観も完璧だから、まるで理解のあるギャルみたいな魅力がある……】
【いい……】
【ちょっと興奮してきた】
【この立ち絵の見た目なTSっ子か……ごくり……】
「あ、うん、立ち絵はかわいいからね。耳栓してもいいから配信は見てね。中身は性別すら違う大学中退引きこもりダメヒモニートな25の男だけど、ガワだけは誇れるから。だけど興奮するのは止めて、お願い。なんか鳥肌立ってきたし。いつも言ってるコミュ障が発動しそうなくらいに」
僕は頭を下げる。
それに合わせ、アニメ調のアバターも下を向いて目を閉じる。
【草】
【草】
【自虐芸完璧で草】
【いつも言いすぎて、もはや詠唱になってて草】
【まぁ男が男に興奮されたくない気持ちは分かる】
【話聞いてる限り別に引きこもりでもダメでもニートでも……いや、ダメでニートで自堕落な生活してるのは事実だし、新規の視聴者からコメントで話しかけられただけで吐き気催して一時離脱とかするのもまた事実か……】
【草】
【追い打ちで草】
【全部本当なんだよなぁ】
【でも褒めてない褒めてない】
【ひでぇ】
画面に戻ると、流れは適度に落ち着きを見せている。
こういうのが友達との会話ってやつなのかな。
僕、友達居ないし居なかったけどさ。
「いいのいいの。みんなやけに優しい感じのイジリしかしてくれないから助かる。勤労の義務を放り投げてるのは事実だし、つまりは人間失格だし」
【えぇ……】
【そこまで言う!?】
【まぁキャラ付けは大切だし】
【けどこの立ち絵の子がダメニート……やっぱ興奮してきた】
【えぇ……】
【ひより「こはねちゃんさんの声とか話し方とかいいと思います!」】
ぴこん。
いつもの数名の中に紛れる、他の人とは違った印象のコメントを見た僕は、
「ひより先生はさっさと寝てください。もう1時ですよ、何やってるんですか健全な学生が。今朝も寝坊して遅刻したってつぶやいてたでしょうが、お母さんに言いつけますよ」
連絡先なんて知らないけどね。
【草】
【急に敬語になって草】
【まぁひよりママだし】
【ママァ……】
【ママの娘がママに対してママのママに言いつけるって言ってる】
【ママがゲシュタルト崩壊しそう】
【ママが崩壊しちゃう】
【草】
「ママ」――VTuberの立ち絵を描いてくれた、絵師――イラストレーターさんを指す言葉。
僕の「ガワ」の産みの親という意味では、僕にとって肉体を産み出してくれた両親以外の3人目の親ということにもなる。
だから、
「ひより先生だけは特別待遇だからね。こんな実績もないし数字なんか取れないし取ろうとしてないし何をしでかすか分からない弱小個人配信者がオリジナルな立ち絵描いてもらえるとか。しかも推しの絵師さんの好きな絵柄でとか、普通ないから。先生、基本コミッション――有料依頼とか受けてないし。こんな実績もない個人とか危なっかしくて普通受けたくないはずなのに、わざわざ配信とか来てくれて受けてくれてさ。女神でしかないでしょ?」
先生は、まだまだ駆け出しだ。
このアバターのイラストだって、正直クオリティって意味ではまだまだ拙い。
――けど、「下手なのが初々しくていい」ってのが、推しのクリエイターへの気持ちなんだ。
僕は、ひより先生の――きっと数年後には少女マンガとかを描いているだろう彼女の、今の絵が好きだから、この立ち絵を描いてもらったんだ。
ほら、絵ってあるじゃん。
どんなに拙くてもなぜか心に響く、そんな刺さる絵柄がひとりひとりに。
「この、目をつぶったときのへにゃってした表情とかいつ見てもかわいくて本当に好き。3日くらい前に投稿してたイラストみたいなの」
【ひより「/////」】
【かわいい】
【かわいい】
【こはねちゃんってひよりママにだけはガチだよな】
【熱心なファンだからな】
【そんなこはねちゃんの配信、ひよりママもわりと常駐してる……あれ? こはねちゃんがTSしたらTS百合なのでは?】
【!!!!】
【ガタッ】
【ステイ】
【TSものの派閥争い忘れてたのに思い出させるのやめろぉ!】
「そうだぞ、TSものはTSっ子が男とくっつくか女の子とくっつくかで……いや、そんなに争う気配もないし、どっちでもむしろOKなのが大半だろうけど……やっぱいいや、さっきの蒸し返されるし。ちなみに僕は作品としてならどっちでもOKだからもう不毛な戦いはやめようね」
【草】
【はーい】
【こだわり薄くて草】
【あんだけ語っといてこれだよ】
【スンッ……てしとる】
いや、ただの深夜とお酒のテンションで話しただけだし、僕は特にこだわりもないし。
【じゃあこはねちゃん、もし明日TSしたらそのまま親友の男とかと……あっ】
【おろろろろろろ】
【草】
【推しがTS即日メス堕ちNTRとか地獄かな?】
【おい、ひより先生が居るんだぞ】
【ママの前では下ネタ厳禁らしいぞ】
「……大学中退引きこもりニートに男の親友……リアルで居ると思うか? そんなやつがいたとして……引きこもりニート続けられると思うか? 誰でも良い、頼れる友人が居たらこんなことにはなっていない。本当に頼れる友人が、親友が居れば……たとえ嫌われてもって勢いで部屋から連れ出してくれて、真人間になってこんなことはしていない。――違うか?」
目を半分閉じ、ジト目モーションに。
立ち絵の女の子もデフォルメされたジト目で、視聴者たちをにらむ。
【おいやめろ】
【やめろ】
【心が痛い】
【ああああああ!!!!!】
【お前には人の心とかないんか?】
【草】
【うん……こはねちゃんの日常聞いてる限りね……】
◇
慣れ親しんだ視聴者たち――つまりは僕の敵じゃない人たちとのじゃれあい。
まるで「友達」とのからかい合い。
そんな友達は小学校低学年までしか居なかったと思うし、25になった今では思い出せないイコール存在しないも同義だけどね。
【ひより「こはねさんにはネットにこれだけのお友達がいます!!」】
そこへ参加してくる、ひより先生。
……警戒心が無さ過ぎるのが欠点な、僕の推し絵師さん。
「友達っていってもお互い顔も名前も知らない他人です。良い人たちだけど。だからひより先生寝ましょうね」
【ひより「でも、作業のお供にちょうど良い感じなので」】
「良い人たちですし友達だって思いたいけど先生はさっさと寝ましょうね」
【ひより「でも」】
「学生さんの、ひより先生?」
【ひより「はい……」】
この先生……中学生だか高校生なのに、朝が弱いっていつも言ってるのに、どうして僕なんかの配信で夜更かしするのか……分からない。
【草】
【草】
【圧が強くて草】
【立場的にどう見ても下なこはねちゃんがひよりママをたしなめてて草】
【ま、まあ、実際学生がこんな時間まで夜更かしはよくないし……】
【やめてくれ、それは俺にも効く】
【君もさっさと寝なさい】
【社会人でもそろそろ寝ましょう】
【はい……】
【はい……】
【草】
【で、つまりこはねちゃんはTSしたら男に惚れてく過程を配信してくってのでOK?】
【で、つまりこはねちゃんはTSしたら女の子に惚れられる過程を配信してくってのでOK?】
【あ?】
【お?】
【まーだやってて草】
「何がどうやったらそんな展開になるんだバカ。男が男に……おっと、世間一般的には良いとは思いますけど僕自身の個人的な! 個人的な嗜好としてはノーマルな男な僕が、同性の男にとかはないかなぁ。あくまで個人的な趣味嗜好として! この界隈に属する身としては多様性には多大な理解があります! 偏見はありません! 絵柄と展開さえ好みに合えばどっちの作品もいけますから!」
危ない危ない。
とっさに言い訳を、しつこくこれでもかと込めておく。
今の時代、どれだけ弱小アカウントでも燃やされるときは一瞬だからね。
それに、ないとは思うけど将来的にビッグになれたとき、この発言が掘り返されでもしたら後悔してもしきれないだろうし。
【草】
【予防線しっかり張っててえらい】
【今どきはね、そういうの厳しいから……】
【性別とか今、いちばんセンシティブだからね……】
【けど確かにそれはそう】
【TSは多様性の象徴なのになぁ】
【なんでときどき燃えるんだろうなぁ】
【それなぁ】
【それにさ、たとえ俺が明日TSしたからといって「じゃあ親友とくっつこう!」とか「男食い散らかそう!」とかは……寝る前のお供に、ちょっと通販サイト行ってくる 個人的な探究心として】
【草】
【お前……】
【まさか、こはねちゃんのTSっ子疑惑で興奮して……】
【おっと、下ネタは配信がBANされない程度にだぞ】
【そうだぞ、ひより先生も見てるんだぞ】
【もう居なくなったから大丈夫だろ】
【配信自体も配信からもな】
【でも、「こはねちゃん」って良いよな】
【いい……】
【もうこの際、ボイチェンで男声にしてるTSっ子設定で行かない? やっぱ興奮するんだけど……あ、配信終わったらアーカイブ観直そうっと これまでの配信を脳内変換するんだ】
【草】
【お前……】
【ひぇっ】
【やべぇやつが居たんだな、ここ……】
【性癖はさらけ出すものだからね】
【男ってのはな、性癖に関してだけは誰とでもなかよくできるんだ】
【世界が性癖で包まれたら平和になるのにね】
【え、でも今、性癖で戦争してなかった?】
【あっ】
【性癖でも戦争になるからね】
【ダメじゃん、それ……】
【草】
【草】
なぜか今夜に限ってTSもの――空想上の、創作上の現象としての、性転換。
あるはずのないできごと、だからこそ創作物として楽しめる現象。
なぜか男が女になろうとも女が男になろうとも、すべからく美しい見た目になることは確約されているという奇跡の現象。
今日に限って――本当になぜか、それが何度でも持ち上がり、ついでで僕がTSした前提が認定されている。
話してる内容とかどう聞いても男のそれで、声だって聞き慣れてるだろうに……まぁ男は馬鹿だからしょうがない、僕がその代表だ。
「お前たち……深夜テンションは後で後悔するぞ? まぁそれで同接が増えるなら良いけど、現実にはそんな設定にしただけで登録者が増えるわけでもないし、そもそも僕は正真正銘の男だしTSするわけでも美少女になるわけでもないし」
【と、訳の分からない供述をしており】
【草】
【同接増えるんならTSするんだね? 約束だよね?】
【???】
【因果関係が逆転している】
【男友達な距離感のTSっ子こはねちゃん……】
【バ美肉VTuberという、ニッチだが根強い人気ジャンルにご興味は?】
【ガタッ!!】
【男と分かってるからこそってジャンルもあるんだぞ】
【それな】
どうやら今日はTSネタ――軽い下ネタがぽつぽつ出る話で盛り上がりたいらしい。
もう視聴者たちのじゃれあいはほっといて、
「じゃ、ひと区切りついたら配信終わりにします。昼夜逆転引きこもりニートな僕としては朝まででも良いけど、ひより先生みたいな将来有望な良い子がまだ住み着いてるし」
【ひより「ぎくっ」】
【は?】
【草】
【居たの!?】
【数分経ってるし、てっきり】
「いや、同接数が変わってないんだから分かりますよ……今日は少し多めでコメントも多いですけど、現時点でたったの10人しか視聴者居ない配信なんですから。というわけで……先生、寝てください。寝ろ。じゃなきゃ怒りますよ、この『こはねちゃん』アバターで。先生のためなら怒りますよ」
【ひより「はい……」】
ぴこん。
同接、9人。
【草】
【あ、ガチトーン】
【草】
【お、同接減った】
【えらい】
【ただでさえ少ないリスナーを本気で追い出す配信者の鏡】
【草】
【草】
「普通に同接維持のためにつけっぱで寝てくれてるのかなって思ったけど、もしかしてって思ってカマかけたら普通に起きてたよ……ダメでしょ、睡眠不足は脳にダメージ入るんだから。健康な学生が点数取れなくなったらどうするのさ。ほら、みんなもさっさと寝ないと僕みたいになるからね? 社会どころか家族にとってもゴミなニートになるよ? 家族の負債になるよ? 処分したくても買い手も居ない田舎の空き家物件のごとくしつこくなるよ?」
【はーい】
【草】
【すごい説得力】
【あいかわらずの自爆芸】
【まま……】
【こはねママ……?】
「僕はママでも女の子でもないからな。すべてにおいて属性が違うぞ」
【草】
【TSっ子って設定はどこ行ったのぉ……?】
「そんなもの最初からないし今日も僕からはひとことも言ってない気がする。いや言ってないよね? ていうか今日『TS』って連呼してる人居るでしょ絶対。口調とかからして、普段はコメントしない人。名前とか見ようとすれば見れるけど、そういうのすると僕が気まずくなるからあえて見ないけどさ」
【草】
【草】
【確かに今日はやけにコメントが多いね】
【俺たちもそれに釣られてつい】
【あー、コメントのログ見たら確かに、普段あいさつしかしない人の名前が】
「わざわざ読み上げなくて良いからね。ほんと、気にしてないし。ま、妄想するだけなら好きにして良いから。その内容を事細かく書き込まない限りには許す。男だからその程度は理解してるし」
【草】
【天使か?】
【懐が広すぎる】
【こはねちゃんのおっぱいが大きいだって!?】
【こはねちゃんはミニマムロリだろいい加減にしろ!】
【雄っぱいだって!?】
【草】
【どうあがいても盛り上がって草】
【ままぁ……】
【いつものごとくに深夜テンションだとおもしろいこはねちゃん】
【なんでこんなにおもしろいのに同接伸びないんだろうなぁ】
「そりゃあ……こくっ」
【話してる途中でお酒飲むのやめよ?】
【普通に水分補給なフリしてアルコールで余計脱水するの良くないと思う】
【酒に強くても長時間飲酒は良くないと思う】
【古参一同の意見だよ】
【草】
「すうっ――――――1ヶ月かけて昼夜逆転生活のループなもんだから配信時間も固定じゃないどころか1時間くらいずつズレてくとか自分から視聴者振り落としてくスタイルだし、そもそも僕の体感で夕方、つまり現実で深夜を過ぎないとテンション上がらないし、お酒入らないとここまでも上がんないから普段はぽつぽつ抑揚のない引きこもりニートボイスでしゃべってるだけでトークも別にうまくないしうまくしようとする向上心もなくって、僕自身のテンションが上がってる日だけこうしてみんなを楽しませるられるけど普段はそうじゃなくって、あと配信するゲームもかつては人気でも今となっては時代遅れなもんだから、逆にここの視聴者たちみたいにニッチな客だけを引きつけるだけだから伸びない、かといって新しいゲームはってのもやる気が出ないと手が出せないとか出す気力もないとかだし、あと最後にVTuber枠でおすすめに表示されて、アイコンと立ち絵だけはかわいいからとりあえずで過疎配信に来た視聴者も『なんだ男かよ』って捨て台詞吐いて出てくからじゃない? ふぅ……こくっ。あー、お酒美味しい」
【草】
【草】
【高速詠唱やめよう?】
【根に持ってて草】
【滑舌良すぎて草】
【どうして自分へのダメ出しがこうもすらすら出てくるんだ、こはねちゃんは】
【これでどうしてニートなんかしてるんだ?】
【決まってるだろ? コミュ障だからだよ】
【コミュニケーション障害ってこわい……】
【コミュ障が怖いのか……】
【すべてにデバフをかける呪いだからね】
【それは怖いな……】
【こわいよー】
【草】
【こはねちゃんにブレーンとかが着けば絶対伸びるんだけどなぁ、このトーク力制御して】
【それなぁ】
【まあまあ、本人の意思がないんならいいじゃん、趣味の配信でもさ】
【趣味だからこその味があるんだぞ】
【分かる】
◇
【それにしてもさっきの怒濤の高速呪文詠唱で脳がやられたわ 後でもっかい聞き直そっと】
【草】
【すげぇよな】
【ある意味すごいよな】
【鋼メンタル過ぎて草】
【吹っ切れてるのってある意味強いから……】
【てかこんなにしゃべれるんなら普通にやってけるんじゃ……】
ん……なんだか今日は舌が回る気がする。
時たまにある、謎にテンションが高いタイミング。
今日はきっとそういう日なんだろう。
どんな口下手で無口で根暗でぼっちな人間でも、1ヶ月に1回くらいはこういう日があるんだ。
「鋼メンタルならそもそもとして対人コミュ障発動して大学中退なんてしないし、ましてや家族と妹に気を遣われるダメニートにもなってないぞ。あくまで安全圏なら比較的マシなだけで、20を過ぎて良い大人になっても知らない人と仲良くなれないっていう致命傷抱えてるだけだから。引きこもりニートが内弁慶で家族には傲慢ってよく聞くでしょ? 僕はその元気さえないし、そうしない程度の謙虚さはあるつもりだけど普通に気を遣われてるし遣わせてるし負債になってるし、ここのみんなだって僕のことをただ配信主ってだけでちやほやしてくれるからストレス感じずに吐き気とか少なめで楽なんだし。だいたいなんで会社ってどこもかしこも面接あるんだ、普通に成績とか資格とか経歴とかSPIテストとか意気込み書いた文章とかだけで採用とかしても良いでしょ普通にほんと普通に、コミュ力とか口が立つだけの人の方が小学校から合わせて16年間勉強がんばってきた人よりも評価されるとかどう考えてもおかしいと思うけど実際に働くとなるとたぶん僕みたいのは扱いづらいだろうなって自覚はあるから正しいんだきっと」
ふぅ。
なんだか言いたいことが今日に限ってすらすらと出てくる。
イラストの「こはねちゃん」もドヤっている。
かわいいね。
僕の動きを真似てるだけだけど。
【あっ……】
【やめろ その言葉は俺にも効く】
【ぐふっ】
【ひと息も入れない長文なのにすらすら脳に入って刻み込んでくる恐怖】
【こわいよー】
【流れ弾が深刻で草】
【就活の苦しさが蘇る】
【氷河期世代には致命傷です】
【草】
【もうすぐ就活なのにどうしてくれるの、こはねちゃん!!】
【おろろろろろ】
【てかさりげなく俺たち相手でも吐き気感じてて草】
【あっ】
【草】
「大丈夫大丈夫、僕よりダメな奴の方が少ないから。あと人が存在してるってだけで一定の気持ち悪さはつきまとうものだからしょうがない。君たち相手でも……こう、よく考えたら気持ち悪いな……そこに人が実在してるって想像するだけで胃がきゅってなってくる。気持ち悪い……生理的に無理……」
【いばって言うことじゃない】
【こいつ……ドヤ顔してる!】
【草】
【よく考えたら「生理的に気持ち悪い」って、ひでぇこと言われたわ今】
【草】
【視聴者のこと気持ち悪いとか罵倒していくスタイル】
【でもなんか興奮する】
【きゅんっ】
【分かる】
【えぇ……】
【こういうのも含めて、ある意味での鋼メンタルだな】
【ネット越しの会話ってのもあるんだろうけど、普通に話せてるのにね】
「初対面がダメって、いちばん致命的なやつだから。ほら、結構居るらしいじゃん? 初対面だと話す内容がある程度お決まりだからテンション高く成功できるけど、2回目以降は話すネタが壊滅してコミュ障発動するタイプ。そういうのが分かるってバズったTLが流れてきたけど、みんな同意して苦労話言い合ってたけど、僕はあれより深刻なんだからな? 初対面で形だけでも仲良くなれるのとは違って、そもそも初対面で目を合わせられない時点で詰むんだ。小中高大と学校が変わるどころかクラス替えでも毎年吐くほどストレスだったんだからな? 今はもうニートだから心配ないけど、入社面接とか全滅する自信あるぞ? 1対1でも数人相手でも空気を最悪にして、以後は数合わせでぼーっと座ってるだけのお邪魔虫になるんだぞ? 1人で数人の役員さん相手にしたらその場で吐いてお帰りくださいか救急車呼ばれるだけになるんだぞ? ほら、みんなも見たことあるだろ? 『あいつが居るから自分はいちばんダメじゃないな』って安心できる暗いやつとかさ。クラスの中で面倒見の良いイケメンとかが居て絡んでくれる奇跡があればまともな扱いになるけど、そういうのがない限りの圧倒的多数においては目立たないようにしないと危ない存在って」
適度な自虐は良い。
僕自身のトラウマが、ちょっとは軽くなる気がするから。
【 (昇天】
【 】
【どうしてそんなこと言うの】
【ああああ!!(トラウマ発動】
【なんでこんなしゃべれるのにコミュ障発動しちゃってるんだろうねぇ……】
「こうしてしゃべれるのは数少ない初対面を乗り越えた人か、ネット越しで顔合わせなくて良い相手で、こういうの理解してくれる君たちだけだし……まぁそれでも、引きこもり1年目のときしゃべらなすぎて声が出なくなりかけてたけど」
【それで妹ちゃんに「ひとり言でもいいからしゃべれ」って言われたんだったか】
【壁打ちだっけ?みたいに非公開配信でも良いからって経緯だったか】
【あー、それで結局は普通にボイスだけで配信したんだっけ】
「最初は配信とかする気なかったんだけどなぁ……あんまり心配されるから1回だけでもってやってみたら案外話せたし、引きこもりニートになった経緯を毎回配信の冒頭で話してたらなんだかみんなやさしくなってたからさ。部屋に籠もって1年中ぶつぶつつぶやく存在になるよりは……って感じ。あれはあれで別の病気になりそうだったし。ほら、話してるとおりに僕、家族と顔すら合わさないから。もう何年もまともに目すら合わしてないし」
【それでも1歩踏み出したのはえらい】
【しかも普通にいいやつで普通におもしろいやつ】
【仲良くならないとキャラ分からない人って居るからね】
【ほんそれ】
【こはねちゃん、たぶんコミュ障なきゃ普通に話せるタイプよね】
【俺とは違って才能自体はあるんだ……ぐふっ】
【無茶しやがって……】
「……最近遊んでみたVRなChatで、ネット越しなのにもかかわらず目の前に人が居る気配だけで口を開けなくなって、気がついたら無言勢として認知されてた話、またしよっか? 自発的に話さないっていうスタンスだって本気で思われてたの。初対面相手だと冷や汗ダラダラでVR酔いでもないのに吐きそうになってたあのときの話。普通にさ、学生時代の体育とかグループディスカッションの授業……こくこくこく……」
【 】
【 】
【 】
ふぅ。
トラウマは飲み干すに限るね。
【今度ぶいちゃでも遊んだげるから元気出して……】
【でも、俺たち視聴者で囲んでもやっぱ距離取って無言だったぞ……?】
【守ってるはずの相手が俺たちからも逃げる悲しみ】
【こっち見ながら無表情無言で距離取ってってスーって消えていかれる悲しみ】
【草】
【な、慣れの問題だと良いね……うん……】
「と、いうことで。まだランクマッチしてる時間帯だし、ちょっとアルコール抜けてきたし……ランクマ、やろっか」
ひととおり視聴者たちを巻き込んでから、空になったコップにお酒を注ぎつつ、雑談に夢中で完全に背景になっていたゲームを再開。
――これくらいしか、誇れることがないからね。
まぁ過疎ゲーでちょっと上手だからって誇れることじゃないんだけどさ。
【お】
【こはねちゃんのいぶし銀な戦い……見せてもらおうか】
【けど酒強いよなぁ、こはねちゃん】
【時間経過ですぐ落ち着く処理能力】
【酔ってる方が戦績出るタイプだしな】
【一升瓶飲んでも普通に戦えるってガチで強いよなぁ】
【若いって良いなぁ】
【たぶん普段は対人ってだけで緊張してるんだろうし】
【なるほど、酔拳を使うTS僕っ子だったか……よし……】
【まだ言ってて草】
ちなみに視聴者たちは、その後も僕をTSっ子扱いしていた。
成人男性って主張している成人男性ボイスなのに。
……でも、まぁ。
アバターの「こはね」を見る。
かわいい女の子。
ちやほやされて当然な見た目。
――そんな女の子扱いも、悪くはないかな。
僕自身がちやほやされるとか、小学校低学年以来だろうし……もうちょっとだけ、このままで。