TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~   作:あずももも

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21話 ワンピースと服装談義

「………………………………」

 

鏡の前には、横に置いた段ボールから取り出したばかりの――制服っぽいワンピースを着た女の子が居る。

 

ワンピース。

 

スカートと並び、男がまず身につけるはずのない服装。

 

一生それを着るどころか、悲しいことに自分のものでなくとも触れることもない人生を送る男も多い代物。

 

……そもそもとして男が圧倒的に不遇なんだよな。

 

なにしろ、服といえばシャツにズボン――はい、おしまい。

 

それ以上におしゃれをしようとしても、基本的に羽織りものや上着、靴下や靴などの追加パーツで攻めるしかない。

 

髪の毛だって基本的に――多くの学校では長くすること自体を禁止されていて、社会的にも伸ばしていると反抗的とか見られがちで。

 

つまりはバリエーションといえば短くするか中くらいにするか、ツンツンさせたりうねうねさせたり染めるくらいしかない。

 

校則とかってのは、女子が髪を伸ばすことはある程度許容しようとも男子には許容せず、女子がスカートとスラックスを選べるのに対し男子にはズボン以外は認めない。

 

女子の長髪は許されても、男のロン毛は許されないのが規則。

女子の長髪は美しさ、男のロン毛は反社会的とかナルシストとか思われるのが感情。

 

不平等ではあっても、それが楽なんだよなぁ――そう思ってた。

 

女の子になってみる前は。

 

うん。

 

「……女の子が優花とかもそうだったけど、小さいころから母さんと一緒に何時間でも服屋回って着替え何十回もしたり、普段着が毎日全然違うの選んでたのとか、今なら分かる気がする……あ、髪型も気分で変えてたっけ……」

 

ごそごそ。

 

ふとももをくすぐるなんとも言えない感覚にぞくぞくしながら、ヘアゴムってのを取り出し――

 

「いたっ」

 

普通に髪の毛を挟んで毛根さんへダメージを与えてしまった。

 

毛根さんは男にとって、命の次に大切なものなのに。

僕はなんて愚かな行為をしているんだ。

 

「ま、まあ、どう見てもこの体は僕のじゃない……つまりは毛根へのダメージも、戻ったときにはなんともない……と、良いなぁ……」

 

がんばって左、右と、それらしい位置で髪を結んでみる。

 

……しかし、やっぱ髪の毛、やたら長いよなぁ。

背中の真ん中くらいまでってことは……男のときより50センチも伸びたのか。

 

「よし。……じゃないなぁ、こりゃあ……」

 

鏡に映り直したのは、左右を留めているけども上下のバランスも髪の量も崩れていて、ツインテールにもなっていない謎の髪型をした女の子だ。

 

「いたっ……毛根……」

 

仕方がないから片方だけを引っこ抜く。

ヘアゴムに細長い髪の毛が何本か――見なかったことにする。

 

「ふぅ」

 

確か、サイドテール――片方の髪だけを横に結う髪型。

 

それになっていて、なかなかサマになっている女の子が、ふんすとどや顔をしている。

 

「かわい――――――う゛ぇっ……!」

 

「かわいい女の子が居る」――小さいときの優花を愛でているときの感覚になったとたん、強烈な嗚咽と横隔膜の痙攣。

 

「げぼっ……う゛、う゛ぇぇ……っ」

 

自分を客観視すると――男の時から発生する、自己嫌悪による激しい吐き気。

 

そのせいで、僕は高校生デビューを失敗したあの日から――「僕自身を、認識することができない」。

 

「ぼくのかおなんか……だめ、ゆうかがなく……」

 

僕は慌てて机へ駆け寄りきゅぽんと酒瓶を空け、ひと煽りする。

 

――こくこくこくこく。

 

「……うぷっ、うぇぇぇ……っ」

 

……びしゃっ。

 

飲み干せなかった分が、口に含んだ大半が足元にこぼれ落ちる。

 

「……ふぅっ、ふぅっ……」

 

一定量以上のアルコールが粘膜から吸収されると次第に楽になってくる。

 

感覚を、頭の中の声を、鈍らせるんだ。

無駄に耐性があるせいか、それなりに摂取しないと効果は長続きしない。

 

……かといって危ないお薬は……うん、さすがに危険性は知ってるから手は出さない。

 

大学中退引きこもりニートがお薬で捕まるなんてなったら、ニートの恥だから。

 

「……僕は男、僕は男……そう、これは女装……僕の顔じゃない、大丈夫、大丈夫……いや、それもダメージあるけど……」

 

すでにもう手遅れな気もするけども、女の子の体な以上、女の子の体を楽しまないと損。

 

「僕の顔なんて、もう存在しない」んだから大丈夫なんだ。

 

「……ふぅ、ふぅ……あー、苦しかったぁ……」

 

――決していかがわしい意味じゃないし、いかがわしいことをしたら……その、もう男へ戻れず、戻ったとしても女の子の体になることを懇願するような未来が見えるから気づかないことにしているのはどうでも良いとして。

 

僕は苦しさから解放され、ワンピースっていう女の子でしかない服を着た「僕じゃない僕」を眺める。

 

「思ったより服、安いしな……男のよりパーツも種類も多いからか? まぁいいや」

 

そこそこの段ボールに詰まった、1週間分くらいのいろんな種類の服。

ワンピースのサイズが合っていた以上、他のもたぶん大丈夫。

 

「男に戻るまで。そう、戻るまでだから……」

 

鏡の前で、1回くるん。

 

スカートの裾がふわりと舞い上がり、ふとももがちらちらと見え、そのふとももに空気を感じる。

 

「………………………………」

 

くるん。

 

くるん。

 

くる――――――べしゃっ。

 

「み゛っ」

 

――かわいい女の子の体になったとしても、中身の運動神経の悪さは男のときと変わらなかった。

 

「み゛ぃぃぃぃ……」

 

転んだときの痛さも変わらなかった。

 

あと、

 

「……あー、お酒がぁ……」

 

とくとくとく。

 

一升瓶から流れていく、僕の命の水。

 

またしばらく、部屋の中がお酒臭くなりそうだ。

 

 

 

 

「……なんかファンアートが増えてる」

 

【おめ】

【人気だもんな】

【TS連呼厨のおかげでな】

 

【ついこないだまで知る人ぞ知るレベルの個人勢、男声バ美肉系としては大躍進だな!】

 

【自称男、な?】

【え、女の子って聞いたけど】

【TSっ子だよ?】

 

【↑こういう視聴者が触れ回るせいで、こはねちゃんにバ美肉属性とTS属性とリアル女の子属性の三つ巴の戦いになって謎の絵師たちが張り合っている】

 

【性癖をかけた戦争か……】

【草】

【地獄で草】

【天国だよ?】

【ある意味でな……】

 

【こはねさん? 嫌ならはっきりと言いなよ……?】

【うん、また気持ち悪くなったりメンタル病んだりしちゃったら】

 

「あー……うん。いや、ただ男の僕が、バ美肉した姿であんなことやこんなことしてるのとか見て、はたしてどんな感情で眺めたら良いのかなって思案してたとこ」

 

僕はイラストサイトを開き――そっと閉じる。

 

うん。

 

複雑だ。

 

単純に裸体とかえっちな雰囲気での若干の興奮、それが僕だっていう戸惑い、僕自身にそういう興奮が向けられてるっていう嫌悪感。

 

それがミックスされた、脳みそが変になりそうな感覚で。

 

「……男である僕が女の子にされて、女の子としてえっちな目に遭わされているのをどんな気持ちで眺めたら良いんだろうって。創作物にいきなり僕の分身が出てきていろいろされてるの、脳みそが混乱して興奮とか難しくない? それが物語のキャラクターならまだしもさ、僕の分身がさ……」

 

うん。

 

興奮して良いのかどうか、分からないんだ。

や、多少……な感じはあるから、しようと思えばできるんだろうけどさ。

 

【草】

【草】

【複雑すぎる】

【通常の人間が一生で背負う業じゃなくて草】

【草】

 

【こはねさんが何をしたっていうんだ……】

【かわいそう】

【ニートをしただけにしては過酷すぎる】

【ひどいよ、こんなのあんまりだよ】

【草】

 

【ほんとうにひどすぎる】

【でも興奮する】

【分かる】

【かわいそうはかわいい】

【アイデンティティー崩壊の危機!】

 

【バ美肉は良いぞ】

 

【女装……女装をするのです……】

 

【女の子に目覚めた男の子はね、最高なの】

 

【分かる】

【こはねさんのおかげで無事女装に目覚めました!】

【女装子に目覚めて充実しています!】

【あーあ】

【性癖が歪まされてて草】

 

【ひより「こはねちゃんさんのイラスト、量産しないと……みんなが描いてる結構衣装の作画ミス多いので。三面図、昨日描いたのに……」】

 

【ママのダメ出しだ!】

 

【娘?息子?のいいつけ通りにコメント欄あんまり見ない、偉いひより先生】

【さすがは顔を出すたびに宿題とイラストとデッサン練習を聞かれているだけはあるな!】

【草】

【完全に立場が逆転していて草】

 

【娘のFA――ファンアートを無償で描き続ける狂気の絵師がいると聞いて】

 

【ほんの少し前までこはねちゃんさんの立ち絵は1枚だけ、しかも上半身だけしか映らなかったからなぁ】

【今やミクシブにもタグだけで数百とかやべー増殖具合】

【数百!?】

【ひぇっ】

【なんか謎におすすめに出てくるからな……】

【もう零細個人Vの規模じゃないんよ】

 

「ひより先生、いくらなんでも1日1枚ペースで僕のこと描くの悪いです。三面図とか……せめて1枚数千円の依頼料で……引きこもりなので多少の貯蓄はありますから」

 

僕はクレジットカードを手に取る。

 

無職だったとしても――大学生だったからこそ取れたまま、審査がゆるゆるなおかげで継続しているこの魔法の、大人の力をかざして。

 

「大人のカード、あります。大学の時のだから次の更新で切れますけど」

 

【草】

【あー】

【審査厳しいよなぁ】

【まぁ滞納歴とかなければ……】

 

ひより先生。

 

最近、アップするイラストの量が異様に増えていて――僕をいろんな角度、服装、髪型で描いてくれている。

 

……今のサイドテールにワンピース、下はタイツな服装もその中のひとつ。

というか、ネット通販で買うとき完全にそのイラストを参考にしたまである。

 

「課金させてください」

 

【ひより「私が描きたいから描いているので」】

 

「そこをなんとか……」

 

【ひより「ダメです」】

 

「課金させてもらえないんですか?」

 

【ひより「させません」】

 

「なら、新しい立ち絵の依頼とか」

 

【ひより「私自身が練習中なので駄目です」】

 

む……手強い。

 

最近の先生は、画力が付いてきたからか強いんだ。

 

「ならば、こんな配信見てないでイラストと勉強に集中してください。先生の成長にとって害悪です。このコメント欄とかも目にすることすら有害です」

 

【は?】

【草】

【悲報・俺たち害悪って名指しされた】

【視聴者を罵倒して回るVが居ると聞いて】

【草】

【草】

 

【大丈夫、興奮するから】

【ロリっ子ならどんなこと言っても許されるのよ】

【かわいいは正義】

【メスガキだってかわいいからこそ】

【分かる】

 

【うん……まぁひより先生のピュアさ的に、ここのコメント欄の性癖は特にね……】

 

【ひより「最近は学校にいるあいだに宿題とテスト勉強終わらせてるので、もうそういうのは効きませんー  中間テストも平均+10点ですー」】

 

「ぐ……なぜだ、なぜ最近の先生はこんなに素晴らしいんだ……! そのせいでこの配信から追い出せないじゃないか……!」

 

【ひより「ふふんっ」】

 

困った。

 

僕は相手のミスを責める以外の交渉を知らないんだ。

 

【草】

【草】

【褒めあっているのかそれ】

【た、たぶん……?】

【草】

 

【最近はママが強くなってきたな】

【息子が……いや、娘がたじたじだ】

【ふぅ……】

【えぇ……】

 

【おもしれー配信で草】

【てぇてぇ】

【もうリアルの性別なんてどうでも良いわ  てぇてぇすぎる】

【分かる】

 

【<URL>?】

 

【あ、大丈夫です  実は高校生男子なこはねちゃんさん設定で行けるようになったので】

 

【ならよし】

 

【えぇ……】

【草】

【視聴者たちが順当に侵食されている】

【どんどん改宗してて草】

 

【こはねちゃんの威力がね……ひよりママとセットでおかしいからね……】

 

【男疑惑のおかげで無事視聴者たちが脳を焼かれてて草】

【もうどっちでもいいや……こんなにかわいいんだもん】

【分かる】

 

 

 

 

私が小学生のころ、兄さんは言いました。

 

『優花、良い? 人は見た目じゃないよ』

 

――恐らくは、私の容姿が優れていたから。

 

私が、それを良いことに傲慢にならないように、と。

ただ褒めるだけだった周囲とは違い、褒めてくれつつも「在り方」を教えてくれました。

 

ですが、

 

『? それは兄さんがとんでもないイケメンだから彼女を作って連れ込むという事ですか? 刺しますか? にんしんしていないって、しょうこをお腹の中からひきずり出しますか?』

 

『いやいや優花?? そういうのどこで覚えたの??』

 

『最近人気の、このマンガです。1日に1回広告を見れば無料でさいしん話です。ちなみに今はヒロインのけなげな妹が10股しているヒロインたちと武器で戦っている場面です。すでに3人だつらくしました。あと7人です』

 

『えぇ……』

 

兄さんは、昔から優しい人です。

 

そして――幼いころから顔が整っているという理由で周囲からちやほやされていた私を、おごり高ぶる前に引き戻してくれた素敵な人です。

 

子供を産みたいです。

産み続けられる限りには、毎年でも。

 

でも、学校で教わりました。

 

「血の繋がっているきょうだいは、子供を作ってしまうとその子供たちが困る」ことになると。

 

そして――お母さんやお父さん、親戚の人たちも風評被害というので困って――兄さん自身が、とても困ると。

 

逮捕されると。

もう二度と会えなくなると。

 

だから、我慢します。

 

『……優花……これ、小3が読んで良いマンガじゃないよ……』

 

『? クラスの子たちのあいだで最新話のこうしん直後はマインのグループチャットで予習ひっすですけど?』

 

『……ああ、うん……女子はそういうとこがあるからね……うん……それならしょうがないよね……うん……情操教育以前に、女子コミュニティーはね……』

 

兄さんは、7歳も年下の私にでさえ、優しい人です。

 

だから孕みたいです。

 

同じサイトのマンガみたいに「せいり」っていうのが来たら「誘って」「襲ってもらって」「襲って」産みたいです。

 

それを「孕む」って言うらしいです。

 

でも、我慢します。

 

何よりも、兄さんはそういう「正しくないこと」を良くないって思っているから。

 

――――――でも、いつも思うんです。

 

「もし、兄さんが私と血の繋がった本当の兄さん」でなければ――――――と。

 

だから何回も父さんと母さんに不倫していないか聞きました。

でも残念なことに、2人はとても仲良しでそんな気配はありませんでした。

 

残念でした。

 

とても残念でした。

 

残念で残念で――残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で残念で仕方がなかったので、ずっと我慢してきました。

 

でも、もう――――――――――――

 

 

 

 

【ひより先生の画力が最近やべぇ】

 

【1週間経つと明らかに上達が分かるレベルだよな】

【若いしな】

【若さもそうだけど熱量よ】

 

【おんなじ子を毎日描いてたら、しかも服とか髪型毎回変える努力してるからな】

 

【何回も描いてる感じのはマジでやべーくらいかわいい】

【創作の熱量を全部こはねちゃんのファンアートに注ぎ込んでいるママの鏡】

【ひより先生? こはねちゃんにどハマりしてない?】

【草】

【ままぁ……】

 

大変だ。

 

先生が僕なんかに時間を割いている。

これは良くない。

 

けども、なぜか先生は僕――正確には僕のガワに熱心であらせられる。

 

ならば、

 

「……無理だけはしないでくださいね。あと、依頼料はほんと、払うのでいつでも言ってください。ろくでなしごくつぶしニートでも、小遣いはもらっているので。養ってもらってるくせに小遣いとかふてぶてしいにも程がありますけど、お金はお金ですから。たとえ自販機の下から発掘した100円玉でも……あ、今はもう電子マネーだからそういうのは少なくなってるか……」

 

【草】

【そういやそうだったわ】

【大丈夫、結構まだ現金のみのも多いぞ】

【10年前の価値観を理解してくれるJC】

【これは自称25歳】

 

【ゲーム機とか流行りの作品の話題とか感想は、ガチで25歳の男なんだよなぁ】

 

【勉強熱心だなー(棒】

【いや、マジでな  だから仮に演技だったとしても……好みを合わせてくれるからこそ推せるんだ】

【分かる】

 

【嘘だったとしても、嘘は嘘としてちゃんとロールプレイしてくれるのが良いんだ】

 

【ちゃんと騙してくれるって、本当に大切よね】

【信じさせてくれるこはねちゃんさん……天使かな?】

【分かる】

【本当に分かる】

 

【それはそれとして卑下が半端ないこはねちゃん】

【自虐で草】

 

【そうだぞ、ニートは謙虚さがアピールポイントだぞ  どんなお荷物でも、常に申し訳なそうにして愛想振りまいて話し相手になったりして、手伝いとかマメにやってればそうそう追い出されない……しかも機嫌良くさせたら小遣いももらえる  良く分かっているじゃないか……僕たちは無駄飯ぐらいではあっても役に立つペットとして常に媚びるんだ】

 

【えらそうだけどやってることはえらい】

 

【どこから目線だよ草】

【え、同僚――つまりはニートだけど】

【えらそうで草】

【それを言うのなら同類では?】

 

【だってこはねたんと同じだもん】

【興奮するよね】

 

【うわぁ……】

【草】

【この配信、ほんとおもしれー】

 

【ひより「そのお金はお母さんからもらった大切なお金なので、こはねちゃんさんのために使ってくださいね  お金はお金でも、こはねさんが必要なものに使うんです  私はその方が嬉しいです」】

 

「ぐぅ……」

 

困った。

 

最近の推し絵師が強すぎる。

良い人過ぎてまぶしすぎる。

 

【草】

【ここまで娘推しのママってなかなか居ないよな】

【そら実質一人娘だし】

【しかもお互い完全に無名な状況からの関係っていう】

【てぇてぇ……】

【うっ……(尊死】

 

【居ることは居るけど、大手同士だったりとかリアル友人だったりするからなぁ】

【ひより先生もフォロワー爆増したよな、こはねちゃんに釣られて】

 

【個人勢も無名も、お互いの実績とか信頼とかない状態で難しいからなぁ】

【それな】

【リア友とかならある程度、最低でも人格とか分かるけどな】

【それが普通は難しいんよ】

 

【知らない人はなぁ……やらかすリスクがあるしなぁ……】

【新人であればあるほどに前世がこわいんよ】

【ほんそれ】

 

【だから一流絵師様たちは値段とかはともかく、個人の依頼を受けてくれないんだよなぁ】

【当然の自己防衛よな】

【実績無い状態で実績が必要っていうね】

 

【俺たち古参もこはねちゃん経由でひより先生のファンでもあるから鼻が高い】

 

【どれどれ……あっ……この人はマジで「古参様」だ……皆の者、崇めよ  格が違う】

 

【草】

 

【え、それは何か思ってた反応じゃない】

 

【草】

【草】

 

――イラストは、1枚で数時間を必要とするという。

 

絵を描くっていう才能とスキル、情熱を注いでの数時間だ。

それはとんでもない価値があるはずのもの。

 

つまり僕は先生に1日数時間を使わせている――時給最低賃金換算だとしても、1日5000円くらいは払うべき対価を頂いてしまっている。

 

なぜ僕のことなんかを気に入ったのかは分からないけども、おかげでイラストの質は以前とは段違い。

 

前のものもほわほわかわいくて好きだったけども、最近のは……なんていうのか、ぱっと見て「何のアニメとかゲームのキャラ?」ってリプが来るくらいには垢抜けてきている。

 

僕を描いた他人のファンアート――もちろん健全なものの方が多いし、最近は忘れられてきたのか減ってきている――の細かいところが違うのが気に入らないらしく、本当にいろんな方向から描いてくれていて、だからか立体感がすごくなってきた気がする。

 

イラストのことなんて全然分からないけども、彼女のフォロワー数が毎日増えていくのを見るのは楽しい。

 

……いずれ大成するイラストレーターさんのモチベーションになってるって思い込んで納得するかしないか。

 

あとはとにかく、隙あらば先生の宣伝。

僕にできるのは――マグレでのバズってのをやらかした以上には、これを使わない手はないんだ。

 

【ひより「すごく勉強になってますから。服の裏地とか、今まで描かなかったそういうところまで見るようになって」】

 

「あ、そうですよね」

 

僕は、深くうなずく。

 

「先週のワンピース着てるイラストの服の裏のひらひらとか、通販サイトで最近人気のとおんなじでびっくりしましたし。あー、こうやって参考にしてるんだなぁって。先生も買ったんですか?」

 

僕は、おしりと太ももを包んでいるスカートの裾をつまみ上げる。

その裏側には、白いひらひらがアクセントとして縫い付けられている。

 

「このざらざらした感じとか、細かく描いてるなって。ほら、ふとももの付け根のとこに縫い付けられてる……裏地?までちゃんと描いてあって細かいなーって。でも、描き込み過ぎると大変でしょうから――」

 

――――――あっ。

 

さぁっと、おでこから血の気の引く感覚。

 

【ひより「あ、はい、お店に行って良いなって思った服のを着てみて自撮りとかを参考に……え?」】

 

【えっ】

【あっ】

 

【買った……?】

【ひよりママ「も」……?】

【ガタッ】

 

【速報・こはねちゃんさん、女装デビュー】

 

【つまり、今も……】

 

【速報・ひより先生、こはねちゃんイラストの服とか自撮りしてる】

【つまり、あのイラストはこはねちゃんでもあり、ひより先生でも……】

 

【え、マジで?】

【!?!?】

【いや、普通に女子としてひより先生と同じお店で……ゑ?】

【????】

 

【やばい、どっちだ!?】

【どっちでも興奮する】

【分かる】

【どっちが男でもどっちが女の子でもどちらかがどちらでも興奮できる】

 

【脳が……興奮する……】

【普通に興奮してるだけだろそれ】

【草】

【草】

 

【TSしたからね、そろそろお着替えに目覚めるころかな?】

【お前……】

 

【でもさ、外に出ないニートな男がそんなことまで……まさか通販でXLとか男が着られるサイズを……!?】

 

【いや、やっぱ常識的に考えたら普通に女の子……】

【だよなぁ……?】

【普段着?にできるんだから女装よりは女の子の方が説得力ありそう】

 

「……こくこくこくこく……! ふぅ……」

 

――こんっ。

 

机に当たったビンの音。

 

ひっつかんだウォッカをぐいっとやり――頭がくらくらしたから。

 

……本当は良くないけども、緊急回避だからしょうがないんだ。

 

【今、ビンの音が】

【配信の最初に、度数40って……】

 

【よし、この話題はここまでだ】

【りょ】

【OK】

【こはねちゃんさんはかよわい存在なんだ、いいな?】

【ケー】

 

【こはねちゃん?? お酒を楽しむのは良いけど逃げるのは良くないよ??】

【まぁ毎日イラスト見てれば細かいとことか分かるよな! うん!】

【そうだよな! ひより先生に話を合わせただけだもんな!】

【そうそう、妹ちゃんの服とかで知ってるもんな!】

 

……良かった、みんな気にしていないみたい。

 

「じゃ、じゃあ、今日も適当にプレイしていくね」

 

僕は動揺を隠すため――最近は結構長くなったっていうか無意識にというか、増えた雑談を打ち切ってゲームを起動。

 

「あ、立ち絵ソフト、フリーズしてる」

 

ゲーム起動で負荷が掛かったからかと思ったけども、起動が終わっても半目で固まっている僕のアバター。

 

【あー】

【かわいい】

【ジト目もそれはそれで】

【分かる】

 

【最近のムィンドウズのバージョン、いろんなアプリで不具合出てるからなぁ】

 

【この前のボイチェンソフトのあれもそれだっけ?】

【そうそう、なんか不安定な時期は使わないのが理想】

【ムィンドウズが不安定→ソフトもみんな巻き込まれっていう地獄でな】

【まぁ逆ドッキリかましたこはねちゃんさんならへっちゃらだとは思うけど】

 

【使ってるって言ってた立ち絵ソフト、まーた低確率でカメラ入っちゃうバグもあるからマジで気をつけてね】

 

「そうだね。けど、うん。気をつけるよ」

 

そういえば最近、何もしていないのにパソコンが変な挙動をしたりしてるもんな。

調べたらただのバグらしいし、そういうもんだろう。

 

僕は特に気にも留めず、立ち絵ソフトを強制終了させて再起動させた。

 

そのあとは普通に立ち上がった僕のアバターは――――――いつも通りに僕を見ていた。

 

 

 

 

【ふぅん】

 

【そうなんだ】

 

【――じゃ、もうちょっとTSっ子らしさを見せないとね】

 

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