TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~ 作:あずももも
「不登校……ねぇ」
くぴっ。
僕は注いだばかりのお酒を飲みながら考える。
【のっけから重い話題】
【急にどうした】
【もしかして:新学期】
【10月に入ったけど、そういやまだ一応夏休み明けでもあるか】
【あー】
「くぴ……ぷはっ」
【草】
【いつもの】
【こはねちゃん……? その、ワードを見た瞬間にお酒はちょっと……】
「そっか、10月だから新学期かぁ。……今どきは8月後半からとか防災訓練とか大変だよね。まぁ僕はそれを通り越した大学中退引きこもりニートだから、不登校になりかけっていう君よりはるかに高みに居るんだけどさ……天地逆転の方向に」
【草】
【キレのある自虐芸】
【メンタル大丈夫……?】
【心配だけど聞きたい……この気持ちは一体……?】
「だから少なくとも君の下には僕が居る。ひとまず安心しよう。たとえ世界ランクってのでドベに入っても、その下に僕が居る。安心してね」
唯一僕がいばれるマイナス方面の相談が来て――うん、僕より下手に出てる人相手でも発作は起きにくいんだ――僕は喉を細め、心持ちいたずらっぽい声を出しながらカメラの前で下に見た。
「落ち込んでたら、このボイチェンバ美肉ネカマで良いんなら慰めてあげるからね? ……ふーっ」
【草】
【かわいい】
【かわいい】
【お願いします!!!】
【投げ銭……投げ銭を……】
【こはねちゃんがどや顔してる……!】
【クッソかわいい】
【あっ(尊死】
【今の声めっちゃかわいい】
【かわいい声で自虐してて草】
【いばってて草】
【斜め下方向にぶっ飛んでるけどな】
【吹っ切れた引きこもりとかニートって最強じゃね?】
【しかも今のはメスガキ風味だぞ!】
【ふぅ……】
こんな僕の属性でも引かずに居てくれる人たち――またちょっと増えて具合悪くなったけども――だからか、こういう話題でも茶化すような人は居ない様子。
僕自身のことはいくらでも――吐き気が出たり泣きたくなるような、本当の意味でえぐってくるようなのはやめてほしいけど、幸いにしてそういう人は居着いていない様子。
「とはいえ、マジメに聞くとさ。――まず大前提ね? 親や先生に言いにくいことは起きてる? 実害出てるんなら、そっちは迷わず専用の窓口とかでお願いね? 君自身とか家族とか友人に本当に被害が出ていることなら、もう行政に頼るべきものだから、僕1人で責任は負えないからね? 逃げるところすらないんなら有り金全部使って、一時的に離れた場所に退避してでも……ふむ、違うんだ。その心配はない、と。ひとまず命の危機ではないんだね」
【草】
【予防線は大事】
【さりげなく家族がやばかったパターンも網羅してる】
【これは有識者】
【なにしろニートの星だからな!】
【草】
【口調がガチめで草】
【ノリノリのときくらい滑らかに話しとる】
【ホンモノのSOSだったらやばいからね】
【人格的には紛れもなく成人なこはねちゃんさんへの圧倒的な信頼】
【こうやって他人を思いやれるだけで信用できるんだよなぁ】
【分かる】
【いのちのなんちゃら<URL> 死ぬのは何十年早いぞ】
【そうだぞ、死んだらこはねちゃんさんの配信とはお別れだぞ】
【今どきはお薬で結構フラッシュバックも楽になる 死ぬんじゃない】
【こはねちゃんみたいな超新星も現れるからな!】
【草】
【↑やさしい】
【学生で絶望するのはもったいなさ過ぎるからな、悩みがあれば相談しよう】
【学生は閉鎖された環境だからこそ、運が悪かったりするとな】
【親次第なとこが多すぎる年頃だし】
【感情が昂ぶりやすくて思い詰めやすいのが青春だし】
【自活するようになるとそのへんは一気に楽になるけど……20歳は遠すぎるもんな】
【コメント欄が優しい】
【こはねちゃんさんの配信だからな】
【こはねちゃんさん相手だからこそ相談できそう】
【分かる】
【やはり……ゲロ天使……】
【吐いてでも救ってくれる時点で天使なんよ】
【それはそれとして1ゲロおいくら?】
【草】
とりあえずは安心だ。
……重すぎる身の上話とかどう答えたら良いか分からないし、聞いてるうちにもらいゲロしちゃいそうだもん。
「で、そうでなくともいじめとかそれ未満とか、ハブとか無視とか心にぐさっとくるけど、はた目から見ればたいしたことないやつ? ヘタすると隣のクラスの友達とかすら気づかなかったりするやつから誰もが知ってるレベルの重たいやつ。当時の僕は気づかなかったけど、そういうのもあったり……あ、ない? そう?」
ちなみに僕にはそういうのは――少なくとも知覚していた範囲ではなかったと思う。
「アイツ暗いよね」とかな陰口くらいで済んでたんなら、僕にわざわざ教えられない限りどうでもいいんだ。
「うん。友達が居なかったっていうか僕から拒否して没交渉だったおかげで良くも悪くも孤立してたけど、ヘイトは買っていなかったらしく僕自身は平気だったけど……引きこもった初期はそういう話とか読み漁ってたから、理解だけはできるつもりだよ」
【重いよー】
【軽い口調でえげつないこと言ってやがる】
【おろろろろろろ】
【いかん……俺に刺さっている】
【私のトラウマ直撃でもらいゲロしてる】
【↑おいくら?】
【ひぇっ】
【↑茶化すのはNG】
【ごめんなさい】
【いいよ、許す】
【ありがとう】
【優しい世界】
【ちゃんと謝れて、ちゃんと許せる理想郷】
【すぐに謝れてすぐに許せるとか天国かな?】
【草】
【こはねちゃんさん……大丈夫……?】
【こはねちゃん……どうしていきいきと聞いているんだ……!?】
【得意分野だからな 悲しいことに】
【ぶわっ】
【なかないで】
【こはねちゃん、不登校でもそういう系統の嫌がらせとかで中退したわけじゃないんだよね? 本当に……】
「うん、そうだけど? 僕はただ、僕自身が周りに着いて行けなくって僕自身が僕自身を勝手に見限って、誰にも相談せずに勝手に僕自身の判断で飛び降りただけだから」
幸運なことにそういうことじゃないんだ。
ただただ、僕自身がダメだったからっていう理由だから。
【草】
【表現が怖い……】
【大丈夫だとは思うけど】
【これ、ちょいトラウマ刺激してるんじゃ……】
【だからコメントでできるだけ笑えるようにしてあげるんだ】
【なるほど】
【最近調子に乗ってるのがかわいいこはねちゃん】
【わかる】
【いつまでも調子に乗っててね】
【こはねちゃんが元気で古参は嬉しいです】
【↑介護班っていうんだよ】
【いつの間にそんなものが!?】
【草】
【あー、うん……ハイとローを繰り返す躁鬱と似てるとこあるから、ローのときに介護は必要よね……】
【そういうのって、ハイのときにやらかすこともあるしねぇ……】
「んで、不登校……8月の終わりと9月全部が、か。君はどうしたい? ……学校には行きたいけど、朝になると気持ち悪い。んじゃもう不登校続けたら? 言い方が悪いだけで、自主的なサボタージュってやつだしさ。無理なものは無理なんだって、僕がこの配信で何度も吐いてるの知ってれば分かるでしょ? ああいうのはもう意思とかじゃないの、体の反射なの。じんましんとか過呼吸とかアレルギーみたいなものなの。諦めよう? あと起立性障害とか普通に誰でも起きうるからね、やっぱ諦めよう。諦めは肝心だし、諦めたとたんに楽になることもあるよ。僕みたいに」
【草】
【さっさと諦めさせようとしてて草】
【えぇ……】
【ひでぇ】
【何のアドバイスにも慰めにもなっていない】
【いや、逃げるのも立派な戦いだぞ】
【そうだぞ、まずは生還するんだぞ】
【帰ろう、帰ったらまた来られる】
【やさしい】
それも込みでメンタルの問題ではある。
けども、それでも僕たちは苦しいんだ。
別に、逃げたって良い。
――少なくとも、僕の家族はそれを僕に許してくれたから。
逃げ道がなかったら、人は簡単に壊れるって知ってるから。
「ただ、さ。不登校って、クセついちゃうから。ほんの1ヶ月程度ならなんてことはないけど、3ヶ月くらいになるとたぶん昼夜逆転とか始まったり染みついたりしてて、そうなるともはや『やっぱ学校行こっかな』ってなっても、まず体の生活サイクルの時点で相当厳しくなる。んで次点では『でもみんなにどんな顔して行けば良いか分からないし、そもそも噂とかされてるだろうし』ってメンタル的に……ちょっと吐いてくるからマイク切るよ。……おろろろろろろ」
べしゃべしゃべしゃべしゃ。
最近はこの臭いにも慣れてきた。
飲食の直後なら――胃液が少なくって、ニンニクとか入ってない料理で、さらにはコーヒーとかお酒で臭い消ししていたら意外と大丈夫なんだって。
……うぇぇってなるけど、気持ちの上ではわりと楽で居られてるあたり、前よりは良くなっているって信じたいところ。
【草】
【切れてない切れてない】
【ヘッドホンしといて良かった】
【ふぅ……】
【今日も5万円ストックしたよ、こはねちゃん】
【えぇ……】
【こわいよー】
【ゲリラゲロ助かる】
【えぇ……】
【ゲリラ豪雨みたいにいわんといて】
【こはねちゃんのゲロゲロ雷雨……全身で浴びる、美幼女のゲロ……いいかも……】
【1回50万出します】
【100万は余裕です】
【録画込みで300万出せます】
【だからDM開放して♥】
【げろげろはな……供給がなさ過ぎてな……】
【これはホンモノのげろげろだ ニセモノとは違うんだよ】
【分かる】
【演技でも嬉しいけどホンモノだと……ふぅ……】
【届け、この気持ち】
【うわぁ……】
【ひぇっ】
【やべぇよこいつら……】
【いや、ないわ……】
【きっしょ……】
【え?】
【見た瞬間吐き気を催してこはねちゃんさんの気持ちが分かったわ 心底気持ち悪い】
【え?】
【草】
【この配信、やっぱときどき本物……】
【こわいよー】
【やべーやつらは引かれ合うからな……】
【てかこはねちゃん……? マイク切り忘れ、クセになってない……?】
【ああ、クセになるってのを実演してくれたのか】
【やさしい】
【違う、そうじゃない】
【ゲームでもおっちょこちょいなとこ、結構あるよね……マジメなのに】
【草】
「……あ、切り忘れてたのを忘れてた。まぁいっか、声くらい」
ゲロをふきふき、用意しておいた牛乳をこくり。
ゲロ袋をきゅっ、ゴミ箱へぽいっ。
【ゴミ箱へシュート!】
【草】
【マイクが無駄に高性能だから聞こえちゃってて草】
【こはねちゃん……お前……】
【それで危うく炎上引退の危機だったのを忘れてやがる】
【こはねちゃん、今はハイの時期だから危険なんだよなぁ】
【ひやひやしますね】
【いざというときには……分かっていますね?】
【介護班……!】
【草】
「で、こんな風に不登校ってのは『やめたい』って思ったときがいちばん地獄だから、このまま休み続けなよ。その方が楽だよ? 今どきは不登校への理解も、僕が学生だった頃よりはあるだろうし」
そうだ、昔ならともかく今なら――親御さんの理解も……たぶん進んでるはず。
「それが嫌なら、体力があるなら保健室登校とか1限だけ出て帰るとかでも先生たちは受け入れてくれるだろうし、親も少しは安心するだろうし。なにも学校に完全に行かない0と毎日行く100って思考じゃなくって、その中間でも良いと思うよ。同級生だって、ちらちらとでも顔見てたらそこまで悪くは言わないだろうし。サボり癖も良くないけど、不登校っていう完全な0よりはずっとマシでしょ? 学校の守衛さんと、保健室の先生。その2人だけにしか会わなくて済むんなら結構楽だしさ」
【おお】
【めっちゃ真摯な回答】
【流れるようにすらすら出てくるプロ引きこもりこはねちゃん】
【草】
【さすこは!】
【何か語呂悪くない?】
【草】
【今良いとこ!!】
【真摯に応えててもやっぱ笑えちゃうのがこはねちゃん】
【何しろ正体不明だからな……】
◇
「不登校になる気持ちは分かるよ。僕もそれで大学辞めたからね」
まずは、僕と同じようにつらい思いをしている彼、または彼女を受け入れる。
つらい思いをし続けて、それを伝えてきている時点で――その人は、もうぎりぎりなんだ。
――人への相談。
それを気軽にぽんぽんとできる人も居れば、抱え込んで抱え込んでぎりぎりになってから初めてできるようになる人も居る。
しかもそういう人は大抵、遠慮して過少に言うんだ。
そういう人は、良い人過ぎるから。
この人がどうかは分からないけども、僕だったらそうする。
そうしてしまう。
だから相手には「ほんのささいな悩み」としか受け止められず、「忙しいからまた後にして」とか「考えすぎじゃない?」って軽く流される。
その結果は……そういうことになる。
だから、僕は僕なりに課題に受け止める。
「――でもさ。もし君が、既に勉強とかスポーツとか別の特技で人よりかなり優れてるとか、本当にやりたい目標があるんなら別だけどさ?」
彼、または彼女は、きっと聞いている。
だから、真剣に応える。
「学校ってのは、やっぱ通ってた方が後になるほど有利なわけでさ? 大学卒業見込みがないとエントリーできない会社もあるし、そもそも『この空白期間』あちょろろろろろろろ」
真剣の前にゲロが出ちゃった。
「……セーフ……キーボードにはかかってない……拭くから待ってて」
【あっ】
【草】
【りょ】
【悲報・こはねちゃん、本日2度目のげろげろ】
【助かるけど無茶しないで】
【これってさ……こはねちゃん、自分に関係ある質問だからできるだけ答えようとして無理してるんじゃ……? しかもかなり気分とか、無理やり上げて……】
【あー】
【無理しないで】
【そうそう】
【質問主もそこまで考えて聞いたわけじゃないだろうし】
【でも、界隈では噂になってるのよね こはねちゃん、ガチでドロップアウトした人の気持ちが分かるって】
「ふぅ……あ、今回は普通に切る時間なかったからごめん。でもちゃんとげろげろは2袋目のエチケット袋に収まったから被害はないよ。消臭スプレーで臭いも完璧」
しゅっしゅっ。
臭い消しは僕みたいな引きこもりの万能薬だ。
【草】
【本当に何かしらのスプレーしてて草】
【リアルすぎる】
【準備万端で草】
【演技じゃなくリアルで吐いてるからな】
【え、分かるでしょ?】
【えずく声とか偽物じゃないって】
【「ぉえっ」って感じの絞り出した声は本物だ】
【ひぇっ】
【それはよかったね】
【でも聞きたくなかったよ】
【草】
【え、嬉しいけど】
【すぐ消しちゃうのはもったいないなぁ】
【美少女の吐瀉物とか排泄物の臭いって良いよね】
【理解されないんだよなぁ】
【うわぁ……】
【ひぇっ】
【やっぱここ、ちょっとおかしなのが住み着いてる……】
【ちょっと……?】
【きもいよー】
【そしてそういう輩には強気なこはねちゃん】
【なぜか気持ち悪い存在に対してはへっちゃらなんだよなぁ……】
【こはねちゃん……なんか、感覚とかちょっとおかしい】
【普通は、普通の人には平気で……普通ってなんだっけ……】
【草】
【まぁこはねさんがそれで良いんなら……】
……げろげろとかが好きな気持ちはさっぱりだけど、僕は男だから性癖には寛容だ。
どうせみんな僕のことを男と思ってのノリなはずだし。
「あー。とにかくさ、うちの国の学校システムってのはレールに乗りきった人に対してはすっごく有利になる設計なの。たとえ赤点ぎりぎりとかでもどこの大学でも入れて卒業できるってだけで『一人前』扱い。それがあるだけで、真人間って見てくれる――逆に言えば、僕みたいに中退とかしてたら……学歴関係ないお仕事も多いけど、大半は書類か面接で……人手不足が深刻とかじゃなければ、ね? 大学じゃなくても高校でも、とにかく卒業さえしていればそれだけで見る目が変わるし、今どきなら学歴で弾かれるんだ。まぁ高校からすぐ仕事するのは、それはそれで立派だし、普通に充実した人生にもなれるし、なんなら僕もそういう人生でそこそこ満足してるけども……選択肢は、狭まるから」
こくこくっ。
お酒が脳みそによく染みる。
「そういうのがない国では、逆に大変みたいだよ? 就職する時点で相当なコミュ力ってのが必須で。そうでなくてもコネ――知り合いの伝手とかがなければ仕事すらできない。一方で、大卒資格とか何かの資格があれば、ちょっとしゃべるのとか苦手でも働けるうちの国。コミュニケーションが苦手でも、すみっこでひとりぼっちでこつこつやれば一発逆転ができるって良いよね。まぁ一長一短だけどね」
――景気は一定周期で上下する。
だから、僕の時から今までは売り手市場でらくらく入社でも、もうちょっとしたらそうじゃないかもしれない。
そういうときに、やっぱり大卒カードは強い。
少なくとも僕なら――やらかしてなければ、教授たちにぺこぺこしてでも単位を取って卒業していただろうし。
「だから、もし一芸に秀でてたり進路を既に決めたりしてて、学歴とかコミュニケーションとかをそれだけで吹っ飛ばせそうなら、不登校も中退もアリだとは思う。今すぐ働きたい職業とか……職人さんなら早いほうが良いって言うしさ。何かがあるんなら、苦しくてどうしようもないよりは、ね。ただし、本当に……んー」
……こんなドロップアウトした存在が、こんなに重い相談を。
でも、僕なりに応えなきゃいけないんだ。
「……勉強なら国家試験、スポーツならプロ、芸術とかなら大賞入選とかで売れる見込みができたり、そういうのが今の段階でないんなら。あるいは、寝る間も惜しむほど好きな何かを極めたいとか、そういう夢がまだないんなら」
僕には、なにひとつなかった。
だから、こうして引きこもってなにひとつしていない。
だからこそ。
「僕みたいに具合悪くなったり吐いたりしないって大前提で、明日からちょっとだけがんばっても良いと思うよ。やりたいこと、得意なことがあれば別だけど……うん、深刻にならないうちにさ。大丈夫、他人はたいして気にしていない。3年間のうち1、2ヶ月、なんなら1年休んでても2年だったとしても先生たちがOK出して卒業さえしちゃえば、誰にも分からない。普通に忘れる。ほら、影の薄い同級生のことなんて、数年も経てば顔を見てもフルネーム見ても思い出せない人の方が圧倒的に多いでしょ?」
僕だって、なんとか大学を卒業していたら。
そう、何度思ったことだろう。
だからこそ、僕より若い人――や、今は僕の肉体の方が若いどころか幼いかも知れないけども、それでも思うんだ。
できるんなら、資格――学校も込みで、取っとけってさ。
【感動した】
【すっごく真面目な返答】
【めっちゃ真摯だわ】
【これは紳士】
【これは淑女】
【これは……TSっ子の場合はどう言うんだ?】
【草】
【これはこはねちゃんにしか言えないやつ】
【悩みながらあっちこっちわき道逸れてたのがまたリアルで】
【2回もゲロったからな!】
【草】
【うん……吐くほどキツい答えを絞り出したって意味では魂の回答だよね】
【やば、こはねちゃん好きになったかも】
「おろろろろろろろ」
【は?】
【えっ】
【草】
【悲報・本日3度目のげろげろ】
【ギャン泣きアゲインを思い出すな……】
【草】
【あの切り抜き動画、未だに回ってるよな】
【この後で見直してくるか……】
【1度目と2度目と3度目の泣く瞬間の当時の反応がクッソ笑えるんだよな】
【全部じゃねーか!!】
【あれは流れが揃って完成する芸術だからね……】
【草】
【もしかして:コミュ障、人からの好意でもクリティカル】
【あー】
【むりしないで】
【ほんとに無理するなよ】
【こはねちゃん……性格がいろいろ噛み合いすぎておいたわしいわ、これ】
【マジメな人ほど責任感じて抱え込んじゃうからねぇ】
【ここまで真面目だと生きるの辛いよなぁ】
【こはねちゃんさん、真面目なせいで自爆した説あるからね……】
【かわいそう どっちも】
【こはねちゃんも質問主も、言いたいことあったら俺たちでも聞くからな】
【そうそう、ここにはそういう人しか居ないからさ】
【配信の待機所……はないけど、こはねちゃんさんがゲームに熱中してる時間とかさ】
――コメント欄。
うん、やっぱり優しい。
たとえ慰めでも、こういう言葉ってかけられるだけで嬉しくなるもの。
だから君も、きっと……ちょっとは元気になったら良いな。
「ふぅ……ていうわけで、よく考えて決めな? 相談できる雰囲気なら親とか先生とか仲の良い友達とか。ここに居るリスナーとかになら、個人情報漏れない範囲でね。なんかメンタルとかフィジカルが一時的にダウンして引きこもりたくなってる可能性もあるし、なんなら病院とかね。どっちでも病気ならまず病院で治療が最優先だからね。ときにはお薬も留年も大切。……あとひとつ」
僕は、すぅっと息を吸い。
「不登校続けて家に引きこもりがちになると……すっごく体力落ちるし、人の視線が怖くなる。なるべく1日2、3時間は外に出なよ? 体力は基礎――体育会系で楽しそうな人たち見てたら分かるでしょ? ほぼ無限の体力があるからあんなになんでもできるの。僕たちは無いなりに鍛えなきゃダメ。小分けにして朝昼晩、夜中とか早朝でも良いけど、できる範囲で外に、ね。大丈夫、僕でもできてるんだ……僕からはそれくらいかな。僕たちはまだ若いんだ。これからの数十年のために、そこそこは鍛えないと……ね」
ふぅ。
僕はようやく言いたいことを言い切った。
「………………………………」
小さな手が、ぷるぷると震えている。
汗が、じっとりにじんでいる。
――でも、僕にできることは全部できた。
それだけは、誇りに思っていいと思うんだ。
「……ふぅぅぅぅー……」
息を、ゆっくりと吐く。
それだけで、ちょっとだけ楽になるんだ。
【草】
【草だけどマジでそう】
【病気で数日入院するだけでも体力ガタ落ちしたからなぁ】
【↑完治して】
【やさしい】
【そういやこはねちゃん、完全な引きこもりじゃないんだっけ】
【妹ちゃんのお願いとはいえ、1日1回くらい外には出てるとか】
【えらい】
【有言実行してたのか】
【人の視線が怖いのに外出るのえらい】
【マジでえらい】
【無理してそうだからこそえらい】
【感動した】
【こはねちゃんの配信に残ってるのはみんな、どこかしら苦しい思いしてる人だからな】
【人生で苦しい思いをした人ほど他人に優しい――とは限らないけど、こはねちゃんはそういうタイプだから】
【こはねちゃん、しゅき……】
「おろろろろろろ……あ、吐くものないからおえってなるだけだ……おぇぇぇ……」
【草】
【最後まで吐いてて草】
【えっ】
【悲報・こはねちゃん、4度目のげろげろ】
【こはねちゃんはガチ恋営業はしていないようだ さぁ、元気なやつは帰った帰った!】
【草】
【きれいなオチがついたな!】
【配信者としての風格が出てきたぞこはねちゃん!】
【前からハイの時期はトークもキレッキレだったから】
【でも、ハイすぎるときは気をつけてね……お願い……】