TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~   作:あずももも

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38話 僕は赤ちゃん

「………………………………」

 

……とことこ。

 

僕は、廊下を歩く。

 

こんこん。

 

僕は、優花の部屋をノックする。

 

………………………………。

 

……返事がない。

 

「……ふぇ……!」

 

僕は、悲しくなる。

 

――がちゃっ。

 

ドアが、開く。

優花が、顔をのぞかせる。

 

「? 兄さん?」

 

優花の不思議そうな顔と、優花の声と優花の香り。

 

それが……僕を、安心させる。

 

「ふぅ……なんでもない。邪魔してごめん」

 

僕は安心した。

 

「? いえ、別に……」

 

僕は廊下を歩く。

 

とてとて。

 

これで、しばらくは大丈夫だ。

 

「………………………………?」

 

ちらりと振り返ると――優花は、やっぱり不思議そうな顔をしていた。

 

 

◇

 

 

「………………………………」

 

てってってっ。

 

僕は廊下を走る。

 

こんこんっ。

 

僕は、優花の部屋のドアをノックする。

 

………………………………。

 

……優花の返事がない。

 

まさか、嫌気がさして――。

 

「ふぇぇ……!」

 

――がちゃっ。

 

ドアが、勢いよく開く。

 

優花が慌てた様子で出てくる。

 

「はい! ごめんなさい、遅くなって!」

 

――ぶわっ。

 

優花の、汗の匂い。

あと……知らない匂い。

 

……ああ、トレーニングでもしてたのかな。

 

僕のせいで学校を休んでるから。

あんなにしゅっとした体つきなんだ、きっとハードなトレーニングをしてたんだろう。

 

その匂いに、僕は安心した。

 

「すんっ……ふぅ。ごめん、また邪魔した」

 

僕は廊下を引き返す。

 

「……いえ、大丈夫ですが……」

 

とことこ。

 

僕は廊下を足取り軽く、歩く。

 

「…………はぁ、はぁ……」

 

ちらりと振り返ると――優花が、よく分からない目で僕を見ていた。

 

 

◇

 

 

「………………………………」

 

とっとっとっ。

 

僕は、廊下を走る。

 

こんこ――――――がちゃっ。

 

ノックをしようとしたら、

 

「!?」

 

僕は、お腹がきゅっとなる。

 

「こはねさーん? どうしました――」

 

「!!??」

 

僕は、思い出す。

 

そういえば……トイレに行こうと思って部屋を出て、でもなんとなくここに来ようとしてたから――――――

 

「ふぇっ……!」

 

慣れ親しんでしまった感覚。

 

――ぶるっ。

 

僕の体が震える。

 

それは、もう、止まらない。

止めることは、できない。

 

「え?」

 

優花が――ちょっと悪戯っぽい顔をしていたのが、察して青くなる。

 

……しゃわわわわっ。

 

ぱんつがあたたかくなり、ふとももの付け根から脚の内側をつたって靴下までが――

 

「………………あ゛――――ん……」

 

僕はダメだ。

 

「あーん……ふぇぇぇぇー……」

 

優花の目の前で、また、漏らしちゃった。

 

「え……? あの、こはねさ……あっ」

 

ぽた、ぽた。

びしゃしゃしゃしゃ。

 

優花は困っている。

 

僕は泣いている。

 

もう、僕はダメなんだ。

 

 

◇

 

 

「……え、ええと……こはねさん……ではなく、兄さん……」

 

「うん……」

 

しゃあああ。

 

お風呂場で、僕は洗われている。

 

「なんとなく寂しかったから……と?」

「うん……」

 

妹に、下半身を洗われている。

粗相をしたのを、怒られもせずに。

 

「ふぇ……!」

 

「だ、大丈夫です! かわいいです!」

 

「…………えぇ゛ぇ゛ぇ゛ー……」

 

「あっ!? 違っ!? 今のは――」

 

僕は泣いた。

 

よりにもよって妹の前で――妹の部屋のドアの前とお風呂場で漏らして、泣いたんだ。

 

 

◇

 

 

「……先生に尋ねてみました。恐らくは、その肉体に慣れていないから……その、特に男女で最も違う部位の感覚だからだろう、と……」

 

「先生に聞かれたぁ……」

 

「だ、大丈夫です! もう先日見られていますから! 粗相の場面まで! 掃除も手伝って――」

 

「ぐす……うぇぇ……」

「あっ」

 

ぐすぐすめそめそ。

 

僕は妹の前で泣きはらしている。

僕は兄失格だ。

 

「あ゛ぁぁぁぁ――――ん……」

 

「あ、えっと……よしっ」

「わぷっ」

 

――ぽふん。

 

僕の顔が、優花の胸に包まれる。

 

「……ぁ゛――――……」

 

あたたかくて柔らかい圧力が、僕の顔を包んでくる。

 

「よしよし、大丈夫ですからね……成人男性と少女とでは、なにもかもが違います。特に筋肉量などでは……インドアとはいえ肉体的には健康な男性でしたから、無意識で制御できる筋肉も多かったのに比べて、今は女の子……しかも、なってからひと月も経っていない。もともと男性に比べて……漏らしやすい構造なのですから、兄さんが悪いことはひとつもありませんよー……」

 

なでなで。

 

僕は……漏らした挙げ句泣き続け、妹に抱っこされて胸元であやされ頭と背中を撫でられ続けるという愚行を犯し続けた。

 

 

◇

 

 

「こはねさん、そろそろ……あら?」

 

「すぅ……すぅ……」

 

「………………………………」

 

「も、もう少しだけ……ええ。あやすのが足りなくてまた泣いてしまうかもしれませんから……そう、あと30分……1時間……いえ、目を覚ますまで……だ、だめです、さすがにこの場面では抑えないと……」

 

 

◇

 

 

「感情の動きやすさ、嘔吐と……粗相のしやすさ。どれもTS――別の肉体へと――『生まれたばかりの肉体』へと変化したことでの副作用と考えられる、そうです」

 

「副作用……」

 

「はい。兄さんが寝ているあいだに相談を。……普通ではあり得ない事象ではありますが、仮にそうだとすると……と」

「うん……」

 

僕は泣きつかれて寝ていたらしい。

そういえばうっすらと優花が電話で話している声を聞いていた気がする。

 

これじゃまるで子供……だめだめ、また泣いたりしちゃあ。

 

「……一般的に、赤ん坊から幼稚園――あるいは小学校低学年まで、子供とは粗相をするものです。だってまだ、トイレ以外で排泄をしてはいけないという――人間でなければ……いえ、野生の動物であった人間でさえ、本来なら必要のないルールがあるのですから」

 

優花は、分かりやすい例えを話してくれた。

 

犬。

わんこ。

 

彼らは、散歩中にところ構わずにやらかしている。

 

それが、生物として当然の行為。

 

排泄とはイコールで縄張りの主張であり、本来はところはばかるところはない――と。

 

「人間のそれは、社会的行動の要請から必要とされるようになった、肉体の筋肉に脳の無意識が繰り返し経験した『漏らしてはいけない』という刷り込み。これが、兄さんは……事実上、リセットされていると考えるべきだと」

 

「リセット……」

 

「ええ。幸いにも――兄さんにとっては不幸かもしれませんが――意識、これまでの25年間の記憶と知識と経験は保存されていても、脳からして新しくなっていると考えるべきだと。その肉体と、同様に」

 

僕は、なにもなくなった股を見る。

スカートの下の、つるつるしているところを。

 

「極端なことを言えば、兄さんは生後――まだ1ヶ月未満なんです。1ヶ月未満の、赤ん坊に成人の魂が入ったとして……」

 

「トイレとかは我慢、できない……」

「はい。それが自然であり、むしろできてしまったら異様です。……ですので、極端ではありますがそういう理解が良いだろう……と」

 

僕は、赤ん坊。

生後1ヶ月。

 

……それなら、しょうがないかな。

 

「なので……」

「?」

 

優花が、良く分からない目をしながら僕を見下ろしてくる。

 

「?」

 

「……その。無意識で私の服や腕をつかむのも……」

 

「え? ……わぁっ!?」

 

ばっ。

 

僕の手が――知らないあいだに優花の服を引っ張ってた!?

 

「う、嬉しいのですけど……思わずキュン死してしまいそうになりますので」

「優花が死んじゃったらやだぁ……」

 

「きゅん死」ってのは分からないけども、僕のせいで優花が急死とかしちゃったら悲しすぎる。

たぶん一生抱えて生きるだろうことは確実だもん。

 

「あと、この数日に何回も私の部屋へ理由もなしに来たのも、兄さんの意思ではなく……」

 

「……子供だから。体が、勝手に……?」

 

「本能的なものでしょうね。目の開かない赤ん坊でも、手に触れた人の手を無意識で掴む動作をするそうですし、動けるようになった子供も、最寄りの頼れそうな大人へ近づくということ……ですから」

 

優花が、離した僕の手を掴む。

 

「いつでも、良いですからね。兄さんなら、なんでも許せます」

 

「優花……」

 

「体のことですので仕方がありません。ええ、仕方がないことなんです」

「仕方が、ない……」

 

「はい。私にはなんでもしていいんです。ええ、なんでも。兄さんのすることなら、どんなことでも受け入れますし嫌ではありませんから。ええ、本当に」

 

彼女の手が、しっとりとしている。

僕のお世話のためにお風呂で洗ってくれたからかな。

 

「部屋も――集中したいとき以外は、ドアを開けておきます。空いているときは入ってきて構いませんからね」

 

「え、でも……」

 

彼氏さんとの電話とかあるんじゃないのかな。

電話まで行かずとも、マインとかでとか。

 

「良いんです。――――――兄さんが、世界で、1番に、大切ですから」

 

彼女が――たまたま電灯を背負っているから顔が暗くて良く見えなくなってるけども、噛んで含めるように――子供に対して諭すように、言ってくれる。

 

ああ、優花はなんて良い子なんだ。

 

「ごめんね、優花。なるべく早くこの状態じゃなくなるように――」

「――……一生そのままで良いのに。そうしたら一生お世話を……」

 

ぽつり。

 

僕たちの声が同時に発せられて、聞き取れなかった。

 

「え?」

「……いえ。気負う必要はありません。精神的な負担もありますから」

 

「? そ、そう?」

 

なんだか聞き取れなかったけども、優花は良い子すぎてこんな不良債権な兄のお世話もしてくれるらしい。

 

……現状、優花がいないとものすごく不安になるんだ。

 

だから、1日でも早く迷惑をかけないようにするためにも、今は迷惑をかけておこう。

 

大丈夫、彼氏さんとの何かを察したら出ていくから。

僕は知らない人からの意識が飛んでくるのを察知できるから。

 

「ですので、今夜も一緒にお風呂に入って一緒に寝ましょうね」

 

「でも」

 

「兄さん、髪の毛をまだ上手に洗えていませんよね?」

「うっ」

 

「乾かすのも……できるからと任せてみたら全然でしたよね?」

「うぅ……」

 

「1人で寝ていると不安になりますよね?」

「わ、分かった……」

 

「トイレも……失敗するといけませんし、言ってくれたら毎回私が一緒に」

 

「え? いや、別に……トイレでは漏らしたことないし……トイレの前で漏らしたことはあるけど……」

 

「……そうですか。ごめんなさい、冗談です」

 

「だ、だよね」

 

優花は良い子だ。

 

慣れない冗談で僕の不安を落ち着けてくれようとするし、こんなにもかいがいしい……とても、良い子なんだ。

 

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