TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~   作:あずももも

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39話 ひより先生は小さかった

「……先週の血液検査の結果も、問題は無し。カウンセリングでお話しした限り、メンタルも安定しているようですね」

 

「はい……妹が学校を休んでまで、そばに居てくれてるので」

 

さらにあれから数日。

 

今日は普通に患者さんが来る日……だけど、僕たちのためにって時間を取ってくれているらしい。

 

普通の病院なら絶対に不可能な扱いとあって、すっごく行きたくなかったけどもがんばってやってきた。

 

……優花に手を引かれて。

 

でも1番つらかったのはタクシーだった。

だって知らない人が同じ空間に居るんだもん。

 

手をずっと握ってくれてなかったら、普通に吐いてたもん。

引きこもりのなにが1番辛いのかって、対面と移動なんだ。

 

引きこもりは外に出る手段の全てが断たれているから引きこもりなんだ。

 

引きこもりのダメさ加減をなめるんじゃない。

なめられたら泣くし吐くし漏らすんだぞ。

 

「ご両親との会話が難しいのは課題ですが、ひとまず慣れている人相手なら……なるほど。ご両親へも、時間さえかければ解決するかもしれませんね」

 

何年も顔すら合わせていなかったからか、1週間程度を毎日朝から晩まで過ごした程度では優花の話題は尽きていないらしい。

 

だから話す内容は彼女が振ってくれるし、静かにしたいときには気まずくなったりしない沈黙の時間を過ごせる。

そのおかげで、だいぶ落ち着いて気がするんだ。

 

……それでも、未だに父さんどころか母さん相手でも近づかれるだけで体がこわばるのは確かに課題だけども。

 

あと、父さんは普通にびびって僕に近づかない。

聞けば、深酒をするレベルで落ち込んでいるんだとか。

 

……息子に嫌がられてそこまでしなくても、とは思う。

 

でも、やっぱ人って見た目だからね。

それが娘になってるんなら、やっぱりしょうがないよね。

 

「先生、改めて先日はお世話になりました」

「ました」

 

優花につられて頭を下げる。

最近は考えなくても妹のマネをするんだ。

 

「良いんですよ。私も心配だっただけですから」

 

そうして今日も僕は、保護者――妹同伴で病院へ来ている。

 

いい歳した兄が、妹に連れられて……しかも、手まで引かれてってのは、意識しちゃダメなやつだと思う。

 

「こちらが検査結果一覧……異常はないので必要ないかもしれませんが、一応。そしてこちらが戸籍の情報に、万が一必要になった場合の書類です。これを警官に見せれば大概は問題がないはず……いくつかご両親のサインが必要ですので、後日郵送で……」

 

「ありがとうございます。これで両親も安心……」

 

「………………………………」

 

……すっごくお世話になったし、なってるし、これからもなるだろうから深くは考えないようにしているけども……この先生、何者なんだろう。

 

見た感じ30には届いてない……いや分からないか、ただでさえ対人経験の少ない僕だ、他人の、それも女性の顔から年齢を推測するなんて無理だもんな。

 

それに、女性はすごく年齢を気にする生き物。

 

若く見えるんなら若いって思い込んでおいたほうが、お互いにお得なんだ。

 

たとえお医者さんだとしたら……少なくとも何年かは普通の人よりも時間をかけてお仕事に就くはずだから、僕よりも年上だろうことはほぼ確実だったとしても、それに気がつかないフリをするのが男のマナーだ。

 

……でも、なんでも「介護班」とかいう――僕からしたら極めて不名誉な保護者を気取る視聴者の人たちが、僕を守るためにダークでグレーな手口とかを使ってるらしいってのを優花からちらりと聞いているし、感謝しておくだけが無難かも。

 

ニートは養ってもらっている家族には文句を言えない存在なんだ。

介護班とやらが僕を守ってくれる保護者なら、実質的には親も同然なんだから。

 

だから、ちょっと怖かったりしても耐えるしかないんだ。

だから、ちょっとおかしかったりヘンタイさんが多くても我慢するしかないんだ。

 

そういう協力がなかったら……今、僕はこうして妹に手を引かれてぼけーっとしてる余裕なんてなかったかもしれないんだから。

 

「それで、先生……兄の状態は」

 

「ええ。先ほどのカウンセリングを……こはねさん?」

「大丈夫です。優花になら」

 

ただでさえお医者さんな彼女は、なんと、カウンセリングの資格もあるらしい。

体と心、両方を治せるってすごいよね。

 

すごい人ってのは本当にすごいんだ。

 

僕みたいに自分の能力値を知っている種族からすると、羨ましいって発想は出てこない。

隔絶している才能と努力で、たくさんの人の役に立つんだから。

 

生まれ持った才能とそれを活かすための努力できる才能、そして本人の努力の量……それは、僕みたいななめくじとは隔絶しているんだ。

 

「こはねさんに教えてもらったところ、特に妹さんが心配されていた自傷癖は……これまでに数回程度ということです」

 

「え、でも、去年――」

 

「優花。あのとき、僕……風邪引いて体調、悪かったんだ」

「……そう、なんですか?」

 

「うん。フラッシュバックしても、滅多にあんなことはしないんだ。ただ……具合が悪いときって、うなされるように嫌な夢ばかり見るから。それで、特に調子が悪かった時期で」

 

半信半疑。

 

それはそうだろう、だって去年、僕は自分で自分を傷つけていたところを優花に見られ――

 

「……げぇっ」

「兄さん!?」

 

びしゃっ。

 

僕のかよわい体は、小さな猫みたいに一瞬で胃の中のものを吐き出す。

 

「だ、大丈夫……せんせぇ、なにか拭くものを……」

 

幸いにして、外に出た時点で覚悟はしてた。

だから、吐く場所だけは間違えなかったんだ。

 

「うぇ゛ぇ……」

 

あ、もっかい出そう。

 

「妹さん――優花さんも、落ち着いてください」

「でも!」

 

お、なんとか根性で押さえ込めそう。

 

「こはねさんが――直羽さんだったときには、嘔吐のほうも今と比べると相当に少なかったようです。……この姿になった直前の時期が久しぶりに多かった、とのことですし、普段はそこまででないのは配信でも知っています」

「そう……ですね。確かに、周期的に不安定になって今回のが特別に……」

 

僕は僕の体から吐き出されたげろげろを眺める。

そのげろげろへ、僕の唇からつーっとよだれが垂れていく。

 

……「これ」のことが好きってのは、やっぱネット上でのじゃれあいのための冗談だよね。

 

そうだよね……?

 

「やはりこれは、肉体という器が幼くなったからこそ――恐らくは脳そのものが幼くなり、ために感情が以前よりも強く表れてしまうためだと。発育の関係上……感情を制御する部分は、20代の半ばまでかかってようやく成長しきるものですから。大脳、その中でも前頭葉は……ましてや、男性から女性ですし」

 

「……成人しても、まだ完成はしてないんですか? でも、高校生くらいにはもう……」

 

「いえ、成人というのは、あくまで通過点――まだまだ未成熟なんです。肉体だって、やはり少しは成長しますし。……ほら、言うでしょう? スポーツ選手が引退し始めるのが20台中盤だって。アイドル歌手の人たちだって、そのくらいから……肉体的にも、そこで成長が止まるんです」

 

「あっ……そういえばそうですね……」

 

先生は焦らず――そうだ、この先生はこの前のときも、ほとんど安心する笑みを浮かべてくれていて……たぶん意図的に動作も声もゆっくりとしているんだ。

 

「元の肉体のときは、ときどきアルバイトをできるレベルまでは回復していたと聞きました。調子の上下に幅はあっても、それを自分でセーブできる段階にまで回復していた……だからこそ、こはねさんになっても相手次第では……そう、思います。そして、ご自分から社会復帰を……自立をされたいという意思も。大丈夫、時間の経過を隠れて待つという方法は、こはねさんにはぴったりだったと思います」

 

ふきふき。

 

とまどう優花、イスの上で脚をぷらぷらしているだけの僕を見上げながら、先生が床のげろげろを拭き取っていく。

 

「……ここでなければ、この素敵な吐瀉物を……」

 

「え?」

「いえ、お気になさらず。メンタルケアの臨床で慣れていますから」

 

きっきゅっとアルコールタオルで拭き直し、ビニール袋に詰められた僕のげろげろが、バイオなハザード的な映画で出てくるようなシールの貼ってあるゴミ箱に捨てられる。

 

……それを捨てようとして何秒か固まってたのは、はたしてどんな理由からか。

 

ひょっとして――内容物を解析してなにかが分かるかもとか思ったのかな。

 

「念のためのお薬も出しておきます。基本的にはこはねさんの判断に委ねて差し上げてください。『彼』は、ご本人的にも法的にも成人男性ですから。非常時以外は、こんなにも頼りになりますから……ね?」

 

「……そうだと良いんですけど」

 

僕は気まずくて、ふいと顔を逸らす。

 

……まさか、こんな幼女――じゃなくて女の子――になっても、普通に大人扱いしてくれるとは思わなかった。

 

だって、ほら……顔バレする前でさえ、女の子疑惑があった段階から視聴者たちが、こぞって子供扱いしてきたし。

 

僕が頼ったのもあるけども、優花でさえ僕のことを子供として面倒見てたし。

お風呂からトイレから、なにからなにまで……トイレは断固として拒否してるけどさ。

 

「こちら、ハーブティーです」

「ありがとうございます」

 

そうして――用意してあったらしいコップを受け取る。

 

……あったかい。

 

 

 

 

「お薬、もらってきますね」

 

「そっか……保険が使えるのか」

 

「本当に公的なさまざまも、これまで通りのようで……それよりも」

「?」

 

優花が、じっと僕を見てくる。

 

「………………………………」

「………………………………?」

 

なんだろう。

 

「……薬局へ行ってきます」

「うん」

 

いってらっしゃい。

 

「着いてきますか?」

「ううん、人の居るところに行ったらまた吐くと思うし」

 

さっき我慢したげろげろくらいはね。

 

「ええ」

「うん」

 

うん。

 

「………………………………」

 

「?」

 

 

……すっ、と、僕の手が持ち上がる。

 

「……手。繋がれたままですと……」

「……無意識で繋ぎっぱなしだった……ごめん」

 

むぅ……どうやら僕の本能は、ずっと優花に守られたかったらしい。

 

「大丈夫ですか……?」

「大丈夫大丈夫。また別の日に行くと二度手間だし」

 

僕は意思を持って手のひらをこじ開け、優花を送り出した。

 

「………………………………」

 

誰も居ない待合室。

 

なんでも、僕のためにわざわざ受付の人まで空けているんだとか。

 

……元気になったら、何かお礼をしないとなぁ。

 

「………………………………」

 

「!?」

 

びくっと体が跳ねる。

 

だって、視界の隅に――

 

「………………………………」

 

――誰かが居たから。

 

「ふー……」

 

落ち着け。

 

居るとはいっても待合室の隅の方、僕とちょうど反対側に、たったのひとり。

 

しかも背丈的に大人じゃない。

大丈夫だ、僕は人見知りでも子供相手ならそこそこ問題ないんだから。

 

「………………………………」

 

どうやら相手は僕に気づいていない……か、次の受付待ち。

 

先生は時間を空けてくれていたけども、きっとかなり経ったから次の予約の人が来ちゃったんだろう。

 

いくら僕のためでも、さすがに待合室にすら入れないってのは不可能だろうし。

 

「ふー……」

 

大丈夫。

大丈夫。

 

僕は意識をして深い呼吸をして――それを20回くらいしたころには、かなり楽になっていた。

 

「………………………………」

 

あれ?

 

さっきは視界の隅に入っただけですぐに顔を伏せたから分からなかったけども……女の子?

 

それも、小学生くらいの。

 

さらには、

 

「……?」

 

あまり、怖くない……?

 

や、いくらなんでも小学生女子相手に本気で怯えるほどじゃなかったはずだけども……それにしては、怖くない。

 

どころか、「どこかで会ったことがあるから安心できる」って感じてる。

 

なんだろ、これ。

 

この体が大丈夫って認識できる相手としたら、配信に頻繁に来てくれてた何人かのうちのひとりくらいなのに……?

 

 

 

 

とすっ。

 

僕は、思い切って足を振って待合室のイスから降りて、床へ足を着ける。

 

――こうして僕自身の意思で立てるってことは、本当にあの子は僕が怖がる対象じゃないんだろう。

 

さすがの僕も、小学生相手なら……たまに居る、中学生並みの体格とか持ってる男子以外なら大丈夫……なはず……うん……たぶん……小さくなってるし女の子になってるから、今は分からないけども。

 

ともかく、優花が早く戻ってきてくれることを願ってもっと入り口の方へ移動しておけば、出るときにも迷惑はかけない。

 

こんなとこでパニック起こして泣き叫んだり吐いたり漏らしたりしたら先生にすごい迷惑かけちゃうし。

 

……ちらり。

 

一瞬だけ、その子を見てみる。

 

その子は膝の上に鞄を置いて、その上でタブレットを熱心に触っている。

いや、ペンでなにかを書いている。

 

……ああ、そういや今どきはタブレットか。

 

きっと、問題集かなにかを解いて……いや、いくらなんでもたかだか数年でノートまでされるものなんだろうか。

 

そう思って、ぼんやり見ていた。

 

「?」

 

「!」

 

――人は、第六感で視線を感じるらしい。

 

ぱっと見上げられて、思わず硬直する。

 

「………………………………」

「………………………………」

 

その子と僕は、お互いにしばらく硬直。

 

それを先に解いたのは、彼女の方だった。

 

「……え? ふぇぇ……? うそ……」

 

……かたん、からから。

 

その子の手にしていたペンが、床を転がる。

 

その子は、僕を驚いたような目で――ああ、やっぱり小学生高学年くらいの顔つきで、明るい栗色の髪の毛をカチューシャで飾っている、まるでひより大先生のアイコンみたいな……あれ?

 

「……こはねちゃん、さん……?」

 

「……ひより先生?」

 

「………………………………」

「………………………………」

 

僕たちは、しばし見つめ合い――

 

「……ふぁぁぁ……」

 

――とさっ。

 

「えっ」

 

……先生が、目を回して崩れ落ちた。

 

「きゅう……」

 

「……えっ」

 

さらに硬直した僕は――驚愕した。

 

「…………えっ……?」

 

……この世界に、僕よりも怖がりな存在が居るだなんて、って。

 

 

 

 

「きゅう……」

 

「……ひより先生を呼んだの、先生ですか」

「はい。ごめんなさいね……げろげろは?」

 

げろげろ?

 

ああ、吐いたかどうか、つまりはパニックになったか聞いてくれてるのか。

 

「いえ、僕は平気でしたけど……」

「そう……残念。ひよりちゃんはノックアウトされちゃったみたいねぇ……」

 

呼んできた先生は素直に白状した。

「残念」って言ったし、なにかを企んでいたみたい……悪い人じゃないはずだけど。

 

「介護班って……つまりは前から配信に居た人なので、今からなら納得できますけど」

「ええ、彼女もまた介護班……こはねさんを守りたいと思ってくれた人ですね」

 

「……でも、なんで僕を見て目を回して?」

 

「こはねさんなら、彼女の絵柄や人柄をある程度分かっていますよね?」

「……ああ、危なっかしいくらいに純粋な小学生だったんですね」

 

「――高校生ですっ!」

 

「!?」

 

がばっ。

 

真っ赤な顔をして寝転んでいた彼女が、いきなりに起き上がり、

 

「わぷ」

「大丈夫ですか?」

 

ふよんっ。

 

後ろを向くと――しゃがんで僕の後ろに居たらしい彼女の胸元に、頭がバウンドする。

 

「……ごめんなさい」

「不可抗力ですから構いませんよ」

 

にこり、と気持ちのいい笑顔を近距離で浴びる。

ふわりと漂ってくる匂いは消毒液と、大人の女性のそれ。

 

……けど、大丈夫だ。

 

本当に、本当に――ネット越しでも、知り合いってはっきり分かっていたらこんなにも大丈夫なんだ……。

 

ということは、ひより先生も。

 

「………………………………」

 

「あ、えっと、大きな声出してごめんなさい……私、良く子供っぽいからってからかわれていて……」

 

「……本当に高校生……?」

 

ひより先生。

 

ムィートを見る限りでは、高校生……のはず。

ぽつぽつとしかつぶやなかったとしても、それを追ってるとそれなりに分かるのが個人情報だ。

 

「! こ、こんな見た目でも高校生ですっ!」

「いえ、疑うわけじゃ」

 

信じられないだけだよ?

 

「ええ、保険証を偽造する何かしらの理由がなければ、彼女もまた見た目通りの年齢ではありませんね」

 

「偽造なんてしません!」

「う、嘘とは思ってないから……」

 

先生が太鼓判を押す。

 

……本当に、この見た目で高校生なのか。

 

身長はさすがに僕よりは大きいけども、ぱっと見で小学生って思える程度にはちんまく、制服らしきそれはだぼだぼで、ニットのセーターがもはやスカートをほぼ覆うほどで。

 

……顔つきか、それとも動きか、あるいは両方、さらには話し方か、全部か。

 

「……それで? 先生?」

 

「はい?」

 

「あ、いえ、こっちの先生」

「あ、はい」

 

僕はお医者さんの方の先生に声をかけたんだって伝える。

けども、彼女は分かっているようでいてよく分からない様子。

 

「………………………………」

 

「………………………………」

 

僕たちは、意味もなく見つめ合い、

 

「?」

「?」

 

首をかしげる。

 

む……なんだか、この子、独特の間がある気がする。

 

「……こはねさん。今回の件は、妹さんも巻き込んでのものです。私が発案して……ごめんなさいね」

 

「いえ、優花が良いって言ったなら悪いことではないですし」

 

先生が謝ってくるけども、そもそも僕は迷惑をかけている立場だ。

 

そして……現状は数少ない、目を見て話せる相手。

きっと治療の一環……なんだよね?

 

「こはねさんが、初めて私と会ったとき。想像よりも驚くほどに落ち着いていました。そして、介護班同士で相談した結果……」

 

「……古参の人たち。配信で何回か話した人相手なら大丈夫かも、って?」

 

確かにそういう話は前にもした気がする。

 

なぜかは分からないけども「僕は文字越しでも初対面かどうかを無意識に判断しているんじゃないか」って。

 

実際、古参って呼ばれる人たちの中でも普段コメントをしない人とかは書き込みを見ればなんとなく分かるし、それで男のときから毎回気持ち悪くなったり吐き気を催したりしていたし。

 

「ええ。今回のように、もしかしたらリアルの初対面でも……と。それで」

 

「……ちんちくりんで、人生で1回たりとも見た目で恐れられたことのない私が……って。びっくりさせて、ごめんなさい」

 

しゅんとしょぼくれる姿は、どう見てもおやつを買ってもらえなかった小学生そのもの。

 

でも、

 

「僕こそ、ごめんなさい」

「ふぇ?」

 

僕は、まずは謝る。

 

「見た目で苦労する気持ちは……この体になって、少しは分かっているつもりです。小学生だなんて思って。コンプレックスに思っていることを指摘される辛さは――」

 

「あ、いえっ! 良いんです! 近所の小学生の子にも同級生だって思われてた事件がつい最近にあったくらいなのでっ!! そんなに重いものじゃ!」

 

ぶんぶんぶんっと全身で手を振る先生。

 

間違えられたんだ……大人ならまだしも、子供の方から……。

なんだか非常に親近感が湧いてきた。

 

そういや先生と同じく――ややこしいから「ひより先生」は「ひよりさん」の方が良いかな――こんなに近くで話していても気持ち悪くはならないし、なんなら先生よりも怖くないし。

 

「特段の病気や発育不良ではないと聞きます。なんでも、お母様も……その、幼く見える見た目だということですので、恐らくは遺伝だと」

 

「お母さん……一緒に町を歩いてると、私との比較で『中学生のお姉ちゃん?』って言われて喜ぶんです……小学生な私のお姉ちゃんだって……」

 

それはひどい。

あんまりだ。

 

「母親のきゃぴきゃぴした姿を見るのは……つらいですね」

 

「分かってくれますか!? ……あ、私相手は、普通にしてもらえたら……その、配信で話しかけられるの、……す、す、すすすすす……」

 

「?」

 

「す」ばっかり言ってるうちに、引いてきてた赤みが彼女の顔を覆っていく。

まるでリスとかハムスターみたいな印象になっていく。

 

「……きゅう」

「おっと」

 

今度は彼女のそばに寄っていた先生が、また寝転びそうになったひより先生を抱きかかえる。

 

「配信で……確か半年くらい前、ひより先生が相談してきたこと、あったのを覚えていますか?」

 

「配信で?」

「はい」

 

先生の方から配信での会話内容を尋ねられてちょっと困惑するけども。

 

「………………………………あ。先生、確か」

「ええ。こはねさん同様、対人関係が苦手と」

 

そっか。

 

僕の方は……なぜだかよく分かっていないけども、ひとまず初対面を乗り越えた相手なら。

 

「この体」が知っている相手なら、人見知りがそこまで起きない。

そもそもひより先生は見た目が小学生だから、余計に怖くない。

 

けども、ひより先生は年相応の――高校生としての、高校生としての――人見知りで、同世代の女子とも話すのが苦手だったはずだ。

 

「それ以外にも、当時はまだ中学生だった彼女が……警戒心が薄くてある程度学校とか住んでいる場所、なによりも年齢と性別が特定されそうなムィートや写真を上げていたのを、わざわざ指摘してもらったのを恩に感じているようで」

 

「そんな、普通の大人なら声くらいかけますよ、危なっかしい子には」

 

「……そういう判断ができるから、こはねさんは信頼されるんですよ」

 

「?」

 

普通の大人なら、危なっかしい子が危なっかしいことしていたら、ひと声はかけるよね……?

 

「……こはねさん」

「え?」

 

「こはねさんは、ネットの世界が――常に女性を物色するタイプの男性に満ちているのをご存じですよね?」

「? そうですね、僕の声バレのときとかからそういうのが来てましたし」

 

「………………………………」

「……?」

 

先生は、しばらく黙って僕を見つめる。

それが居心地の悪くならない程度には、すっかり慣れてきたお医者さんの人。

 

彼女はやっぱり、なにかを企んでいる気がする。

 

「……ふふっ。妹さんが大切にするのも、分かりますね」

 

「?」

 

先生はよく分からない理由でくすくすと笑いながら、ひより先生の介抱をしていた。

 

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