TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~   作:あずももも

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4話 男だった僕の最後の夜と女の子になった朝

人は、目的がないと生きる意味を失うという。

 

だからこそ――自己満足の配信でしかないとしても、こうして何かを続けているっていうのは毎日のモチベーションになる。

 

たとえそれが生産性皆無で意味も無く、世間に対して何の利益になっていないことであったとしても。

 

こちとら昼夜が周期的に逆転する引きこもりなんだ、配信スケジュールとか定期的なランクマッチとかアップデートとか、なぜか僕のところに来てくれる視聴者たちとか――そういう、無駄でしかないはずだけど、それでも僕がこの世界に存在している理由っぽいのがあるってのは嬉しいんだ。

 

そんなことを思いながら適当に動画をおすすめされるがままに観続けて――再度に手が地面をさまよい、あと1杯だけと、アルコールを求める。

 

けども――こつっ……とん。

 

「……あっ、もったいない……」

 

――とくとくとく。

 

次を注ごうとして倒しちゃった酒瓶から、床に広がっていく貴重な貴重な、お酒。

無駄になったアルコールの、つんとした匂いが鼻を突き抜ける。

 

「……あ、今日、燃えるゴミの日か」

 

その液体が染みこんでいった先の、ゴミ箱からあふれかえったティッシュ――いかがわしい用途ではなく、日常で使う範囲で溜まったもの――を片づけつつ。

 

僕は、お酒を飲みながらだらだらといつの間にか30分くらいが過ぎていた深夜の自室で、数時間後のゴミ出しを思い出した。

 

あと――クーラーガンガンで忘れていたけど今はすっかり夏で、つまりはまだ深夜なのに少しだけ光がこぼれるカーテンの隙間を、見るともなく眺めて。

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

数時間後。

 

ぎりぎり長袖――なにしろ冷房の効いた室内でしか棲息しない引きこもりだ、冷風対策の長袖一択しかないんだ――でも耐えられる気温な早朝、かつまだ人通りもない明け方。

 

アルコールで恐怖を取り払った僕は、家の中からかき集めたゴミを詰め込んだ袋を置き、ネットをかぶせる。

 

「……すぅっ」

 

夏の朝の匂い。

 

まだ真人間な心を持っていた時代から好きだった匂いを吸い込みつつ、ジャージ姿になった僕は歩き出す。

 

できるだけ猫背になって、できるだけ人に気づかれないように。

 

え?

 

引きこもりニートなのに外に出て手良いのかって?

 

僕は軽度だから、人が居なければ外には出られるんだ。

決して引きこもりニート詐欺をしているわけではない。

 

引きこもりニートの癖に外を歩いて発狂しないかって?

 

大丈夫、この時間帯に遭遇するのはせいぜいがお年寄りか犬の散歩だけ。

 

彼らは僕の敵ではない。

 

気がつかないフリをし、気がつかれてしまったのなら適当に会釈するだけで済む相手なら、僕は怖く感じないんだ。

 

――筋肉は、使わないと衰える。

 

それは声帯の筋肉と同じで、いくら健康な成人男性であっても年単位で歩かなければやがては歩くことすらできなくなるという。

そんなことは無いと思うんだけど、優花がしつこく言うもんだからしぶしぶそう思い込むことにしている。

 

だからこその、最低限の運動としての散歩。

 

……僕が引きこもりニートをして良い条件として提示された、絶対条件という名のノルマでもある。

 

その交換条件が生活費の支給なんだから、やるしかない。

逆に言えば1日1回の散歩とゴミ捨てとかだけで月数万が支給されるんだ、ますますにやるしかない。

 

まぁ帰り道にコンビニに寄れるから悪くはないし、短くとも外に出るだけでまだ正気でいられているのは感謝しているけども。

 

あ、最近のコンビニって良いよね。

 

無人レジとか最高――お酒頼むときは店員さんがすっ飛んでくるから気持ち悪くなるけども。

 

 

 

 

――こんこんっ。

 

それから1、2時間――部屋の外から、いつものノック音。

 

「兄さん、おはようございます」

 

「うん、おはよう」

 

――「万が一に備えて、僕は、部屋の鍵はしない」。

 

――「代わりに家族からは、絶対にドアを開けない」。

 

その条件は、今朝も満たされている。

とはいえ閉めたドア越しでは大声を出す必要があり、僕の声帯が死滅する。

 

だから、毎朝の――挨拶の時間にだけほんの少しだけ開けてあるドアから、妹の声が届く。

 

「今日からは試験期間なので、帰りは早いです」

「うん」

 

「朝食の準備とゴミ出し、ありがとうございます」

「うん」

 

声帯を労るために、ドアの横のベッドに腰掛けて返事をする。

 

ふわりと漂ってくる、妹の――優花の匂い。

 

高校生になって着けるようになった、控えめな香水の匂い。

「校則が厳しくて」と、困ったように言っていたのを思い出す。

 

「必要なものはありますか」

 

「特に……あ、卵がないかな」

「分かりました、帰りに買いますね」

 

ぽつり、ぽつり。

 

顔を合わせなくなって2年ほどだけど、ほぼ毎日交わす声。

 

――香りに制限があるとはいえ香水が許される程度には校則が緩いとか言ってたし、妹の優花は小学校のころから……いわゆるクラスの一群だ。

 

最後にちゃんと見た顔は、中学生の彼女のそれ。

 

今は高校生、それも3年だ――僕が苦手なタイプの女子たちのごとくに薄いお化粧とかして学校に行ってるんだろうし、きっと顔とか見た目が変わってるんだろう。

 

――僕が最後に優花を直接見たのは、まだ彼女が中学のときだったから。

 

ニートのくせに部屋の中ですっ転んで、その音で駆け込んできた優花に見られて運ばれたときは動揺しててまともに見てなかったし、覚えてなんていやしないし。

 

普通の兄として妹に接したのは、それが最後だったから。

きっと彼女の中の僕も、まだ高校生相当な年齢だろう。

 

「日課はしましたか?」

「したよ」

 

僕は、必要のない嘘はつかない。

それを知っているからか、特に証拠を求められることもない。

 

「分かりました。……では、また」

「うん、また」

 

ぱた、ぱた。

 

ゆっくりと離れていく足音。

 

――かちゃん。

 

ゆっくりと閉めたドアの音。

 

「……はぁ」

 

ごろりと横たわる。

 

時間軸がずれてはいるし月の半分は昼夜逆転だけども――今の時期は僕基準で夕方のお酒、そして晩ご飯に食後の散歩、軽い家事、そしてお風呂。

 

それらが全部終わってから――真面目な高校生をやっている妹の1日が、朝食から始まる。

 

――兄が妹に気を遣われて、家計と衣食住を管理されて、必要なものは家のカードで買わせてもらえる上に、月に1回小遣いをもらって。

 

情けない?

 

そう思うんなら、こんな生活はしていない。

そう思うんなら、こんな生活なんかできない。

 

プロのニートに、無駄なプライドはない。

プライドなんかあったら、ニートは失格だ。

 

そう思わざるを得ないから――「せめてこれだけはやって」と懇願されたタスクを、家事と僕自身の健康だけは、やっている。

 

「………………………………」

 

分かっている。

 

こんな生活、いつまでも続けられるはずがない。

 

世間的には、いい年した男が大学生の妹に世話をされているんだ。

優花だって、僕のことを他人に説明するたびにストレスを感じているだろう。

 

あるいはひとりっ子だと、さりげなく言っているかもしれない。

 

でも、それで良い。

 

「……ニートやってて申し訳ないと思うのは、こういうことだけだな」

 

仕方がないんだ。

 

僕は、外に出られない。

出る気力が浮かばない。

 

一時的にハイになっても――早くて数時間、長くて数ヶ月で、また引きこもりたくなる。

 

日の光と人の声と視線から、隠れたくなるんだ。

ただただじっとごろごろとしていたくなるんだ。

 

精神的な病気なのか、あるいはその気があるのか。

 

そういう検査とかはさせられたけども……特に何も言われなかったし、きっと特に理由のない労働放棄なんだろうな。

 

……こんなのは、良くない。

 

だから、優花が――就職したりして。

 

きっとよりどりみどりだろうから、20代のあいだに誰かと結婚する。

 

そんな話が出てきた段階で、僕は家を出よう。

 

優花が結婚するころには、僕は30半ば。

 

さすがにそんな年齢まで家に居たら親のすねの味にも飽きるだろうし、家賃と生活費のためっていう理由があれば働ける。

 

それが、僕みたいなタイプのニートだ。

 

下ろしたカーテンの隙間から夏の日差しが部屋を照らす。

 

――僕以外のみんなは、慌ただしい朝を、気持ちよく過ごしている。

 

でも、僕はこうしていい具合に引きこもりニートとしての体力と気力を使い果たし、あと1、2時間で眠る。

 

そして夕方に起きる。

 

その、繰り返し。

 

でも、僕には才能がある。

ニートをする才能だ。

 

余暇を自分なりに本気で楽しむという才能が。

 

「それも立派な才能だと思うけどなぁ」――コメント欄の誰かは、そう言ってくれてたけどね。

 

 

 

 

「そろそろ髪、切らないとかな」

 

伸びきった前髪。

 

……この春はなんだか特にこじらせていたから、結局1回も美容院に行かなかった。

 

床屋の方が気楽でいいし、さらに言えばセルフカットが良いのにな。

どうせ誰にも見せないんだから、その方が安いのに。

 

けど、それは優花との約束で――「対人能力維持のために」月1で行く義務がある。

 

けども、それを放置している――そろそろ行かないと怒られる。

 

約束は、約束。

したものを反故にするには交渉が必要で、でも僕にそんな芸当は不可能。

 

どうしても無理ならしなくても良いとは言われてるけど、人間、生きてれば髪の毛は伸び散らすもの。

 

生きてるって、大変だ。

 

「………………………………」

 

横髪も後ろ髪も、ずいぶん伸びている。

 

――ま、ガワの姿に比べたら短いからいいや。

 

曇りが続く週にでもなったら、気合を入れて美容院の予約をしよう。

 

そうして――立ち絵ソフトを切り忘れていたために、モニターの隅で「まるで生きているかのよう」に、微妙な呼吸モーションで揺れている「ネット上の僕の姿」をぼんやり眺めた。

 

 

 

 

「あー……回るー……」

 

くるくると回る天井と、飲み過ぎたせいで少し重たい胃袋を感じながら、僕は眠りの世界に吸い込まれる直前の数十秒を楽しんでいる。

 

――アルコールは気絶するように意識を落としてくれるけど、代償として眠りの質が悪くなる。

 

分かってはいるけども、お酒が入っていないと寝付くものも寝付けないんだからしょうがない。

分かってはいるけども、お酒が入っていないと悪夢を見るんだからしょうがない。

 

高校デビューの失敗、大学ぼっち、ゼミでの人間関係複雑骨折、そして中退。

 

この国においては貴重な新卒カードを投げ捨て、職歴もなし、言われたことを半分くらいしかできないバイト暮らし。

 

もんもんと浮かんできちゃういろいろも、アルコールのおかげで和らいでいる。

 

他人にとっては、きっと「そんなこと」って言われる程度のいろいろ。

 

それでも僕にとっては、耐えがたい記憶なんだ。

だって僕には――その程度の経験しかないから。

 

悪い記憶は脳みそが自動的に再生しちゃって、それを刻み込んでくるんだ。

僕にはどうしようもない、だからお酒に頼る。

 

それを知っているから、優花も「飲むな」とは言ってこない。

ただ「控えてほしい」、それだけ。

 

「……収益化、したいけどなぁ」

 

配信を、収益化。

 

登録者と再生数で、配信主――個人事業主として世界に認められた証。

本気で取り組んで何年っていう世界で、本気でがんばる人たちだけが獲得できる証。

 

やろうと思えば数年後にはできるかもしれないけど、その気持ちが起きない、あれ。

「がんばれば誰だってできるよな」とは誰もが思いつつ、けどもほとんど誰もやらないやつ。

 

それができたなら――少なくともニートではなく個人事業者と言い張ることができて、社会的ステータスができるような気がする。

 

いや、たぶんステータスにはなって僕の自己肯定感もちょっぴり上がるし、優花だって「ニートの穀潰しが居るんです」とかじゃなく「配信をがんばっている兄が居るんです」って言えるようになる。

 

そして一応納税までできたなら――たとえ1円でも納めてたら、いばることはできる気がするんだ。

 

そうだ、せっかくなら動画編集技術を勉強してクラウドソーシングで働くか?

そうすれば少ないながらもバイトをしていることにはなるし。

 

あるいは今からイラストとか勉強して、ひより先生みたいにイラストレーターを目指すか。

あるいは小説、あるいは3Dモデリングを。

 

アルコールのおかげで、毎晩のように浮かぶ、未来へのポジティブシンキングすぎる皮算用がぽんぽんと浮かぶ。

 

アルコールのおかげで未来を妄想でき、過去を忘れられる。

 

……どうせ起きたら綺麗さっぱり忘れているのにな。

でも、寝る前の妄想くらいは好きにしても良いよね。

 

「やっぱりボイチェン……いやいや……けど、せっかく作ってくれたオリジナルアバターだし……」

 

ぼんやりと目を開けると、眠気に誘われてすっかりまぶたの裏の暗がりに慣れた目に刺さる――ディスプレイに映ったままの、「もうひとりの僕」。

 

もう眠すぎるし、大した負荷もないからつけっぱでもいいんだけども。

 

「――こんな子に、女の子に産まれていれば。……いや、優花も言ってたじゃないか。女は大変で、確かに難易度が低いように見えるけど、それは女子から見ても男子は楽に見えるし、平均年収とか見たらやっぱり男の方が社会的にも生物的にも断然有利なんだって……」

 

あとは精神的な面で大変だそうで――人間関係が男じゃ想像できないくらいシビアだって聞くから、やっぱりいいや。

 

学校にいるあいだ、放課後、休日も今や繋がり続ける結果として24時間女子グループ内の目に見えない気配の中で戦い続ける永遠のバトルが繰り広げられるんだとか。

 

男でも人間関係で複雑骨折するんだ、女の子に生まれてたら爆発四散していてもおかしくはないもんな。

 

僕は僕だ。

 

嫌なところも多い――っていうか嫌なところしかないけども、それでも僕が僕としてこの体で産まれたのはやっぱりしっくりフィットしているんだ。

 

目立たない、ごく普通の男。

 

それでいい。

 

気分が乗った時期にバイトをして、人間関係が嫌になったら辞めて。

何、今の時代は人手不足だ、まだ20代のうちは焦らなくて良いんだ。

 

「………………………………」

 

そして僕は、眠りに吸い込まれる。

 

『――――――……………………』

 

その直前に、誰かに話しかけられた気がしたけども――そんなことは、どうでもいい。

 

 

 

 

「ふふ……兄さん、今日も元気そうで良かったです」

 

綾瀬優花――綾瀬直羽の妹は、高校から帰ってきた制服姿のまま、自室のベットに横たわる。

 

「――ああ。今日も兄さんの声が聞こえました。兄さんと会話ができました」

 

高校生3年――18歳の彼女は、今日も交わした7歳上の兄との会話を幾度も反芻する。

 

――兄さんの落ち着いた声。

 

直羽兄さんの、決して大勢を惹きつけるわけではないけれども自分のようにせわしない世界に疲れて癒やしを求める層には確実に届き、性癖を打ち砕く声。

 

誰もが光り輝き、溌剌としている必要はない。

 

そういうものに疲れている人も――女も多い。

 

そんな女が求めるのは――女としての要求で必要最低限度の基準を満たしていて、それでいて安心できる男。

 

別にすごいイケメンでなくても体格でなくても特技や名声がなくても良い。

 

ただただ普通に――普通に、癒やしてくれる存在なら、そんな存在がそばに居てくれて「自分だけを見ていてくれたら」――それで良い。

 

一時期はあの安心できるはずの声が、滑舌どころか声そのもの発声自体が危険域だったため、いろいろとそれらしい理屈をつけてなんとか以前と同程度にまで――いや、彼が高校に入るまではいつも楽しかった語りまでに回復している。

 

頼んだ「約束」を律儀に守っているし、元から綺麗好きだったから清潔面も大丈夫だろうし、事情を知っている美容院にも定期的に通っているから見た目も「そのまま外に出ても問題ない」だろう。

 

「でも――大丈夫ですよ、兄さん。兄さんは、深窓の令嬢――令息なんです」

 

優花が――耐性のない同世代を直視すると、男女問わずに心の壁を崩壊させる魔性の目を開く。

 

彼女の部屋の天井、壁。

 

そこには――隙間なく一面に貼り付けられた、大小さまざまな写真が彼女を見下ろす。

 

赤ん坊のころ、幼稚園のころ、小学生のころ――そして高校入学までの、その写真を撮った親や写真係による、最低でも300枚の、兄の写真。

 

そして家族と撮った写真、高校までは居た、兄の友人からの写真。

それらを、兄だけが映っている部分だけを切り抜き、引き延ばし。

 

自分以外誰も自室に入ってこなくなった2年前に少しずつ貼り始め、気がつけばもうすぐに家具が邪魔していない四方の壁を全て覆い尽くすほどの執着。

 

「兄さんが引きこもってくれているおかげで堪能できる光景」。

 

だから、ずっとそのままで良い。

 

「大丈夫です、兄さん。――家族なんですから。ええ、貴方の生活は、私が養えば良いんです。今は男女同権、男女平等、専業主夫もそれらの名前の元に正当化できる時代なんです。それに文化圏によっては親族の中で誰か1人がたくさん働いて、残りの人はその人に養ってもらうのも普通だと聞きますし、この国だってほんの2世代くらい前まではそういう空気もあったというじゃないですか。社会に出たら私が働いて稼いで、兄さんはこの家をかいがいしく守る。兄さんは誰にも汚されず、ずっとこの家で私の帰りを待ってくれていて、朝ごはんの用意をしてくれている。お味噌汁を作り続けてくれる。いつまでも、いつまでも……私だけの――私だけのために。……ふふ、ふふふふ……兄さんは、誰の手にも染まらない、誰に奪われることもない、どこの女に盗られることもない。兄さんは私だけを好きで居てくれるんです。この家でずっとずっと――ずっとずっとずっとずっとずっとずっと、ずーっと、何十年先に死ぬまで一緒……ずぅっと、飼ってあげますからね? ふふ、ふふふふふ……ええ、お互いによぼよぼになっても、ずぅっと……来世も、そのまた来世もずぅーっと……」

 

妹は――兄への叶わぬ想いを、歪だけれども純粋な愛で、叶えようとしていた。

 

 

 

 

「……なんじゃこりゃあぁぁぁぁ!?」

 

その――10時間後。

 

アルコールでの質の悪さを補うためか、それともニートの特性なのか、長めの睡眠時間を終えた僕は――かつて興味本位のボイチェンで後悔したはずの声に限りなく近い、ロリータなヴォイスで絶叫していた。

 

――がんばって中学生の時の地声程度の声しか出せないはずの僕の声帯が、ハウリングするレベルの音量を――別人の声帯へと変貌していた。

 

あと、ついでに――僕の、最後まで本来の目的で使われることのなかった相棒は……この世を去っていた。

 

女の子に、なった。

 

昨夜、冗談でみんなが笑っていたTSってものを、した。

 

「僕は、僕じゃなくなった」。

 

驚きと悲しみでの第一声は、僕の狭い部屋の中に……空しく響いた。

 

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