TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~   作:あずももも

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40話 女体の価値を活かそう

「『介護班』への、メン限配信?」

 

「ええ。サーバー内で、そのような提案がありまして」

 

ごはんを食べている中、ふと思い出したように優花が言うのに顔を上げる。

 

「こはねさんは、古参の方相手でしたら苦しくならずに会話は可能ですよね?」

「うん……そうだね」

 

もぐもぐ。

 

ごはんを咀嚼しながら考える。

 

……確かに、あの人たち相手なら気持ち悪くはならない。

 

いや、言ってることはちょっと気持ち悪い……いや、かなり気持ち悪いところもあるけども、そういう煮詰まった業的な意味じゃなくて僕の対人恐怖症が発症しにくいっていう意味で。

 

もちろん、男の僕からしても……うん、気持ち悪い人たちではあるけども。

全員じゃないとは信じたいけども。

 

「彼らの中には、そこまでコメントをしたことがない人も多いそうですが」

「そうだね。できれば話したことがある人なら……んくっ」

 

そうだ、顔バレをする直前までの配信では、僕は彼らのコメントを必死で探していた。

 

だってなにしろ、圧倒的たくさんの新参さんたちのコメント――見るだけで吐き気がしてくるそれらの中から、かろうじて無事なものを探す作業をしていたんだ、実は結構大変だったしそれなりに慣れているんだ。

 

「ですので、リハビリという意味でも……あとは、彼らへのお礼という意味でも」

「確かに……ちゃんと挨拶くらいはしたいって思ってたしなぁ」

 

「こはねさんの気持ちは前から伝えてありましたので、この提案が。先生からも問題はないだろうとの判断です。ただし、なるべく調子の良い日を選び、こはねさんの普段通りの配信を勧める……と」

 

「あー、配信したいときにいきなり始めるいつものスタイル。確かにその方が楽な気がする」

 

つまりは僕の気分が乗ったときっていう、アップダウンの激しい僕のメンタルを最優先に――そして視聴者たちの生活を完全無視するっていうスタイル。

 

「ええ。私たちは年単位で訓練されているので――」

 

「?」

 

「こほん、彼らは突発的な配信に慣れていますし、そもそも大半が日中の仕事や睡眠などでアーカイブで楽しんでいたということです。リアルタイムで視聴できないのは残念でも問題はないそうです」

 

「あー」

 

そういや、数はそこそこ居るって思ってたんだよな……静かだったときの視聴者。

でも普段は多くて10人超えで、そこまで熱心にコメントをする方じゃなかったはず。

 

「そもそも数時間の配信でも、コメントが数えられる範囲って時点で」

「ええ。彼らはそのやり方で慣れていますので……慣れている方法で、いつものような形が嬉しいと」

 

「……けど、お礼を言うだけなんて。この前もそうだったけど」

 

彼らには――全員ではないにしても、かなりの人数が当時動いてくれていたらしい。

 

リアルで優花を送り届けてくれたり、その手助けをしたり。

そうでなくとも、SNSとかで爆撃――何のネットスラングなんだろう――をしてまったりとか。

 

僕がパニックになったせいで、とんでもない迷惑をかけていたはずだ。

 

「……兄さん」

 

顔を上げると――ああそうだ、考え込むのが僕の悪い癖だ――優花が、心配そうな顔をしている。

 

「みなさんは、兄さんが悲しんでいないということ、そのものがお礼なんです」

 

……そうだ。

 

僕は、そもそもとしてマイナスの存在で、みじんこなんだ。

社会の底辺、ありんこ、ごくつぶし。

 

僕は、存在するだけで下の存在――だから、そんな僕が彼らにお礼をなにか送ろうって思うこと自体がおこがましいんだ。

 

だけども、今の僕は――見た目だけは一気に良くなっている。

声だって良くなっている。

 

だから、

 

「……とりあえず脱げば良いかな?」

 

「兄さん!?」

 

そうだ。

 

男だった僕の裸になんてなんの価値もなかったけども、女の子っていうのは女の子っていうだけで価値を生み出すんだ。

 

幸いにして僕は法律的にも成人――何かがあっても逮捕されるのは僕だし。

 

「ええと、オンラインに繋がってるデバイスだとBANどころかお巡りさんが来ちゃうから、デジカメで撮って……これまたオフラインにしたPCでコピーしてSDカードかUSBメモリで送れば……念のため、局部だけ映さなければ……」

 

「止めてください!?」

 

「え、でも、僕にはそれくらいしか――」

「普通で良いんです! 普通の配信で!」

 

「え、ストリップ配信? 少しずつ?」

「どうしてそうなるんですか!?」

 

だって、僕の価値ってそれくらいしかなくない……?

 

「それともえっちなサイトでえっちなことをして、それの配信収益を――」

「普通に違法ですからね!?」

 

「そっか、海外に行かないとね……あ、ダメだ、パスポート取りに行けない」

 

「兄さん……」

 

僕が、あれこれと女体の価値を最大限にお金にする方法を模索していると……なんだか優花が、すごくかわいそうなものを見る目になっている。

 

「?」

 

「……兄さん、良いですか」

 

――がたっ。

 

優花が、立ち上がる。

 

「誰も、そんなことを求めていません」

 

「え、でも、僕のことぺろぺろとかげろげろが欲しいとか、自撮りが欲しいとか……介護班?の人たちも書いてたけど。違うの? 男のときでも、『男でも良いので、できたら色気のあるものを』……って」

 

「うぐっ」

 

「?」

 

なんで優花が白目剥いたんだろ……まぁいいや。

 

「あとはなんだっけ? 確か『成人男性でも良い、いやむしろ成人男性の方が良いから、ささやきボイスとか売ってくれないかな。できればえっちなのを』って書き込みが。女性用のシチュボってやつ」

 

「!?」

 

「そうそう、なんかそういう人居たんだよ……アイコンしか見ないから、名前は覚えてないけど。やたらと僕が『男でも良い』って……男の人か女の人か分からないけど」

 

「……! ……!!」

 

今度は顔が青くなったり赤くなったり、お年頃なのか忙しそうな優花。

 

そりゃそうだ、自分の兄がこんな注文つけられてたら困るよね。

 

でもさ、そういうコメントからは……なんかこう、粘っこい感じがしてたから、来るたびにおしりがきゅっとなったんだよね。

 

ならない方となる方がはっきりしてたのは、たぶん相手の性別が……。

 

「僕は別に男が好きな男への偏見は無いし、そういう人が友達に……僕にできるはずがないけども、万が一にでもできたとしても、それで遠ざけたりはしないけどさ……やっぱり、引くよね」

 

「      」

 

「あるとき……いつだったっけ。きゅってなる方のそういうコメントにそう答えたら、『じゃあ自分に好意を抱いてる男とふたりきりとかなれる?』って聞かれて。たぶん『普通に大丈夫だし平気だし……相手のことが好きだから隙あらば無理やりに相手の意思も気にせずに襲うような人だったら、それはそんな人を友人にした僕が悪いからしょうがないかな』って感じに答えたんじゃないかな。事実だし」

 

「     」

 

まぁ実際にそんな立場になったら本当にそう思えるかは分からないけども、あくまでも僕の感覚としてね。

 

「それが女の人でも同じで、ほら、言うじゃん? 一般的には男女が同じ部屋に入るってのはそういうことの同意だって見なすって。でもさ、僕、そういうのはあんまり好きじゃないんだ。男女だからって必ずしもそういう関係になる必要もないし、そういう関係になるって人ばかりじゃないって。みんながみんな、本能だけで動いてるわけじゃないから、相手が嫌がることはしないだろうって。むしろ、大切なほどそういうことするのには抵抗あるんじゃないかな。少年誌でのマンガみたいに、普通に友達で居る関係も良いよね」

 

「  」

 

……こんな答えも、女の子になった今としては危ない考えだとは分かってるけどね。

 

女の子っていうのは生物的に男より何倍の価値があって、だからこそ隙あらば襲われて子供を産まされるってのが野生の掟。

 

野生ではメスが受け入れるかどうかってのを決めるけども、動物によってはがばっと襲われるのが一般的な種類もあるみたいだし。

 

人間はどうかっていうと……どっちもある動物だ。

 

時と場合と、相手による。

そういうものなんだ。

 

「少なくとも現代文明で、そこそこの倫理観のあるこの国だったら。男女問わず、相手が嬉しくないことを勝手にしてくるような人は……って、優花?」

 

「 」

 

また悪い癖で、考えて下を向いていた僕の前には……床に座り込んでいる優花。

 

「優花? ゆうかー」

 

ふりふり。

 

「 」

 

……まさか……!

 

この歳で血糖値スパイク……それとも僕のせいで睡眠不足か。

 

そうだ、昼間も結構な頻度で僕が邪魔しちゃってるし、そういうときはいつもトレーニングか勉強してるもんね。

 

学生さんなんだ、しかも受験を控えた――あまり妹に頼り切りになっては兄失格だ。

 

「……ひとまず……んしょっ」

 

「   」

 

寝ぼけながらも、うながせばひとまずは動いてくれるらしい。

良かった、これならリビングに枕とかまで持ってこなくて大丈夫そうだ。

 

「あっちのソファまで歩ける? そうそう、えらいえらい」

 

「      」

 

「     」

 

よたよた。

 

どうにかして――立たせたら危険だから、四つん這いにさせて、彼女の背中を押しながら前へ前へと進めて。

 

「そこで寝ててね。今、毛布持ってくる」

 

「  」

 

ぱたぱた。

 

僕は急いで部屋に戻って――一応優花の部屋に入るのは、本人が居ないときはなんとなく、ね――持ってきた毛布を、

 

「んしょっ……」

 

ぱさっ。

 

「       」

 

「……くぁぁ。……どうせだし、僕も寝よっかな……」

 

なんとか自力でソファに寝ていた優花の上を踏まないように乗り越えて――ぽすん。

 

僕は、ソファの背もたれと優花の隙間に挟まる。

……や、だって毎晩こんな感じだし、慣れてるし。

 

「ふぁぁぁ……おやすみぃ……」

 

食後って眠くなるよね。

 

どうせ普段から――この体になってから昼寝してるし、ちょうど良いや。

 

「……すー……すー……」

 

しばらくうとうとした僕は、子供特有の素早い眠気に足をつかまれて引きずり込まれた。

 

「       」

 

「     」

 

 

 

 

よく分からないけども、次の日まで優花が妙におとなしかった。

 

具体的には、あんまりハグもしてこないし、寝るときも寝ぼけて僕をまさぐったりもしてこなかったんだ。

 

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