TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~   作:あずももも

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44話 煽って甘えて煽られて泣いちゃって

「……ということで、ときどきですがひよりさんには家へ来てもらい、こはねさんの社会復帰のお手伝いをしてもらうという話になっていまして」

 

「ということで!」

「ということかぁ……」

 

ふんすとやる気は充分らしいけど、空回りしている先生。

その姿は、どう見てもお手伝いを任された小学生そのもの。

 

いやまぁ今の僕も小学生にしか見えないんだけども……ほら、ひとりで外に出られないし、出るときは妹に手を繋いでもらってるし……。

 

「でも、本当に良いんですか? 僕なんかのために貴重な――」

 

「こはねさん!」

「こはねで良いですよ。お世話になってますし」

 

肉体感覚的には同世代だし。

精神感覚的には……姪とかだけども。

 

「リアルこはねさんを3Dで観察してスケッチできるっていう特大の見返りがありますので私はすっごくお得なんです!」

 

「……優花?」

 

「ええと、来てもらうための交通費や手間賃すら、絶対に受け取らないと言うので……試しに言ってみたんですけど……」

 

「天啓です! さすがはお姉さんですね!」

「先生……」

 

そうだ。

 

先生はイラストレーター……学生さんだし、まだその道1本に進むかどうかなんて分からないし、すごい人ばかりが集まるSNSにおいても、特別に絵が上手なわけでもない。

 

けども、魅力的な作品を作る――こういう独特の感性を持った創作家なんだ。

 

あと、優花は妹……いや、信じないよなぁ、この身長差じゃあ。

 

「……分かりました」

「! それじゃあ――」

 

僕は、ずっと思っていたことを口にする。

 

「勉強」

 

「えっ」

 

僕の口が、勝手に笑う。

この体は喜怒哀楽が激しいから。

 

「勉強道具も持ってきてください。テストとかあれば、その用紙も」

「えっ……あの」

 

「先生」

 

僕は、ずいっと――やっぱり僕と変わらないサイズの小さな顔へを近づく。

 

僕の笑顔が、さらに笑う。

こういうときは、人見知りは発動しないんだ。

 

「ぴゃいっ!?」

 

その顔がみるみる赤くなるけども、僕は知っている――先生は恥ずかしがり屋さんなだけだからって。

 

幸いにして今の肉体としては同性で同世代――この程度なら僕も気負いしないし。

 

「これで、配信越しに勉強の心配……必要なくなりますね?」

 

「     」

 

「……こはねさん、本当にひよりさんのこと……」

 

「うん。だってさ、先生ってば注意するまではSNSにテストの点数とか上げてたときからずっと、僕が唯一先生に優っている勉強の経験だけは使えないかなって思ってたからさ」

 

そうだ。

勉強は、大切だ。

 

「先生ならイラスト1本、あるいは漫画家としてもやってけると思いますけど」

 

「     」

 

「それでも、勉強は大切です。ほら、良く言うでしょう。学校の勉強ってのは新しい知識を習得する訓練なんだって。先生がこの先で、絵の世界でつまずかないためにも……あと、赤点とか取って絵が描けない時間が出るのは嫌だって言ってましたし。せめて平均点と、進学するなら行きたいところに行ける程度には……ね? 今どきは兼業も当たり前ですし」

 

「     」

 

どうやら、ぐぅとも言えない様子の先生。

 

ふふん。

 

先生と会うのはこれで2回め、しかもすでにネット越しでは慣れている……僕に隙はないんだ。

 

「……そうですね。こっそりと別のお返しを……とも思いましたが、そういうことなら。塾や家庭教師の月謝も高いものですし、いくらかでもその代わりになれば」

 

「うん、それが要らない程度にかしこくなってもらって、そのお金と時間をイラストの勉強とかに回せたら先生も……先生?」

 

「きゅう」

 

ぱたり。

 

先生は儚く――ソファの上に、ぽすりと倒れた。

 

「……?」

 

「……くすくす、くすくすくすっ……」

 

今回倒れた理由が分からない僕、そして倒れて動かない先生を――優花が、珍しいくらいのご機嫌な笑いで包んでいた。

 

 

 

 

「兄さん」

 

「? 何、優花」

 

それから。

 

先生と優花のスケジュールを――2人は学生さんで、お互いに忙しい身分なんだ――僕はなんにもないけども――調整して、また2人で話し込んで。

 

ひより先生には慣れたといっても、そこはやっぱり他人だ、彼女が玄関から出てった瞬間に……胃がきゅうってなってたのを自覚した。

 

……あの子の前で吐かなくて良かったな。

 

先生が精神的ダメージを受けたら作品にどんな影響があるやもしれないし。

 

そうだ、なぜか最近の先生はやたらと「何かを我慢している」女の子ばっかり描いているんだ、そろそろ先生には正気に戻ってもらわなきゃいけないんだから。

 

そのためなら、いくらでもご指示の通りのポーズをスケッチとかさせる覚悟だ。

 

「ひよりさんですが」

「先生が何か?」

 

今日はなぜかご機嫌だった優花が、まだまだご機嫌な声のトーンで話しかけてくる。

 

「抱えるとしたら、2人目ということで私はOKです」

 

「? 抱える?」

「ええ。一応で『体面』は必要ですから」

 

「……?」

 

にこにこ。

なぜかすさまじくご機嫌な優花。

 

「……良く分からないけど、優花が良いって判断したんなら良いと思う」

「そうですか。分かりました♪」

 

あ、すっごくご機嫌だ。

 

優花は小さいころから不機嫌を表に余り出さない子だ。

けども兄をやっていれば、ある程度どのくらいのそれなのかは判別可能。

 

そして、今はというと――「小さいころ、どうしてもってねだってたクリスマスプレゼントをもらったとき」並みにご機嫌の様子。

 

ご機嫌さんならご機嫌さのまま居させた方が、僕としても楽。

だから、このままで居させよう。

 

そんなことよりも、だ。

 

「んーっ」

 

「はいはい、甘えん坊さんですね」

「子供になってるからしょうがないの」

 

寝転がったまま――ソファにはまだ、かすかに先生の香りが残っている――両手を突き出して、クセになってきた喉から出す高めの声で、優花におねだり。

 

ご機嫌さんな優花がそのまま引かれてやってきて、僕を抱え上げる。

 

……しょうがないじゃん、この体はボディタッチが気持ちよく感じるんだもん。

僕のせいじゃないんだ。

 

「男に戻ったら忘れるから」

「はいはい」

 

「今だけだから」

「はいはい♪」

 

僕は、いい歳していい歳した妹に抱っこをされながら廊下を後ろに飛翔する。

 

………………………………。

 

……うん。

 

体が戻るまでは、どうしてもこの体のせいで甘えたくなるだけだから。

体が戻ったら、今度こそ兄としての威厳を行使するためにがんばるから。

 

 

 

 

「あ゛ぁぁぁーん……」

 

「あぁ……まだ早かったみたいですね……今日は行けると思いましたが、相手が悪かった」

 

「ぶしっ、ぶしっ……」

「はいはい、お鼻、ちーんしますよー」

 

僕は泣きついた。

 

僕はもうダメなんだ。

 

「ちーんっ」

「お上手ですよー」

 

【こはねちゃん……】

【おいたわしい……】

 

【そして隠すこともなくなった妹ちゃんさんへの甘えっぷり】

 

【お姉ちゃんだからね】

【おねショタね!!】

【はいはいあっち行っててね】

【草】

 

僕は、モニターを振り返るも――

 

「こわい……ぐす」

「ゲーム、終了しますね」

 

優花の首元に顔をうずめた。

 

【流行りのFPSはなぁ】

【珍しく流行りものに意欲を示したのに】

【まぁ初心者のうちは煽られるよね……】

【※中級者になっても上級者になっても煽られます】

【対戦ゲームだからね】

【勝ち負けは感情を刺激するからなぁ】

 

【シンプルに治安が悪いんよ……】

【どうしてオンラインは殺伐とするんだ】

【※煽ってきたのは語彙的に小学生です】

【子供ってね、残酷だからね】

 

【子供は反射神経でゲームとか得意だし】

【大人よりも時間も熱量もあるからね】

【あー】

 

【小学校でケンカする感覚でネットにも暴言吐くからねぇ】

【それが友達同士なら関係性でなんとかなるんだが】

【知らない相手ならなぁ】

【ましてやこはねちゃんならなぁ】

 

【よわよわこはねちゃんだもんね】

【はかないこはねちゃんだもんね】

 

【こはねちゃんがはいてないって?】

【はいてない疑惑のこはねちゃん】

【確定させない方が嬉しいこの気持ち】

【分かる】

 

「ゆうかぁ……?」

 

「大丈夫です。介護班のみなさんは好意的ですよ」

 

「あ゛ぁー……」

「よしよし、よしよし」

 

【てぇてぇ】

【てぇてぇ】

【こころがほっこりする】

【わかる】

【煽られてしょげてるのがかわいくて】

 

【これが……恋……じゃない、母性か】

【父性かもしれないけどそうだろうね】

 

【こはねちゃんはね、幼女だからね】

【保護対象に恋なんてできないよね】

【ひより「分かります!」】

【草】

 

ぽんぽん、なでなで。

 

……僕にはまだ、新しいことはなにひとつ無理なんだ。

 

「ぐす……こわかったぁ……」

「……文字情報は、どうしても額面通りにキツい印象になりますものね」

 

『へたくそ』『なにやってんの?』『じゃましやがって』――どれも、味方チームに言われた言葉。

 

「えっぐ……えっぐ……」

「大丈夫ですからねー」

 

【くっそかわいい】

【かわいそうがかわいい】

【この程度のかわいそうっぷり……こういうのでいいんだよ】

【救いのある適度なかわいそうがたまらないんだ】

【分かる】

 

【メン限配信だったからセーフだしな】

 

【うっかりいろいろ漏らしてたからねぇ】

【こはねちゃんが漏らすだって!?】

【ふぅ……】

【それな】

【まぁメンバー……介護班なら秘密は厳守だしな】

【でも切り抜きはするんでしょう?】

 

【もちろんだ  今、リアルタイムで聞きながら作業してる  今晩には仕上がるぞ】

 

【草】

【切り抜き……お前  よくやってるぞ】

 

【へへっ、照れるぜ】

 

【草】

【味方になると心強いな】

【もちろん妹様の最終チェックを通ってからだよな?】

 

【もちろん】

 

【だってメンタルくそ雑魚なめくじだもんな!】

【こはねちゃんはね、俺たちみんなでよしよししなきゃいけないからね】

 

【俺がパパだぞ!】

【私がママよ!】

【ひより「立ち絵に関しては見事にママです!」】

【自称パパママが集まる配信】

【だってこはねちゃんだもん】

 

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