TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~   作:あずももも

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51話 ひより先生への恩返し

「こ、こんにちはっ! お、お邪魔しますっ!」

 

「こちらこそ、いつもお世話に……」

 

「ひゃあっ!? ごめんなさいっ!?」

「? あ、もうちょっと距離取った方が……」

 

「……きゅう」

 

「えぇ……」

 

「くすくすくすくす……」

 

今日は、ひより先生がいらっしゃる大切な日。

 

だからこそ気合い充分で待ち構えていたら……疲れてたのか、着いた早々にお茶も飲まずに寝ちゃった。

 

「えぇ……」

 

僕は、愕然とした。

 

「……先生。最近ちゃんと寝てるって、嘘じゃん……! 嘘つき……! 先生にはちゃんとすくすく育ってもらわないとって、この前も言ったのに……!」

 

僕は驚愕したんだ。

 

「……~~~~!! お、おなかが……!」

 

……こんなときに頼れるはずの優花はというと……ひより先生がそんなに気に入ったのか、顔を真っ赤にしてもだえていた。

 

もしかして優花ってば……小さい子相手だとなんにもできなくなっちゃうぽんこつさん……?

 

確かに、そういや小さくなってる僕相手にも、やたらとべたべたしてくるしはぐはぐしてくるしすんすんしてきて、寝てるときは白目剥いてるし……。

 

 

 

 

「さて」

 

「はい……」

 

「通信簿と前回の解答用紙を」

「はい……」

 

ぺらり。

 

先生の鞄から……丁寧にファイルされた紙がわさわさと出てくる。

 

「さては……親御さんに整理してもらっていますね?」

「はい……」

 

「そうでしょう。用紙自体はくしゃっとなってたりするのに、科目ごとの名前を書いたクリアファイルですもん」

「はい……」

 

僕の前で――なぜか正座をしている先生。

 

「? 別に正座はしなくても」

「はい……」

 

「怒りませんってば」

「はい……」

 

ダメだ、完全に萎縮されている。

これは小動物系の先生でしかないんだ。

 

「……成績は、言ってたほど悪くはないですね」

 

第一印象は、それ。

 

しかも親御さんが整理してくれているらしく、各科目の平均点からのプラスマイナスも書き込まれていてありがたい。

 

「ですけど、この高校って確か……」

 

「はい……その、男の人が苦手なので、たまたま補欠で受かっちゃった女子校の……」

 

学校名を見てふと気がついたけども……どうやら先生の家は、思ったほどには離れていないけども、同時にこの広い島国の中では思った以上にご近所さんだったらしい。

 

そうだよな、じゃないとそもそも僕のためとはいえ先生――病院の如月先生ね――のお願いで来てくれたりもできなかったはずだし。

 

「さて」

「はい……」

 

「……まずは、提出物の管理からですね。鞄、見せてもらって良いですか」

「はい――えっ」

 

「良いですか。見せられないものとかあったら先に出しといてください」

「あ、いえ、そういうのは特に……で、でも、汚いし」

 

「先生」

「はい……」

 

ふわりと先生の匂いのする鞄を受け取って、おもむろに開けてみると――ぐちゃあ。

 

……中の四隅にはいろんな紙くず。

たぶんプリントとかメモ用紙とか。

 

あと、お菓子の包み紙やキャンディとかちょっとしたお菓子がそこここに。

 

ついでにマンガとか本とか、何かの切れ端とかいろいろと、いろいろと。

 

「……先生……」

「お恥ずかしい限りで……」

 

しかも、

 

「お絵かき用のタブレットですよね、これ……?だけはちゃんと綺麗に隔離してあるんですから、やろうと思えば……」

 

「はい……本当にお恥ずかしい……」

 

あ、すみっこにシャーペン……消しゴム、あとこまごまとしたいろいろ。

 

心なしか、ただでさえ小さい先生はさらに小さくちんまくなり、顔はもはやゆでだこ。

 

……そうだよね、僕はこんな見た目でも男って伝えてるし、そんな男から見せたくない大切な場所を勝手にこじ開けられてまじまじ見られて手をつっこまれてかき回されて、その感想を目の前で言われたら恥ずかしくってたまらないよね。

 

デリカシーなんて無い行為。

でも、良いんだ。

 

僕が先生に嫌われるのは――すごく辛いけども、むしろ大歓迎。

先生にはさっさと僕から巣立ち、イラストの世界へ自由に羽ばたいてほしいところなんだから。

 

「これは……化学のプリント。これは……漢字のテスト……2点の」

「はぅ」

 

ああ、聞いたことがある。

 

勉強が苦手な学生は、そもそも学校で1日に何枚と配られる配布物を管理するのから苦手なんだって。

 

宿題とか小テストとかテスト以前に、まずはそれがあったことすら忘れるから……漢字テストで2点を取るんだって。

 

いくら補欠とはいえ、それなりの受験をくぐり抜けたはずなのに――しかも、それからまだ数ヶ月なのに、小テストとはいえ――100点満点の中から2点を取るとかね。

 

しかもこれ……途中から寝たね?

 

文字がミミズさんになってるし、よだれらしき跡もあるしさ。

 

 

 

「ふたりとも、そろそろ休憩にしたらいかがですか」

 

「ふぁっ、あ、ありがとうございますっ! お姉さん!」

 

「優花は一応、妹なんだけど……」

「ふふっ、妹で姉なのでどちらでも良いんです♪」

 

良くないのになぁ……。

 

とはいえ、見た目ひより先生と同世代同性な僕のことを成人男性と――仮にでも認めてくれて扱ってくれている以上、この程度は僕の方から譲らないといけない。

 

……僕のことを完全に自称の存在と思われていても、それはそれで仕方がないとも思えるし。

 

かた、かた。

 

優花が――母さんが用意してくれていたらしいお茶菓子とコーヒーをふたつずつ、テーブルに置いていく。

 

「優花のは?」

 

「若い2人に任せようと思いまして」

「優花の方が若いのになぁ……」

 

ひより先生が居るときの優花は、完全に姉モード。

 

というよりも、最近は隙あらば姉の顔をするようになってきた気がする。

……僕が元の体に戻る前に立場が逆転しちゃったらどうしよう。

 

「先生の容態はいかがですか?」

「容態……」

 

「うん、悪くはない……っていうか、ただ単純に提出物とか宿題がわからなくなってるだけだったみたい。スケジュールがなにひとつ分からない状況では、むしろうまくやってた方。テストで取れてない場所も、プリントで『追加でここが試験範囲』ってとこが真っ赤だったし。つまり、ヤマ張ってコスパの良い勉強する生徒の真逆をやっていたわけだ」

 

効率も悪いし点数も悪くなる、負の循環。

 

……今日この場で分かって、良かった……!

 

「はうぅ……」

 

「聞けば、中学までは仲の良い女子たちがお世話してくれていたみたいで」

「はうぅ……」

 

この見た目、この儚さ。

 

たぶん高校になった今でも「守らないと……!」って女子が出現していそうではあるけども……せっかくなら僕が少しは、ね?

 

「なら、こはねさんの思っていたよりずっと楽そうですね」

 

「うん、鞄の中に複数科目をまとめてしまえる――ちょっと重いけど、あのアコーディオンみたいなファイル。それさえ用意すればって話、してたんだ。聞けば、買ってもらえそうだっていうし」

 

うん、先生が困り果てるほどに状況は悪くなかったのは良かった。

 

「これなら何回も見る必要はなさそうだし」

 

「見、見てほしいです! す、すみじゅみまで! ……はぅ」

 

「や、先生、補欠でも合格は合格……結構難しい高校に入学できるんだから、ご自力でできるでしょう?」

「み、みゃぁー……」

 

なんだか先生がとんでもない声と鳴き声を発している。

 

……危ない、正直どきっとしたよ……ああ、これが保護欲、視聴者たちが僕に対して抱く気持ち。

 

「……まあまあ。せっかくだから来てもらいましょう? こはねさんの人見知りを治すためにも」

「! そうです!」

 

「正直、ひより先生とは前から文字越しで話してたし、なにより……うん……普通の人より脅威度が低すぎて……」

 

「う゛っ……」

 

「それでも、肉親の私よりは経験値が貯まってリハビリになるはずです」

「……んー、それもそっか。まぁ試験前とかには役に立てるかもだしなぁ」

 

先生が変な鳴き声を上げる中、僕たちは今後について話し合う。

 

「うゅー……」

 

……なぜかまたゆでだこになって目を回してる先生を見てると、先生の人見知りをこそ克服させるためって理由で来てもらうのも手かな、って思った。

 

 

 

 

【ひより「リアルこはねちゃんさんは、それはそれは愛い見た目でした!」】

 

【ガタッ!!】

【詳しく】

【今すぐ話してくださいママ、私は気が狂いそうです】

【言い値を出すぞ!】

【ママぁ……】

 

「先生、配信早々に何勝手に暴露しようとしてるんですか暴露系ですか先生」

 

【ひより「大丈夫です!」】

 

「何がですか??」

 

【草】

【草】

【え? マジでひより先生、こはねちゃんハウスに……?】

【どうやらそうらしい】

【うらやまけしからん】

 

【男性配信者の家に女性リスナーが1人で……何も起きないわけはなく……】

 

【ひより「こはねちゃんさんはとてもかわいらしい女の子だったので何も問題はありません!」】

 

「先生」

 

【ひより「肉体的には女の子ですよね?」】

 

「ぐっ」

 

先生め……!

 

今回がメン限配信――優花のこととかをいろいろ知ってて、事実上秘密は無しの集まりってのを逆手に取りおって……!

 

確かにこの人たちへは、僕が女の子だってほぼほぼ知られてるけどさぁ……!

 

もう見られちゃってるから、せめて「実はちっちゃいのが生えてる」とか「メンタルは男」とか、それとなく信じさせてるけどさぁ……!

 

【もしかして:百合】

【違うぞ、男と女だぞ】

【でも肉体的には?】

【そのへんは百合の定義と派閥による】

【肉体的百合か……イイネ】

 

【\50000】

【\50000】

【\50000】

【\50000】

 

【ひぇっ】

【無言はやめーや】

【無言で上限連打はお控えください】

【こわいよー】

【気持ちはわかる】

 

「えぇ……だからさみんな、もっとお金は大事に……」

 

【てぇてぇ代 \50000】

【ロリっ子同士の百合代 \50000】

【こはねちゃんが幸せそうだから \50000】

【こはねちゃんがかわいいから \50000】

 

「……それは、ずるいよ」

 

ああ。

 

どうやら僕は、僕を助けてくれたこの人たちに頭が上がらないらしい。

 

【で、ちゅーくらいはした?】

 

【ひより「……/////」】

 

【!?】

【ガタタッ】

 

「先生おとなしくしましょうねなんなら優花に頼んで期間制限でBANしますよ」

 

【草】

【もー、照れちゃって☆】

 

【こはねちゃんってば恥ずかしがり屋さんんんんんんん】

 

【!?】

【ひぇっ】

 

【すまん、この前配信見てて吹き出してな、それからキーボードの調子が悪いんだ】

 

【えぇ……】

【あー、糖分入ってる液体が掛かるとねぇ……】

 

「わかる……僕も去年あたりにキーボードにぶちまけちゃったせいで、そこそこお高いのを1個おじゃんにしちゃってさぁ……動画の通りに分解して掃除しても……」

 

……介護班、限定。

 

ここだと、素の僕を素直に出せるようになってきた気がする。

 

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