TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~   作:あずももも

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57話 呑みすぎて怒られたらしい

「んみゅ……」

 

僕は、眠りから覚めた。

 

……なんか、結構ぐっすり寝てた気がする。

夢も見てた気がする。

 

体は疲れてたけど、気は昂ぶってたのかな。

 

「……こ、こはねさん……?」

「んぁ?」

 

眠い目をこしこし、体を起こす。

 

……あれ?

 

「優花のへやぁ……?」

 

僕の体からずり落ちた布団から、ふわりと優花の匂い。

顔を上げると、そこは僕の部屋じゃなく――優花の?

 

「………………………………」

 

「?」

 

体を見てみる。

パジャマだ。

 

つまり、ちゃんと僕は寝たらしい。

 

「……?」

 

んー?

寝る前のこと、全然覚えてない……?

 

「くぁぁ」

 

「……こ、こはねさん……?」

 

「ん、おはよぉゆうかぁ」

「う゜っ」

 

くぁぁぁ。

 

大きく伸びを――む、なぜか脇の下の上と下が筋肉痛。

 

「ゆうか」

「な、なんでしょう?」

 

――開ききったカーテン、窓の外は明るく。

 

そしてなによりも、優花はすでに着替えている。

 

「今、何時ぃ?」

「……10時です」

 

「んー……前の僕ならすっごく早い部類だけど、最近なら寝坊かなぁ……」

 

勉強してたらしい優花は、イスに座ったままこちらを見ているだけ。

 

……寝坊しても怒ってない?

 

いや、それどころか起きなかった僕をそのままにしたか、あるいは起きないからしょうがなくここへ連れてきて寝させてくれてたか。

 

「……兄さん?」

「んぅ?」

 

なんだか不安そうな声に、ようやく目が覚める。

 

「昨日のことは……覚えていますか?」

「昨日? えーっと」

 

だんだんクリアになってきた頭で、昨日の記憶を掘り起こしてみる。

 

「んー……」

 

掘り起こしてみる。

 

「ん――…………」

 

掘り掘りしてみる。

 

「……ダメだ、どうしても思い出せない」

「……!!」

 

最後に頭を振ってもやっぱり無理だった僕は、覚悟する。

 

「ごめん、優花」

「そんな! 兄さんが悪いわけでは――」

 

「たまーにやっちゃうんだ。体調が悪かったり、胃が固形物を受け付けないからってお酒ばっかり呑んでる日とか、最後の方は全然覚えてないの」

 

「ですから――えっ」

 

ぺこり。

叱られる覚悟で、頭を下げる。

 

……そういや胃もずっしりと重いし、気のせいか体じゅうがしびしびする。

よく分からないけども、しびしびぎぴぎぴするんだ。

 

「二日酔いは……無いみたい。けど、呑みすぎて寝坊した上に朝もまともに起きられず……申し訳ない」

 

「………………………………」

 

……やばい。

返事がない。

 

優花が――相当に怒っている。

 

これはまずい。

久しぶりのピンチだ。

 

「……可能な限り、昨日のできごとを言ってください」

 

「ふぇ?」

「言ってください」

 

有無を言わさない様子の妹。

これはいよいよ観念するしかない。

 

優花は鬼畜なんだ。

僕がどんなことをしたから悪いのかを僕から言わせようとしているんだ。

 

「……えーっと。如月先生のとこ行って、まだお薬は飲んでないし最近は安定してるって言って」

 

「それで?」

 

たたみかけるような詰問。

これは返答次第で……!

 

「……ゾンビに襲われて」

 

「ゾンビ……ぶふっ」

 

あ、一瞬きょとんとした後に吹き出した。

 

……これは行ける。

 

ありがとうゾンビさん――もとい、みなみさんだっけ?

君のせいで泣いちゃったけど、おかげで優花の機嫌が直った。

 

いくら怒ってる人でも、その途中に笑っちゃったら怒りは長続きしないんだ。

 

「3Dメガネかけた映画館で目の前に走ってきた和製ゾンビみたいに、それはもう怖くって」

 

「~~~~っ! ま、待ってくだ――」

 

「だってそうでしょ? 病院で、先生が僕のためにってわざわざまるまる1時間の休診時間設けてくれて――受付の人すら居ないように計らってくれてる、言わば無人の病院とか夜の病院的な、ザ・ホラーな舞台でさぁ」

 

「~~~~~~っ!!」

 

ぱんぱんっ。

 

思わずで自分のふとももを叩いてるけど、僕を止めるための声すら発せられないらしい優花。

 

「誰も居ないって思ってた廊下で、いきなり前の方から『ヴェアアア』って感じで長い髪の毛振り乱したゾンビさんが来たんだよ? あれ、男だったとしても怖いよ……男だったとしてもちびるよあんなん」

 

「………………………………!!」

 

もはやおなかを抱えるので精いっぱい、息もできてない優花。

 

あと、ひと息だ。

 

「幸運なことにさ、僕は診察の前にトイレに行ってたからなんとか……ならなくて思わず子供みたいに泣いちゃって、全速力で診察室まで駆け込んじゃったんだよ。ホラー映画で追われてる主人公たちが逃げる光景そのまんまに」

 

「     」

 

イスに座ったまま、くの字に折れ曲がってひーひー言ってる優花。

 

よし、ここまで笑わせたらもう怒らないだろう。

いや、怒れまい。

 

「……そんで先生にすがりついちゃって……そのあとは覚えてない。お酒のせいじゃなく、あの恐怖のせいで記憶が飛んだとしてもおかしくはないよね」

 

「分かりました……分かりましたから、それ以上は……!」

 

「………………………………」

「……はー、はーっ……!」

 

「う゛ぇあああー」

 

「~~~~っ! も、もうっ! もう止め……!」

 

……ふむ。

 

そういや僕、小さいころの優花を良く笑わせてたっけな。

 

 

 

 

「止めてくださいと言いました」

「ごめんなさい」

 

僕は正座をしている。

 

「苦しかったです。死ぬかと思いました」

「本当にごめんなさい」

 

「窒息死は、文字通り死ぬほど苦しいんです」

「調子に乗りすぎました許して」

 

僕は、静かに体を片向け――折りたたみ、三つ指。

 

幼女――じゃないけど、小さい女の子の三つ指だ。

これが恐らくは最大級の誠意の証なんだ。

 

「……はーっ……もう良いです、怒ってもいませんから」

 

あれから。

 

ゾンビさんでツボに入った優花のことを、ぽそぽそと追加攻撃しまくった僕は――調子に乗って、10分以上笑わせ続けた。

 

そうだ、優花は1回ツボに入るとその日1日はふとしたことで笑いが再燃する性質を持っていたんだ。

 

そのせいで最後の方は死にそうな息しかしてなくって、さすがに気になった僕が介抱して――今に至る。

 

ごめんね。

 

でも楽しかったんだ……昔に戻ったような気がしてさ。

 

「……ふぅ。ええ、あれは相当のものでしたので、記憶が飛ぶのも無理はありません」

 

お、納得してくれたみたい。

 

ありがとうゾンビさん……すっごく怖かった記憶はあるし、それから全然、何を話したのかすら覚えてないけども。

 

「こほん。……月見、みなみさん。感情が昂ぶりやすいらしく、あのような顔合わせに……ですが、彼女とその後しばらくは普通に会話できていたと聞きます」

 

ほう。

会話。

 

「……ゾンビと? できたの?」

 

「~~~~っ!」

「あ、ごめんごめん、今のはわざとじゃなくって、本気でそう思って」

 

そうだった、いちどこうなった優花のツボはよわよわだったんだ。

そのせいで、朝出かける前に笑わせちゃうと学校で笑い転げたって怒られたことがあるんだ。

 

「……ふぅ。ともかく、ひよりさんの次の、コミュニケーションの練習の相手は彼女と、彼女を制御……?してくれる人だそうで」

 

「……心配だけど、まぁ、如月先生が紹介してくれたくらいだしなぁ」

 

「ええ。彼女も……兄さんと、その、コメント欄に常駐する程度には息が合っていた相手に初めて直接会えたことで、テンションがおかしくなっていただけだと」

 

「そっかぁ。つまりは初対面が壊滅的なのは僕と同じかぁ」

「できたら次回も、彼女と……と」

 

「ん。でも、僕の方もできたら優花とか先生と一緒じゃないと、ちょっと」

 

「……ひよりさんは?」

 

「先生は……うん。僕より怖がりな気がするから……」

「……そうですね。そう伝えておきますね」

 

ひより先生があんなゾンビに襲われたら――ショックでしばらく絵が描けなくなる可能性があるもんな。

 

それはダメだ。

ひより先生は何があっても保護すべき対象なんだから。

 

間違って先生の作風が一気にホラーなんかになってみろ、僕の方が卒倒するもん。

 

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