TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~   作:あずももも

65 / 154
65話 みなみさんはスーパーハッカー

「………………………………」

「………………………………」

 

かたかたかたかた。

 

「………………………………」

「………………………………」

 

かたかたかたかた。

 

他人が居るのに、一切にしゃべらなくても気まずくないだなんて。

 

……なにこの空間……すごく落ち着く……!

 

僕たちから少し離れたテレビの前では、さっき離れたときから変わらずに――赤髪ポニテでかいお姉さんことはるなさんによってもみくちゃにされている、ひより先生の栗色の髪が、時折背もたれからちらちらと見える後ろ姿。

 

うん……背丈の差は歴然だ。

先生……たくさん食べてたくさん寝ないと大きくなれないよ?

 

「………………………………」

「………………………………」

 

自室に戻ったのか姿の見えない優花に、無言でかたかたと――自宅から持ってきたらしいノートパソコンを叩いているゾンビみなみさんと、特になにをするでもなく、スマホで読書している僕。

 

――ちらり。

 

ときどき目が合うけど、僕が口を開かないとすぐに手元へ戻る、みなみさんの目線。

 

お仕事のためかなって思ったら、そうらしい。

だってみなみさんもまた、Vtuber――個人事業主な配信者だから。

 

一応、優花に連れられてこっちのテーブルに来たときに「お話しする?」って聞かれて――その最中にもずっと動き続けていた両手を見て「お仕事どうぞ」って言っちゃったのは僕で、さらにいえば僕は無言空間は好きだから気にならなくって。

 

だから僕たちは、テレビの方から聞こえてくる配信アーカイブの「ハルナ」さんの声と、いちゃついているひより先生とはるなさんの声を聞きながら……ただただ、無言の時間を楽しんでいる。

 

うん、良いよね、こういう時間。

 

僕たちみたいな種族ってのは、一緒に居ても別にしゃべる必要はないんだからさ。

 

かたかたかた……ぴた。

 

「……こはね様――」

 

「さま?」

 

「噛んだだけです……こはねさん」

「あ、はい」

 

ひと段落ついたのか、顔を上げてきたみなみさん。

 

この前のときみたいな目元の隈は――多少は薄くなっていて、でもやっぱり女の子になっても99%の時間をカーテンの内側で過ごしてきた僕みたいに肌が真っ白で、でろでろでろと伸び生やした髪の毛はメデューサのごとき。

 

でも最初の方がずっと怖かったし、なによりもコメント欄でしゃべったことがある人だから、今はそこまで怖くはない。

 

「………………………………」

 

……個人Vtuberの「月見ミナミ」さん。

 

青みがかったぼさぼさヘアーは――きっとはるなさんの手によってだろう、ちゃんと撫でつけられていてゾンビ的な印象はなく、けどもだぼだぼなパーカーと量の多い髪の毛のせいで不健康な印象は――僕並みに拭えない。

 

身長はそこそこあるけども、いろいろとでかいはるなさんに圧倒されていてそこまでじゃない気がする。

 

――確か配信活動ではガジェット系、自作PC、スマホその他メカニック系をメインにレビューしたりしてるらしく、配信活動よりも企業案件とかの方がメインだとか。

 

そういや僕も、配信始めたころにPC買い替えたとき、リスナーさんにいろいろ相談に乗ってもらって――って、あれ?

 

「………………………………」

 

……まさか、その相手って……?

 

「……こはねさんは」

 

「?」

 

こはねさん?

 

……ああ、僕のことか……うん、ときどき分からなくなるんだよ……ほら、やっぱ嘘ついて名前2つ持ってるってのは良くないことらしいし……。

 

「性自認が、男性……ですよね」

「えっ……あ、はい」

 

とっさになんちゅーことを言われた僕は、あわてて顔を逸らす。

 

……優花もそうだけどさ、女の子ってそういう話題、普通にするよね……?

男は繊細だから、そういう話題はまずできないけどなぁ……。

 

「ということは」

「はい」

 

「私たち女とは違って妄想中心ではなく、写真や動画、イラストやマンガがメイン」

「そうで――えっ」

 

えっ。

 

「やっぱり……こんなにか、かわいい女の子な見た目でも、実は男性としてえぐい性癖とか……」

 

「な、ない……かなぁ……?」

 

女の子から――それも会って2回目の子から、いきなりに気まずい話題で戸惑うしかない僕。

 

……女子って、みんなこうなの……?

優花も、新学期の毎にこういう話題振るの……?

 

「……配信」

「えっ」

 

「配信で……何回か言ってました。男性ゆえにストライクゾーンは広いけど、その中でも特にこはねさんが好きな体型とかシチュとか――」

 

「ぐふっ」

 

僕は机に伏して悶えた。

 

……僕の、バカ……!

 

リアルの知り合いに聞かれるわけでもないとか思ったせいで、思いだしてみると、本当にいろいろと……!

 

「……雑食だから、貧乳も行けるって」

 

……言ったかも。

 

「かわいいって思えたら、顔とかバストサイズとか性格とかは相性次第だし、なにより女性への耐性がないから告られたら秒で堕ちるって」

 

言ってたよぉ……!

 

「ふぐぅ……!」

 

「大丈夫……そこまで覚えてる人はそんなに居ないはずです」

「みなみさん……!」

 

僕は、思いっ切り投げ落とされたあとに拾い上げられたみたいな気持ちで、顔を上げる。

 

「……私は、これまでの全配信の全てのセリフを文字起こししていますけど」

 

「     」

 

……そうだ。

そうだった。

 

よく考えたらおかしいじゃん……こんな僕のために、わざわざ遠出までして家に来てくれる子とかさぁ……!

 

ひより先生は……うん、警戒心がない子だからともかく。

如月先生はお医者さんだからともかく。

 

はるなさんは、優花から聞いたんだ――優花をバイクで、僕がパニックのときに送ってくれた人だって。

 

――だけど、みなみさん――この子は……?

 

がくがく。

 

僕の脚が、震えだした。

 

「……ひとつ、いいですか?」

「……なんですか……?」

 

僕は、恐れおののいている。

 

「――こはねさんの、配信用のパソコン」

「はい、……?」

 

 

僕のパソコン?

 

「……離席時に、ロックくらいはしておかないと」

 

「?」

 

 

なんで?

 

「……こはねさんなら知っていると思いますけど」

 

――すっ。

 

彼女がすごい勢いで叩いていたノートパソコン――きっとお高いやつだろう――の画面を、くるりとこちらへ向けてくる。

 

……小さなウィンドウがいくつか、その中にいっぱいの文字や記号で判別はできない。

 

「……同じネットワークなら――ちょっと知識があれば、ロックの掛かっていないパソコンへ入り込んで中身を見るなんて、簡単なんですよ……?」

 

「ぴっ……」

 

僕は、なくなったはずの男の胆力の証――2つあった生命の源が、きゅっと縮み上がった感覚を思い出す。

 

「今どきは、どんな端末もだいたいネットに繋がっていて……見たらルーターも数年前買って、デフォルトのIDとパスワードのまま……ファームウェアのアップデートもしていない……つまり」

 

「……つまりぃ……?」

 

ぐすぐす。

 

涙が、勝手にあふれてくるんだ。

 

「――玄関に鍵をかけていないどころか……うん。塀が壊れたままのお家で、縁側のベランダを思い切り開け放って、外からまる見えで……『どうぞ覗いてみて、気に入るものがあったら中に入って漁ってみて』って言ってるような感じ」

 

ああ。

 

「だから、この10分でいろいろ見てみて」

「見てみてぇ……?」

 

僕は、もうダメだ。

 

「――古い『お宝』も『お宝ブックマーク』も……『普段使いのウェブページ』も、まる見え」

 

「     」

 

――女性とは、男の秘密を知りたい本能を持つ存在。

 

男はまず思いつきもしないし気にもならないはずのスマホを、寝ているあいだに指に押しつけて、そっと中を盗み見る。

 

部屋の中を家捜しして――特にベッドの下と机周りは丹念に這って回る。

 

誰と何をしてどんな内容の会話をしてきたのか、全部掘り掘りして聞く。

 

そして――ネットストーカーとして多いのは、案外に女性の方からだと、そういう噂も。

 

「――っていうのは冗談で……でも、1番多いのは、ちょっとした離席時にパソコンとかスマホをロックしないままでいるせいで、簡単に中身を見てしまう家族ですので……告げ口はしたくありませんけど、たとえばお姉様などがこはねさんのパソコンをこっそり、ということも……」

 

「あーん!!」

 

がたがた。

 

僕はイスから勢いよく飛び降りて――駆け出した。

 

「ゆうかー!!」

 

「――なので、その……いくらご家族とはいえ、女神様とはいえ、優花様も女ですので、魔が差したらのぞき見を。………………………………えっ」

 

「……み・な・み・ちゃーん?」

 

「あの、こはねちゃんさん、なんでまた泣いて……」

 

 

 

 

「あーん!」

 

ばんっ。

 

僕は、僕の部屋のドアを開ける。

 

「!? に、兄さんんん!?」

 

「ゆうか、いたぁ……!」

 

ゆうかが、いなかったんだ。

ゆうかのへやに。

 

ゆうかのへやのなか、なぜかぐるぐる巻きになってる分厚い紙のロールを見つけたり、なぜかたくさん詰め込まれてたセロテープか何かのゴミだったりを見つけたけど、ゆうかは居なかったんだ。

 

だからトイレとおふろと洗面台の下、押し入れの中と玄関と靴箱までしっかり見て回って――

 

「あーん!」

 

「ひゃんっ♥!?」

 

ぎゅっ。

 

抱きついた瞬間、優花が変な声を上げた気がするけども、そんなのは気にもならない。

 

「こわいぃー……」

 

「よ、よしよし……あ、あの……今は少しばかり危険な状態なので、離れてくださると……」

 

……優花が、ぎゅってしてくれない。

 

なんで?

 

顔を上げると――なぜか僕の机に腰を下ろしている優花。

 

パソコン?

 

いや、でも、優花が触る意味なんて――あ、そっか、きっと配信関係の何かをしてくれていたんだ。

 

そうだ、僕がだめだめだから優花が全部やってくれているんだ……その管理のためのあれこれは教えてあって、普段は彼女のスマホからやってくれていたはずだけども……うん、きっとスマホだとめんどくさくって、だから僕のパソコンでやってたんだ。

 

「……ゆうかぁ……」

「ご、ごめんなさいっ! 最初は興味本位で――」

 

「なんでもするから、ずっとそばにいてぎゅっとして……」

 

「  ゛゜   Eっ♥」

 

――かくっ。

 

なぜか一瞬固まったあとで倒れ込んできた優花に押し潰された僕は、そのまま床と優花に挟まれる。

 

「ゆうかぁ……いじわるしないでぇ……」

 

「み゜っ」

 

なぜだかじとっとしていてもわっと変な匂いがして――はぁはぁしてるけど、でも、優花の匂い。

 

それに押し潰されていると、ちょっとずつ安心してきたんだ。

 

――必死すぎた僕がそのときに気づけなくって、異変に気づいたみんなが様子を見に来たから、僕はそれを見ずに連れ出されたけども。

 

モニター上には、男だったときの僕が会員登録をし、普通の電子書籍とはまた別の商品を購入するためのサイトが表示されていて。

 

――よりにもよって「妹もの」に分類されるものが開かれていたのを、幸運にも僕は知ることなく忘れることができた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。