TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~   作:あずももも

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69話 もどれなくなった

「……んみゅ……」

 

「!! こはねさん!」

「んぁー?」

 

僕は目をこしこししながら起きた。

 

「ゆうかお姉ちゃん……?」

 

僕をのぞき込んでいた優花お姉ちゃんは――ほんの一瞬だけども、なにか信じられないものを見ている目をしていた。

 

 

 

 

「……この方は?」

 

「きさらぎ先生!」

 

お姉ちゃんが連れてきた、お医者さん。

 

髪の毛が内側にくるくるなってて、こしょばゆくないのかなっていつも思ってた人。

このお医者さんは、絶対怒らないから好き。

 

「……妹さん。次を」

「……はい」

 

 

 

 

「こちらは?」

 

「? ひよりちゃんだよ? ねぇ?」

「え、えっとぉ……」

 

いつもの僕みたいに、おずおずおっかなびっくりで入ってきた、ひよりちゃん。

 

「『天野』ひよりの次が『綾咲』こはねだから、いつも隣なんだよねー!」

 

「……ね、ねー……?」

 

どうやらお姉ちゃんが居るせいで緊張しているらしいひよりちゃんは、いつもとは違って、どこかよそよそしかった。

 

「あ、けど、背、伸びた? ひとりだけずるい!」

「そ……そうでしょうか……?」

 

何かが違うなって思ったら、ちょっと背が伸びた感じがするのと――なによりも、かわいい制服を着てるってところかも。

 

「………………………………」

 

 

 

 

「おっぱいでっかいはるなちゃん」

 

「ちょ、ちょっとこはねさん……!?」

「……そうだぞー、でっかいぞぉー!」

 

「はるなお姉ちゃん、バイクに乗ってきたの? あのでっかいの」

 

「お、こはねちゃん、今度乗るぅ? でもちっちゃいから風で飛んじゃうかもなぁ」

「ちっちゃくないもん!」

 

赤い髪と長ーいポニーテールとおっぱいの、はるなちゃん。

けどなんだか髪の毛、今日は真っ赤じゃないね……生え替わり時期?

 

「……こはねちゃん、おっぱい揉む?」

 

「え、良いの?」

「い、行けませんっ!」

 

はるなちゃんがいつもみたいにぶるんぶるんしてくれたけど、ゆうかお姉ちゃんが怒っちゃった。

別にゆうかお姉ちゃんのおっぱいも小さいわけじゃないのに、いつもこうなんだから。

 

 

 

 

「ゾンビ!」

 

「……う゛ぁー」

「あははっ、ゾンビのみなみちゃんだぁ!」

 

今度入ってきたのは、メデューサとゾンビで結構迷う、みなみちゃん。

 

いつもラフな格好――たまに部屋だとすっぱだかだったりする――お姉ちゃんは、お姉ちゃんって感じがしなくて好き。

 

「あ、まーた徹夜してる。乙女が隈作ったらもったいないんだよ?」

「……う゛ぁー」

 

「もうっ! 困ったときはゾンビのフリしてごまかすんだから!」

「う゛ぁー」

 

「………………………………」

 

 

 

 

「……少し、不味いかもしれませんね」

 

「先生……」

 

なぜか1人ずつ出てきたみんなが、リビングに集まって真剣な顔をしてひそひそ。

 

僕?

 

「もむもむもむ」

 

僕は離れたところでおやつ食べてるよ?

大人の話だし……あ、でもひよりちゃんもあっち行っちゃってる。

 

まぁいいや。

 

「……こはねさんの今の状態は、完全に幼児退行を起こしています。これまでのように、ほんの一瞬や数分、数時間のそれとは違って『私たちのことを、以前からの知人――あるいは友人』として認識するほどに認知も歪んでしまっています」

 

「最近の配信でも様子、おかしかったですもんねぇ、こはねちゃん」

「あ、あんなに私に無邪気に……こはねさーんなら、まずあり得ない距離感……」

「わ、私のことも……まるで……」

 

「ふむ……こはねさーん!」

「せっ、先生!?」

 

「もむ?」

 

おや?

 

なんだか先生が呼んでいる。

 

よっと……ぽすんっ。

 

とてとてとてっ。

 

「なぁに?」

 

「    」

「尊い……」

「鼻血が……」

「はわぁ……」

 

なんだかみんなと久しぶりに会った気がして、だから駆けつけてきたけども――先生はいつも通りに上を見上げ、ゆうかお姉ちゃんはぷるぷると震え、みなみちゃんは真っ白な肌が赤くなっていて、ひよりちゃんはハムスターでも見たかのような顔をしていた。

 

「?」

 

「……こほん。こはねさんは、ひよりさんと……仲が、良いのですよね?」

 

「そうだよ? だって――『同じクラスだもん』。ねー」

 

「……ね、ねー?」

 

「――――――……」

 

そうだ、先生たち大人たちは、僕たち子供の年齢をすぐに忘れちゃうんだ。

毎回会うたびに何年生か聞いてきて、大体毎年去年かおととしの感覚だったって笑うんだ。

 

「……あと、ひとつ」

「? はい?」

 

如月先生が、やけに真剣な顔になっている。

怒られる……わけじゃ、ないよね?

 

「センシティブな話題ですが――こはねさんの性別は、『どちら』ですか?」

 

「「「――――っ!」」」

 

空気が、一瞬ひゅってなる。

 

……なんで今、こんな話するんだろ?

 

「男ですけど? 先生、知ってますよね?」

 

「「「……!」」」

 

また、ひゅってなってる。

なんで?

 

「……ごめんなさいね、『学校』へ提出する書類で必要なんです。こはねさん自身の……認識を確認するために」

 

「あ、そうですか。はい、『去年から男』です!」

「……こはねさんの言葉として書くので、簡単で良いので説明を」

 

なぜかみんなが静かになって、先生がバインダーに挟んだ紙に何かを書いていた手を止めて、僕を見てくる。

 

……雰囲気が、ちょっと変だけど……必要なんだよね?

 

「……えっと。僕、小さいころから女の子だったけど……でも、なんか違うなって思うことが多くって。遊ぶ友達も男子の方が多かったし、女子とのおしゃべりより男子との対戦ゲームの方が楽しくて……んで、学校に来てた先生のカウンセリングってのを受けたら、僕の心は男なんじゃないかって話になって」

 

「……良く、細かく覚えていますね、こはねさん。えらいです」

「むふーっ」

 

先生が褒めてくれた。

如月先生は毎回褒めてくれるから、好き。

 

「んで、体も女子だし制服も女子のままだけど、男子生徒ってことになって……って感じ? もっと細かく?」

 

「……ええ、ありがとうございます。こはねさん自身の説明を書かないと行けなくて、今日お邪魔していて……今ので充分ですよ」

「あ、そうだったんだ! ですか!」

 

「では、残りの空欄を埋めるためにお姉さんたちとお話ししますので……ひよりさん、一緒に居てあげてください」

 

「え゛っ」

「ひよりちゃんっ、行こ行こ!」

 

たぶん同級生の意見とかが必要だったんだろう――どんな書類かはわかんないけど、たぶん僕が「男子」として登録されるときにもあったみたいな聞き取り調査のためだろうし。

 

そんなことよりも、ひよりちゃんとおえかきでもしてよっと。

 

 

 

 

「………………………………」

「………………………………」

 

――こはねを誘導し、「彼」の部屋へと――ひよりを犠牲に行ってもらい、室内は静まりかえっている。

 

優花は、今にも倒れそうな顔色で。

はるなは、何かを思案しつつ。

みなみは、持ってきたタブレットで何かを調べながら。

 

「……記憶の混濁。あるいは捏造――いずれも、精神的なストレスが強すぎると起きる、逃避のための現象です。過去のトラウマを刺激されたか、それとも……いずれにしましても、あそこまでですと、もう私の手に負えるレベルではありません。至急、専門の医師を――」

 

「……でもさ、如月ちゃん先生?」

 

ぽつり。

はるなが――紅目はるなが、疑問を口にする。

 

「――『それって、悪いことなのかな』。記憶、変えちゃうのって」

 

「えっ……」

 

その言葉に勢いよく振り返る優花。

けれども彼女は、あえてなのか無視をしながら続ける。

 

「だって、今、私たちと話していて人見知りの感じ――完全に、なくなってたよ? そりゃあコメント欄で初対面は切り抜けてたし、肉体的にも同性だから――まぁ男の子だったとしても、一般的には女の方が警戒心とか薄くなりがちだって言うけど」

 

「う、うん……吐きそうな感じも、なかった……それに、この前見たときより、ずっと楽しそうだった……です」

「うん。私たちのことを前から知ってる相手って思ってくれてるからだとは思うけど……でも、少なくとも人見知りは、相当楽になってるはず」

 

「………………………………」

 

直接会ってまだ2回目3回目の彼女たち告げられた言葉に、優花が硬直する。

 

「……確かに、そうかもしれません」

「せ、先生……」

 

如月も――手元のバインダーへ、かたりとペンを置いて、うつむきながら話す。

 

「記憶の忘却、改竄、捏造――それらは、その人にとって都合が良いから無意識がすることです。こはねさんが普段からしていました嘔吐や……ギャン泣き……こほん、泣くこともまた、ストレスから安全に逃避するための、肉体の本能。けれど、それらが起きる様子はなかった……つまりは『今のこはねさん』の方が、こはねさん自身にとっては安心できる人間関係と環境であって。恐らくは『人見知りをする前』の精神状態――幼さ。そこまで自らを『ロールバック』させ、そのために必要な認識を変えるための手段が、私たちとの関係までさかのぼっての、記憶の改変……まるで別人になったかのような様子になったとしたならば……」

 

「……お姉さんには申し訳ないけど」

「私たちも……こはねさんが、調子が良いときの『彼』よりも明るくなっていたのを見たら……」

 

「……そんな……だって、兄さんは……兄さんは……」

 

ふたたびに訪れる、静寂。

 

「………………………………」

「………………………………」

 

「……すごーい! ひよりちゃん、いつの間にそんなに絵、上手になったのー!?」

「……ええと、つい最近に……」

 

それとは対称的に――ドアを開けっ放しなのか、「こはね」の声が廊下越しに伝わってくる。

 

如月は……ゆっくりと、涙を流している優花を、抱きしめて、言う。

 

「……優花さん。ひとまずは、様子を見ましょう。優花さん自身へもケアが必要です」

 

「……はい……っ」

 

「……んじゃ、私たちもお手伝いしても良ーい? 相談くらいには乗れるし!」

「わ、私はニートだから、昼間でも来られます……」

 

「はい……はいっ……!」

 

「…………うぇっ!? こはねちゃん、僕のイラスト、こんなにたくさんネットに!? すごい!」

 

――静かな空間へ、こはねの「無邪気な」声が、いつまでも響いていた。

 

 

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