TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~ 作:あずももも
「やっぱりひよりちゃんは、絵、上手だなぁ」
「こはねちゃんさんもかわいく描けてますよ!」
「うーん……絵心がなぁ……」
ひよりちゃんがおえかきしている横で描いていた、絵。
感性したからちょっと話して見るも、やっぱり初心者感は拭えない……っていうか人体として成り立っていない。
具体的には、頭と首がななめにくっついている。
これはキメラとかじゃなきゃ成り立たない気がする。
「それに、首と顔だけしか描いてないのに、福笑いに……」
「私だって最初はそうでしたよ!」
そうだよなぁ……イラストっていうのは「らくがきもしたことない」人間にとっては――
「……あれ? こういうの、ちょろっと描いてみて恥ずかしくなってやめちゃった記憶があるのに、どうして急に描こうと思ったんだろ」
「………………………………」
僕は首をひねってみる。
「……引きこもって何もしてなかった時期、ふと『このまま一生なにもせずに終わるのが確実なのよりは、イラストレーターとか漫画家とか小説家になって一発逆転』って思って……でも1日で『こりゃ無理だ』って……」
うーん?
「……うぇっ」
あ、急に吐き気が。
変なもの食べた?
それともカゼ?
「……描きたい何かがあれば、描いてさえいれば。……うん。私みたいに」
ひよりちゃんが、僕の描いた絵を渡してくれる。
「『世界で、たったひとりでも……誰かに、好きって言ってもらえる』。そういう絵が、描けるようになりますよ」
「そっかぁ。うん、そういうのって良いよね」
「はい……だって、私は……こはねさんに、そう言ってもらえて……」
「え? 僕? そ――むむむむむ」
そんな覚えはない――や、ひよりちゃんのイラストは大好きだけども――って言おうとしたら、優花のおててが口を塞いできた。
「ええ、分かります。私も、勉強を――『世界で、たったひとりのある人のため』に、がんばってきましたから」
「そうですかぁ……!」
へー、優花お姉ちゃんのお勉強も。
「たったひとり」……誰だろ。
やっぱお母さんかな?
「ちょうどおえかきも終わったことですし、そろそろみなさんとお別れしましょうね、こはねさん」
「えー!? もう……あ、こんな時間……」
時計は、もうすぐ夕方を差している。
今日は、休みの日だからって――気がつけばひよりちゃん、はるなちゃんにみなみちゃんが家でくつろいでくれている。
お昼過ぎに遊びに来てくれて、みんなでおやつを食べて……楽しかったのに。
けども確かにしょうがない。
僕と違ってみんなはこれからお家に帰るんだ、そろそろ帰らないと――いくら明日が日曜日でも、遅くなったらお母さんたちが不安に……。
「!!」
――日曜日!
僕は閃いた。
そうだ、僕はかしこいんだ。
アルコールと引きこもりで衰えたとはいえ、人の何倍も努力して人の1倍程度のかしこさを身につけられる程度にはかしこいんだ。
いやいやダメじゃんお酒なんて……だいたい、臭くって飲めないでしょ。
お父さんのビールとか、あわあわの後ににがにがでダメだったんだから。
「ひよりちゃん! 今日、お泊まり会しよ!」
「はい! ………………………………えっ」
「そうだよ、そういえば『最近』はしてなかったもんね、ひよりちゃん!」
がしっ。
僕は、ひよりちゃんのおててをおててで握りしめる。
逃がさないよ、ひよりちゃん!
「!? はわ、はわわわわ……っ」
「……見て、ハルナちゃん。あれが、無敵になったこはね様のお姿……」
「純粋な友情……良いわねぇ……キマシタワーね……」
恥ずかしがり屋さんなひよりちゃんは、いつもこうして顔を真っ赤にする。
けども、嫌なときは嫌って言ってくれるはずだから大丈夫そうだ。
「優花お姉ちゃん! ねぇ、良いでしょ!」
「 」
僕は、久しぶりすぎるお泊まり会に心を躍らせて――なぜかひよりちゃんと同じくらいに真っ赤になってるお姉ちゃんを見上げる。
「? お姉ちゃん?」
「……こほん。客間はありませんけど、余っている布団をこのリビングに敷けば、なんとか……」
「うん! お布団は僕が敷くから!」
体力はないけど、お布団くらいは敷けるもん。
「そ、それなら……」
「え?」
「えっ」
「………………………………?」
「………………………………?」
ひよりちゃんと同じ方向に視界が傾く。
「……リビングで寝てもらうのは、はるなおねえちゃんとみなみちゃんじゃないの?」
「えっ」
「ひよりちゃんは、僕と一緒でしょ?」
「!?!?」
「!!!!! は、はるなちゃん……!」
「……落ち着きましょう……タイミングが大切よ……!」
はるなお姉ちゃんたちがおしゃべりに夢中みたいだけど、今はそんなことより。
「ひよりちゃん……一緒に僕のベッドで寝ないの?」
「 」
だって、そう思ったから。
僕たち、「いつも」そうしてたじゃん?
けども、びくっとして……湯気がおでこからしゅうしゅう出始めた気がするひよりちゃん。
イラストレーターさんだから表現が得意なんだね。
絵、でもそれってなんか変――じゃないよ?
むー。
なんか、変なの。
「一緒におふろも入ろうね。洗いっこしよ」
「 」
「え゛っ……こ、こはねさん……?」
「? 優花お姉ちゃんも入る?」
なぜかみんなが静かだ。
変なの。
「……ねぇ、こはねちゃん? 私たちも良い? お泊まり会」
「う゛ぇ゛っ!? い、いきなりぃ!?」
「うん、良いよー! あ、でも、みんなでおふろは難しいかなぁ」
「……よしっ」
「う゛ぇぁぁー……」
あれ、2人はお泊まりしないつもりだったのかな?
でも乗り気だった気がしたんだけども……うーん?
あ、みなみちゃん、ゾンビの真似が上手になってるね。
「それじゃあ――如月ちゃん?」
ぱちんっ。
はるなちゃんが指を鳴らすと――
「――――――はい、車で30分の場所に大型スパ――温泉があります。そこで家族風呂があります」
「でかした!」
「あ、先生、来てたんだ」
「ええ……たった今」
んー?
ぴんぽん、鳴ってなかった気がするけどなぁ……そもそも優花も外に出てない気がするし。
でも僕の気のせいかもだし、黙っとこーっと。
「紅目さんたちの着替えの服――ナイトウェアについては移動中……あるいは温泉施設で購入可能かと」
「つまり、すぐに行けるってことね!」
「……せんせいは一緒にお風呂入って、泊まらないの?」
「えっ」
なぜかいつも――家に来るときでさえ白衣をびしっと忘れない先生が、珍しくびっくりしている。
「……泊まらないの……?」
「う゛っ」
「如月ちゃん? このつぶらな瞳に……勝てるかしらぁ?」
「む、無理ですぅ……!」
「なら、おとなしく……ね?」
「さ、さすがにげろげろ採取ならともかく、いきなりすぎますぅ……!」
はるなちゃんが、ぎゅむっと先生におっぱいを押しつけながら話しかけている。
……先生はいつも、自分から距離を取るんだ。
今日くらい、一緒でも良いって、そう思ったから。
そうだよ。
みんなが仲良く楽しそうにしているのを――自分から距離を取って、悲しい目をして眺めているなんて、とっても寂しすぎるんだ。
そんな子が居たら、そっと手を引いて――多少強引でも良いから仲間に入れて、一緒に遊んじゃえば良いんだからさ。
◇
「あっ」
「? どうしたんですか?」
家の前に止まっていた黒くてかっこいい車――リムジンって言うんだって、運転してたお姉さんが言ってた――花粉症か何かで息がはぁはぁなってた――あと僕のこと、なぜか「きゅん」とか呼んできた――で、うきうきでやってきたはずの温泉。
広い駐車場に着いたよって聞かされたとき、僕は思い出したんだ。
「困った……」
「!? こはねさん、がんばって漏らさないでください!」
「えっ」
優花が何かを言っているけども、そんなことはどうでも良い。
「……漏らす……つまり、配信でのあの水音は……」
「うん……これはほぼ確定……」
みなみちゃんたちがぼそぼそ言ってるのはいつものことだから、それもまたどうでも良い。
「うへ、うへへ……実質ショタっ子のおもらし……」
運転してたお姉さんが蠢いてるけど、それも本当にどうでも良い。
それよりも、
「僕、人が多いところ、無理だったじゃん……」
そんな当たり前すぎることに、みんなを連れて目の前にまで来てから気づいた。
◇
「……がらがらだ」
「そ、そうですね……」
巨大な施設――普通なら、人でごった返して僕を寄せ付けないはずの場所。
僕たちは手を引かれておっかなびっくり、でっかい施設に入ってきたわけども――そこが、完全な無人と化している。
「土曜日でしょ? なんでお客さん、ひとりもいないの?」
「え、えぇーっとぉ……」
「ねー? だから言ったでしょ? こはねちゃん、優花ちゃん!」
怖がる僕たちをあふれる母性でなだめてくれた、はるなお姉ちゃん。
ちょうどみんなで温泉行こっかって話になってすぐ、「今日、この時間にたまたまお客さんの入れ替えがある」って情報を嗅ぎつけてきたんだ。
さすがは社会人。
社会人ってすごいね。
「はるなお姉ちゃん、すごい。こういう情報、どっから仕入れてくるの?」
「企業秘密よ!」
はー。
やっぱ会社ってすごいんだなぁ。
なにしろ僕が入れないくらいだからなぁ。
「す、すごいです……ここ、いつも人でいっぱいだって……最近は順番待ちまであるって、学校に行く前の朝の番組で言ってたのに……しかも、来るって、さっき決めたのに……」
「むふん。ひよりちゃん先生のためでもあるから、介護班の総力を……」
ひよりちゃんもお口を開けてぽかんとしている。
だよね、だってすっごい広い建物なのにお客さんが誰も居ないんだから。
「……介護班で制圧したのよね? これ……他の客を追い出してまで……」
「え、ええ……てっきり裏口から家族風呂へ通してくれるだけと思いましたが、まさかここまでするだなんて……」
振り向くと、はるなお姉ちゃんにひそひそと話しかけている先生。
先生でもびっくりすること、あるんだね。
「うぇへへ……こはねきゅんラブの総力を結集すれば、この程度の娯楽施設を3時間貸し切りも造作も……まぁ手加減して2時間になっちゃったけど、ショタっ子成分がにじみ出るには充分……」
運転手のお姉さんは入らないらしい。
今日のお仕事が運転手さんだからだって。
……この人はちょっと怖い気がするけど、コメント欄での知り合いみたいだからがんばろ……帰りも送ってくれるんだし。
ちょっと怖い視線を感じることもあるから、ちょっと悪い人だけど……取って食べられたりはしないはずだから……ね?
◇
「いらっしゃいませ」
「本日は偶然にも『入れ替え』の後ですので、他のお客様が居ない温泉をお楽しみいただけます」
「……ええと、入館説明は……済みません、何分、私ども、今流行りの人手不足のために臨時で雇われているスタッフでして……」
「2時間後を目安に、夕方から通常営業……こほん、大人数を受け入れられる用意が……」
◇
「あの人たち、みんなコメント欄の人たちだよね? しかも古参の」
「「「!?」」」
最初は隠れながら聞いていた、受付の人たちの話。
でも目が合っても怖くなかったし、それに。
「最初の人は2年前くらい……次の人もそうで、その次の人は半年くらい前から挨拶してくれるようになった人……」
確か2人とも、僕が普段からやってる、今となってはマイナーになってるあのゲームのファンだった気がする。
そんな話をコメント欄にしゃべりかけてた気が――
「……こはねさん? どうしてそこまで分かるんですか?」
ぽつぽつと思い出していたら、如月先生がしゃがみ込んで僕を見てきている。
「?」
「……あの方たちとは、初対面……ですよね?」
「あ、はい。でも初対面じゃないですから」
「――『文字越しの会話』で、見たこともない相手の顔を?」
「や、顔は知らなかったですけど……なんとなく分かりません? けどなんでみんな、ここで働いてるんだろ……副業ってやつかなぁ。まぁ怖くないからなんでも良いや」
「………………………………」
来た直後こそ「よく考えたらここ、みんな知らない人ばっかりじゃん」って、急に怖くなってた。
けども駐車場からして車は1台もなかったし、入り口までも誰ひとりすれ違わなかったし、靴箱もぜーんぶ空っぽだったし。
入れ替えって言ってたし……そうだよね、温泉とかはお掃除とかで定期的に入れ替えするものだから、不思議じゃないんだ。
それでたまたま人手が足りなくなって、たまたまバイトで古参の人たちが来ていたって不思議じゃ……うーん?
「こっ、こはねさんっ! 早く行きましょうっ!」
「あ、うん」
この世界の不思議に想いを馳せていたら、待ちきれなくなったらしいひよりちゃんに催促されて歩き出す。
恥ずかしがり屋さんだけど、来る途中も顔が真っ赤になってたけども、やっぱりひよりちゃんも楽しみなんだね。
「……先生」
「この件は、寝静まったらみなさんと一緒に……」
「そうそう、今は温泉楽しまなくっちゃね!」
「あ゛っ……私、この中で1番胸が貧しい……愛でる対象を除いて……」
みんな1人ずつもらったカゴを片手に、家族風呂のフロアまで。
あー、楽しみだなぁ……みんなでおふろ。
………………………………。
ん?
女の子たちと、おふろ?
◇
「よく考えたら僕、男だったから男湯入ってくるぅ……」
「「「え゛っ」」」
家族風呂の入り口まで来た僕は、すごすごと退散することにした。
「ちょっ……こはねさん!?」
「ごめんねお姉ちゃん……でも僕、男だから女風呂には入れないよ……」
悲しい。
僕は悲しいんだ。
僕は悲しい目をしているんだ。
家族風呂――家族って言うんだから、ぎりぎり優花とならセーフだとしても、それ以外の子たちが入るんならアウトなんだ。
「すんすん……」
「……やはり、少しとはいえ自己の認識は保持……」
「せっ、先生っ! 分析してる場合じゃ……!」
「むぅ、こはね様はひよりちゃん先生を突き放してまで気を遣うタイプ……レッサーパンダから戻っちゃったら……」
「これはまずいわ、なんとか……あら?」
とぼとぼ。
僕は引き返し、下の階にあったはずの男風呂へ、さみしくひとりぼっちで――
「――――わっ、私は大丈夫です!」
――ぎゅっ。
「?」
さっきは握ってたおててを、今は握られる感触。
「こっ、ここここはねさんが男の人だったとしても……私、大丈夫です!」
「「「!?」」」
「え、嫌じゃない……? だって僕、赤の他人の、しかも大人の――」
「――私たち、友達……ですよね?」
ひよりちゃんのためにも泣く泣く離れようとしていたのに。
なぜか泣きそうな顔をして僕を追いかけてきてくれた、ひよりちゃん。
「一緒におふろ、そのあと一緒に寝ようって……言ってくれたじゃないですか」
「それはそうだけど……」
あれ?
僕、なんでそんなことをひより先生に?
「……イヤ、ですか? 私との、おふろ……」
「え、嫌じゃないけど、僕は成人男――」
「! ほら、早く行きますよ! 優花さん、家族風呂、開けてくださいっ」
「は、はいっ! みなさん、入りましょう! できるだけ早く!」
ずりずりずりずり。
謎の葛藤を抱えるものの――普段からは想像もできない力でひよりちゃんに引っ張られ、僕は抵抗することもできずに連れ込まれた。
◇
――しゅるっ。
「うぅぅぅ……やっぱり恥ずかしいですぅ……!」
「が、がんばりましょう! わ、私も、意識したら急に……」
……優花とひよりちゃんの声がする。
ぱさっ。
ばるんっ。
「ふぅ」
「はるなちゃん……大胆……」
はるなお姉ちゃんとみなみちゃんの気配がする。
すさまじい質量が2個動いた気配。
2人から、合わせて2つだ。
ことん。
「あの、やっぱり私は外で待っていたら……ダメですか……」
如月先生が困っている。
偶然だね、僕も「半分くらい」困ってるよ。
更衣室。
家族風呂用だからか、ちょうど僕たちの人数ぴったりの洗濯カゴ。
そこへ、脱いだ服をぺいぺいっと放り込んでいく。
「よく考えて? ――こはねちゃんもレッサーパンダから戻りかけてる……こんな機会、今回を逃したら永遠にないわよ? 『家族』になる以外では」
「そうです、先生……わ、私も死ななかったせいで死ぬほど恥ずかしいけど、ガードが堅すぎる最推しから誘ってくれるだなんて、たぶん一生、ない……」
「そ、それは……」
「ふー」
あー、解放感。
すっぱだかって気持ちいいよね。
「こ、こはねさんっ!? た、タオルは……」
真横に来たのは、バスタオルを肩まですっぽりかぶっている――つまりはプールのときのあれみたいな感じにしている――ひよりちゃん。
「恥ずかしがらなくったって良くない?」
「ま、マナーですから……!」
「あー、確かに。今は人が居なくても、そのうち来るんだもんねぇ」
僕はしぶしぶタオルを体に巻き付けていく。
………………………………。
あれ?
僕、男なのになんで胸元まで隠すんだっけ?
「そ、それでは早く入ってしまいましょう!! 貸し切りは2時間ありますが、せっかくですからたくさん入りたいでしょう? その途中で他の人たちが来てしまったら居心地は良くないはずです!」
「あ、そうだね」
僕はかしこい優花お姉ちゃんに諭され――女湯へ入ってしまった。