TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~   作:あずももも

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75話 僕の生き方

「あー、やっぱりそっかぁ」

 

「ええ……もう、こうするほかはありません」

 

僕は、決断を必要としている。

 

だって、

 

「前回の……その。『レッサーパンダ配信』で」

「レッサーパンダ……」

 

「こはねさんが、その……ひより先生に加え『推定女性配信者――Vtuber』を2人、家に招いていたという事実が広まってきておりまして」

 

「レッサーパンダ……」

 

「このままですと、非常に悪意を持って意図的な解釈の元に仕立て上げようとすれば『女性声のボイスチェンジャーを使って自宅に女性アイドルたちを連れ込んだ男性配信者』と。もちろん、介護班が総力で当たってくれていますが」

 

「レッサーパンダ……」

 

そうだ。

僕がまたやらかしたせいで、今度はあの3人にも迷惑がかかっているんだ。

 

ネット上の飢えた男たち――ユニコーンたちは、女性アイドルに男の影がちらりとでも、疑惑だったとしても映った時点でツノを振りかざして怒り出す習性がある。

 

肉体が男だったし、今でもまだ心は男だって信じたい僕としては、その心理は理解できるもの。

 

男は女性よりも心が弱くて脆いんだ。

好きな女子に彼氏が居るってよぎるだけで吐き気を催すんだ。

 

そうでなくとも、いわゆるゴシップっていうのは男女関係が大半――人の本能的に、こういう話題は燃えやすいんだ。

 

「ですので――」

 

「レッサーパンダになる必要があるんだよね」

 

「そうで――えっ」

「え?」

 

「………………………………」

「………………………………」

 

……あっ。

 

「……違う違う。僕が――肉体は女の子だって、とうとう言わなきゃいけないんだよね」

 

「こほん……彼女たちは全員、『こはねさんの負担になるようなら無理にとは』……と言ってはくれましたが」

 

あの人たちは、本当に良い人たち。

こんな僕のことを心配してくれているんだから。

 

だからこそ、

 

「そもそも僕のせいで、ひより先生が現役女子学生だってバレちゃってて……その属性がバレたせいで、ひより先生は嫌でもアイドル扱いになるから男の影で炎上するリスク。はるなさんもみなみさんも、まだ疑惑の段階ではあっても僕が2人の名前をセットで読んじゃったせいでほぼ特定されてて……炎上がくすぶってる、かぁ」

 

「……今の時代のネットは常に山火事を見物したい客であふれていますから」

 

「そうだよねぇ……僕が漏らさなきゃ済んだことだし。あ、名前をね」

 

「……お手洗いは大丈夫ですか?」

「優花……僕のことなんだと思ってるの」

 

ひより先生は――幸いにしてまだ駆け出しだ。

それにまだ発展途上、最悪で名義を変えて再出発のダメージは少ない。

 

けども、個人勢で数万登録者っていうVtuberとしての活動だけでそこそこ生きていけるって言ってた、みなみさん。

 

彼女の収入はアイドル活動のみ――それが断たれたら厳しいなんてものじゃないのは目に見えていて。

 

そして――数十万のファンを獲得している上に個人ではなく事務所に所属していて……だから彼女だけではなく彼女の利害関係者全員に迷惑を掛けることになる、はるなさん。

 

大炎上した場合には事務所ごと巻き込んだ膨大な損失が出る。

 

そんな大金、僕に払えるはずもないし――払わせまいとしてきそうな人だからこそ、彼女に負担させるわけにもいかない。

 

彼女たちは、このまま放っておけば大変なことに巻き込まれる。

そう、予測されている。

 

「……さすがにTS――肉体ごと性転換したことは隠しても」

 

「ん……如月先生も、僕以外にも例はあるって言ってて、国も必要なら支援をしてくれてて――決して秘匿されるものではなくても、やっぱりすっごく混乱することだから積極的に広めない方が良いって言ってたし。だから……まぁ、すでにみんなが薄々で理解してる形で話した方が良いかなって」

 

元から女の子の肉体で生まれた――けども心の性別だけが違って、途中から男として生きるようになった存在。

 

それでも世間はやっぱり「女の子」として認識する――それが、性同一性障害やトランスジェンダーという存在。

 

いくら本人や親しい人、理解のある人が本人の望む性別で扱ったり公的な場でもそう扱われるようになってきたとは言っても、本人と関係の浅い世界の大半は「肉体の性別」で認識する。

 

それを拒絶したりはやし立てたりはせずとも、表立って言わなかったとしても――それでも心の中では「でもどうせ男/女だよね」って思われる。

 

……そういうのを、僕がこれからならなきゃいけない立場の人たちが語った本などで理解した。

TSっていう摩訶不思議な事象を隠すとしたら、僕もそういう生き方をせざるを得ないってことも。

 

「……ま、僕が毎朝の散歩で『無口だし気持ち悪いけど、きっとどこかで働いてる社会人』だって思われようとしていたりするのと大差はないんだ。人間は誰だって見られたい理想の姿と内面とが違うものだし。見栄は、張れるなら張りたい……その気持ちは、こうなった僕だからこそ」

 

「兄さん……」

 

「そんなに心配そうな顔しないでよ、優花」

 

……今日は久しぶりに、頭がすっきりしている気がする。

 

ここのところはしばらくふわふわしてて、無性に誰かに甘えたくなっていて――如月先生が言うには「精神は肉体に引っ張られるものです――ですので、あくまで肉体的特徴としての幼い女の子として周囲の同性に甘えたくなるというのは、こはねさんの意志と関係なく起きてしまうこと」だとか――そのせいでみんなと裸の付き合いとかしちゃって罪悪感でもんもんとしたりしてて。

 

けども、今日はなんだか元気なんだ。

 

だから。

 

「一般的には、TSなんてありっこない空想上の現象なんだ。なら、どうせ理解の難しいそれを苦労しながら説得するよりも、そこまで本当のところと間違ってはいない性同一性の問題って伝えた方が、みんなが納得しやすい。……うん。社会では、必要な嘘も方便もある。……大丈夫、社会に出たことはないけど理解はしてるから」

 

――ほっとくだけで膨れ上がっているらしい、僕の登録者にフォロワー。

 

傷は、浅いうちにちょっと痛い思いをして塞ぐ方が、結局は痛くないんだからさ。

 

 

 

 

「あーん!」

 

「よ、よしよし……」

 

僕は、がんばった。

 

がんばって話して――ほっとひと息ついて、飲みものを手に取って。

 

「お気に入りの服なのにぃー!」

「す、すぐ洗えば元通りですから……」

 

ジュースを、かわいい服にこぼしちゃったんだ。

 

「優花お姉ちゃ……あーん!」

「は、配信は中断……いえ、おしまいです! ご視聴ありがとう……あ、こはねさん!?」

 

【草】

【草】

【りょ】

【悲報・こはねちゃんのシリアスモード、時間切れ】

【お姉ちゃんの介護が必要になっちゃったね】

【最近のいつもの】

 

【レッサーパンダになっちゃったかぁ】

 

【かわいいね】

【かわいいね】

【もう愛でるしかないんよこんなん】

【分かる】

 

【それにしても、女の子だけど心は男か】

【まぁそんな感じはしてた】

 

【心はちゃんと男っての、配信聞けば分かるしな】

 

【けどレッサーパンダ♀なのも聞けば分かるしな】

 

【草】

【草】

【ひでぇ】

【ま、まあ、もうシリアスは終わったし……】

【お、おかげでプチ炎上しかけてたのも収まるし……】

 

【でも、やっぱこれで合法ロリは無理があるよな……】

 

【ああ……】

【これで内面が成人男性とか嘘でしょ】

【草】

 

【に、肉体が心の成長に追いついてないだけ……いや、厳しいか……】

 

【ギャン泣きするわマジ泣きするわレッサーパンダするわ服にジュースこぼして泣きわめくわ……これでお姉ちゃんのお兄ちゃん名乗るのは、ちょっとなぁ……弟なら余裕でOKだけど、これはなぁ……】

 

【草】

【信じてはあげたいし信じることにはするよ? けど……】

【なぁ……?】

【こはねちゃんに対しては信じてあげる  けど、ねぇ……】

 

【そもそも肝心の年齢のことについて聞く前に泣いちゃったもんなぁ……】

 

【草】

【こはねちゃん……どうして……】

【と、とりあえずこの切り抜きを拡散すればV2人の炎上気味なのは鎮火するから……】

【このよわよわさを見せつけても男って言い張れるやつは居ないからな!】

【草】

【もうやめたげてよぉ!】

 

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