TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~   作:あずももも

81 / 154
81話 人見知り能力と税金と

「うっぷ……気持ち悪い」

 

僕は必死に嘔吐を制御している。

漏らさない訓練は大切なんだ……上と下からと、両方。

 

「はい、優花さん。ストップです」

「今日も10人ほど……ですか」

 

「こはねちゃんさん、がんばりましたねー」

「は、はぐとかしないで……うっぷ」

 

気恥ずかしさと、未成年の女の子から抱きつかれる社会的――立場なんてないけども――評判もなにもなくても僕の中のそれと、なによりもきゅっとなっている胃袋を押されたら、よりにもよってひより先生へ、げろげろしちゃうから。

 

【こはねちゃんに直接気持ち悪いって言われた!】

 

【ふぅ……】

【ふぅ……】

【\50000】

【たすかる】

 

【げろげろ待機】

【ひよりママが介抱してるから今日は無いよ】

【そんなぁ】

【万が一の待機 \30000】

 

【えぇ……】

【草】

【今日もこれくらいか】

【まぁがんばってる方だしな】

【けどなぁ……このペースだとどんくらいかかるんだろうなぁ】

 

「そうですね……現状の登録者の増加ペースを考えますと……現在の登録者の方が全員コメント可能になるのは……早くて数十年でしょうか?」

 

「如月先生、こはねさんへのエチケット袋、もう構えていなくても」

 

「いいえ、いざという備えは大切です。医者として!」

「そ、そうですか……」

 

がさがさ。

 

僕の口元で、誘うように揺らぐビニール袋。

 

「……ふぅ。大丈夫です、たぶん引っ込みました。新規の人を止めてもらったので」

 

「優花さん、もう10人ばかりを」

 

「こはねさんが吐いてしまいますから駄目です」

「……そうですか」

 

如月先生は意外とスパルタだ。

すごく優しい先生なのに、なぜか最近の訓練のときだけは限界をいつも超えさせようとしてくる。

 

【草】

【草】

【さりげなく鬼畜なお医者さん】

【休日とはいえ、一患者のために個人的に協力してくれてるから優しい人なはずではあるんだが】

【まぁダダ甘だけが優しさじゃないからな】

 

【そうそう】

【だから先生】

【げろげろを】

 

【ひぇっ】

【意味のない嘔吐をさせるんじゃない!】

 

「……ふぅ」

 

汗びっしょりになっているのを感じつつ、僕はイスの背もたれに寄りかかる。

 

「がんばりましたね!」

「ひより先生、僕の汗」

 

「良い匂いです!」

「先生」

 

「一緒におふろに入りましょう!」

「先生、まずいです先生」

 

「1回入ったんですから無敵です!」

「先生、訂正しましょう先生」

 

ふんふんと僕の首筋に先生の鼻がくっつけられている。

 

……先生の性癖が暴走している。

また僕のせいで、先生がちょっとおかしくなりつつある。

 

【キマシ】

【高い塔がそびえ立っている】

【やっぱり「ひよ×こは」だよなぁ】

【ママ×娘とかなにその天国】

【王道の百合だよね】

【ロリっ子同士なのもポイント】

 

【ショタよ!!】

【そうそう、こはねちゃんの心の性別的には王道の青春なのも良き】

【良き】

【ふぅ…… \5000】

【肉体百合、精神青春か】

 

【これがレッサーパンダになると逆転するのも良いよね】

【これがレッサーパンダになるとこはねちゃんからぐいぐい行くのも良いよね】

【\50000】

【分かる】

 

【もはやひより先生はこはねちゃんとセットの扱いだからね】

【公認の百合カップルだからね!】

 

「こはねさん!!」

「先生には未来があります」

 

「私、養います!」

「先生」

 

「ね! 優花さん!」

「ええ……家族ですから」

 

「先生、優花……」

 

困った。

最近のひより先生と優花が、仲良くなりすぎている。

 

【養われるこはねちゃん】

【総受け百合、か……ふむ】

【お姉ちゃんも参戦しててすばらしい】

【ギスギス感がないのはただのじゃれあいか、それともすでに分け前を相談済みか……】

【そういう生臭いのはNG】

【草】

 

「……それにしましても。やはりこはねさんには、特殊能力――というほどではありませんけれども、そうですね……過度な人見知りゆえに、文字上でもコミュニケーションした相手を把握し、初対面の相手を敏感に察知する力があるようですね」

 

なぜか悲しげにビニール袋をしまいこんだ如月先生が、メモ帳に書き込んでいく。

 

「今日も視聴者のみなさんに協力いただき、徐々にメンバーとなりコメントが可能となる人数を増やしていきましたが」

 

「やっぱり10人を超えると、ひよりちゃんさん、つらそうに……」

 

「ええ。調子に限らず10人前後。……まぁ現実世界で10人と初対面で知り合う、と考えますと、恐らくは通常の方でも相手の顔を覚えるだけでも限界に近いかと思いますが」

 

どうやら僕は――前までは完全に無意識だったけども、配信でコメントをしてくれた人のことを覚えていられる記憶力を備えていたらしい。

 

【それはそう】

【父母会配信に顔出してる時点で、平均的に相当優しい部類の人が揃っているとはいえ、確かに10人って多いよなぁ】

【草】

【笑っちゃう事実をはさまないで!】

【むしろガチの人見知り抱えてるにしては多すぎるくらいだよな】

 

「それでも、やろうと思えば毎日10人とお友達になれますよ、こはねさん」

 

「言っとくけどリアルに適用できないから無意味だよ? だって初対面でなんにも話せないで挙動不審になるから引かれるだけだし、今ならもれなく目の前で吐き出すおまけ付きだし」

 

「そ、そうではありますけど……」

 

「こんな能力があっても、普通に新しいコミュニティーに所属するタイミング――バイト先とかサークルとかゼミとか、その先の最難関の就活では、これっぽっちも意味のない検証なんだよ……はぁ……」

 

【草】

【深刻すぎる】

【そういやそうだわ草】

 

【ま、まあ、今はネットで仕事とかできるから……】

【理解ある会社でなくともフリーランスなら余裕よね】

【オンラインですら面接がない在宅ワークなんて腐るほどあるからなぁ  まぁ低単価なのと人類の宿敵になりつつある人工知能たちに取られそうだけど】

【それな】

【能力を上げて実績確保するまでは下積みで無職の危機があるのが厳しいよね】

【初めの3年くらいは本当に食えないからなぁ、新規参入は……】

 

「……といいますか、こはねさん?」

 

「先生?」

 

メモをしまい、手元でなぜかがさがさとビニール袋を弄んでいる如月先生が、言う。

 

「こはねさんは、すでに数十万の登録者を抱える配信者……いえ、Vtuberというものですし、すでに月額課金のメンバーさんたちも居ますし……今後定期的に収入が入るようになりますし。……もう動画配信業として確定申告が必須なレベルになるのでは……? 収益化になったばかりの今年はともかく、来年以降も今のペースで続けるのなら」

 

「えっ」

 

「だって、古参の方だけで数十人ですし……こはねさんがこはねさんである限り、基本的に抜けることはそうそうありませんし」

 

先生はなにを言っているんだろう?

 

「……最近法律が変わったりしますので、あくまでラフな理解ですけど……兄さんのように給与所得のない人の場合は、収入がざっくりと100万円が見える辺りから準備が必要になってきますね。所得税に限らず、住民税なども……経費がある場合、確定申告をしないと損をするのが税制というもののようですね」

 

「えっ」

 

優花はなにを言っているんだろう?

 

【草】

【生々しい話になってきたぞ】

【とはいえ年末だから大事な話】

【確定申告しない人が多いとはいえ法律上は必要だしなぁ】

 

【そうだぞ  Vとか配信者が確定申告知らなかったりサボったりした結果、人気になってからあとで「過去何年分の収入をまとめて払え。こっちで確認できたこの金額な。帳簿がない? なら経費とか知らんし、今から言ってももう遅い。あと罰金的なのも含めて払え」ってものすごい金額叩きつけられるのは毎年の名物だからな】

 

【あー】

【かくていしんこく……うっ、頭が】

【なぁにこれぇ……】

【国民の義務だぞ】

【俺1人の独立国家とかほしい】

【草】

 

「――税理士さんなら事務所のと、個人の方の両方やってくれてる人、紹介できるわ!」

「――その年の収入が増え始めた時点で、やつらは必ず目をつけてくるんです……私ももちろん、確定申告してます……個人でもできるんですよ? 手伝えます」

 

「えっ」

 

ぬるっと入ってきていた、はるなさんとみなみさん。

なにを言っているんだろう?

 

【草】

【V2人の乱入だ!】

【さっきインターホン鳴ってたのはこれか】

【草】

【もはや日常的にオフコラボしてるようなもんじゃねぇか】

【こはねちゃん……ビッグになったね……】

 

「………………………………」

 

僕は、ちょっと考える。

 

ぜいきん。

かくていしんこく。

 

………………………………。

 

ぼくは、もうだめだ。

 

あとは……任せた。

ぼくは……ちょっと、ねるよ。

 

「………………………………!! みんなでこはねをいじめてる!! んだよね!?」

 

ふしゃーっ。

 

僕はひらりと机の上に登り、防御態勢を取る。

 

「こはねさん!?」

「レッサーパンダになっちゃいましたぁ……」

 

「むぅ……げろげろのためには、もう少しマイルドに攻めなければなりませんか」

 

「かわいい」

「かわいい……」

 

【草】

【レッサーパンダこはねちゃんだ】

【感動した】

【こんなんで幼児退行するのか……】

 

【確定申告ってワードは大人でも怯える言葉だからね】

 

【「ねぇ、税務署から書類届いてるんだけどー」】

 

【     】

【     】

【     】

【     】

【     】

 

【あっ】

【草】

【みんなレッサーパンダになっておしまい!】

【お金の管理は大切だからね……みんなも気をつけようね……】

【年末だからそろそろ準備を……ね】

 

【じゃないとレッサーパンダになるからな!】

【こはねちゃんじゃないレッサーパンダはかわいくないし、レッサーパンダになっても割引とかしてくれないで普通に徴税されるから気をつけようね】

【草】

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。