TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~   作:あずももも

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99話 お正月配信

きゅぽんっ……とっとっとっ。

 

「くぴっくぴっ……ぷはぁ」

 

あー、おいしい。

やっぱりお酒は良いね。

 

【草】

【開始の挨拶も無しにストレートでお酒に走ってて草】

【あの、今をときめくJCのはずのこはねちゃんが飲んじゃダメなものなんじゃ】

【炎上しちゃう】

 

【大丈夫大丈夫  自己申告では25の成人男性だから】

 

【25……?】

【15の間違いではなくって?】

【10とか5の間違いではなくって?】

 

【成人男性……?】

【レッサーパンダじゃなくて?】

 

【草】

【種族まで変わってて草】

 

【ここまで自己申告と実際が食いちがってるのに性的なアイデンティティーとか引きこもりとかトラウマとかレッサーパンダのおかげで視聴者たちが懐疑的になっている】

 

【だって……】

【ねぇ……?】

【これまでがこれまでだし……】

【視聴者も自己申告を信じてなくって草】

【だって信じてたやつらは全員介護班送りだもん】

【草】

【病院送りとかムショ送りみたいに言うな草】

 

【介護班?】

 

【我ら介護班の結束は固い】

【何をされても割らないぞ!】

 

【まぁ口割ったりしたら一族郎党がガチで路頭に迷ったりいろんな罪状でお縄につくだけだから絶対に盛らせないんだけどね】

 

【は?】

【えっ】

【ひぇっ】

【こわいよー】

【介護班……恐怖政治で成り立ってるのか……】

 

 

【TSっ子こはねちゃんを悲しませる子には容赦しないよ】

 

【綾咲こはねβ「こっちの介護班も送り込むからね」】

 

【nai-nai?】

 

【鱗粉、振りかけようか?】

 

 

【えっ】

【!?】

【あの、なんか裏切り者の他に】

【しーっ! なんかやべーやつらだから見ちゃダメ!】

【おろろろろろろ】

【頼む……ちょうちょは……ちょうちょだけは……!】

 

「……ぷは。なんか元気だねぇ、みんな」

 

あんまり止められなかったもんだから、くぴくぴ楽しく呑んで数分。

 

開けたばかりの日本酒だから結構来てるけど、体感的にはまだほろ酔い気分。

 

まぁカップ酒程度しか飲んでないし……本当はツマミとか一緒につまんだ方が胃の負担もミネラルバランスも良いんだろうけども、この体、お菓子とか食べちゃったら次の食事が入らないからなぁ……。

 

「あ、そうだ。この前は改めてありがとね、みんな。おかげで助かったよ」

 

ぺこり。

 

アルコールが適度に回って適度に思考が緩むと、普段の高すぎるプライドとか恥ずかしさを感じずに素直になれるんだ。

 

「僕たちがみんな無事で悪い人たちから逃げられたのも、その後炎上とかしなかったのも、みんながいろいろしてくれてたからだって聞いたから」

 

【こはねちゃん……】

【ええ子や……】

【\3000 いいものをお食べ】

【\5000 なかないで】

 

【\2000 でもときどきないて】

【\10000 あ、なくってのはレッサーパンダとして鳴くってことで】

 

【草】

【お前!!】

【投げ銭が上書きされた……もうだめだ……】

【これが新しいNTRってやつか】

 

【でも、機転っていうか身体能力と根性で脱出できたのはこはねちゃん自身の力だと思う  もっと自信持ってね】

 

【あれ、こはねちゃん曰くだともうひとり?のこはねちゃんのおかげだとか】

【幼児退行先のレッサーパンダこはねちゃんが力を貸してくれたんだぞ】

 

【レッサーパンダが?】

【レッサーパンダが】

 

【鳴き声上げながら立ち上がって両手を上げて威嚇するだけじゃなくって?】

【鳴き声上げながら立ち上がって両手を上げて威嚇するだけじゃなくって】

 

【草】

【草】

【レッサーパンダはやめて  力が抜ける……】

【≒ちょうちょだからね……】

 

 

【butterfly?】

 

【ちょうちょって配信越しでもかけられるよ?】

 

 

【ひぇっ】

【草】

【なんか変なのが増えてる……】

【しっ……! 構ったらレッサーパンダやらちょうちょやら人間以外の何かにされるぞ!】

【こわいよー】

【怖すぎる】

【急にホラーになってきたな、この配信……】

 

「……うん、信じるのはちょっと難しい話だし。まぁ僕の中の逃避先の人格的なのが助けてくれた。うん、そんな感じでだいたい合ってるから良いかな」

 

くぴっ。

 

僕は、あの日以降に逃げるような精神状態にも、危機にも襲われていない。

 

それに――「この体の持ち主だったこはね」は無事に帰って、本来の体で本来の優花――あっちだと先に産まれたのは優花らしいね――たちと会えた。

 

うん。

それで、良いんだ。

 

「レッサーパンダはがんばれば演技でもできるから、聞きたかったら言ってね。あ、でもあれは恥ずかしいからお酒入ってて機嫌が良いとき限定だし、そもそもアバターには両手上げる機能なんてないから声だけだけどね」

 

ファンサ――ファンサービス。

アイドル業である配信者やVtuberも、そういうものをするらしい。

 

特に今の僕は女の子――体だけは――だから、せめてこれくらいはね。

 

よーし、今日は機嫌が良いんだ、ちょっくら――――――こつん。

 

「えっ」

 

立ち上がろうとした僕の腕が、固い何かと接触して――――ごとんっ……どさっ。

 

【!?】

【? 何の音?】

【あの  重い瓶の音……】

【え?】

【あっ……】

【ま、まさか……】

 

「………………………………」

 

とくとくとくとく。

 

床に落ちた――この前のやらかし以降、イスの周囲には絨毯が敷いてあるから割れてはいない――瓶から、まだ全然飲んでないお酒が――――

 

「……あ゛――――ん!!」

 

【草】

【草】

【速報・お姉様へ通達】

【OK】

【草】

 

【あーあ】

【フラグだって書こうと思ったらこれだよ!!】

【あ、鳴き方的にケガはしてないっぽい】

【ならいいか】

 

【PCにぶっかけてなきゃ鳴き声を堪能できるね】

【レッサーパンダこはねちゃん……待ってたよ】

【クセになってるんだ、この声が】

【分かる】

 

【\50000 体を張ってレッサーパンダしてくれた代】

 

【わかる】

【草】

【こはねちゃんはね、よわよわでレッサーパンダなのが良いの  ずっとこのままでいてね】

 

 

 

 

「すんすん……」

 

ぼくはかなしい。

ぼくはかなしいんだ。

 

「すんっ……結構じゅうたんに飲まれちゃった……」

 

ちゃぷんっ。

 

両手で持って振ってみた一升瓶は、半分くらいのところで水面が揺らぐ。

 

「すんっ……ぼくのおさけぇ……」

 

すんすん。

 

「じゅうたんが……のんじゃったぁ……!」

 

ようやく収まった涙と鼻水、なによりもこぼれちゃったお酒のせいでじゅうたんの上は吸い取るためのタオルとティッシュだらけで大惨事だ。

 

「おさけぇ……! ふぐぅ……!」

 

なんで。

どうして。

 

「……どうしてぇぇぇぇ……!」

 

【草】

【心の底から絞り出すような鳴き声】

【なにこのかわいいいきもの】

【レッサーパンダこはねちゃんだよ  みんなで眺めてあげようね】

【動物園の動物と同じく怖がらせないようにね】

【ストレスで簡単に泣いちゃうからね】

【草】

【草】

 

【介護班連絡  お姉様、必要はないと判断の上学校へUターン中】

 

【りょ】

【草】

【新学期早々にお忙しい妹ちゃん】

【お姉様だぞ】

【そうよ!】

【おちつけ】

 

【ああ、気をつけろ……介護班に大量入荷した新顔たちは、こはねちゃんと同等以上にお姉さん(妹ちゃん)を崇拝しているからな……】

 

【介護班……こわい】

 

【大丈夫大丈夫  火事のときに持って逃げるくらい命の次に大切な印鑑や書類とかを善意(強制)で自主的に差し出した(強制的に差し押さえられた)ものを保管してくれるくらいには優しいから】

 

【ある意味貸金庫だよね  まぁ俺らの人生も預かられてるんだが】

【うん  いろんな秘密を知ってるからね  いろんな秘密をね】

【ひぇっ】

【なぁにこれぇ……】

 

【けどさ  うっかり腕が当たってお酒(ジュース)をこぼしたくらいでギャン泣きするだなんて……】

 

【草】

【草】

【うん、こはねちゃんだからね】

【こういうのでいいんだよ】

【わかる】

 

【私、ギャン泣きの切り抜きから張りついてるの……】

【母性本能くすぐられるよね】

【父性本能もくすぐられるぞ!】

【こはねちゃんのおかげで子供が欲しくなってパートナーゲットしました】

 

【感動した】

【イイハナシダナー】

【ああ、父母会】

 

【子供を持っていないんだけどどうやったら加入できますか?】

 

【まずは出会いを作りましょう  いいか、出会いを待つんじゃない  普段馬鹿にしてる合コンでもマチアプでも友達や家族に頼み込んで異性を紹介してもらうのでもなんでもいい  片っ端から本気で探せ  んでよっぽどダメじゃない限りは前向きに仲良くなれ  でないと仕事はあっても結婚相談所ですらマッチングしない年齢に……うぅ……】

 

【ぶわっ】

【ないた】

 

【書き込んだのはいい人みたいなんだけどなぁ】

【いい人とバイタリティーがあって異性と出会えるのとは別だからね……】

【異性じゃなくてもパートナーは自分から探し回らないと、ね……】

 

【直接、間接の知り合いじゃない限りにはお互いの顔と年齢と年収と肩書きと家庭環境と将来設計っていう、どうしようもならない部分が多いステータス表記だけでの殴り合いになるからね……】

 

【数値化って残酷ね】

【そう思うと異世界転生とかでステータスオープンできるのも持ってる方しか得がないもんね】

【世知辛いのじゃー】

 

【だからこそ、みじめな思いしてでもさっさと身近に居る異性と出会え  なーに、大概の人間はよっぽどダメな相手じゃない限りなんとなくでも好きになれるしあばたもえくぼだ  ガチャと同じく数をこなすんだぞ】

 

【見識に助かる】

【ちょっとがんばるか……】

【こはねちゃんのおかげでまた、子供を持つご家庭が……!】

 

「すんっ……なんのはなしぃ……?」

 

ちゃぷんっ。

 

僕はようやく吹き終わった足回り――ぐちょぐちょになっちゃったじゅうたんは窓際で換気ついでに乾かし、イスの下に跳ねたのを吹いたり床を拭いたりして疲れ切ったかわいそうな僕は、お酒を口に含みながら尋ねる。

 

「ぐす……くぴっ」

 

【かわいそう】

【かわいいねぇ】

【\150 まあまあ新しいジュースでも買いなよ】

 

「すんっ……150円とか今どきは自販機でも知らない名前の変なジュースか水しか買えないぃ……しかもお酒じゃないぃ……」

 

【草】

【草】

【こんのレッサーパンダめ……贅沢なこと言いおって……】

【そうだな、ムーチューブが何割か取っちゃうからな  投げるなら1.5倍の金額じゃないと届かないぞ】

【なるほど】

 

【\200】

【\180】

【\100  さすがにスーパーの安いペットボトルでも厳しいかな?】

【ここ最近ずっと値上がりしてるからなぁ】

【庶民には厳しい時代だもんね】

【ほんとになぁ】

 

【あの  形だけでも信じとかないとレッサーパンダモードのこはねちゃんさんがまーたギャン泣きするんじゃ】

 

【草】

【でも自称成人男性だし……】

【自分のご機嫌くらいはなんとか……】

【ねぇ……?】

 

「すん……くぴっ……すんすん……」

 

くしくし。

 

そうだ、僕は成人男性なんだ。

だから自分の機嫌は自分で取ろう――どっかの配信で僕自身が言ったセリフだ。

 

「……ふぅ。無性に泣きたくなるときってあるよね」

 

【うわぁぁぁ急に落ち着くなぁぁぁ!?】

【草】

【誰だ貴様! 声だけはかわいいこはねちゃんだけど!】

【あ、急に戻った】

【スンッってした!】

 

【声のトーンが普段に戻ってる  癇癪が静まったか】

 

「癇癪……うん  さっきのがショックすぎて動揺してたかな」

 

よく考えると、なんであんなに泣き散らしてたのかが分からないくらいにどうしょうもないことで泣いてたのに気がつく。

 

しかも、配信を通じて僕が男で大人だって知られてるのに。

 

しかもしかも、ひより先生どころか家族――優花も両親も僕のことを知っていて、恐らくは配信を観るいるか後で観るだろうとも知っているのに。

 

「えっとね、空けたばかりの酒瓶を足元に落としちゃって、一瞬瓶ごと割れて大惨事になるんじゃって思ったら運良くじゅうたんに当たって割れなくってほっとして、でも盛大にお酒が飛び散って台無しになって……なんかいろいろと悲しくなったんだ。この気持ちは分かるよね?」

 

一応で弁明はしておく。

 

……帰ってきたら呆れられるだろうけども。

 

【草】

【急に早口になってて草】

【このふてぶてしさはこはねちゃんだ】

【感動した】

 

【レッサーパンダがないなった】

【さっき堪能したから良いだろ?】

【それもそうだな  あとで切り抜きループしよ】

【草】

 

 

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