ハンターハンター世界で死霊使いやってます   作:煤けた人

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第2話

 

 試験会場の空気は、まるで湿った鉄の匂いが充満しているようだった。

 

 焦りや野心、退屈と緊張、そして恐怖──受験者たちの垂れ流したオーラが絡み合い、目に見えない濃霧を形づくっているかの如く…。

 

 羂索とヒソカはその中をゆっくりと歩いた。波が引くように人々が意識的に道を開けていった。

 歩くたびに、彼らを避ける受験者達の無意識のオーラが揺れる。

 それが面白くて、彼は小さく笑う。

 

(いい緊張感だね……人間の『欲望』が可視化したかのようだ)

 

 隣を歩くヒソカもまた、同じ匂いを嗅ぎ取っていた。

 ヒソカは興奮に喉を鳴らし、羂索は静かに目を細める。

 

「キミ、去年はいなかったよね♦︎キミみたいなオーラの持ち主ならすぐわかるから❤︎」

 

 ヒソカはトランプを操りながら微笑む。

 

「ボクの名前はヒソカ。キミは?❤︎」

 

「とりあえず、今はゲトウと名乗っておこうかな」

 

 ヒソカと羂索は、互いに自己紹介と簡単な会話を重ねつつ、人のいない最後尾までゆっくりと歩んでいた。

 

 羂索はゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「今年は有望な受験者が多そうだと思ったからね、普段は各地を飛び回っているけど、試しに参加してみたんだよ」

 

「なるほど♣︎」

 

 試験官であるサトツの号令とともに、受験者たちが一斉に進み出す。

 ざわめきの中、二人だけがゆったりと歩いていた。

 

 ヒソカと、羂索。

 

 目が合った瞬間、空気が変わる。

 

 二人は、自然と群衆から距離を置いていた。

 

「ねえ❤︎」

 ヒソカが囁くように言う。

 

「少し、試させてもらってもいいかな♠」

 

 羂索は微笑んだまま、答える。

 

「構わないよ。どうせ、君も我慢できないだろう?」

 

 ヒソカの口角が上がる。

「わかってるじゃないか♥」

 

 二人は、さりげなく脇道へ逸れた。

 

 暗い通路。

 蛍光灯の光が微かに揺れている。

 

「それじゃあ────❤︎」

 

 ヒソカからの、どこか熱のこもった声。

 ほとんど会話の延長のように、二人は相対すると互いに能力を展開した。

 

 羂索は手元に黒いスマホを取り出し、操作する。

幽霊捕縛箱(ガウストキャッチャー)

 液晶の中から、淡い黒光を帯びた『手足』が這い出す。

 

 ヒソカが微笑み、トランプに能力を付着させる。

伸縮自在の愛(バンジーガム)

 

 二人の間に、ピンと張り詰めた空気が走り、空間が揺らいだ。

 

(うーん……この『能力を出し合う瞬間』のピリピリした感じ、たまらないね♥)

 

 ヒソカの投擲したトランプを、スマホから覗く多腕が弾く。瞬間、空間の一部がねじれたように見えた。

 

 ヒソカのカードが弾かれ、地面に突き刺さる。

 

 死霊【ツチグモ】が顕現する。

 無数の手足を持つ死霊が、這い出してくる。

 六本、八本、十本────数えきれない腕が、それぞれに槍、剣、斧を握り、武器を乱舞させる。

 

 ヒソカはトランプに付着させたバンジーガムを縮ませ、投げたトランプを手元に戻した。

 

「その手足、まるで蜘蛛だね……♣︎ふふ、皮肉かな?ボクにピッタリだ❤︎」

 

「獲物を絡め取り、捕食する蜘蛛…君にはお似合いだろう?」

 

 笑いながら、二人は戦いを続ける。

 互いに手を出し切ることもなく、ただ『相手の質』を測るだけ。

 今はそれで充分だった。

 

 ヒソカの指がわずかに動いた。

 次の瞬間、数枚のトランプが宙を舞う。

 

 鋼鉄の刃のように、カードが空気を裂き飛んでいく。

 

 飛翔する軌跡には、薄くオーラがまとわりついている。付着するオーラを見えにくくし、対応を困難にする「隠」という高等技術。

 (オーラ)で強化されたカード達。

 一枚でも人間の喉を容易く断てる殺傷力が複数飛ぶ。

 

(さあ……キミの念獣の反応を見せて❤︎)

 

 カードがツチグモへ迫る。

 

 しかし、死霊はまるで見ていたかのように反応した。

 無数の手足が同時に動く。

 鉄製の刃、槍、鎖、得物のすべてが一斉に振るわれる。

 

 ──カンッ、カンッ、カンッッ!!

 

 甲高い金属音が連続して響く。

 ヒソカのトランプは、すべて叩き落とされていた。

 

「……へぇ❤︎」

 ヒソカの口元がわずかに吊り上がる。

「反応速度も防御も悪くないね。死後の念で出来た念獣のくせに、ボクのカードを見切るなんて♠」

 

 袈裟姿の羂索は静かに腕を組んだまま、目を細める。

「これは単なる『死後の念』じゃない。『魂』だよ。反射も、記憶も、死の瞬間に焼きついたまま残っている」

 

「へぇ♣︎死んでも治らない戦いの癖ってやつか……ふふっ、ゾクゾクする❤︎」

 

 ツチグモの複数の腕が唸りを上げ、無数の得物達が一斉にヒソカへと襲いかかる。ヒソカは瞬間的に「堅」と「硬」を切り替え、トランプを刃のように巧みに操り、バンジーガムも交えつつ攻撃を捌きゴムの弾性で距離を取るも、複数本の腕の乱撃がヒソカの四肢に傷を付けていた。

 

 ヒソカが一歩踏み込み、次のカードを構える。

 だが、羂索は微笑んで手を上げた。

 

「この辺で終わりにしよう。誰かに見られたくないからね」

 

 ヒソカは少しだけ不満そうにカードの束を下ろす。

「……残念。もう少し戦いたかったけど……今はまだいいか♥︎」

 

 羂索が手元のスマホを操作すると、ツチグモは音もなく霧のように羂索のスマホへと吸い込まれていった。

 再び静寂が戻った通路を、二人は何事もなかったかのように並んで歩き出した。

 

「君のその能力……限りなく『死』に近いね♦︎……ボク、好きだなぁ♥」

 

「ふふ、そうだね。死は、誰にも訪れる。最も平等なルールだからね」

 

「でも退屈じゃない?♣︎死に際が、全部キミの手の中にあるみたいな感じで、意外性が無さそう♠︎」

 

「存外そうでもないよ。死に際の想いは、十人十色。同じものなど、一つもない」

 

 ヒソカは手を止め、わずかに目を細めた。

「……ねぇ、また遊ぼうか♥」

 

「そのうちね。…君が死んだ時は、きっと良い死霊になる」

 

 通路の床には、黒い煤のような跡だけが残っていた。

 誰も、それが死霊の残滓だとは気づかないまま。

 

 ———通路の角、薄暗い影。

 

 キルアは、壁に張り付き、息を殺していた。

 

「ヤバいやつ同士が戦ってるから覗いてみたけど、あのゲトウってやつ……」

 低く呟くキルア。その瞳が暗殺者の光を宿す。

 

 ヒソカの左腕から滴る血。床に残る黒い煤——死霊の残滓。

 

「目に見えなかったけど、気味の悪い圧だけがあった」

 キルアの表情が固くなる。

 

 その時、羂索がふと振り返る。視線がキルアを貫くように一瞬だけ絡まる。

 羂索の微笑みが、蛍光灯の影で歪む。

 キルアの背筋に、氷のような恐怖が走った。

 

 

♦︎

 

 

 静寂の通路。壁に吊るされた蛍光灯が、一瞬、音を立てて弾けた。

 光の閃きが、脳裏の奥で記憶を刺激する。

 血の色、硝子(ガラス)のいろづき、手術灯の白──。

 

 羂索はふと、遠い昔の記憶を思い出していた。

 

(……医者を、志していた頃があったな)

 

 まだ若かった頃。

 脳外科医を目指していた一人の研修医。

 趣味は漫画、休日は書店で週刊誌を立ち読みしては夜更かししていた。

 だが、彼は『転生者』だった。

 目を覚ましたのは、医術がまだ祈祷や魔術と区別されていない時代のハンター世界。

 

 消毒液も、麻酔も、まともな手術道具もない。

 彼は自身の記憶と技術で、それらを一から再現した。

 傷病者の命を救い、医術を進歩させた。

 人々は彼を『奇跡の医師』と呼び、功績によって暗黒大陸渡航の参加を許された。

 

 だが、暗黒大陸は甘くはなかった────。

 

(──理不尽、という言葉すら生ぬるかった)

 

 暗黒大陸。

 そこには理性を越えた存在と法則があった。

 『希望』と『絶望』が同じ密度で息づく世界。

 

 その地で、彼はニトロ米を食した。

 長寿を得たが、肉体は老いを止められず、寿命への恐怖だけが残った。

 

(死にたくない。……だから、私は自分の脳を移し変えた)

 

 死者の脳と自らの脳を入れ替え、生きながらえる念能力を作り上げたのは、その恐怖の延長線上だった。

 彼は自らの技術を総動員し、肉体という器を捨て、『魂を移す』術式を完成させた。

 

 以後、彼は姿を消し、歴史の影で暗躍する。

 才ある者たち──剣士、学者、兵士、呪われた才能を持つ者たちに近づき、

 「死を超えて力を残さないか」と囁いた。

 それが呪物化計画の始まりだった。

 

 やがて、彼は「生きている者だけでは暗黒大陸は踏破できない」と悟る。

 死の向こうにある力をも手に入れるために、

 彼はさらに新たな念──幽霊捕縛箱(ガウストキャッチャー)を編み出す。

 死後の念をも収集し、使役するための能力。

 

 その頃、彼はネテロとも出会った。

 今から半世紀ほど前のネテロに呪物化の理論を持ちかけたが、激しく拒絶された。

 以来、二人は腐れ縁のように交わり続けている。

 

(……そうか。もう半世紀か)

 

 原作開始のずっと前。

 ネテロが人類最後の挑戦として暗黒大陸に再び向かったとき、羂索もまた、どこかでその旅を眺めていた。

 

(あの時も、私は笑っていたんだな)

 

 そして今。

 『スグル=ゲトウ』と名乗り、再び表舞台に立った。

 原作を楽しむ観客として。

 そして、かつての死霊たちと──自ら作り上げた呪物たちと共に再び暗黒大陸へ挑むために。

 

(私はまだ、あの地を越えていない。死も、恐怖も、絶望も、すべて私の友人だ)

 

 袈裟の裾が揺れる。

 遠く、ハンター試験挑戦者達のざわめきが聞こえた。

 

(……さて。もう少し、この物語を楽しもうか)

 

 羂索は、誰にともなく笑った。

 

────────────────────────

 

幽霊捕縛箱(ガウストキャッチャー)

系統:特質系(具現化系・操作系は補助)

使用者:羂索

 

羂索は実体を持たない死後の念による念獣を「死霊」と定義した。

この能力は、その死霊を捕獲し、使役する能力。

 

【使用方法】

 

①死霊を「釣り上げる」

・死後の念を感知し、スマホから伸びる念糸で釣り上げ、捕獲する。

 

②念スマホに格納

・最大12体まで保存可能

 

③自らのオーラで強化

・羂索のオーラを与えることで、死霊をより強力な存在に変える

 

④合体による強化

・複数の死霊を合体させ、新たな死霊を生み出すことも可能

 

元ネタはトレジャーガウスト。

【制約】

・格納:最大12体

・同時使役:最大3体

・念スマホや念糸はあくまで補助具

・本質は特質系の釣り上げた死霊限定の「強制服従」能力

 

【ツチグモ】

多数の手足をまるで蜘蛛のように動かして、多腕で持った武器を振るう死霊。

戦場で死した死霊達をそれぞれガウストキャッチャーで捕え、合体させた死霊。相手に反撃する隙を与えないほどの武器での乱撃が得意。

 

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