ハンターハンター世界で死霊使いやってます   作:煤けた人

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第4話

 

 第287期ハンター試験、二次試験会場。

 

 受験者達が緊張の面持ちで待っていると、時間を告げるベルの音とともに、二次試験会場建物の扉が開き、二つの影が現れた。

 

 大きな腹を抱え、地鳴りのような腹の音を響かせる巨漢・ブハラ。

 髪を五方向に結い上げた奇抜な髪型の、ソファに座った一つ星(シングル)ハンター・メンチ。

 

 その姿を見た受験者たちは、てっきり化け物でも出てくると思っていた分、少し拍子抜けした。

 

 メンチがブハラに視線を向ける。

「どう?お腹はもう限界?」

 

 ブハラが腹を鳴らしながら苦笑いする。

「聞いての通り、もうぺこぺこだよ……」

 

 そんな掛け合いの後、メンチが一歩前に出て受験者たちに宣言した。

 

「それじゃあ──二次試験は《料理》よ!

 美食ハンターのあたし達を、満足させる一皿を作ってちょうだい!」

 

【美食ハンター】

世界中のあらゆる料理と食材を探求し、未知の美味を創り出す者たち。

多くは超一流の料理人でもある。

 

 試験は二段構え。

 まずブハラの指定する料理で彼の舌を満足させ、続けてメンチの試験を突破しなければならない。

 二人が満腹になった時点で試験終了──つまり、後半に進める者はごくわずか。

 

 男の方はともかく、女の方はあまり食べそうにない。

 これはかなり絞られるだろう……。

 そんな思考が受験者の間を駆け抜けた。

 

 ヌメーレ湿原でヒソカに殴られ頬を腫らしたレオリオが、不安げに呟く。

「料理なんてやったことねーよ……」

 

 クラピカも眉をひそめる。

「こんな試験があるとは……」

 

 巨漢のブハラが、どっしりと腕を組んで告げた。

「オレのメニューは──豚の丸焼き!大好物なんだ」

 

 難題を覚悟していた受験者たちの間に、安堵の空気が漏れる。

 しかしその油断を見透かすように、ブハラは続けた。

 

「森林公園に生息してる豚なら種類は自由。それじゃ、二次試験──スタート!」

 

 森林に駆け出す受験者達。二次試験・前半戦、ブハラのメニュー。参加者、百四十九名──。

 

 レオリオが安堵の息を吐きながら笑う。

「いやー、正直ホッとしたぜ。簡単な料理でよ!」

 

 ゴンも屈託のない笑顔で頷く。

「豚を捕まえて焼くだけだもんね」

 

 しかしクラピカは一転、冷静に現実を見据える。

「しかし、早く捕まえなければ。あの体格とはいえど、食べる量には限界がある。

先に満足されたら、その時点で試験終了だ」

 

 そんな受験者達を尻目に、ブハラはにっこりと笑った。

 すぐ隣のソファに腰掛けたメンチが、やれやれと言いたげに彼へ視線を送る。

 

「豚の種類は自由? あんたも性格悪いわね。ビスカの森林公園に生息する『豚』が、たった一種類だけだって知ってて言ったんでしょ?」

 

 その言葉の意味を、受験者たちはすぐに理解する。

 森へと散り、木立の奥や茂みを探し回るうちに──

 ほどなくして、悲鳴と怒号が上がった。

 

 木々をなぎ倒しながら現れたのは、巨大な豚の群れ。

 

 しずく型の大きな鼻。

 分厚い脂肪の下に筋肉を隠し、人間の数倍はある体躯。

 

 世界で最も凶暴な豚――《グレイトスタンプ》。

 

 その性質は極めて獰猛で、人を襲い、鼻で押し潰し、肉すら喰らう。

 『豚』とは名ばかりの、ほとんど怪獣と呼ぶべき生物。

 

 だがこの森林公園で「豚」といえば、この一種類しか存在しない。

 

 試験会場に、恐怖と悲鳴が木霊した。

 

 跳ね飛ばされ、悲鳴と共に逃げ惑う受験者たち。

 その中を、羂索はただ一人、ゆっくりと豚の群れへ歩み出た。

 

「ヤモリ、アレを頼む」

 

 肩口に向かってそう呟くと、五条袈裟が不気味に蠢いた。

 袖口の闇から、真っ黒な頭部がぬるりと現れる。

 

 縦長の瞳孔──爬虫類特有の眼を持つ、体長一メートルを超える巨大トカゲ。

 クラヤミオオトカゲの死後念獣、死霊【ヤモリ】。

 

 羂索はその口から、ずるりと三節棍を引き抜く。

 

 鍛冶屋の死霊と羂索自身の念で鍛え上げ、神字を刻み込んだ念具──【游雲】。

 

 一瞬、豚の群れが本能的に怯えたように足を止める。

 だが次の瞬間、一頭が雄叫びを上げ、突進してきた。

 

 羂索の瞳が、すっと細まる。

 

 足の動き、踏み込み、鼻先の角度――すべてを読み切り、寸前で身を翻す。

 その反動を利用し、三節棍が弧を描いた。

 

 ──ドゴッ。

 

 鈍い音と共に、グレイトスタンプの巨体が崩れ落ちる。

 頭部に直撃した一撃で、目を回したのだ。

 

 羂索はその巨体を肩に担ぎ、ゆっくりと会場へ戻る。

 

「捕獲、完了」

 

 残った受験者たちが作り上げた豚の丸焼き──その数、実に七十頭あまり。

 煙と香ばしい匂いがあたり一帯に立ちこめる中、ブハラはそれらを次々と平らげていった。

 

「あー、食った食った。もうお腹いっぱい!」

 

 満足そうに腹を撫でた瞬間、メンチが大きな銅鑼を叩いた。

「…というわけで、終了ー!」

 

 どよめく受験者たち。

 

 ゴンはブハラの巨大な腹を見上げながら、感嘆の声を漏らした。

「やっぱり、ハンターってすごい人たちばかりなんだね」

 

 その横でキルアが肩をすくめる。

「すごいっちゃすごいけど……ああはなりたくないけどな」

 

 メンチはため息をつき、見上げるようにブハラを睨んだ。

「あんたね、食べた豚全部『美味しかった』って、どういう了見なの? 審査になんないじゃないの」

 

 ブハラは口を拭きながら、どこか飄々とした笑みを浮かべた。

「まあまあ、いいじゃん。それなりに人数は絞れたわけだし。味そのものを競う試験じゃないしね」

 

 メンチが腰に手を当てて、呆れたように言い放つ。

「あんた甘いわねぇ。美食ハンターなら、自分の味覚にはもっと正直でいなきゃダメでしょ」

 

 そして、受験者たちの方へ振り返る。

 

「──豚の丸焼き料理審査、七十一名が通過!」

 

 残り半数以上が姿を消し、会場には焦げた香りと、ため息だけが漂っていた。

 

 メンチは一呼吸おいて、受験者たちを見回した。

 その目がきらりと光る。

 

「二次試験・後半……あたしのメニューは──」

 

 間を取って、唇の端を吊り上げる。

 

「──寿司(スシ)よ!!」

 

 その瞬間、場内がざわめいた。

 誰もが顔を見合わせ、言葉を失う。

 

 『スシ』という言葉に聞き覚えのある者など、この場には一人もいなかった。

 

 あのヒソカでさえ、口元を歪めて腕を組み、

「……スシ?」と呟いたほどだ。

 

 メンチは受験者たちの困惑を楽しむように微笑んだ。

 

「ふふ、だいぶ困ってるようね。

 ま、知らなくても仕方ないか。小さな島国の民族料理だからねぇ」

 

 そう言って受験者たちを建物の中へと誘導する。

 

「ヒントをあげるわ。この調理台で料理を作るのよ!」

 

 広い調理場には、シンク、大小の包丁、木の寿司桶に入ったご飯がずらりと並んでいた。

 

「最低限必要な道具と材料──そして、寿司に必要なご飯はこちらで用意してあるわ」

 

 メンチは人差し指を立てて、にやりと笑う。

 

「そして、最大のヒント!

 スシはスシでも──『ニギリズシ』しか基本的に認めないわよ!」

 

 ざわつく受験者たち。

 

「それじゃ、スタート!

 あたしが満腹になるまでに、何個でも作ってきなさい!」

 

 銅鑼が鳴り響き、二次試験・後半戦が幕を開けた。

 

 現代日本の知識を持つ羂索は、静かに思案する。

 

「この環境じゃ海魚は無理だね。……なら、山の恵みで寿司を作るしかないか」

 

 捕まえた獣の肉を薄く削ぎ、軽く炙って脂を落とす。

 会場に用意されていた酢で酢飯を作り、笹の葉で包む。

 

 笹の葉寿司とは、笹の葉の上に酢飯と具材をのせて包む、新潟県や長野県北部発祥の郷土料理。

 古くは戦国時代、上杉謙信が兵糧として用いたとも言われ、「謙信寿司」とも呼ばれる。

 

 羂索は前世の記憶を頼りに、その保存食を『森の素材』で再現した。

 

「森の肉笹寿司」の完成だ。

 

 メンチが一貫を取り、実食する。

「……これは肉の笹寿司ね。発想の転換だわ。

グルメハンターの私でも海鮮の寿司しか知らなかったけど、あんた──もしかしてジャポンの出身なの?

袈裟って、たしかあそこら辺の服装よね……?」

 

 羂索は曖昧に笑い、腕を組む。

「まあ、そんなところですよ」

 

 そんな羂索に、メンチは裁定を下す。

「味はまあまあね。発想力でギリ合格」

 

「薄気味悪いオーラだから警戒したけど、あんた中々やるじゃない。肉寿司、斬新な発想だわね…」

 

 二次試験、暫定合格者一名。

 

♦︎

 

 羂索が暫定的に合格した後、『寿司』の作り方がわからず、様々なゲテモノ料理を作り出す受験者達。

 ライスボールにぶつ切りの魚を入れたもの、魚の身の部分を一口サイズのシャリで包んだもの、果てにはおにぎりまで──。

 

 メンチは眉をひそめ、容赦なくリテイクを要求する。

「違うわね。……やり直し」

 

 困惑が会場全体に広がっていく。そんな彼らを尻目に一人の男が笑う。

 

「ふっふっふっ、そろそろオレの出番だな」

 

 そう言って調理台を離れ、メンチに『寿司』を差し出したのは、ハンゾー。ジャポン出身の彼は、郷土料理でもある寿司であるならば、通過は余裕と考えていた。だが、一貫手に取り食したメンチが告げる。

 

「ようやくそれらしいものが出てきたけど、美味しくないわ、やり直し!」

 

 目を瞑り、茶をすすりながら無慈悲にやり直しを要求するメンチ。それに対してショックを受けるハンゾー。

 

「な、なんでだよ!メシを一口サイズに切って、長方形に握って、その上にワサビと魚の切り身を乗せるお手軽料理だろうが!」

 

「こんなもん誰が握っても味に大差ねーよ!納得いかねえ!」

 

 そう大声で言ってから、ハッと自分のミスに気づく。

 

(やべえ、今のでバレちまった…!)

 

 その言葉を聞いた瞬間、メンチの眉がピクリと跳ねた。

 

「お手軽料理!?こんなもの味に大差ない!?」

 

 ハンゾーに詰め寄るメンチ。

 

「ざけんなハゲ!!!」

 

 メンチの怒号が会場を震わせる。

 

(すし)をまともに握れるようになるには十年修行が必要なんだよ!いくら形を真似たって天と地ほどの差があるわ、ボケ!」

 

「酢の配分!魚の切り方!アンタのは全然なっちゃいない!」

 

 ハンゾーも気圧され半歩下がりながらも、言い返す。

「じゃ、じゃあそんなもん試験内容にすんなよ!」

 

「うるせーよハゲ!私の判断に文句あんのか!?殺すぞ!」

 

 その後も詰められ、完全に言い負かされ肩を落とすハンゾー。

 ブハラはその側で冷や汗をかく。

 

(メンチの悪い癖だ。熱くなったら味に妥協できない…。本気になったメンチを満足させられる料理人なんて、世界にひと握りしかいないのに)

 

 言い合いに完敗し、打ちのめされ調理台に戻っていくハンゾー。

 

 しかし、彼が口走った「スシの正体」は、全員の耳に届いていた。

 

「酢飯に具材をのせて握る料理、だと……?」

「つまり……こうすりゃいいのか!?」

 

 彼が寿司の概要をバラしたせいで殺到する受験者。食べながらも辛口採点を続けるメンチ。

 

「握りが硬い!シャリが潰れてるわ!」

 

「酸っぱすぎる!私を殺す気!?」

 

「ネタが温くて口当たりが悪い!」

 

 横のブハラが宥めるように言う。

「ちょっときびしいよ、メンチ…」

 

 しかし、メンチの機嫌は治らず。

「アンタは黙ってな!!」

 

 やがて、山のように積まれた皿を前に、メンチが言った。

 

(ワリ)、お腹いっぱいになっちった」

 

 終了────!

 

 第二試験後半。メンチの料理。

 合格者、スグル=ゲトウ(羂索) 一名。

 

────────────────

 

【ヤモリ】

大きな爬虫類型の姿をした死後の念獣。体内に念空間が広がっており、様々な道具を収納できる。いわば武器庫呪霊のハンター世界版。飼い慣らせれば自在に道具を取り出せる。

戦闘の際は羂索の体に密着し、道具や念具、銃火器を吐き出す。

・念能力

四次元胃袋(ビッグイーター)

イモリの体内は部屋の一室程の念空間が広がっており、そこに小物や小道具などを収納できる。

生前に胃袋にさまざまな物を溜め込んでいた故の能力だと思われる。

 

【游雲】

羂索の使役する死霊のうちの一体の力で、羂索と共に作り上げた三節棍の念具。ハンター世界の念を補助する神字が表面に刻まれており、元ネタ通り特殊な能力はないものの突出した頑強さを誇る。持ち主の膂力と念がそのまま攻撃力になる念具。

 

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