ある日の休日。
もうすぐ5月になろうとしている時だった。
「昴、ようやく情報がまとまったわ。
今から少しいいかしら?」
「ええ、今日は特に予定はないですから。
それにすいませんエリカさん、僕のために・・・。」
すまなそうな顔をすると、
「気にしなくてもいいのよ。
あなたをサポートするために私がいるんですから。」
そう言って笑ってくれた。
エリカさんは僕のためにあることをしてくれていた。
それは日本の呪術界の情報収集だ。
エリカさんが放課後居なくて、夜遅い時間に帰って来るのはそのためだった。
まだ春休みだった頃、道場に通っていた人の中で仲の良かった人達をピックアップしていた時、自分では誰が魔術関係者か判断できなかった。
日本に来たころのエリカさんにそう告げると、
「確かに日本の呪術界は私も知らないことが多いわね・・・。
わかったわ、私に任せて頂戴。
ここではずれを引いたら日本での活動が困難になってしまうから、情報収集はしっかりしなくちゃね。」
そう言ってエリカさんは放課後になったら辺りを駆けずり回って情報を集めてくれていた。
学校では近づきすぎないようにしながらも、草薙先輩達に目を光らせていたらしい。
エリカさんには感謝してもし足りない。
リビングに移動してエリカさんは話を始める。
「まず日本の呪術界についてわかった事を教えるわね。
日本の呪術師や霊能者を統括し、彼らが関わった事件の情報操作などを行う政府直属の秘密組織ってところね。
名前を『正史編纂委員会』って言ったわね。
国内の呪術師や霊能者は彼らに協力する義務があるようね。
呪術師や霊能者に対して守秘義務を課しているみたいで情報を集めるのに苦労したわ。」
「本当にありがとうございます。」
僕のお礼にエリカさんは1つ頷き、
「さらに古くから強い呪力を持っていて権力があった四家と呼ばれる一族たちが日本の呪術界を仕切っているみたいなの。
さらにその上に古老と呼ばれる方達がいて、この人達の指示には逆らえないそうよ。
まあ、滅多に動かないみたいだし心の片隅にでも止めておけばいいでしょう。」
「わかりました。」
「後は万里谷姉妹のような『媛巫女』と呼ばれる存在ね。
日本の呪術界の高位の巫女。
普通の日本の呪術師は正史編纂委員会へ協力する義務があるみたいだけど、媛巫女には委員会の人達も下手に手を出せないようね。
何か1つに秀でた能力者の総称の様な物でしょう。
この事についてはあまりわからなかったの。
よほどの秘密でもあるのかしらね?」
ここで1つ息をつく。
「それでね昴。あなたがピックアップしてくれていた名前の1人いたわよ、味方になったらすごい力を持った人が。」
「誰ですか?」
「四家と呼ばれる人達が日本の呪術界を仕切ってるって言ったでしょ。
その四家って言うのはね、1つは清秋院家、武力と政治力を持ってるみたいね。
2つ目は九法塚家、日光東照宮の西天宮って所を護ってるそうよ。
3つ目は連城家ね。これについてもあまり情報が無かったわ。
最後の4つ目が私達にとって重要よ。
この家は正史編纂委員会のトップを勤める智慧者の一族で、その名前は沙耶宮家。」
「!!沙耶宮って、もしかして!!」
「そうよ、あなたの上げた人の1人『沙耶宮 馨』。
この人は正史編纂委員会東京分室室長を務める、この辺りを牛耳っている人物よ。」
僕はびっくりだった。
まさか馨お姉ちゃんがそんなすごい人になっていたなんて・・・。
----------------------------------------------------
馨お姉ちゃんとはこの道場で知り合った。
当時元気のなかった僕を気にかけてくれて、稽古に連れ出してくれたり、時には一緒に遊んでくれたり。
最初は男の子だと思っていたけどある時馨お姉ちゃんの着替えを見ちゃって女の子だとわかった。
そのあとおじいちゃんにめちゃくちゃ怒られた・・・。
暫くたって馨お姉ちゃんが家の用事で道場をやめる事になった。
とても寂しかったが一生会えなくなるわけではないので我慢した。
その時にある約束をした。
「馨お姉ちゃん、僕強くなるよ。
馨お姉ちゃんを守れるようになる位、強く。」
「そうか・・・ならその時は頼りにさせてもらおうかな。」
その後馨お姉ちゃんが道場に来ることはなかった。
最近になって馨お姉ちゃんから手紙が来た。
おじいちゃんが亡くなったことを知っての手紙だった。
葬式に出れなくてすまないと。
何かあったら力になる、頼ってくれとの事だった。
だから僕はリストの中の一番上に馨お姉ちゃんの名前を入れた。
僕の事を覚えていてくれたから。
僕にとってたった1人のお姉ちゃんだから。
家族以外で一番信用できる人だから。
------------------------------------------------------------
「昴、この人本当に信用できる人なのよね。」
「はい、家族以外で一番信用できる人です。」
そう僕が自慢げに言うと、
「あら、私が一番じゃないのね。」
何て言って少し怒ってしまった。
「???何言ってるんですか???
エリカさんは僕の婚約者なんですからもう家族も同然じゃないですか。」
するとエリカさんは僕の言葉に目を見開いて驚き、次の瞬間にはとても綺麗笑顔で微笑んでくれた。
「そうね、そうよね。
ありがと、とてもうれしいわ。」
そしてエリカさんは僕に寄りかかってきて体重を僕に預ける形になった。
そこで今の体制と、さっき自分が言った恥ずかしいセリフを思い出して顔を赤くしてしまったのは仕方のないことだ・・・・・。
「でも昴いくつか心配なことがあるのよ。
それがあなたが信頼している人でもね。」
「馨お姉ちゃんがどうかしたんですか?」
「さっきも言ったでしょ、彼女正史編纂委員会東京分室室長だって。
という事は、すでに草薙護堂との面識もあってあちらについているかもしれないってことよ。」
「つまり、すでにあっちについているから協力してくれないかもしれないってことですか?」
「そういう事よ。」
確かに言われてみればその通りだ。
草薙先輩は1年前から日本で活動している。
この辺りの偉い人である馨お姉ちゃんが先輩についている可能性もあるんだ。
「でも、協力者となれば心強い人物でもあるわね。
ハイリスク・ハイリターンだけど交渉してみなくちゃこればっかりはわからないわ。」
「じゃあ・・・。」
「ええ、とりあえず会ってみましょう。
協力してもらえなければあなたの事がばらされるかもしれないけどね。
そこは、カンピオーネとして命令すればいいのよ。」
そう言って笑っていたエリカさんの笑顔は少し怖かった・・・。
その後は手紙に書いてあった連絡先に電話をして近いうちに会う約束を取り付けた。
電話に出た人は違う人だったけど・・・・・。
僕たちは今約束の場所で馨お姉ちゃんを待っていた。
指定した場所は学校からは少し遠くにあるカフェで、こういった所は入った事が無かったから緊張している。
学校から離れた所にしたのは草薙先輩達に見つからないようにするためだ。
僕達が店に入ってから少しした時、店のドアが開いた。
時間だったのでそちらを見やるとそこにいたのは、美少年にも美少女とも取れる美しい顔立ちをした人物だった。
それを見た僕は立ち上がり、
「お久しぶりです、馨お姉ちゃん。」
そう言って手を差し出した。
馨お姉ちゃんは僕の手をしっかり握り返してくれて、
「僕の事をまだお姉ちゃんと呼んでくれるんだね。
本当に久しぶりだ、昴君。」
馨お姉ちゃんは微笑んでくれた。
そんな馨お姉ちゃんを席に促すのだった。