馨お姉ちゃんに席に座ってもらい話を始める。
「本当に久しぶりだね、昴君。
こんなに大きくなって・・・。」
馨お姉ちゃんが考え深そうに僕の事をじっと見つめてくる。
「そんなにじっと見つめられると恥ずかしいよ・・・。」
「ははは、ごめんごめん。」
そう言って笑いあう。
本当に馨お姉ちゃんは変わらないな。
もちろんあの時と違って背も高くなってるし、とっても綺麗になってる。
でも雰囲気というか何というか・・・馨お姉ちゃんを見てると落ち着く感じは変わってない。
すごく安心する。
少しばかり二人で話していると、
「2人で楽しそうに話している所、ごめんなさい。
そろそろいいかしら?」
エリカさんが少し怒った様子で言葉を発した。
久しぶりに馨お姉ちゃんに会って浮かれていたとはいえ、エリカさんの事を忘れるなんて。
「ご、ごめんなさい。
馨お姉ちゃん、こちらエリカ・ブランデッリさん。」
あらためてエリカさんの事を紹介する。
「初めまして、沙耶宮 馨さん。
<赤銅黒十字>所属の騎士エリカ・ブランデッリです。」
「こちらこそ、エリカ・ブランデッリさん。
僕は知っていると思いますが正史編纂委員会東京分室室長、沙耶宮 馨と言います。」
自己紹介する二人の言葉がやけに力強い気がする・・・・・。
何か火花が見えるよ~~~~。
「それで、イタリアの騎士様が何故昴君と一緒にいるのかな?」
「それなら簡単な事よ。
私と昴は婚約者同士ですから。」
「ほう、婚約者ですか・・・。」
「ええ、そうよ。
まあ、他にも理由はあるのだけれど・・・。」
「その理由をお教えいただいても?」
僕の目の前だ何やら女の戦いが始まってしまった。
とりあえず止めないと。
「あ、あの・・・馨お姉ちゃん。」
僕の呼びかけに気付いてくれた馨お姉ちゃんがエリカさんとの睨み合いを止めてこっちを向いてくれた。
「何かな?昴君。」
「今日馨お姉ちゃんに来てもらったのは助けて欲しい事があるからなんだ。」
「何かな?」
「その前に1つあなたに情報を与えてあげるわ。」
僕が切り出そうとしたらエリカさんが遮った。
「なんでしょうか?」
「3月の終わりにイタリア・ミラノに現れたまつろわぬ神については知っているかしら?」
「ええ、その情報っ入って来てますよ。
あなた方<赤銅黒十字>が何やら隠し事をしていることも・・・。」
「その事に関する情報をあなたに教えてあげるわ。」
そう言ったエリカさんに対して、馨お姉ちゃんは訝しげな視線を向けていた。
「以前リリアナさんは教えてもらえなかったと言っていましたし、<赤銅黒十字>も頑なに何も話そうとしない事を僕にですか?」
「ええ、そうよ。」
「その話はとても気になります・・・しかし、その話が昴君のお願いと関係があるとは思えないんですが・・・。」
「それは話を聞いてから判断してちょうだい。」
「まず、あの事についてどれくらい知っているのかしら?」
「イタリア・ミラノにまつろわぬ神が降臨した事。
そのまつろわぬ神が炎に関する神である事。
この件について<赤銅黒十字>が何かを隠している事。
そして、この件にあなたが深くかかわっていた事。
これ位ですかね。」
「そう・・・なるほど・・・・・という事は他の組織もそれ位の情報は持っていると思っていた方がいいわね。」
「そうでしょうね。
すでにあれから1か月は経っていますし、日本にもこれ位の情報は入ってきています。
ヨーロッパでは既に色んな事が分かっているのかもしれませんね。」
「・・・・・やはりもっと早くに動いておくべきだったわね。」
エリカさんはそう小さく呟いていた。
「まず、この事はあまり他に話してほしくないわ。」
「それは内容によるよ。
わかっているだろう、この国にはカンピオーネ様がいらっしゃるんだ。」
「ええ、わかった上で頼んでいるのよ。
まあ、そう踏まえたうえで聞いて頂戴。
あの日は叔父様にまつろわぬ神が顕現なされたと聞いてその対処に私が向かうことになった。」
そうしてエリカさんがあの日在った事を話し始める。
「まつろわぬ神を見つけた私はある失態をしてしまった。
初めて遭遇した神に舞い上がっていたんでしょうね・・・何も考えずに話しかけてしまった。」
「それはやらかしてしまったね・・・・・。」
「・・・ええ、本当に。
私が神に気付いたことによってその場で神は暴れだした。
その時名乗った名前がアグニ。」
「アグニ・・・・インド神話の火神か。」
「ええ、そうよ。
そして辺り一帯は火の海になった・・・。
私も自分の招いた事だから何とかしようとしたのだけれど駄目でね・・・。」
エリカさんは自分のしてしまった行動を今でも悔いているんだ。
あの時の光景が自分のせいで引き起こされたんだとしたら忘れられないだろう。
「私も死にそうになった時に1人の人間が助けてくれたの・・・。
私はその人に助けられて今もこうして生きていられる。
その人は無謀にも神に戦いを挑んだ。
傷つけられながらも、何度も何度も。
そして・・・・・。」
そこでエリカさんが言葉を切った。
「エリカさん・・・・・まさか・・・。」
「ええ、あなたが思っている通りよ。
その人は神殺しを成し遂げた・・・私の目の前で。
あの光景を忘れる事はないでしょうね。」
エリカさんはその時の事を思い出したのかとても誇らしそうに話している。
馨お姉ちゃんは驚きを隠しきれていない。
「そして私はその人を連れて<赤銅黒十字>に帰還して、その時あった事を総帥であるパオロ叔父様にすべた報告、その後の話し合いで今回の事は時期が来るまで隠し通すことになったの。」
「・・・・・それで、その新たな神殺しは?
そこまで話して言えないなんて事はないだろう?」
エリカさんは僕の方を見た。
ここまで来たらhき返せないとその眼が語っていた。
僕は馨お姉ちゃんを信用している。
大丈夫という思いを込めて頷いた。
「私を助けてくれて神殺しを成し遂げたその人は・・・中学の卒業旅行に来ていた日本人よ。」
「そんな・・・・まさか・・・・じゃあ・・・・。」
もうわかってしまったみたいだ。
先程とは比べ物にならない位驚いた表情で僕を見ている。
「僕はイタリアへ卒業旅行に行った時、夜に大きな氣を感じて気になってそっちの方に見に行ったんだ。
そしたら街が炎に包まれてて・・・僕見て見ぬ振りできなくてさ・・・。
炎の中に飛び込んで逃げ遅れた人たちを助けて回ってたんだ。
そしたらエリカさんが全身から炎を吹き出してる人に襲われてて・・・助けるために飛び込んだんだ。
後は、エリカさんが話した通りだよ。」
そこで僕は馨お姉ちゃんの顔をしっかり見て言った。
「僕、神殺しになっちゃったんだ。」
「・・・そう・か・・。」
馨お姉ちゃんは落ち着くためか1つ息をついた。
「助けてくれの意味が何となく分かったよ・・・。
でもひとつ聞かせてくれ。
<赤銅黒十字>のような大きな結社には昴君に着くメリットが少ないんじゃないのか?」
「確かにその通りよ・・・でも彼のご両親に<赤銅黒十字>は大きな借りがあるのよ。」
「・・・借り?・・・昴君のご両親に?」
「そうよ、彼のご両親は<赤銅黒十字>の特別顧問をしていたの。
当時からとてもお世話になっていた・・・・そして私の両親の命の恩人でもあるの・・・。」
「まさか、彼のご両親が亡くなったのは・・・。」
「私の両親がまつろわぬ神に遭遇。
彼のご両親は私の両親を逃がすために神に挑み命を落としたの・・・。
だから私たち<赤銅黒十字>は彼の傘下に降ることに決めたわ!!」
馨お姉ちゃんは腕を組んで考え込んでしまった。
「・・・それで、僕にお願いって言うのは?」
「うん、それなんだけど・・・パオロさん達もイタリアで活動しないかって言ってくれたんだ・・・。
けど・・おじいちゃんの残した道場もあるし、日本で活動したいってことになったんだけど・・・。」
「そこで日本にいるカンピオーネである護堂さんの事になったってわけか・・・。」
「そうなんだ・・・草薙先輩がすでに日本にいるし、勝手に活動するわけにもいかないし・・・。
だからまず日本で活動できるように地盤を固めてからってことになって・・・。」
「そこで僕に白羽に矢が立ったってわけか・・・。」
「そうよ。
昴があなたなら信頼できるって言ったから。
東京の呪術界のトップなのだから草薙護堂との関わりもあって危険だと思ったのだけど・・・。」
僕は立ち上がり馨お姉ちゃんに頭を下げた。
「馨お姉ちゃん、お願いします。
僕にできる事だったら何でもしますから、僕の味方になってください。」
隣だエリカさんも立ち上がり一緒に頭を下げていた。
「昴君、エリカさん。
頭を上げて、とりあえず座って。」
僕は場所を思い出し席に座った。
「まず昴君が嘘をついているとは思えないけど、君が神殺しだとは思えない。
僕にも多少なりとも霊視の力があるんだけど、君からは神の神気が欠片も感じられない。」
「あの・・それは、僕が氣を体の外に出さないように留めているからだと・・。」
僕はそう言うと少し氣を放った。
すると馨お姉ちゃんは驚いた表情になり、
「疑って悪かったね。
大丈夫だ、もういいよ。」
と言った。
僕はすぐに氣を放つのをやめた。
「昴君が神殺しか・・・・。
一年前ならばすぐに協力体制を作ることが出来ただろうけど・・・今は・ね・・。」
「やはり難しいかしら?」
「難しいね。
すでに何度も護堂さんには助けてもらっている。
正史編纂委員会としてもここで鞍替えなんてできないね。」
「・・・やっぱり無理ですよね。」
無理だったと思い落ち込んでしまう。
「委員会を動かして君の方に就くのははっきり言って無理だ。
すでに委員会は護堂さんを王と崇めている者。
特に清秋院家は娘が1人護堂さんの側近としてついている。
でも・・・。」
馨さんはここで言葉を溜め、そして、
「僕個人としてならすぐにでも委員会を止めて昴君の力になろう。」
そうい言ってくれた。
「あ、あの、どうして・・・。」
「ん??
弟である君の味方をしないわけがないだろう。
それに約束だったからね、何かあれば力になるって。」
そう言われて安心したのか涙が出て来た。
エリカさんも隣でホッとしている。
「ほらほら泣くな。」
馨お姉ちゃんがハンカチで僕の目元を拭ってくれる。
「ありがとう、馨お姉ちゃん。」
「どういたしまして・・・と言いたいところだけど、安心するのはまだ早いよ。
僕1人だけだと大して力になれないからね・・・。
お爺様に話して沙耶宮家を味方に引き入れる。」
「そんなことが出来るの?」
「確証はないけどね・・・恐らく大丈夫だよ。
先生・・君のおじいさんと僕のお爺様は古くからの友人・・いや、親友同士だったらしい。
協力してくれるはずだ。」
「そうなると心強いわね。」
「任せておいてくれ。
さて、今日はこの辺りで終わりにしよう。
外も暗くなってきた。」
そう言われて初めて外が暗くなっていることに気付いた。
僕達が外に出ようと準備をしている時馨お姉ちゃんが、
「あっと、最後に1ついいかい?」
「なんですか?」
「昴君とエリカさんの婚約の件についてなんだけど・・・。
やっぱり神殺しになったからって事でいいのかな?」
「それについては関係ないわよ。
私達が子供のころに親の決めていたことだから・・・。
まあ、今は私の意思で彼との婚約を決めているのだけれどね。」
「それは、彼を愛しているという事でいいのかな?」
「その通りよ。」
それを聞くと馨お姉ちゃんは僕に近寄ってきて、
「あ、あの、か、馨お姉ちゃ・・・うんっ・・。」
馨お姉ちゃんは僕にキスしてきた。
馨お姉ちゃんの柔らかい唇の感触を感じる。
さらに近くにいる事で女性特有に甘い香りに包まれる。
「んっ・・・・ちゅ・・・・・ぷはっ。」
最後には舌も入ってきた・・・。
突然の事で僕はその場に固まってしまった。
「ち、ちょっと馨さん、いったい何をしてるのよ。」
「いや何、僕も婚約者としての挨拶をと思ってね。」
「こ、婚約者ですって!!」
その言葉に僕も我に返る。
「ああ、そうだよ。
これは僕達のお爺様同士が決めたことらしいよ。
僕は媛巫女になるための修業のために昴君と離れなくてはならなかったんだけど、当時から僕は昴君の事が好きでね。
その時泣いていた僕に気を利かしたお爺様が婚約者にしてくれたらしい。
僕自身その事を知ったのは修行を終わらせて暫くしてからだったけどね。」
し、知らなかった。
おじいちゃんも何かってなことをしてるんだ。
「家に正式な書状があったから昴君の家にもあると思うよ。
それと、僕が婚約者だと嫌だったかな?」
「いや・・・その・・・。」
「突然の事だったからね。
いやなら嫌でいいんだよ。
でも、僕は子供のころから変わらず君の事が大好きだよ。
もちろん、異性としてね。
それじゃ、進展があったらまた連絡するよ。」
そう言って馨お姉ちゃんは去って行った。
とんでもない爆弾を投下して・・・。