あれから数日が経ち今僕は東京都内のとある屋敷の一室にいた。
畳20畳は有ろう大きな部屋にエリカさんと二人で正座している。
少しすると奥にある襖が開き荘厳な老人と強面の40後半であろう男の人、その後ろに馨お姉ちゃんが続いて入ってきた。
入ってきた3人は並んで僕達の前に座り、頭を垂れた。
「このたびは私共の呼び出しに応じて下さり誠にありがとうございます。
呼び出して措きながら王で在らせられる神藤様を待たせてしまい、ご容赦いただきたく・・・。」
「あ、あの、そんなに畏まらないでください。」
僕はとても丁寧な言い回しに恐縮してしまって思わず止めてしまった。
そしたら皆さん頭を上げてくれた。
「そうは言われましても・・・王に為られた方に対して気軽に声をかけるなど・・・・・。」
「勘弁してください・・・源蔵様。
お互い知らない仲では無いのですから・・・。」
そうここは沙耶宮家の屋敷である。
休日に突然馨お姉ちゃんがやって来て此処に連れて来たのだ。
そして僕達の前に座っている人は、
そこにいるだけで存在感が凄まじい老人が沙耶宮家前頭首『沙耶宮 源蔵』様。
その隣に座っている線の細い印象があるが源蔵様に負けず劣らない存在感を放っているのが沙耶宮家現頭首『沙耶宮 千尋』様。
そしてその後ろに控えるようにして馨お姉ちゃんが座っている。
源蔵様が馨お姉ちゃんのお爺様で、千尋様がお父様だ。
「例え見知った間柄でもこういう事は必要なのじゃよ。」
そう言った源蔵様の表情は先程の真剣だった顔と違い好々爺な感じになっている。
これが僕の知っている源蔵様・・・源蔵おじいちゃんだ。
源蔵おじいちゃんとは面識がある。
馨お姉ちゃんが道場に来た切っ掛けは源蔵おじいちゃんと僕のおじいちゃんが友人同士だったからだ。
偶に送り迎えに源蔵おじいちゃんが来ていたので面識もあり、自分の孫のように可愛がってくれた。
もちろんおじいちゃんの葬式にも参列してくれた。
「お初にお目にかかります、神藤 昴様。
私が沙耶宮家当主であります『沙耶宮 千尋』と申します。
以後お見知りおきを・・・。」
そう言ったのは源蔵おじいちゃんの態度を無視して挨拶をしてくれた千尋様だった。
千尋様とは面識がない・・・。
ここに来るまでに馨お姉ちゃんに少し話を聞いた位だ・・・。
「初めまして、神道流当主の神藤昴と言います。」
「エリカ・ブランデッリです。」
エリカさんは簡単に挨拶をする。
恐らく僕を立ててくれてるんだろう。
「さて、昴君。
馨から話は聞いたよ、何やら大変なことになっているみたいだね・・・。」
「はい、いろいろありまして・・・。」
「そのことに関してじゃが、わし等の方で確認を取った。
馨から聞いた話とも辻褄も合うし本当の情報だと思っておる。
儂としては奴の孫でもあり、儂の孫同然に可愛がっていた昴君の頼みだ。
協力したいと思っておる・・・。」
そう言って源蔵おじいちゃんは隣に座る千尋様を見た。
「確かにあの時に新たなカンピオーネが誕生した事は限りなく本当の事でしょう。
しかしそれが神藤様だと断定できる証拠がありません。」
「お父様、それについては私が霊視したと・・・。」
「お前も霊視の成功確率が低いことはわかっているだろう。
失礼いたしました・・・そして仮に本当だと致しましても私共と致しましては、神藤様に付くメリットがございません。」
確かにそうなのだ・・・。
エリカさんも霊視の成功確率は低いと言っていた。
そしてこの国にはもうすでに草薙護堂というカンピオーネがいるのだ。
実績のある方に就くのは当たり前だ・・・。
今更新しい王など必要ない・・・。
「そう言うわけですので・・・。」
「私から少し発言の許可を頂いても宜しいでしょうか。」
このまま断られると思った時にエリカさんが話しだした。
「エリカ・ブランデッリ様ですか・・・何でしょうか。」
「まず我が王に付くメリットが無いと仰りましたが、少なからずメリットは発生します。」
「何でしょうか・・・すでに草薙王がいる時点で無いと判断いたしておりましたが・・・。」
源蔵様も興味があるらしく真剣な表情でエリカさんを見つめている。
「一つ目は草薙王が何処の結社にも所属していないという点。
さらに彼の王は自分の気分次第でどこにでも味方をする御方。
彼の振る舞いに振り回されたことも少なくないのではありませんか?」
「・・・・・・。」
事実なのか何も言葉を発さない。
「近くに控えている媛巫女「万里谷祐理」も草薙王に付いていくと明言。
イタリアの騎士リリアナ・クラニチャールもいます。
あなた方正史編纂委員会から離れていく可能性も捨てきれない・・・。
確かな情報筋からいずれは自分の結社を持つ事を考えておられるようです。」
エリカさんのその言葉に千尋様の表情が少し崩れた。
「そうなって来ると正史編纂委員会としてどう動くことになるか・・・。
古老と呼ばれている方々も黙って静観することはないでしょう。」
「・・・・確かにそうじゃな。」
「それで・・・神藤様に付くメリットというのは・・・。」
エリカさんは少し笑みを浮かべながら話し続ける。
「推測に過ぎない話でしたが、可能性としては低くないと思っております。
そこで、我が王です。
今のうちに傘下に降るとまで行かずとも、協力者としておけばそうなった場合に沙耶宮家は我が王のご寵愛を受けることが出来る。
四家の内すでに清秋院家が草薙王に付いていると聞いています。
あなた方も遅れは取りたくないはずです。」
「だが・・・神藤様が本当に神殺しか・・・。」
「その点もご心配に及びませんわ。
私が騎士の誇りに懸けて我が王が王であることを証明いたします。」
「・・・どうするおつもりですか?」
「私がお相手を務めます。
それを見て判断していただければ・・・。」
エリカさんの顔は真剣であった。
相当の覚悟を持っての発言だったとわかる。
「・・・・わかりました。
それでは場所を移しましょう。」
そう言って千尋様は立ち上がった。
そのあと屋敷内にある大きな庭にやって来た。
とても見事な日本庭園だ。
「昴、ごめんなさいね。」
隣に並んで歩いていたエリカさんが謝ってきた。
「どうしたんですか?」
「こんな方法しか思いつかなかった・・・。
もっといい方法があったかもしれないのに・・・。」
「気にしないでください。
こうやってチャンスが生まれたのはエリカさんのお蔭です。
ありがとうございます。」
エリカさんが居なかったらあの時点で終わっていただろう。
「そう・・・でもね昴、これはかなり分の悪い賭けなのよ・・・。」
「どうしてですか?」
「カンピオーネって言うのはね、神や同じ神殺し、神獣なんかじゃないと本当の力は出せないと言われているの。
それにカンピオーネになってからまだ一度もそう言った戦闘をしていない昴は、まだ自分の権能も把握していない。
私の力であなたの力を引き出せるかと言われたら、かなり厳しいでしょうね・・・。」
「そうだったんですか・・・。
でも僕はあまり心配していませんよ。
何とかなる気がするんです、勘ですけど・・・。
それに・・・。」
そう言って僕はエリカさんに笑いかける。
「エリカさんの事信じてますから。」
「そう・・・ありがとう。
私も今回の事は本気でいた無いとね・・・あなたが命の危機を感じるくらいじゃないと・・・。」
「わかっています。
遠慮なくお願いします。」
話している内に前を歩いていた千尋様が止まってこっちを振り返った。
「この辺りでしたら大丈夫でしょう。」
そこは庭園から少し離れた所にある運動場の様な所であった。
この屋敷はどれだけでかいんだ・・・。
「それじゃあ昴。」
「はい。」
僕達は少し距離を話して向かい合う。
2人の間に静寂が訪れる。
先に動いたのはエリカさんだった。
「鋼の獅子と、その祖たる獅子心王よ、騎士エリカブランデッリの誓いを聞け。
我猛き角笛の継承者、黒き武人の裔たれば、我が心折れぬ限り、わが剣も決して折れず。
獅子心王よ、闘争の脊髄を今こそわが手に顕し給え!!
クオレ・ディ・レオ-ネ!!」
すると刀身の薄い長剣がエリカさんの手に現れる。
剣を手に持ちエリカさんが間合いを詰めてくる。
素早く正確な突きが僕の心臓目掛けて放たれる。
僕がそれを落ち着いて横に避けると、エリカさんは続けて僕の首目掛けて切り払ってくる。
そうした彼女の連続攻撃を躱していると、体の調子が上がって来たのを感じる。
相手の動きが読める。
内に滾る氣が零れ出しそうになる。
そんな体の変化に対応しようとエリカさんの攻撃を躱し続ける。
「昴、反撃しないのかしら?」
「すいません、体の変化に戸惑ってまして・・・。」
そう言って足目掛けて放たれた斬撃を氣で強化した蹴りで弾き、一度距離を取る。
「ふう、この程度では全然ダメみたいね・・・。」
「そんなことないと思いますよ。
氣で強化したのに弾いた足が切られてます。」
「・・・普通だったら切断してるはずなんだけど・・・・・。
このままじゃだめね・・・。」
エリカさんがそう呟くと彼女から氣が溢れ出した。
「鋼の獅子に使命を授ける。
引き裂け、穿て、噛み砕け!
打倒せよ、殲滅せよ、勝利せよ!
我は汝にこの戦場を委ねる。」
エリカさんは刀身を愛おしげに撫で、軽く口づけた。
そして剣を上に投げる。
すると剣が膨れ上がり、獅子の形をした物へと変わっていく。
大きさも普通の獣とは桁違いに大きく、低いうなり声を上げながらこっちに襲い掛かってきた。
「うそっ!!」
流石に驚いて反応が遅れてしまった。
少し避けきれず吹っ飛ばされてしまう。
服が切り裂かれ、体も少し傷ついている。
でも大した怪我じゃない、全然大丈夫だ。
流石にあれを倒すのは無理そうだな・・・・。
なんて考えながら次々と襲ってくる目の前の獅子を観察する。
動き本物の獅子だ。
しかも体中が剣のように鋭く、当たれば切り裂かれるだろう。
更なる強敵にさらにテンションが上がってくる。
僕こんなに戦うのが好きだったかな?
攻撃を躱して獅子の懐に入り込み、
「神道流攻式壱乃型『波』。」
拳を打ち込み内部まで攻撃を浸透させながら浮き上がらせる。
この力もカンピオーネの恩恵か・・・。
浮き上がった所を追撃。
エリカさんの立っている方に蹴り飛ばす。
蹴った衝撃で獅子を形作っていた鋼はバラバラになった。
「ふう~~。」
攻撃力も桁違いに上がっている。
もう少し押さえないと人相手はできないな・・・。
「まあ、この程度じゃこんなものよね・・・。
でも準備は整ったわ。」
そう言ったエリカさんの手にバラバラになった獅子の残骸が集まりまた剣を形作った。
そして先程とは比べ物にならない氣を放ちながら以前聞いた事のある言葉を紡ぎだす。
「エリ、エリ、レマ・サバクタニ!主よ、何故我を見捨て給う!
主よ、真昼に我が呼べど御身は応え給わず。
夜もまた沈黙のみ。
されど御身は聖なる御方、イスラエルにて諸々の賛歌をうたわれし者なり!」
周りの温度が急激に下がりだす。
とても嫌な感じがあの剣からしてきている。
「神をも傷つける事の出来る絶望の言霊。
威力は先程の比じゃないわよ。」
そう言って駈け出したエリカさん。
スピードも上がってる!!
何とか躱して体制を整えようとするが、その前に切りかかられ何とか避ける。
「さあ、あなたの内に秘める力を開放させなさい!!」
その速さにも慣れ余裕を持って対応できるようになった時だった。
首を狙ってきたエリカさんの剣を避けると、エリカさんはその口元に笑みを浮かべた。
すると剣先が曲がり避けた先にある僕の首へ向かってきた。
「くっ!!」
何とか回避しようとしたけど避けきれず首から血が流れ出す。
本当に危なかった。
エリカさんの表情の変化に気付けなかったら終わっていた。
そう考えているとあの時から感じていなかった死の恐怖を感じた。
そしてそれを跳ね除けるように頭に言葉が浮かんできてそれを声に出していた。
「天上にあっては太陽、中空にあっては稲妻、地にあっては祭火。
世界に遍在する火、惑わしの罪を取り除き、善き路によって富を導く者為り。」
聖句を口にすると体から氣が迸り、放たれた氣が炎へと変わる。
近い位置にいたエリカさんは吹き飛ばされた。
でも僕はそんなこと気にしている余裕はない。
突然膨れ上がった氣を制御するので精一杯だ。
今も炎は広がり続けている。
黙って見守っていた沙耶宮家の人達も慌てだした。
僕は内に意識を集中させる。
迸っている氣を内に留めるように・・・。
そうして自らの力を徐々に掌握していく。
ばら撒かれた自分の氣もコントロール。
すると徐々に周囲に広がった炎も消えていく。
そして僕は自分の権能を掌握した。
その時の僕な姿は、背に炎の輪を背負っていた。
それはまるで日輪を背負っているかのよう・・・・・。
「やったわね、昴。
権能を掌握出来たみたいね。
その姿とても神々しいわ。」
「そうですか?
自分ではよくわからないんですけど・・・。」
「とてもすてきよ。
それとここまで圧倒的な物を見せたのだから十分よ。
私達の戦闘も終わり。」
「っ!!
エ、エリカさん、け、怪我は有りませんでしたかっ。」
その時漸く吹き飛ばされていったエリカさんを思い出し心配する。
「少し火傷を負った程度よ。
気にすることないわ。
それよりもあなたが権能を掌握してくれた事の方がうれしいわ。」
そう言ってとても嬉しそうにほほ笑んでくれた。
近くで見守っていた沙耶宮家の方達がこちらに近寄ってきた。
3人は僕に近寄るとその場に膝を付き頭を下げた。
「神藤様のお力、篤と拝見させていただきました。
これまでのご無礼もうしわありませんでした。」
千尋様が話す。
僕は周囲を見渡して・・・、
「あ、あの、こちらこそすみません。
綺麗だった庭をこんなにしてしまって・・・。」
そう、いくら火を消したと言っても被害まで消えるわけじゃない・・・。
周囲は焼け野原になっていた・・・。
「この位どうってことありません。
それよりも神藤様、一つお聞きしたい。」
「何でしょうか?」
千尋様は真剣な眼差しでこちらを見据える。
それに伴い僕も背筋を伸ばす。
「神藤様はそのお力で何をされるおつもりですか?」
その問いに僕は、
「誰かのために。
この力は、理不尽な事を覆す事のできる力。
そんな事で苦しんでいる人達のために・・・。」
千尋様の目を見てそう告げる。
千尋様は少し目をつぶり・・・、
「馨、お前の言うとおりだったな・・・。」
「言ったではありませんか、昴君はそういう男だと。」
そんな話声が聞こえた。
「今この時点を持って我ら沙耶宮家一同『神藤 昴』を王と仰ぎ、ここに絶対の忠誠を誓う事をお約束いたします。」
千尋様はそう宣言してくれた。
「あ、ありがとうございます。
これからよろしくお願いします。」
僕もそう言って頭を下げた。
頭を上げてくれた千尋様はすごく穏やかな顔をして、
「こちらこそ。
そして娘の馨の事、よろしくお願いします。」
「はい・・・・・えっ!」
何やらすごい事を言われた気が・・・。
「馨、昴様を絶対に離すなよ。
彼はこれまでと全く違った王に為る。
そんな気がしてならん。」
「心配には及びませんよお父様。
子供のころより僕の心は決まっております。」
馨お姉ちゃんはそう言うと僕の腕を抱きしめてきた。
「お疲れ様昴君。
さっきの戦闘見惚れてしまうほどかっこよかったよ。」
そう言って僕の頬にキスをしてきた。
「う・・・あ・・・。」
僕が戸惑っていると、
「昴、私頑張ったわよね。
何かご褒美が欲しいわ。」
エリカさんも反対の腕に抱きついて来て僕に顔を近づけキスをしてきた。
どちらの腕からも柔らかい物が押し付けられ、さらに甘い香りが漂ってくる。
僕は顔を真っ赤にして盛大に戸惑っていた。
そんな僕達を源蔵おじいちゃんは楽しそうに笑って見守っているのだった。