新学期が始まってすでに1ヶ月が過ぎた。
今のところ何事もなく日常を過ごしている。
エリカが留学してきて何か起こるかとも思っていた時もあったが、こちらに特に接触してくる事も無い。
リリアナは例の噂の事を気にして色々探りを入れているらしいが、あまり思わしくないみたいだ。
だからかエリカから少しでも情報を取るべく、昼を一緒にしてはどうかと提案してきたりもした。
別に断る理由もなかったので承諾し、今では毎日ではないが一緒に弁当を食う仲になった。
リリアナが気にしている相手・・・エリカの婚約者だと言う俺の一つ下の少年。
名前を神藤 昴。
線が細く、顔も抽象的で女の子だと言われても納得してしまうような容姿だ。
何でも1年生の間ではすでに騒ぎになっていて、エリカの影響もあって彼の事を知らない人はいないそうだ。
リリアナが言うには何か武術を嗜んでいるらしい。
もちろんドニの奴や姉さんのような達人級ではないだろうけど、それなりの腕ではあるらしい。
彼が本当にカンピオーネだとして戦うことになったとしたら、厄介だな。
・・・・・こんなことを考えてしまうあたり、俺もこの生活に慣れてしまっているのかもしれない。
彼とは普通に話せるくらいには親しくなった。
始めは距離を感じていたが今となっては俺の事を先輩として慕ってくれている。
俺も可愛い後輩だと思って何かと世話を焼いている。
神藤と仲良くしていると万里谷達が何やら意味深な視線を向けてくることがある。
どうしたのか聞いても、
「私達、信頼してますから。」
としか言ってくれない。
一体なんだっていうんだ・・・。
五月も終わりそろそろ梅雨の時期に入ろうかという頃に俺の携帯に着信が入った。
「久しぶりだな。
元気にしてたか。」
『うん、恵那は全然元気だよ。
お浄めも終わったからそろそろそっちに顔を出そうと思ってたんだ。』
「そうだったのか。
会えるのを楽しみにしてるよ。」
電話の相手は清秋院 恵那。俺の持つ相棒『天叢雲剣』の使い手であり、媛巫女の1人だ。
彼女は降臨術師という稀有な能力を持っている。
これによって神がかりという自分に神の力を宿すことが出来る。
心身ともに負担が激しくそう何度も使う事の出来ない大技でもある。
さらに町などに出て体内に俗気を溜めると神がかりができないため、定期的に山に籠り心身ともに清めている。
初めは俺の近くにリリアナがいるのが許せなかったらしく、彼女達が争っていたりもしたが和解。
今では背中を預ける事の出来る仲間となっている。
俺にとっても大切な存在だ。
「用事はそれだけか?」
『そうだった・・・あのね、久しぶりに頼みごとを聞いてもらってもいいかな?』
「厄介ごとか?」
『大したことないよ・・・最後の王に比べたら・・・。』
「それ大したことあるよな。
また神様がらみの厄介ごとじゃないか。」
『えへへ・・・。』
「はあ、せっかく平和を満喫してたって言うのに・・・。
それで、どうしたんだ。」
『うん、それがね。
1週間ぐらい前にエジプトに行っていたなんとかって考古学者の人がある発掘品を日本に持ち帰って研究しようとしてたらしいんだ。』
「ちゃんと許可もとってたんだろ、別にいいじゃないか。」
『それだけなら問題なかったんだけどね・・・。
その持ち帰ったものが神気を発してたんだよ。』
「それじゃあ、その人は何も知らずにゴルゴネイオンみたいな奴を日本に持ってきちゃったって事か。」
『そういう事になるね・・・。
それにいち早く気付いた清秋院家が回収することに成功したんだけど・・・。』
「おい・・・まさか・・・。」
『数日前にエジプトでまつろわぬ神が現れたんだって・・・。
すぐに姿をくらましたらしいんだけど・・・。
それで、今回の件と関係があるかはわからないけど、一応王様に持って置いて貰おうっていう事になったんだ。
それにそっちには祐理がいるしついでに鑑定してもらおうって事みたいだよ。』
「はあ、それで俺はどうしたらいいんだ。」
『恵那も今からそっちに向かうよ。
詳しい事はみんなで話し合った方がいいと思うからね。』
「わかった、リリアナ達には俺から話しとくよ。」
『よろしくね王様。
あともう一つ。』
「何だ?」
『恵那は山に入ってたから詳しい事はわからないんだけど・・・。
沙耶宮家の様子がおかしいらしいんだ・・・。』
「馨さんのところか?」
『うん。何か極秘裏に企んでるみたいっておばあちゃんが言ってた・・・。
王様の方からちょっと聞いてみてくれないかな?
王様のいう事なら逆らえないと思うし・・・。』
「わかった。
俺の方でも確認してみるよ。」
『ありがと、王様。
其れじゃあ、直ぐそっちに行くからね~~。』
そう言って電話が切れた。
平和だった日々が終わってしまった。
すごく残念に思いながら俺はリリアナ達に連絡を取るべくそのまま携帯をとった。
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僕は今1人の男性の人と共に身を潜めていた。
「それにしても素晴らしい隠形ですね。
私も忍としてそれなりに自信があったんですけど・・・自信を無くしそうです。」
「そんなことありませんよ・・・甘粕さん。
貴方の方が上手く気配を消せているではありませんか。
僕なんてまだまだです・・・。」
「立場が違いますよ。
貴方はカンピオーネであり、魔力の量も多い。
その事と年齢を考えると私なんかより素晴らしい技術をお持ちだ。」
そう言って褒めちぎってくれるのは正史編纂委員会所属の馨お姉ちゃんの片腕である『甘粕 冬馬』だ。
この人は僕の片腕だからと馨お姉ちゃんが強引に僕達の側に引きずり込んだ少し可哀想な人だ・・・。
初めて会った時僕の事をカンピオーネだと知るととても驚いていた。
何でも僕のおじいちゃんに教わった事があるらしい。
少し懐かしそうに僕を見ていた・・・。
巻き込まれた彼は当初「安定した収入が・・・。」何て言っていたけど、馨お姉ちゃんとお話しした後は一転。
とてもやる気に満ちていた。
馨お姉ちゃん何を言ったんだろう?
そして僕達は今広い公園を見渡すことのできるビルの一室でとある人たちを監視していた。
話は先日に遡る・・・。
「それじゃあ、まつろわぬ神が草薙先輩の所に来るかもしれないって事ですか?」
「今の状況だとそうなるね・・・。
時間的にも封印は間に合わないだろうし・・・。」
「まったく・・・面倒な事になったわね。
あの人達だけで片付けてくれればいいのだけれど・・・。」
「僕達はまだ表だって動けない。
それに今はまだ僕は東京分室の室長の身だ。
彼への協力は拒めない・・・。」
僕達が日本で活動できるようにするため色々な準備をしていた頃、一つの問題事が転がり込んで来た。
それは考古学者の人がエジプトで発見された発掘品を研究のために持ち帰って来た事だ。
それだけなら問題はなかったのだが、それが神にまつわるものだったので問題だ。
エジプトにまつろわぬ神が現れたのも確認されている。
恐らくその発掘品を狙ってくるだろうって・・・。
僕達はこの件についてどのように対処するか話し合っていた。
その話し合いの最中にエリカさんの携帯が鳴った。
電話相手の名前を見て少し複雑そうな顔をしていた。
「少し外すわね。」
そう言って席を外す。
「誰だったんでしょう?」
「大体予想はつくよ・・・。」
エリカさんが居なくては話を進める事も出来ないので僕達は雑談をして待っていることにした。
と言っても今回の事の件だったけど・・・。
「今回現れる神様ってどんな神なんですかね?」
「詳しくはわからないな。
発掘された品は何かの獣の形をしていたみたいだけど・・・。
僕のところまで情報が降りてきていないんだ・・・。」
「??馨お姉ちゃんって東京で一番偉い人だったよね??」
「そのはずなんだけどね・・・。
僕達沙耶宮家が何かを企んでるんじゃないかって思われてるみたい。」
「それって・・・僕の事ですよね・・・。」
「そうだね、いったいどこから漏れたのやら。」
馨お姉ちゃんは軽くその事を話していたが、僕のせいで沙耶宮家の人達に迷惑をかけてる・・・。
そんな落ち込み始めた僕に、
「気にすることはない。
こうなることも予想はしていた。
それをわかった上で僕達沙耶宮家は君に付いて行く事を選んだんだ。」
「でも・・・。」
「そんな顔をするな。
これから君は僕達の王に為るんだ。
トップがそんな事じゃ皆が不安になるだろう?」
そう言って僕の頭を優しく撫でてくれる。
「それにもうあの地位の事はどうでもいいんだ。
今は君を隣で支えて行く事しか頭に無いよ。」
「馨お姉ちゃん・・・・・。」
撫でる手を止め僕の顔を覗き込んでとても嬉しそうに笑っていた。
そしてその顔は徐々に近づいて来て・・・。
「んっ、うん。
私がいない間に何しているのかしら?」
後ろから声が聞こえて慌てて馨お姉ちゃんから距離を取った。
ぼ、僕は何を・・・。
「案外戻ってくるのが早かったね。
もっと遅くてもよかったのに。」
「要件は簡単な物だったから。
残念だったわね。」
僕の二人の婚約者は怖いです・・・。
「エ、エリカさん。
電話、誰からだったんですか?」
僕が聞くと二人は睨み合いを止めこっちを向く。
エリカさんは少し困った顔をして、
「少し面倒な事になったわ。」
「どうしたんだい?」
「さっきの電話リリアナからだったの・・・。
今回の件で協力してくれないかって・・・。」
「やはりか・・・。」
「私も予想はしていたけど、本当にそんなことを言ってくるなんてね。」
「仕方ない、君はそれだけの騎士だ。
そんな君を使わない手はないだろう・・・。」
「光栄な事だけどね・・・。
本当は断りたかったのだけれど、断る理由がなかったわ。
それに王の命令に逆らうわけにもいかなかったし・・・。」
「今はまだ・・・ね・・。」
エリカさんは今回の件で草薙先輩に協力するみたいだ。
「大丈夫なんですか?
危ない事をさせられるんじゃ・・・。」
「前回に比べたらそこまでの危険はないと思うわ。
今回矢面に立つのは草薙王だし、彼のサポートも慣れているリリアナ達がするでしょうから。
私は何かあった時のための彼ら全員のサポートよ。」
「そうですか・・・。
良かったです。」
安心した。
絶対安全ではないだろうけど、エリカさんが神に挑む事が無さそうで・・・。
「僕はどうすればいいでしょうか?」
「昴には家待っていてもらいたいんだけど・・・。
嫌・・・よね・・・。」
「僕だけ待ってるなんて出来ませんよ。」
エリカさんが危険なところに行くのに僕だけ・・・。
「だったらこうしよう。
草薙さんに限ってないとは思うけど、もし破れてしまった時のために近くに控えていてもらう。
何かしらの緊急事態になったら計画は狂うけど昴君に対処してもらう。」
「昴が黙って待っていられないようだし、それが妥当ね。」
「わかりました。
僕は気付かれないように近くで待機して置けばいいんですね。」
「そういう事だ。
甘粕さんをつけるよ、彼は優秀だ。」
そして僕は甘粕さんと一緒に草薙先輩達を監視していた。
発掘品を封印することは諦めて、まだ完全に復活してはいないと思われるまつろわぬ神を迎え撃つことに決めたみたいだ。
その時ふと、何か強い力が近づいてくるのを感じた。
この感覚は・・・。
「甘粕さん、来ましたよ。」
僕は初めて他の神殺しの戦闘を見る事となった。