「お、おい、大丈夫か?」
昴が意識を失って倒れかけた所を支える。
あれだけの戦闘の後だ、倒れるのも無理はない。
「大丈夫とは言えないけど、心配するほどではないでしょう。
この後病院に連れて行くわ。」
「それがいいだろうな・・・。
草薙護堂のように蘇生の権能を持っているわけではないのだろう?」
草薙護堂の後ろに控えていたリリィが口を開く。
「今回新しい権能を手に入れたけど、恐らく違うでしょうね・・・。
いくら体が普通じゃないって言っても権能の有無は大きく違うみたいだから・・・。」
「そうだな。
権能を使っている時と使わない時とじゃ全然違うしな。
早く病院に連れて行って休ませた方がいい。」
「そうさせてもらうわ。」
私は昴を背中に背負いその場を去ろうとしたけど、
「待て、エリカ。
まだ聞きたい事を全て聞いたわけではないぞ。」
リリィに呼び止められた。
「手短にお願いできるかしら?」
「先程言っていた準備期間の間、何をやっていた。」
「簡単に言えば日本で活動できるように地盤固めかしら・・・。」
「つまり私達に文句を言われてもいいように味方を作っていたというわけか・・・。」
「その通りよ。
まず私は情報収集から始めたわ。
次にその情報を頼りに味方に付いてくれそうな人に声をかけて行った。
幸いにも昴の道場は魔術を使う場所、魔術関係者が多く来ていたわ。」
ほとんど沙耶宮家に絞っていたけど・・・。
「予定を早めたと言っていたが・・・。」
「言葉通りよ。
本当は夏休み前までじっくり準備してから発表するつもりだったのよ。
今回の事では止める事になったけどね。」
「なぜ夏休みなのだ?」
「それを教える義理は無いわ。」
この事をわざわざ教える必要はない。
今後草薙護堂とどう接して行くのかまだわからないのだから・・・。
「・・・エリカさん、日本でできた味方って誰なのかな?」
「・・・・・。」
「私達には言えない相手なのかな?」
「・・・・・。」
「・・・もしかして沙耶宮家じゃないかな?」
「ち、ちょっと待て。
沙耶宮家って馨さんの所じゃないか!!」
清秋院さんの追及には何も応えられない。
四家同士という事もある、口を挟まない方がいいだろう。
「王様にも言ったでしょ。
沙耶宮家が何か企んでるかもしれないって。」
「確かに言ってたけど・・・。」
「それで・・・エリカさん。
どうなのかな?」
「・・・・・そのことについては何も言えないわ。
ご自分で確認してもらえるかしら?」
暫く清秋院さんと視線を合わせる。
先に逸らしたのは清秋院さんだった。
「・・・なんとなくわかってたんだ。
恵那の勘ってよく当たるし・・・。
エリカさんからは何も聞かないよ。
確かにこういうのって本人たちから聞いた方がいいしね。」
そう言って後ろに下がってくれた。
「私からも一つよろしいでしょうか?」
次に口を開いたのは、今まで黙っていた万里谷祐理だった。
「神藤王は日本で何をするおつもりなのですか?」
「・・・・・彼ね、もう家族が全員亡くなってるのよ。」
突然関係ない事を話し出した私を訝しむように全員が見ているのがわかる。
私は背中にいる昴の方に顔を向けながら続ける。
「3月にお爺さんも亡くされて一人になってしまった。
そのお爺様の最後の言葉が、
『誰よりも優しく、そして強く生きろ。』
だそうよ。
理不尽に街が破壊されているのを目の当たりにしている事もあるんでしょうね。
戦える力を持っている自分だから、そういう人達を守りたいって・・・。」
昴はそういう子だ・・・。
自己中心的な人が多いカンピオーネの中で唯一誰かのためにその力を振るおうとしている。
「彼の活動目的は神話に纏わる災害から人々を守るためよ。
私達は彼の理念に賛同して彼の傘下に降った。
別に日本を如何こうするつもりは無いわよ・・・。
彼の家が日本にあるから、活動拠点が日本というだけね。
でも何をするにしても草薙護堂が障害となっていた・・・それだけの話よ。」
「・・・・・わかり・ました・・・。」
「もういいかしら?
そろそろ失礼するわ。」
「・・あ、ああ。
また学校でな。」
私はその場を後にし病院へ向かいながら携帯を取り出し、馨さんに連絡を取るのだった。
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僕は目を覚ますとそこは何もない空間だった。
「目覚めたね。
ここは『生と不死の境界』よ。
簡単に言うと『あの世の直前』みたいな感じ?」
声をかけてきた人の方に顔を向けるとそこにいたのは、かわいい女の子だった。
綺麗というより、可愛いと言った方が合う子だ。
僕は周囲を見渡してみる。
何もない空間。
全てが灰色に塗りつぶされている不思議な空間。
「あの・・・あなたは?」
「私はパンドラ。
ちゃんとした女神だから、息子の顔を見る為にわざわざ『不死の領域』から会いに来たのよ。」
「・・・息子って僕の事ですか?」
「そうよ。
ママって呼んでもいいのよ?」
「・・・お母さんじゃだめですか?」
そう問いかけると、プルプル震えながら下を向いてしまった。
「あ、あの駄目ですか?
駄目だったらママって呼びますよ。」
「・・・う・・うわーーーーーーい!!」
「うわっ!」
パンドラさん・・・・もといお母さん?が飛びついてきた。
「こんなに素直な子が新しい息子だなんて、お母さんとっても嬉しいよ。
いいよいいよ、これからもお母さんって呼んでね。」
「わかったよ、お母さん。」
そう呼ぶとうれしそうに笑ってくれた。
「それにしても最初の実戦から勝利を掴むなんてすばらしいね。
お母さんも鼻が高いよ。
でも気を付けなきゃ駄目よ。
私と旦那の子供ってなかなか長生きしてくれないのよ。
この間も2人死んじゃったし・・・。」
「???!!!
確かカンピオーネってエピメテウスとパンドラの落とし子でしたっけ。」
「その通り。
特に私は神殺しの支援者でもあるの、気紛れだけどね。
でもヒントを与えるくらいはするのよ・・・今回は必要なかったけどね。」
「そうなんですか・・・でもそうやって気にしてくれている人がいるってわかって嬉しいです。」
「本当にあなたは素直で可愛いはね。」
そう言って頭を撫でだした。
僕より年下に見える人に撫でられるのはさすがに・・・。
「恥ずかしいよ・・・。」
「ごめんごめん。」
やっとやめてくれた。
今更だけど自分より幼く見える母親ってどうなんだ?
「せっかく会えたんだから1つアドバイスをしてあげようかな。
神殺しになるような子はたいてい戦い方を弁えているものなのよ。
今いる息子達も剣の天才だったり、武術の天才だったり、色々ね。
だからこれからも自分の戦闘スタイルを貫き通しなさい。」
「自分を貫き通す・・・・・。」
「そうよ、それが出来ればあなたは世界最強よ。」
「ありがとう、お母さん。
これからも頑張るよ。」
自分が戦いたいように戦う。
結局はこのやり方しかないんだろう。
「ここでの事は地上に帰ると忘れちゃうんだけどね。
教えた内容は無意識領域に残るから安心して。」
「・・・・・。」
「ど、ど、どうしたの。
大丈夫だよ、覚えてないけど覚えてるから。」
「・・・ううん。
知識の事はいいんだ・・・。
でも・・・お母さんの事も忘れるんだと思うと・・・。」
せっかくお母さんが出来たのになぁ・・・。
落ち込んでいる僕を優しく抱きしめてくれた。
「ありがとう、そんな事言ってくれたのはスバルが初めてだったよ。
大丈夫、また会えるから。」
お母さんに抱きしめられている内に意識が徐々に途切れて行った。
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次に僕が目を覚ました場所は病室だった。
ベットの脇にはエリカさんと馨お姉ちゃんが座っていた。
「目が覚めたようね昴。」
「気分はどうだい?」
2人は安心したように微笑んでくれた。
「大丈夫そうです、体も何ともなさそうですし・・・。」
「カンピオーネの体ってすごいのね。
細かい傷はすぐになくなってしまったもの。
後は脇腹の火傷だけよ。」
脇腹を確認すると包帯が巻かれていた。
少しだけ違和感が残っている。
あれだけ盛大にやられたんだから仕方ないか。
「数日もすればきれいに治ると思うよ。
護堂さんがそうだったから。」
「そうですか。
良かったです。」
ここで二人の顔が真剣なものになった。
「昴君話しておかなくちゃいけない事がある。」
「・・・僕の事ですよね?」
「・・・そうよ、あなたが眠っている間に・・というよりあなたが参戦した時から馨さんが準備を始めたわ。」
「甘粕さんから連絡を受けてね、直ぐに僕の家と<赤銅黒十字>に連絡を入れた。
まあ、準備はしてきていたからそれほど大変ではなかったけどね、もう発表する準備はできている。」
色々と迷惑をかけたみたいだ。
僕の勝手な行動のせいで・・・。
「気にする事は無いさ。
僕の家族もエリカさんの家族も君らしいと笑っていたよ。」
「それでも皆さんには迷惑をかけてしまいました。」
「そう思うなら私達の王としてこれから頑張っていけばいいわ。
それに今回の功績を褒めてくれる人はいても怒る人なんていないわよ。
なんせ初の神殺しとしての戦闘で勝利して新たな権能を得て、さらに草薙王にも貸を作る事が出来たんですもの。」
「貸だなんて・・・。」
勝てた事はうれしいけど・・・別に貸を作ったつもりは・・・。
「貸の事は気にしなくていいわよ。
何かあった時のためのものだから。」
「そうだよ。
これからは何が起こるか分からないんだから。」
「・・・そうですね、わかりました。」
この事はエリカさん達に任せる事にしよう。
「それで、僕はこれからどうすればいいんですか?」
「さっきも言ったとおり、あなたの事を発表する準備は整ってる。
後はあなたが一言言ってくれればすぐにでも・・・。」
「・・・・これからエリカさんと馨お姉ちゃんには沢山迷惑かけると思います。
でも貴方達の事は僕が絶対に守ります。
もちろん他の皆さんの事も。
だからこれからよ良しくお願いします。」
「ええ、もちろんよ。」
2人は力強くうなずいてくれた。
その日新たな王の誕生が世界中に発表された。
日本人の高校生がカンピオーネになったと。
草薙王の戦闘に介入して彼の王を助けたと。
知っていて報告しなかった<赤銅黒十字>はやはり非難された。
しかしそこは僕の名前を出してもらった。
王の命令だった。
この言葉で大きな騒ぎは起きなかった。
沙耶宮家は正史編纂委員会の要職に付いていた人達がやめさせられた。
委員会の中には草薙先輩をすでに王と仰いでいる人が多く、さらにほかの四家からの非難が酷かった為だ。
しかし沙耶宮家にお世話になった人など力を貸してくれる人はかなり多いそうだ。
これも僕という後ろ盾があるからだそうだ。
少しでも力になれているのならよかった。
現在二つの組織には僕に関する情報を少しでも得ようと電話なんかが殺到しているらしい。
予想はしていたらしいが想像以上だったみたいで参っているそうだ。
そして僕の事を発表した数日後・・・。
「東京分室室長も辞めたし、もう昴君との関係を隠す必要もないからね。
今日からお世話になるよ。」
そう言って笑顔で僕の家の玄関に立っている馨お姉ちゃんはいた。
僕の後ろに立っているエリカさんの顔を見ることが出来なかった・・・。
この章はこれで終わりです。
次回は年明けになります。
何とか年内に切のいい所まで書けて良かった。
それでは皆様良いお年を。