本当はもう少し早く投稿する予定でしたが遅くなってしまいました。
これからも楽しんでいただけるように尽力させていただきます。
会談
あの戦いの後は静かな毎日を過ごしていた。
7月も近くなり日に日に気温が上がってきていたが、今日は梅雨明け最後の雨が降っていた。
気温もそれほど上がらず、ジメジメとした梅雨らしい一日だった。
僕は今、家の道場で正座をし前に座る2人を見据えている。僕の前に座っているのはエリカさんと馨お姉ちゃん。
2人は静かな表情で目を閉じ集中している。
そして2人は自らの体に氣を纏わせている・・・・・エリカさん達は魔力や呪力と言うらしい。
神道流にはひとつの決まり事がある。
それは本来の型、いわゆる氣を使う型は神藤家に認められた者でないと教えてはならないというものだ。
更に、型の前に一定以上の氣のコントロールを身に付ける必要がある。
それが出来るようになって初めて神道流を教わる事が出来る。
その氣のコントロールの基準が厳しく難しい為、型の習得まで至った人を僕は知らない。
改めて考えてみると僕は規格外だと実感する。
身内だから最初から一般向けの動きと共に氣のコントロールを教えてもらった。
周りの僕より大人の人達を横目にすぐにマスターした。
それでもおじいちゃんに認めて貰うまで数年掛かった。
普通なら数十年掛けて習得するものらしい。
その為現在道場に通っている魔術関係者の殆どは型の習得が目的ではなく、少しでも魔力のコントロールを良くする為に来ている。
そしてその事を僕もおじいちゃんも了承していた。
今日は雨、道場に僕達以外居らず3人で稽古をしていた。
「今日はこの位にしましょうか。」
2人は目を開け息を吐く。
「馨お姉ちゃんは流石です。
もう少しすれば神道流を教える事が出来るようになりそうです。」
「そうなのかな?でもそう言ってくれて嬉しいよ。」
馨お姉ちゃんは疲れているけど嬉しそうだ。
「エリカさんもすごく良くなってます。
最初に比べたら月とすっぽん程の差です。」
「そんな事無いわ。
自分の事は自分が1番わかっているから・・・。」
エリカさんは疲れた顔とその上に悔しさを滲ませていた。
僕は首を振る。
「大丈夫です。
当主である僕が保証します。
きっとパオロさん達が会ったら驚きますよ。」
安心させるように笑顔を作りながら言ってあげた。
「・・・ありがとう。
でも、もっと頑張らなきゃ。」
エリカさんの顔も笑顔になった。
「皆さん、ご飯の準備が整いましたよ。」
呼びに来たのはアンナさん。
「わかったわ。
昴、今日もありがとう、いい勉強になったわ。
先にシャワーを頂くわね。」
エリカさんは道場から出て行った。
「僕達も行こうか。」
馨お姉ちゃんに促され僕も着替えに自分を部屋に戻った。
夕食時には今日のお昼の話になった。
「そう言えば先輩はどうでしたか?」
「ああ、あの電話ね。」
「何かあったのかい?」
「はい、いつもはお昼を一緒に食べるのに今日は来なかったんです。」
「授業が終わったすぐ電話が掛かって来たのよ。
私は久し振りに昴と2人きりで食べれて嬉しかったわ。」
勝ち誇ったように馨お姉ちゃんを見ながら言った。
馨お姉ちゃんは悔しそうだ。
「そ、それでその電話は何だったんですか?」
「教室に帰ってみたら彼とても不機嫌でね。
リリィ達に聞いても知らなかったの。
一体誰だったのかしらね。」
「それなら予想は付くよ。」
「誰なんですか?」
「普段温厚な彼が電話だけで機嫌が悪くなる相手なんて数が限られるよ。
あの人もそろそろ我慢出来なくなったんじゃないのかな?」
「馨さん・・・もしかして・・・。」
「多分、イタリアの盟主サルバトーレ卿だろうね。
あの方は戦う事の大好きだから。
新しくカンピオーネになった昴君について聞こうとしたんじゃないのかな?」
「それであの人機嫌が悪かったのね。」
エリカさんは納得したみたいだ。
「どういう事ですか?」
「草薙護堂がサルバトーレ卿を毛嫌いしてるのよ。
サルバトーレ卿はライバルだと思っていて、とても気にかけているみたいね。」
「今まで2回戦って、2回共護堂さんが勝ってたはずだよ。」
「やっぱり護堂さんは強いんですね。」
「そうね、この1年で1番成長したのは彼でしょうね。」
「彼と戦う未来が来ない事を願うしかないね。」
「大丈夫ですよ。
この間、ちゃんと契約したじゃないですか。」
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僕達は戦いが終わった後、草薙先輩達と話し合いの場をもった。
場所は沙耶宮家の別邸。
「それにしても神藤が俺と同じだった何てな。
それと助けてくれてありがとな。」
「気にしないで下さい。
僕も今まで黙っていてすみませんでした。」
僕達はいつもと変わらない雰囲気で会話を続ける。
ひと段落ついた所で話を切り出したのはリリアナさんだった。
「神藤昴、ある程度の事はエリカに聞いたが詳しい説明をして貰ってもいいだろうか。」
「その事だったらあの時話した事が全てよ。」
「それじゃあ馨さんに聞こうかな?どうして王様を裏切ったのかな?」
清秋院さんが視線鋭く馨お姉ちゃんを睨み付ける。
「裏切った何て人聞きの悪い。
僕が護堂さんを手伝っていたのは、正史編纂委員会東京分室室長という立場だったからだよ。
別に僕個人が護堂さんに忠誠を誓った訳じゃない。
君達と違ってね。」
清秋院さんの視線を笑顔で流す。
この言葉には流石に万里谷先輩も表情が変わる。
「どういう意味でしょうか。」
「別に祐理達が苦労してない何て思っちゃいないよ。
でもね・・・。」
馨お姉ちゃんの顔が怖くなった。
「僕達の苦労も知らないで平和に暮らしたい何て言っている人に、忠誠を誓う事何て出来ないよね。」
馨お姉ちゃんの雰囲気に呑まれる先輩達。
「・・・馨さん?」
「ああ、申し訳ありません護堂さん。
恵那達もごめんね。」
「・・・別にいいよ。
びっくりしたけどね。
ついでだからもう1つ聞いていいかな?」
「いいよ。」
「何でそっちの王様に着いて行こうと思ったの?」
「そんなの簡単だよ。
彼が僕の婚約者だからだよ。」
「は?」
「えっ?」
「ん?」
「・・・。」
「沙耶宮馨、もう1度聞いていいか。」
リリアナさんが耳の調子を確認しながら聞き返してきた。
「彼は沙耶宮家次期当主沙耶宮馨の婚約者だよ。」
「「「「えええぇぇぇ~~~~~」」」」
「神藤昴、お前はエリカと婚約しているのではなかったのか。」
「恵那そんなの初耳だよ。」
「・・・私も知りませんでした。」
「・・・・・。」
数々の疑問がその場を飛び交う。
「まあまあ落ち着いて。
僕は子供の頃に神道流の道場に通っていた事があってね。
昴とは幼馴染同士なんだよ。
当時から彼の事が好きだった僕は、お爺様にお願いしたらいつの間にやら婚約者同士になっていたんだ。」
「・・・婚約者ってそんな簡単に為れるものなのか。」
「エリカはそれでいいのか。」
「私達の中でこの事はもう決着が着いているの。
どちらの婚約も昴の家族が決めたことだしね。
昴も王に為ったのだし、女を2人侍らせる位やってもらわなくちゃ。
それにそっちも似たようなものじゃない。」
エリカさんの指摘に先輩が顔を赤くしながら、
「前にも言っただろ。
皆とはそう言うんじゃないって。」
と言っていた。
それを聞いていたリリアナさん達は寂しそうだった。
「この話はこれでいいじゃないか。
そろそろ本題に入ってもいいんじゃないかな。」
「沙耶宮馨の言う通りだな。
草薙護堂、どうされますか?」
いきなり話を振られた先輩は戸惑いながらも、
「どうするも何も、俺の考えはこれからも変わらないよ。
俺はこれからも平和に暮らしたいんだ。」
「それは今後日本で起こりうるすべての神話に纏わる出来事を昴に任せて貰えると言う事でいいのかしら。」
「待てっ、エリカ。
それはいくらなんでも・・・。」
「黙りなさいリリィ。
私は王である草薙護堂に聞いているのよ。
それで、どうなのでしょう。」
「ああ、それで構わないよ。
好きにすればいい。
厄介事が無くなって、俺は万々歳だ。」
言質をとったからか、エリカさん達の顔がすごく怖い。
逆にリリアナさん達は険しい表情をしている。
「よろしかったのですか、護堂さん。」
「別にいいじゃないか、厄介事を全部引き受けてくれるって言っているんだし。」
「考えが短絡的すぎます。」
「そうだよ王様。
これから日本で起こること全部任せるってことは、要するに私達に手を出すなって言ってるようなものなんだよ。」
「??それのどこが問題なんだよ??」
「大問題です。
考えても見てください。
これから起こりうるすべての出来事です。
その中には期せずしてあなたが持ち込んできてしまう出来事もあるでしょう。
例えば未だ決着のついていない『彼』との戦いもそうです。」
先輩の表情が変わった。
「そう言った事が起こった際、全て神藤昴に任せると、あなたはそうおっしゃったんですよ。」
「それは・・・。」
「だから言ったのです。
考え方が短絡的だと。
いい加減王としての自覚をお持ちください。」
「・・・・・。」
とうとう先輩は黙ってしまった。
「どうかしたのかしら?」
エリカさんはわかっていながら、すごくいい笑顔で問いかける。
「・・・・・エリカ、もしよかったらさっき言った事を取り消してもいいか。」
「あら、どういう事かしら?
貴方は平和に暮らしたいから、全部私達に任せてくれるんじゃなかったのかしら?」
「いや・・・それは・・・。」
「エリカさん、相手は仮にも王なんだ。
それにこれまで日本を守ってきた実績もある。」
エリカさんは1つ息を付き、先輩を見つめる。
「わかったわ、新参者は私達なんだしね。
だったらこうしましょう。
貴方の考えを考慮した提案よ。」
「・・・・・。」
「まず第1に貴方が進んで戦いたいと思った場合私達は邪魔をしない。
ただしその場合には私達に一言連絡を入れて頂戴。
もちろん私達も連絡を入れさせてもらうわ。
第2にそれ以外の事に付いては一切手を出さないで。
そして最後に、私達がどちらも事にかかわっていた場合。
この場合は、早い者勝ちの恨みっこなしにしましょう。
たとえどんな因縁があったとしても、先に連絡をいれた方がそのことに対応する。
その場合相手に一切干渉しない。
もちろん協力を求められた場合は別ね。
どうかしら?」
先輩はしばらく目をつむり考え込む。
目を開けると、小声でリリアナさん達と話し合う。
決まったのかこちらに向き合う。
「神藤に1つ聞きたい。」
「何でしょうか?」
「もしその戦いに大切な人の命がかかっていたとしてもお前はこの契約を守れるのか。」
「・・・・・守ります。」
「自分で助けたいとは思わないのか。」
「もちろん自分で助けたいです。
でも、それが約束を反故にしていい理由にはなりません。
それに先輩になら任せられます。
信頼してますから・・・。
もちろんそうなった場合には協力を申し出ると思いますけど。」
「・・・・そうか。
わかった、俺達はこの契約を呑もう。」
先輩は僕に手を差し出してきた。
その手をしっかりと握る。
「これからもよろしくな。」
「はい、よろしくお願いします。」
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「あの人は、その場その場で考えを変える人だからなぁ・・・。」
「警戒するに越した事は無いのよ。」
「・・・・・わかりました。」
不満そうな僕を、2人は苦笑しながら見ている。
隣に座っているエリカさんが頭を撫でてくる。
「それよりも昴、もうすぐ夏休みだけどあなたは予定があるのかしら?」
空気を変える為、エリカさんは話題を変えた。
「夏休みですか?
いえ、まだ何も決めていませんけど。」
「そう、ならよかったわ。
せっかく王として活動を始めるのだし、夏休みの間に魔術界に人脈作りに行きましょう。」
「???」
「大丈夫よ、悪いようにはしないから。」
そう言うエリカさんの顔はとても楽しそうだった。