神の呪力が爆発した。
まつろわぬアグニが放った呪力が街を覆い尽くす。
そしてその呪力が火神の真骨頂である炎に変えられた。
瞬く間に街は炎に包まれた。
ここでエリカは我に返り自分の失態を悟った。
住民の避難が先だった。
近くにいたであろう魔術師と協力して一人でも多くの住民の避難させるのが先だった。
エリカは浮かれていたのだ・・・まつろわぬ神に会う事に。
それがこの大惨事につながってしまった。
これでは送り出してくれた叔父様に面目が立たない。
そしてこんな失態で躓いていてはエリカ・ブランデッリとしての誇りが許さない。
エリカは顔を上げ、すぐさま行動を開始する。
私はとっさに結界を張って火傷程度で助かったが私以外のこの場にいた人は全滅だ。
人っ子一人見当たらない・・・全員消し炭にされたのだ。
この辺りは手遅れだが街の外延部に行けば生きている人は多くいるはずだ。
しかしエリカは動けなかった。
神が・・・まつろわぬアグニが此方を見ていたのだ。
「どうだ女、我の力は。」
エリカは悟る。
まつろわぬアグニをここから動かしてはだめだと。
もともと神話の火というのは、人間の日常生活に必要不可欠なものだが、その一方で人間を死にも至らしめる恐ろしい存在でもある。
住民の避難は駆けつたであろう他の魔術師に任せる。
自分は震える体を無理矢理抑えこのまつろわぬアグニを鎮める為に尽力する。
「まつろわぬアグニ様、御力は十分に見させて頂きました。
お願い申し上げます、どうかそのお心をお鎮め下さい。」
「何を言うか、こんなもの序の序に過ぎんわ。
まだまだこれからだ。
もっとだ。はははははははははは。」
そう言うと先程の比ではない呪力が炎となり、炎玉が数十も街に放たれた。
そしてその内の一つが此方に飛んで来ている。
これは無理だ・・・どうしようもない。
私の結界なんか紙屑同然だ。
こんな所で終わるのか・・・。
炎玉に呆然と立ち尽くす事しか出来なかった私は当たる直前目を閉じた。
??
衝撃が来ない。
何も感じる事なく消えたのだろうか。
しかしまだ体の感覚はある。
恐る恐る目を開けるとそこには・・・。
「エリカさんじゃないですか。
大丈夫ですか?立てますか?早く避難しましょう、案内します。」
今日一日一緒に街を歩いた、弟の様に思っていた少年の姿があった。
Side 昴
『神道流』
それは古くから我が家に伝わる古武術の一種だ。
体内に眠る『氣』を体に纏い攻撃する。
子供の頃は言われるがままに鍛錬を続けていていた。
だから当時は何とも思わなかったが『氣』って何?
そんなのあるわけないじゃん。
友達にもそう言われた事がある。
けど実際に自分の中に氣が流れているのがわかるのだ。
おじいちゃんに相談した事もあった。
「皆『氣』なんか無いって言うんだよ。
どうして皆無いっていうの?」
「『氣』は誰の中にでもある。
みんなそれに気付かないだけじゃ。
スポーツ選手なんかじゃと無意識に使っている者もおるがな。」
なんて楽しそうに話してくれた。
その時に僕は『氣』は誰にでもあるけど、誰もが使えるわけじゃないんだとわかった。
炎の中に飛び込んだ僕は周囲の氣を感じ取ろうとしたがとても大きな氣が邪魔して全然わからなかった。
しょうがなく近くにいる人から声を掛け(言葉は通じない)街の外に避難させていった。
この時僕は全身を氣で覆って身を守っていた。
なので熱くなった瓦礫を触っても大丈夫。
体も強化されているから重い物も持ち運べる。
しかしこの炎はなんだろう?
とても強い氣が含まれている。
いや氣で出来ていると言ってもいい。
そんな事が可能なんだろうか?
避難誘導を続けながら他の住民を探していると、街の中心まで来ていた。
この辺りまで来るとどんどん氣が強くなってるな。
街の中心には二人の人がいた。
一人は人間とは思えないほどの氣を放っている者もう一人は・・・。
その時とんでもない氣を放っている人が街中に火の玉を放った。
突然の事に驚いたが火の玉がその場にいたもう一人の人の所にも向かっていた。
すぐさま駆け出しその人の前に躍り出る。
「はっ!!」
拳を握り締め、その拳に氣を少し多めに込める。
そして火の玉に向けて下から上へ殴りあげた。
何とか軌道を変える事に成功し火の玉は上空へ飛んで行った。
あっつっ!!
何だあれ。
氣を込めたのにこんなに熱いなんて・・・。
殴った手を見てみると少し赤くなっていた。
後ろの人が動いた気がして振り向く。
そこには今日街を案内してくれたエリカさんがいた。
「エリカさんじゃないですか。
大丈夫ですか?立てますか?早く避難しましょう、案内します。」
声を掛けるとエリカさんはすごく驚いていた。
まあ、ホテルで別れたのにこんな所に僕が居たら驚くよな。
「こんな所で何してるの。
早く逃げなさい、死にたいの。」
「いや、だから一緒に・・・。っ!!」
背後からまた火の玉が飛んでくる気配がして振り向きざまに拳を振り抜き弾き返した。
「っ!!あなたはいったい・・・。」
それを見てエリカさんはまた驚いていた。
まあ普通驚きますよね。
人間こんな事出来ないもんね。
・・・それよりも。
「エリカさん・・・僕は目がおかしくなったんでしょうか。
あの人さっきから火の玉を飛ばしている様に見えるんですけど・・・。」
「あなたに言ってもしょうがないけど、あれはまつろわぬ神よ。
人がどうにかできる存在じゃないわ。
あなたは早く逃げなさい。」
そう言うと震えている体で何とか立ち上がり僕の前に進み出た。
「エ、エリカさん、避難するなら一緒に・・・。」
「私はここから逃げられない。
あの方をここで暴れさせてしまった原因は私にある。
何とかして鎮まってもらわないと。」
こう話している間もエリカさんがまつろわぬ神と呼んだ人は街中に火の玉を放っている。
「何やってるんですか、やめてください!!」
「ん??私に指図する人間はお前か??
神である私が何故お前如きの言う事を聞かねばならん。
身の程を弁えろ!!」
突然あの人から発せられる氣の質が変わった。
何だあれは・・・逆らえない。
僕はその場に膝を付き頭を下げてしまっていた。
隣にいたエリカさんも同様だ。
「そうだ、それでいい。」
ああ、エリカさんの言っていた事がわかってしまった。
あれは人間じゃない・・・神なんだと。
「ふむ。
余興はこの辺でいいだろう。
女こっちに来い。
お前を生贄に新たなまつろわぬ神を降臨する。」
「っ!!」
何だ??どういう事だ??
よくわからないが拙い状況な事はわかる。
あいつは普通じゃない。
恐らく言葉通りにエリカさんを生贄だかにしてしまうつもりだ。
エリカさんは逆らえないのか立ち上がりあいつの方へと近付いて行く。
止めたいけど体が動かない。
どうする、どうする。
このままじゃエリカさんが・・・。
エリカさんは今日会ったばかりだったけど・・・とても楽しかったんだ。
とても優しくしてくれたんだ。
何だか懐かしい感じがしたんだ。
エリカさんを生贄になんてさせない。
エリカさんを助けるんだ。
エリカさんを・・・・・・。
「ああああああああああああ。」
僕は雄叫びを上げながら立ち上がった。
「ほう。
私の呪縛を解いたのか。
面白いな人間。
私を楽しませてくれるか。」
神様の興味がこっちに移ったためかエリカさんの拘束も解かれている。
振り返ったエリカさんはまたも驚いた顔をしていた。
「昴・・・本当にあなたは。」
「人間まだおぬしには名乗ってなかったな。
我が名はアグニ。まつろわぬアグニだ。」
「僕の名前は神藤 昴。」
「神藤 昴か。
そういえば二回ほど私の炎を弾いていたな。
暫し私の遊び相手になって貰おうか。」
「僕はあなたを止める。
もう街を傷付けさせない。
エリカさんを生贄に何てさせない。」
僕は内に留めていた「氣」を開放させる。
「神道流当主・神藤 昴。いざ参る。」
僕はまつろわぬアグニに向かって駈け出した。