決闘から一夜明けた朝。
僕達は朝食を食べながら今日はどうするのかを話し合っていた。
「二人は初日にミラノの主要観光地を見て回ったのよね。」
「そうだね、途中でハプニングはあったけどほとんど見て回ったね。」
「・・・どうしようかしら?」
「そんなに悩まなくてもいいんじゃないかな?」
「そうですよ。
僕たち三人言葉に困ることはないですし、普通に街を見て回るだけでも楽しいと思いますよ。」
「それもそうね。
それじゃあ朝食を食べ終わったら早速出掛けましょうか。
私欲しい物があったのよね。」
そう言ったエリカさんは朝食の間終始楽しそうにしていた。
まあ、エリカさんだけじゃなくて、僕と馨お姉ちゃんもだったけど。
楽しみだな!!!!
朝食を食べ終わった僕達は早速街へと繰り出した。
「何処に行きましょう?」
「そうだな・・・僕は少し服を見たいかな。」
「いいわね、最近忙しくてファッションの気を配る余裕がなかったから。」
という事で、エリカさんお勧めの服屋に行く事になった。
そしてついて行った事にとても後悔した。
「昴、これなんてどうかしら。」
試着室から出てきたのは下着姿のエリカさん。
・・・・・・・・・。
服屋に入ったのはいいけど、ここには女性物の服にか扱っておらず、僕には用のない店だった。
あたりまえだけど女の人しかいない。
一人になるのは得策ではないと判断して、エリカさん達の後ろをついて歩いていた。
僕の思いも知らずに二人は楽しそうに服を物色している。
「いい店だね・・・うん・・すごくいい。」
「気に入ってくれたのなら私も嬉しいわ。
馨さん、こういうのが似合うんじゃない。」
「うーん・・・僕はあまりスカートっていうものを履かないからなぁ。」
「だからいいんじゃない。
偶には馨さんのきれいな脚を見せてあげたら、昴も喜ぶと思うわよ。」
そう言われて馨お姉ちゃんが僕の方に顔を向ける。
僕は話を聞いていなかったから突然見つめられて戸惑ってしまった。
「・・・そうだね。
ちょっと試着してきてもいいかな?」
「ええ、構わないわよ。
ちょっとそこのあなた。」
馨お姉ちゃんはエリカさんの呼んだ店員に連れられて離れていった。
「エリカさん、馨お姉ちゃんは?」
「少し試着してくるそうよ。
昴も後で感想を言ってあげなさい。」
「????
わかりました?」
「私も少し見ておきたい物があるの。
昴の意見も参考にしたいから付いて来てもらってもいいかしら。」
そうして連れられて来た所は・・・。
「エ、エ、エ、エリカさん。
ここって・・・。」
・・・下着売り場だった。
「ほら昴、これなんてどうかしら?」
エリカさんは気にせず僕の意見を聞いて来ている。
女の人の下着を直視できるわけもなく、僕は下を向いて顔をあげることができない。
「やっぱり着けてみないとわからないわね。
私も少し試着してくるからそこで待ってなさい。」
「えっ、あの、エ、エリカさん。」
エリカさんは一方的にそう告げると何着かの下着を持って試着室に入って行ってしまった。
そしてそこに取り残された僕。
周りからの視線が辛い。
エリカさん・・・お願いだから早く出てきてください。
少し前まで早く出て来てと思っていた僕はどうかしてた。
だって試着室から出てきたエリカさんは下着姿だったから。
「昴、これなんてどうかしら?」
ホントはすぐに目を背けなくちゃいけないはずなのに、視線を外すことができない。
透き通るような白い肌。
豊満な胸に、くびれた腰からお尻に向けたライン。
女の人でも見とれるようなプロポーションを前に顔が赤くなってくる。
「昴?
・・・見とれてくれているのは嬉しいけれど、そんなに見つめられたら恥ずかしいわ。」
視線を外せずにいたら、エリカさんは身を捩りながら少し恥ずかしそうにしていた。
「ご、ごめんなさい。」
「いいわよ。
それよりこの下着どうかしら?」
「いや・・・あの・・。」
どう答えたらいいのかわからず、あたふたしていた所に後ろから声がかかった。
「とても楽しそうな事をしているね、二人とも。」
少し声に怒気が含まれていたような気がするけど、この際気にしない。
助けが来たと思って振り向いたらそこには・・・。
「・・・・・馨・・お姉ちゃん?」
「そうだよ、どうかな昴君?
君の意見を聞きたいんだけど・・・。」
そこに立っていたのは何処のお嬢様かと見間違えるほどの女性だった。
もちろん馨お姉ちゃんなのはわかっている。
でも再開してから来ていた服はいつも男物だったので、思わず確認してしまった。
白色の丈の長いワンピースの上から水色のカーディガンを羽織っている。
頭には白いつばの広い帽子をかぶっていて、馨お姉ちゃんのきれいな顔を際立たせている。
今までとの印象ががらりと変わって、とても女の子らしくなっている。
「・・・す、すごく綺麗だよ。
お、思わず見とれちゃった///。」
「そ、そうかい?
褒めてくれたのなら試着してみたかいがあったかな。」
二人で顔を赤くしていると、
「馨さん、とてもよく似合っているわ。
それに、昴も喜んでくれたでしょ?」
いつの間にか着替え終わっていたエリカさんが僕の横に立っていた。
「こんな恰好をしたのは子供の時以来でね・・・さすがの僕もちょっと恥ずかしいんだ。」
「恥ずかしがる事ないわ。
昴だってそう思うでしょ?」
「は、はい。
とても似合ってます。
いつもの服装はかっこいいけど、今はすごく綺麗です。」
僕がそう言うと馨お姉ちゃんはさらに顔を赤くしてしまった。
そんな馨お姉ちゃんを見て、エリカさんは呆れながら、
「今日はそのままの格好でいたらどう?」
「い、いや、さすがにそれは。」
「そうだよ、馨お姉ちゃん。
似合っているんだから、きょう一日位そのままがいいよ。」
「決まりね。
申し訳ないけど、彼女の服買い取らせてもらうわ。」
エリカさんが店員さんにそう告げてしまい、馨お姉ちゃんは戸惑いながらも嬉しそうにしていた。
僕達は服屋を後にし、色々な所を見て回った。
日本では見た事の無い変わった物が置いてある雑貨屋さんだったり、
お昼には日本の大衆食堂のような所で、地元の人に囲まれながら食事をしたり・・・。
そして今僕達は以前三日前にも来たドゥオモ大聖堂のある広場まで来ていた。
この前も思ったけど、凄く存在感がある建築物だなぁ。
「そろそろ日も暮れだす時間ね。
結社に向かいましょうか。」
「その前に話があるんだけどいいかな?」
「・・・どうしたの?」
いぶかしげに馨お姉ちゃんを見つめるエリカさん。
それを無視する形で馨お姉ちゃんは僕を真っ直ぐに見つめてくる。
「・・・昴君。
以前君に僕の気持ち伝えたことを覚えているかな?」
「えっ!!!!」
「・・・その様子だと忘れていたみたいだね。
僕は君のことをずっと弟のように思っていた。
でも武術であっという間に追い抜かれ、すぐに差をつけられて・・・。
少し寂しい気持ちもあったけど、それ以上に強くなっていく君がとてもかっこよかったんだ。」
馨お姉ちゃんは話し続ける。
初めて聞く馨お姉ちゃんの僕への思い。
突然の事でとても驚いたけど、真剣に話す馨お姉ちゃんの言葉に耳を傾ける。
「道場を辞めなくちゃいけないと知らされた時、その時始めて僕は君に対する気持ちに気付いた。
僕は昴君の事が大好きだよ。
もちろんエリカさんが居る事もわかってる。
例えドンな返事でも君に協力する事は変わらない。
昴君・・・君の正直な気持ちを教えてくれないかな。」
僕の正直な気持ち。
僕は・・・。
「僕にとって馨お姉ちゃんは憧れの存在だった。
いつも僕を気遣ってくれて、優しくて・・・。
一緒にいて安心できる、家族以外でそう思える唯一の人だった。
再会した時は嬉しかった。
綺麗になっててドキドキした。
婚約者だって知った時、驚いたけどすごく嬉しかった。
約束通り、ずっと傍にいて馨お姉ちゃんを守れるって。
・・・・・でも。」
言わなくちゃいけない。
例え傷つける事になったとしても。
僕が口を開こうとした時、今まで口を閉ざして見守っていたエリカさんが声を上げた。
「昴!!!!」
「!!!!」
驚いてエリカさんの方を振り向くとそこには笑って微笑んでいるエリカさんが居た。
「昴、私の事を気にしなくてもいいのよ。
自分の気持ちを正直に言いなさい。」
「えっ!!」
エリカさんはそう言うと黙って頷いてくれた。
・・・自分の気持ちに正直に。
僕は決意を固め馨お姉ちゃんの方に顔を向ける。
「馨お姉ちゃん・・・ううん、馨さん。
僕は神殺しだ。
これからは普通の生活なんてできないし、誰かを幸せにする事だってできないかもしれない。
それに既に他の人を愛すると誓っています。
・・・・・それでも・・・・それでも・・僕は・・・。」
「・・・昴君。」
「・・・それでも僕は、馨さんとずっと一緒にいたい。
あなたを守るのは他の誰でもない、僕だ。
こんなどうしようもない僕だけど・・・こんな僕でよければずっと一緒にいてくれませんか?」
僕は彼女の目を見つめたまま右手を差し出す。
そんな僕をじっと見つめる馨さん。
次第に彼女に目に涙が溜まってくる。
そして彼女は僕の手を取るのではなく、僕に抱き着いてきた。
「ありがとう、昴君。
大好きだよ。」
「はい、僕もです。」
僕から始めて彼女にキスをした。
彼女の頬に涙の雫が伝っていくのが分かった。
暫く抱きしめあっていたら、
「うっうん!!」
とエリカさんの咳ばらいが聞こえた。
「とってもいいところ悪いけど、もういいかしら?」
「す、すみませんエリカさん。」
「ああ、悪かったね。」
少し機嫌が悪そうだ。
そりゃそうか。
「エ、エリカさん、あ、あの・・・。」
「いいのよ、前々からわかっていた事よ。
神殺しであるあなたの寵愛を私一人が独占できるなんて思っていなかったから。
それに・・・。」
そう言ってエリカさんは馨さんを見つめる。
「彼女とならいい関係でいられそうだしね。」
「僕もそう思うよ。
エリカさんこれからもよろしく頼むよ。」
「こちらこそ。」
二人は固く握手をするのだった。
「そろそろ帰りましょ。
もう叔父様達も戻っているでしょうし。」
「はい!!」
僕達は三人並んで結社に向かって歩き出したのだった。