私の名前はアリス、周りからはプリンセスアリスと呼ばれたりしています。
グリニッジ賢人議会の元議長で自分でも世界有数の魔術師だと自負しております。
3月にアレクサンドルの追い続けていた『最後の王』との戦いも一先ず落ち着いて、少しはゆっくりできると思っていた所に、ある報告が上がってきました。
イタリアに顕現したまつろわぬ神の事について、事に当たっていた赤銅黒十字が何か隠しているというものでした。
議会の者達が現地調査に行ったところその場に神は封じられていなかった。
私達はすぐに赤銅黒十字に説明を求めましたが、「調査中」の一点張り。
私個人昔から繋がりがあったパオロ・ブランデッリと連絡を付けてみても教えてはくださらなかった。
ただ一言「近い内にわかる」、その一言だけでした。
その後パオロの姪であるエリカ・ブランデッリが日本に行ったという報告も上がってきました。
日本には草薙護堂様が居られます。
何か関係があるかと探らせましたが、何でも婚約者のお世話に行ったとの事。
その婚約者について調べさせていた時、事件は起こりました。
日本に現れたまつろわぬ神と戦っていた草薙様。
そこに突然エリカ・ブランデッリと日本の呪術者を伴い、戦いに割って入った者が現れたそうです。
その御方の名は神藤昴。
新たに生まれた神殺し。
報告には草薙様の獲物を横取りしたとありました。
・・・その後王同士の会談の場を持って和解したとの事でした。
今後日本では二人の王を中心に勢力争いが起こるのではと私達は考えています。
夏になり赤銅黒十字からこんな打診がありました。
『我らが王、神藤昴様が賢人議会の方との会談を望んでいる。』
議会の方達は慌てて、多くの王と面識があり懇意にもしている事から私に協力を要請してきました。
実際はこれより前に、パオロ様から『我が王と会ってくれないか』という話が来ていましたから、予定通りに私が動く事になりました。
私が動こうとしたら周りの方々がうるさいですからね・・・それを見越しての事だったのでしょう。
会談の数日前、突然会談が中止になってしまいました。
何でも、サルバトーレ卿が神藤様に決闘を申し込み、神藤様もそれを了承したという事でした。
そしてその決闘はリアルタイムで中継するという事で世界中の呪術者が注目していました。
私も新たな王の姿、そしてその力も拝見するチャンスという事で楽しみにしていました。
決闘場が映し出され、そこに居た二人の王が対峙している場面だった。
事前情報通り、いくつかのルールの下、決闘を行うみたいです。
神藤様は武術家と聞いておりましたけど、今は手に剣を持っております。
周りで一緒に見ている方達も剣の王に剣で挑むなど無謀だと言っています。
確かに神殺しの方達はいずれも自分流の戦い方を持っております。
それはいくら最近生まれた王と言っても知っているはず・・・。
何か考えがあっての事でしょうか?
結果としましては、神藤様の勝利。
始めはサルバトーレ卿が有利だと思われていましたけど、次第に巻き返し最終的に神藤様の一撃が決まり終了。
そこで映像は切れてしまいましたけど、神藤様の力も一端を知る事ができてとても有意義な時間でした。
後日スケジュールを調整し再び神藤様と会談をする事になりました。
護衛は二人。
議会の中でも屈指の使い手。
神殺しには石ころと大して変わらないけれど、一応連れて行くように言われました。
私はアストラル体でいくので危険なのは護衛の人達だけの様な気もしますけど・・・。
赤銅黒十字の本社に到着しました。
車を降り辺りを確認します。
普段だったらもっと多くの人で賑わっている時間なのに誰もおりません。
今日のために人払いをしたのでしょう。
そこで今日一つ目の驚きを目にしました。
エントランスに迎えが来る事は予想していましたけれど、エリカが一人でいると考えていました。
だっていくつかの情報から、神藤様はすでに亡くなったヴォバン侯爵のような方だと予想しておりましたから。
草薙様の獲物の横取り。
出会ってすぐサルバトーレ卿と決闘を決めた好戦的考え方。
大手の結社である赤銅黒十字が傘下に入った事から、王の権力で命令。
赤銅黒十字から明確な発言がなかったのは脅されているからだと考えていました。
しかしエントランスで待っていたのは、エリカ・ブランデッリと情報にもあった日本の呪術師沙耶宮馨。
そして神藤昴様。
護衛の二人も一瞬でしたが驚きを隠しきれていませんでした。
「わざわざお越しいただきありがとうございます。
初めまして、この度新しく神殺しとなりました神藤 昴と申します。」
私達が歩み寄ると、とても丁寧に挨拶をしてくださいました。
もしかすると、私達は大きな勘違いをしていたのかもしれないのですね。
今日はとても有意義な時間になりそうです。
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僕達はあの後すぐアリスさんを会談場所に案内した。
そして今僕達は相対してソファーに座っている。
僕の後ろにはエリカさんと馨さんが、アリスさんの後ろにも付いて来ていた人が控えている。
「改めまして神藤昴です。」
「アリス・ルイーズ・オブ・ナヴァールです。
気楽にアリスとお呼びください、昴様。」
「それなら僕も昴とお呼びください。
様付されるのはいつになっても慣れなくて・・・。」
「申し訳ありませんがそれは出来かねます。
昴様は神殺しの王であらせられるのですから。」
はっきりとした拒絶。
やっぱり慣れないな、こういうの・・・。
「今日はこちらに足を運んでくださりありがとうございます。
本当でしたらこちらが伺うべきなのに・・・。」
「王自らなど・・・そんな恐れ多い事をさせるわけにはいきません。」
恐々としてそう訴えてくるアリスさん。
やっぱり神殺しの印象なんてこんなもんなんだよなぁ・・・。
「それにわざわざ厄災の魔王を我らが守護する地に入れるわけにいくか。」
そういったのはアリスさんの後ろに控えていた一人だ。
何か会った時から視線を感じるとは思っていたけど、凄く嫌われているみたい。
「ステイル!!
申し訳ございません、後で注意しておきますから何卒命だけは。」
すぐさまさっきの人・・ステイルさん?を注意し、頭を下げてくる。
「いえ、別に気にしていませんから。」
「ありがとうございます。
・・・それで今回はどういったご用件でしょうか。」
「パオロさんからは何と?」
「いいえ。
『我が王から話がある』としか聞いておりません。」
「・・・そうですか。
神殺しとなったご挨拶をしようと思いまして・・・。」
僕の発言に相手側は全員ぽかんとしている。
??そんなに変な事言ったかな??
すぐに我に返ったアリスさんは聞き返してくる。
「ご挨拶ですか?
・・・まさかそれだけのために?」
「い、いえ、それだけと言うわけではありませんけど・・・。
どうかなさいましたか?」
「・・・・・。」
何やら訝しげに僕を見つめている。
警戒させるような事を言ったつもりはないんだけどな・・・。
僕はなるべく話の主導権を握れるように先に口を開いた。
「この度神殺しとなったので、今後の事も考えて挨拶をと思ったんです。
これから戦う事も多くなると思いますし、たくさん迷惑をかけるかもしれませんから・・・。」
「・・・そうでしたか。
今までそのような事をなさる神殺しの方はいらっしゃらなかったので、少し驚いてしまいました。」
「パオロさんにも言われてしまいました、前代未聞だって。」
ははは、と苦笑しながら話す僕を見てアリスさんも笑い返して、
「昴様は思っていたよりずっと真面目な方みたいですね。」
「??」
その言葉の真意が分からず首をかしげていると、
「昴様は赤銅黒十字を脅して自らの傘下にし、草薙様の獲物を横取り、さらにサルバトーレ卿との決闘。
これらの情報から多くの人からヴォバン侯爵の再来だと噂されていますよ。」
僕は言われた事を噛み締めながらゆっくり後ろを振り返る。
「・・・・・ヴォバン侯爵って確か好き勝手過ごしていたっていう。」
「ええ、そうね。
私達もその噂は知っていたけど、別に知らせる必要もないと思って言わなかったの。」
「それに、赤銅黒十字の人達はみんな君が優しい王だってわかっていたからね。」
ここにいる人達はみなさん良くしてくれているし、僕自身そんなつもりこれっぽっちも無かったから知らなかった。
ちょっとショックだ。
僕って周りからそんなふうに思われていのか・・・。
落ち込んでいる僕を見て楽しそうにしているアリスさん。
「その噂もどうやら間違いのようですね。
実際会ってみないとわからないものです。」
「・・・誤解が解けたみたいでよかったです。」
後ろの護衛さんはまた僕の事を疑っているようで睨みつけている。
そんな視線に居心地の悪さを感じていると、アリスさんが口を開いた。
「・・・先程はご挨拶だけと言っておられましたけど・・・・・本当にそれだけという事わけではないのでしょう?」
アリスさんは笑顔のまま本の少しだけ視線を鋭くさせて僕の目を見てくる。
簡単に警戒を解いてはくれないか・・・。
「・・・御見通しのようですね。
確かに挨拶だけというのは嘘です、すみません。」
うっ!!
護衛の人の視線に殺気が加わった。
「・・・別にかまいません。
それと、あなた達いくら警戒しているといってもその殺気は抑えなさい。
いくら温厚そうに見えても相手はカンピオーネなのですよ。」
アリスさんのおかげで鋭い視線は変わらないけど殺気は無くなった。
「度々護衛の者達が申しわけありません。」
「・・・いえ、助かりました。」
「そうですね・・・もし宜しければ昴様が神殺しに至った経緯などをお聞かせ頂けませんか?」
「僕の話ですか?
別にかまいませんよ。
僕達も最初から信じてもらえるとは思っていませんでしたから。
始めからある程度の情報提供はするつもりでした。」
「そうでしたか。
でしたら早速お願いしてもよろしいですか?」
そこで今までずっと様子を見守っていたエリカさん達が口を開いた。
「そのお話は私達からさせていただこうと思いますが宜しいでしょうか?
ご挨拶が遅れまして申し訳ありません、プリンセス・アリス。
御久し振りでございます。」
「久しぶりね、エリカ。
確か数年前にパオロ様を訪ねた時に会って以来かしら?」
「はい。
今は神藤昴の騎士をしております。」
アリスさんは黙って頷くと隣に目を向けた。
「御初に御目に掛かります。
神藤昴の巫女をしております沙耶宮馨と申します。」
「聞いているわ。
一度イギリスに留学に来ていたわよね。」
自分の事も調べられていると始めから思っていた馨さんは驚きを見せる事もなく、
「プリンセスに知って頂けていたとは、光栄でございます。」
そう言って静かに頭を下げた。
そんな馨さんを見て笑みを浮かべるアリスさん。
「それじゃあ早速お願いしてもいいかしら?」
「畏まりました。」
エリカさんと馨さんは話し出す。
今までの僕達の話を。
アリスさんは楽しそうに、でもどこか真剣に聞いていた。
アリスさんのような力の強い魔女と言われる人達の中には、真実を見抜く事の出来る人がいるらしい。
エリカさん達の話に嘘がないか探っているのだろう。
今回は信頼をとるために一切の嘘を混ぜない事を会談の前に決めていたので心配ない。
僕がカンピオーネになってからまだ数ヵ月しかたってないのに、こうやって改めて聞くと色々な事があったんだなぁ・・・。
これからも色々な事があるんだろうし、もっと腕を上げて皆を守れるようにならないと。
そんな事を考えていたら話がそろそろ終わりに近づいていた。
「それでは今昴様が持っている権能はその二つですか。」
「そうです。
しかし、昴の権能は昴の魔力コントロールがあってこその物です。」
「そうでしょうね。
実際今も全くと言っていいほど昴様から神の力を感じる事が出来ません。」
そう言って僕の方を見てくるアリスさん。
そんなアリスさんを見ながらエリカさんが締めくくる。
「以上が、神藤昴が神殺しになってから今までの経緯となります。」
アリスさんはエリカさんと馨さん、最後に僕をゆっくりと見つめて目を閉じた。
何か考えているみたいだ。
信頼してくれたら嬉しいけど・・・。
閉じていた眼を開けると、真剣な眼差しで僕を見据えて口を開いた。
「・・・昴様が言っていた用件は私を味方に加える事ですか?」
そう口にした瞬間、後ろに控えていた護衛達が驚愕の表情でアリスさんを見つめていた。
逆に僕は予想通りだ。
今までの印象から、頭の切れるアリスさんなら僕達の考えを察してくれると思っていた。
さあここからだ。
「やはり気付きましたか。」
「・・・会談前でしたら何か理不尽な命令をしてくるものだと想像しておりましたが、実際お会いして昴様のお話を拝聞した今でしたらこの考えが一番すっきりします。」
「さすがです。
ですが少し違いますね。」
「何か違いましたか?」
「確かにアリスさんが味方になってくださるのなら、とても心強いです。
しかし僕達はそこまで望んでいるわけではありません。」
「・・・でしたら?」
「僕達が望んでいるのはグリニッジ賢人議会との協力体制を築く事です。」
これにはさすがに驚いたみたいで、護衛の人と一緒に口を開けてぽかーんとしていた。
そして意味を理解したのか護衛が吠えた。
「何を馬鹿な事を言っている。
我々はお前達神殺しを監視する為に存在する組織だぞ。
それがその神殺しと協力関係を築くなどあり得るわけがない。」
「・・・少し黙りなさい。」
「っ!!」
護衛の反論を絶った一言で黙らせたアリスさん。
「私個人ではなく、賢人議会とですか?」
「はい。
もちろん賢人議会がどういった理由で設立された物か分かった上でのお願いです。」
「・・・・・。」
じっと見つめてくるアリスさん。
僕も目をそらさない。
「・・・昴様は神殺しとしてこの世で何を成そうと考えていますか?」
「僕がこの力を使うのは・・・・・神による理不尽から皆を守るため。
もちろん僕自身が理不尽を振り撒かない様にしなくてはいけませんけどね。」
最後は少しおどけて言ってみた。
そんな僕を見て真剣な表情から一転、楽しそうに笑い出すアリスさん。
「うふふっ!!
本当に面白い方ですね昴様は。」
「そ、そうですか?」
ひとしきり笑うとそのままの笑顔でアリスさんは話し出す。
「私を味方にするだけでしたら、私の問題。
しかし賢人議会となるとそう簡単にはいきません。
今ここで返事をすることはできません。」
「・・・そうですよね。」
「ですが、今日1日で昴様の人柄に触れ、その御心の内を聞かせて頂きました。
昴様と賢人議会の協力体制、その成立に向け私は尽力したいと思います。」
「ほ、本当ですか!!」
「はい。
そして、もし駄目だった場合でも私個人でしたら幾らでも協力する事をここの約束いたします。」
さすがにそれは驚いた。
もちろん純粋に議会の協力を得られるのならそれに越した事はない。
だが本当の所を言えばアリスさんを味方に引き入れれば議会の協力を得られるも当然なのだ。
僕達がそうしなかったのはアリスさんの議会での立場を悪くしない様にする為だ。
だからあえてアリスさんの最初の指摘を否定したのだ。
「昴様が私の事を思ってくださった事とても感謝いたします。
ですが大丈夫でございます。
議会の方々もあなたに直接お会いになって話をすれば、きっと信用してくださりますから。」
「そ、そうでしょうか?」
「はい。
という事で、一緒にイギリスに参りましょう。」
アリスさんはそう言うと立ち上がり僕の腕をとる。
「え、あ、いや、ち、ちょっと、ま、待ってください。」
「思い立ったら吉日です。
それに紹介したい方もおりますの。
ほらエリカと馨も行きますよ。」
アリスさんは僕を引っ張りながらエリカさん達も促す。
無理やり振り解くわけにもいかない。
エリカさん達の方を見ても黙って首を横に振られた。
こうして僕達の夏休み、滞在2ヵ国目はイギリスに決定した。