正義の魔王   作:しらこつの

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死闘

Side 昴

 

トールとの戦いは苛烈を極めている。

 

戦況は一方的に僕が押されている。

理由は簡単・・・トールはその場でミョルニルを振り回し僕に向けて稲妻を落としまくって来るからだ。

結果僕はその対応に追われ僕の戦闘スタイルである徒手空拳の間合いに入れないのである。

 

現在もその状況は続いている。

当たれば動けなくなる事間違い無しの稲妻が頭上から迫る。

 

僕のとる対応は二つだ。

避けるか、迎え撃つか。

初めは避けていたが、ある時トールが計算して落してきた。

 

・・・実は脳筋だと思っていたのでかなり驚いた。

 

避けた先にピンポイントに落として来たのだ。

その時は避けきれず少々掠ってしまった。

 

被弾場所は右足。

今現在も痺れただけなのか、重症の為か分からないが、感覚が無い。

掠っただけでこれだ・・・直撃した時の事を考えたくもない。

そのせいで避ける事が難しくなり、襲い掛かる稲妻を真正面から迎え撃っている。

 

迫る稲妻を、氣を込めた拳で何とか逸らす。

これだけでかなりの量の氣を消費してしまう。

 

「はぁ・・はぁ・・・。」

 

右足の負傷と稲妻の対処に追われ近づく事も出来ず時間と体力、氣を消耗している。

何とかしなくてはと思うが考える余裕すら与えてくれない。

今も間髪入れず頭上から稲妻が迫る。

 

拳を握りしめ・・・。

 

「だあぁぁぁぁああぁぁぁ。」

 

タイミングよく稲妻に当て何とか軌道を逸らす。

それた稲妻は僕の右隣に着弾。

凄まじい爆音と爆風を巻き起こす。

 

戦闘を始めて十分と経っていないはずだが、僕達のいる海岸は見るに堪えない状態になっている。

僕の周辺は至る所が焼け焦げ、煙が上がっている。

 

・・・このままだと本当にまずい。

この状態が続けば先に対処出来なくなるのは僕だ。

あの一撃を防ぐのにも限界がある。

・・・状況を打破する手段を考えないと。

 

そんな余裕をくれない事は分かり切っていたが、何とか思考する時間を作ろうと次の攻撃に備えていたが一向に来ない。

先程の稲妻によって舞い上がっていた砂埃が晴れる。

晴れた視界の先にはミョルニルを肩に担ぎ僕を見つめるトールの姿があった。

 

「・・・詰まらぬ、詰まらぬぞっ!!

 神殺しとはその程度かっ!!」

 

トールの叫びと共に彼の神気が爆圧的に上がる。

そして今まで無かった変化も見られる。

ただ振り回されていただけのミョルニルに稲妻が帯電されている。

 

「もうよい・・・これで終わりにしてやる。」

 

そう宣言すると帯電されたミョルニルを振り下ろす。

すると先程までとは比べ物にならないほどの稲妻が頭上から迫ってきた。

 

これはやばいっ!!

 

僕の氣だけでは一瞬にして灰にされると悟る。

近づいてから行使し一気に決着をつけようと温存していた権能。

だがそんな考えはすぐさま捨て去った。

 

今使わなければここで決まってしまう!!

 

「天上にあっては太陽、中空にあっては稲妻、地にあっては祭火。

 世界に遍在する火、惑わしの罪を取り除き、善き路によって富を導く者為り。」

 

僕が唯一戦闘で使える権能・・・炎の権能を行使する。

 

日輪を背負った僕の周りの温度が急激に上がっていく。

僕は急いで氣と共に拳に炎を纏わせ迫る稲妻を迎撃する。

 

くっ!!

さっきより重い・・・でも!!

 

「だらあああぁぁぁああぁぁぁぁ。」

 

その直後僕を爆発が呑み込んだ。

 

 

 

 

 

Side トール

 

蛇に誘われる形で訪れた現世。

蛇との決着をつけようと奴の気配のする方角へ向かっていると、進行方向に急に我らと似た力を持った者が現れた。

 

・・・神殺しだ。

 

遭遇するのは恐らく初めてだな。

本当の事を言えば先に奴との決着を付けたかったが、これもこれで面白い。

神藤 昴と名乗った神殺しとの会話も早々に切り上げ早速戦いに入る。

 

ハハハっ!!

やはり戦いという物は血が滾る。

 

初めは意気揚々と奴との戦いを楽しんでいた。

幾ら攻撃しても当らず、その数を増やしても関係なかった。

しかも隙を見て我に近づこうとしている様にも見えた。

 

あの様子から奴は接近戦に絶対の自信を持っているのだろう。

相手の土俵に乗るのも面白いと思ったのだが、我の勘が言っている。

 

奴を接近させるとまずいと・・・。

 

こういう時の勘は良く当たる。

そんな物を無視して真正面から打ち倒す事も考えたが、今回はこの後の戦闘の事も考慮して戦略という物を使ってみる事にした。

 

・・・今思えばそれは失敗だった。

奴は我が戦略的に攻撃するとは思っていなかった様だ

突然の事に直撃とは行かなかったが我の攻撃を避けきれず負傷したのだ。

掠っただけだが我の攻撃はそんなに甘くは無い。

あれでは暫くまともに動く事は出来ないだろう。

今は我の攻撃を真正面から弾いている。

 

・・・・・詰まらぬ。

 

こんな一方的な戦いになるのだったら勘など無視しておれば良かった。

我はもっと血の滾る様な戦いがしたかったのだ。

 

・・・・・もう我慢できぬ。

 

我は早々にこの戦いを終わらせる事を決断した。

今まで以上に我の相棒ミョルニルに力を込める。

それを振り下ろせば込めた力に比例した威力の稲妻が奴を襲う。

 

これで終わりだな・・・詰まらぬ戦いだった。

 

我の攻撃が当たる一瞬の間に奴の呪力が高まった様に感じた。

だがあの一撃はその程度で防げる物では無い。

そう判断して元々の目的だった蛇の下へ向かおうとした時だった。

奴の居た辺り(奴の姿は砂煙で見えないが)から砂煙を掻き分け高温の炎の塊が襲い掛かって来た。

とっさの事で避ける事も防ぐ事も出来ず直撃してしまう。

 

「ぐうぅぅ!!」

 

その後も畳み掛ける様に幾つもの炎の塊が襲ってくる。

真面に食らったのは最初の一撃だけ・・・。

高熱による痛みに耐えながらミョルニルで弾き、または腕を犠牲に防いでいく。

 

その猛攻も止み、奴の居た所の砂煙も晴れる。

そこには右手を焼け爛らせながらも不敵に笑う神殺し 神藤 昴の姿があった。

 

 

 

 

 

Side 昴

 

強烈な一撃を右手を犠牲に何とか防ぎ切った。

あの一瞬で角度を調整し何とか逸らす事が出来た。

 

・・・炎の権能を使ってこれだ。

・・・本当に馬鹿げた威力だった。

 

だが今がチャンスだ!!

 

あれはこの勝負を決めに来ていた一撃だったはずだ。

今なら絶対に油断している。

 

僕はすぐさま炎の塊を幾つも作りトールに向けて飛ばす。

砂煙のせいでここからトールの様子は見えないが攻撃は当たっている様だ。

 

「ぐうぅぅ!!」

 

というトールの呻き声が聞こえる。

 

砂煙が晴れるとそこには少し息を乱し立っているトールの姿があった。

ミョルニルを右手に握り、左腕は僕の攻撃を防いだのだろう・・・いくつのも焼け爛れた後が見られる。

そして一番の負傷箇所はトールの右脇腹。

あれが恐らく僕の最初の攻撃が当たった所だ。

焼け爛れているとかではなく、ごっそり焼切っている。

必ず当たると思い一発目だけは太陽の威力で放ったので、かなりのダメージを与える事が出来ている。

その後に放った炎の塊は威力を高める時間が無かった為、最初ほどの威力に出来なかった。

 

よしっ!!

あの様子ではもう満足に動けないだろう。

それは左腕も同様のはずだ。

これで戦況は5分に持ち込めた!!

 

僕も右手を使えなくなったが、足が動かない時点でもう接近戦は捨てたから大した問題ではない。

ここからは初めての遠距離戦。

気を引き締めて行かなければ・・・。

 

「・・・ふはっ・・・ふははははっ!!」

 

気を引き締め直していた所にトールの笑い声が聞こえた。

暫くして笑いが収まるとトールが僕を見据える。

その顔付きは戦い始めより深く笑み、視線は今迄以上の闘志を含んでいる。

 

「これだ!!

 此れこそが我の望んでいた戦いという物だっ!!」

 

凄まじい闘志と神気を撒き散らしながら再び右手に持つミョルニルを構える。

僕も余裕を見せつける為に不敵な笑みを絶やさない。

 

「貴様は蛇と戦う肩慣らし程度に考えていたが改めねばな!!

 全力で叩き潰してくれよう!!」

 

僕も数多の炎の塊を作り出しながら叫ぶ。

 

「全力で答えましょう!!

 そして勝つのは僕だ!!」

 

そしてVSトール、2回戦が幕を開けた。

 

 

 

 

 

Side アレクサンドル

 

封印の要であろう石が壊れたのを確認した俺はすぐさま迷宮を作り出す権能『大迷宮』を行使した。

ここに封印されているのはヨルムンガンド。

あんな毒蛇を表に出す訳にはいかない。

実際石が壊れた瞬間から神気と共に毒霧も出ている。

 

迷宮を作り出した俺は一先ずヨルムンガンドの居る場所から離れた所へ移動した。

速攻で倒してしまうのも悪くないが、『大迷宮』を解いてしまえばこの洞窟が崩れてしまうのは必至。

 

その前に調べられる事は調べてしまわないと・・・。

 

ヨルムンガンドはまだ今の場所から動く気配はない。

洞窟内にあった壁画の位置も俺の権能によってバラバラになってしまったが、この迷宮の中であればその全てを把握する事もできる。

しかしできる事ならこの手で直接調べたい。

取り敢えず場所を把握する為目を閉じ意識を集中するのだった。

 

 

 

・・・調べていてわかった事は1つ。

洞窟内にあった壁画の殆どはヨルムンガンドがいる場所にあるという事。

 

・・・なんという事だ。

・・・不運にも程があるだろう。

 

その場所以外の数少ない壁画でわかる事といえば地上でも調べられる事ばかり。

これではここまで来た意味が無い。

 

・・・どうするか。

 

あれだけの毒霧が出していたにも拘らずヨルムンガンドは未だ眠っている。

恐らく長い間の眠りでまだ封印が解かれた事に気付いていないのだろう。

 

・・・今なら気付かれずに壁画の調査が出来るかもしれない。

 

そんな淡い期待を持って移動する事に決めた。

そして・・・。

 

 

 

「くそっ!!」

 

襲い掛かる蛇の尻尾。

それを俺の持つ権能の1つ『電光石火』を使い、神速で見切り避ける。

 

結局ヨルムンガンドの眠る部屋に入った途端、奴は目覚め周囲に毒を振り撒きながら襲い掛かって来た。

大方「安眠を邪魔した奴」位の認識だろう・・・迷惑な話だ。

 

毒の方は魔術的意味合いが強いらしく呪力を高め続けていれば大した影響はない。

問題はその強靭な鱗だ。

隙を付いて電撃を食らわせてみたが焦げ跡一つ付かない。

 

何て強靭な体だ!!

 

たかが神獣だと甘く見ていた。

電撃が効かないと言うのはかなり厄介だ。

 

今はとりあえず避け続けているが・・・問題が一つある。

この部屋にある壁画だ。

奴が暴れまわる度に壁に体をぶつけ、貴重な資料が破壊されていく。

何とか防ぎたいがどうする事も出来ない。

 

「シャャャーーーー!!」

 

大声を上げながら再び襲いかかってくる。

今度は正面から牙を剥き出し噛み付くつもりの様だ・・・さらに毒の特殊効果付きで。

 

・・・もうここまで来たら諦めるしかないのか。

この状況ではもう調査など出来るはずもない。

遺憾だが・・・かなり遺憾だが・・・諦めるか。

 

そしてある権能を行使する事を決めた。

こうなったら完膚なきまで叩き潰してやる。

 

正面から迫る蛇を神速で躱しそのスピードのまま蛇の胴体まで移動する。

そこで先程から準備していた権能を行使する。

 

俺の目の前に暗黒の球体が現れる。

暗黒の球体が現れた瞬間この部屋・・・いやこの迷宮が悲鳴を上げた。

 

行使したのは『さまよう貪欲』と呼ばれている権能。

出現した球体はブラックホールの様に全てを飲み込む吸引と重圧を兼ね備えた物。

 

『さまよう貪欲』はものすごい勢いで周囲にある物を吸い込んでいく。

そして吸い込まれた物はその重圧によって跡形もなく押し潰されていく。

そしてそれはヨルムンガンドも例外ではない。

 

「キシャャャァアャァァァーーーーーー。」

 

悲鳴とも聞こえる叫び声を上げながら体の中心から『さまよう貪欲』に吸い込まれていく。

その勢いは次第に強まっていき迷宮をも飲み込んでいく。

いや、もうすでに『大迷宮』の権能は使っていない。

使う必要が無くなった為行使を止めたのだ。

 

『さまよう貪欲』はこの辺り一帯を吸い込むまで止まる事は無いだろう。

予想のついていた俺は出口目掛けて神速で移動する。

 

自分の権能に巻き込まれるのはごめんだ。

 

いつの間にかヨルムンガンドの悲鳴は聞こえなくなっている。

・・・もうすでに命を落としたのだろう。

 

出口を目指すのはもう一つ目的がある。

迷宮の権能を解除した時から感じているこの気配。

これ本当であるなら外は厄介な事になっているはず。

 

嫌な予感に突き動かされながら急ぐ。

・・・その時感じた体に何かが入る感覚に気付く事なく。

 

 

 

外に近づくにつれて感じ取れる気配が確かな物になってくる。

出口が見えたが神速を弱める事なく外に飛び出し、そのまま海の上を漂う。

 

そしてそこからの景色に驚愕する。

すぐそこの海岸では全身に火傷の様な痕を負いながら手に持つ槌を振り回す大男(この状況から雷神トールで推測できる)と。

その背に日輪を背負い右手を負傷しながらも、襲い掛かる稲妻に自ら生み出した炎で対抗する少年・・・先程別れた神殺し神藤 昴が戦っていたのだから・・・。

 

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