正義の魔王   作:しらこつの

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まつろわぬアグニ

「無茶よ昴。やめなさい。」

 

駈け出した僕をエリカさんが呼び止めるが僕は止まらない。

まつろわぬアグニはこっちに向けて数十の火の玉を放ってくる。

ここで氣を消費するわけにはいかない。

 

避ける。避ける。避ける。

とにかく避ける。

 

幾つか避けきれなかった物もあったがこの際気にしない。

 

「ほう。この程度は対処するのか。

 ならば、これならどうだ。」

 

っ!!

 

なんて数だ。さっきの比じゃないぞ。

これをよけきるのは無理だと判断した僕はこぶしを握り締める。

 

避けられるものは避けていくが、いくつかは氣を込めたこぶしで弾き飛ばす。

そうやって対処していくがアグニは際限なしに火の玉を放ってくる。

 

近づけない。

きりがない。

このままじゃだめだ。

 

ギリギリのところで対応していたところに余計な思考を挟んだためか、もう手遅れな位置に火の玉が迫っている。

 

「くっ!!」

 

火の玉をまともに食らって吹き飛ばされる。

 

「がはっ!!」

 

多く氣を込めて何とか防ぐことが出来た。

しかし当たったところの服は焼け焦げ、そこの肌も火傷を負っていた。

 

「その程度か・・・。

 期待外れだな。」

 

アグニはそう言うとこちらに背を向けて去ろうとしている。

 

「昴。大丈夫。」

 

エリカさんが心配してこっちに駆け寄ってくる。

 

「大丈夫です。

 あの人はここで食い止めないと・・・。」

「無理しちゃだめよ。

 あきらめなさい。このままじゃあなたが持たないわ。」

「それでも。

 ここであきらめちゃいけない気がするから・・・。」

 

力の入らない足に無理やり力を込め立ち上がる。

こんなところで倒れられない。

 

僕はまたアグニに向けて走り出す。

 

僕が向かってくることに気付いたのかこちらを見る。

 

「くどいぞ。

 これで終わりだ。」

 

片手間のようにこちらに手を向けとてつもない氣を込めた特大の火の玉を放ってきた。

後ろでエリカさんの息をのむ声が聞こえた。

 

来た!!

これならいける!!

 

僕は最大限の氣をこぶしに込める。

そしてそのこぶしを下から上に振りぬいた。

 

少ししか軌道をそらせず、振りぬいたこぶしも酷いことになったがアグニまでの道が出来た。

アグニも感心したようにこっちを見ていた。

 

「神道流移動術『瞬』」

 

そうつぶやき地面を蹴る。

そして目の前にアグニが迫る。

 

「っ!!

 いつの間に!!」

 

やっと懐に入り込めた。

ここは僕の間合いだ。

 

「神道流攻式壱乃型『波』」

「ぐはっ。」

 

何とか一発叩き込む。

こっちにも余裕はないのでアグニがひるんだすきに離脱する。

 

「貴様。楽しませてくれるではないか。」

「あまり効いてないか。」

 

その前の特大の火の玉が効いた。

痛みのせいで氣の練が甘くなった。

 

 

神道流とは己の中に眠る『氣』を使って行う武術である。

 

神道流移動術『瞬』。

移動術の初歩の初歩。足に氣を込めて爆発的な移動を可能とする移動術。まっすぐにしか進めない。

 

神道流攻式壱乃型『波』。

攻式壱乃型は攻撃対象に己の氣を送り込みダメージを与える技。全身に波のようにダメージを与えるのが『波』。

 

 

「こんなものか。もっと私を楽しませて見せろ。」

 

気分が乗って来たのかまたこっちに数へきれないほどの火の玉を放ってくる。

出し惜しみしている場合じゃない。

このままじゃさっきの二の舞だ。

 

「神道流攻式弐乃型『さざ波』。」

 

僕は両手を正面に向けて腰辺りにひく。

そして手に込めた氣を一気に正面に開放した。

 

 

バンッ!!

 

 

氣と火の玉がぶつかり合い爆発が起きた。

何とか相殺できた。

そこで息を吐かず空いた隙間を使い『瞬』を使ってアグニに肉迫。

 

「神道流攻式参乃型『連波』。」

 

まず鳩尾に右肘を叩きつける。

そのまま右手で顎を殴りあげ、また左手で鳩尾へ。

首に向かって回し蹴りを放つ。

 

見事に当たりアグニが吹っ飛んでいく。

5メートルほどあたりで体勢を立て直し着地していた。

 

「手応えが無さすぎる。一体どういう体をしてるんだ。」

「昴。神は高い呪力耐性を持っているの。普通の人間の攻撃ではびくともしないわ。」

 

エリカさんが教えてくれた。

そうだったのか。

なら今までの攻撃は効果がなかったと思った方がいい・・・。

 

「やるではないか。さっきのはいささか効いたぞ。」

 

ダメージを負っている?

エリカさんのさっきの話だと『氣』と『呪力』は同じと考えていいはずだ。

だからダメージはないと思っていたんだけど・・・。

強い氣だとそんなことないのか?

アグニはもう立ち上がっている。

考えている時間はない。

多く込めた氣なら何とかなると信じてやるしかない。

 

「はははっ。人間にここまでダメージを与えられるとは。面白い。面白いぞ。

 褒美をやろう。私の本当の姿を見せてやる。」

 

そう言うとアグニの体が炎に包まれた。

それと同時に彼の氣が出鱈目なほどに高まっていく。

 

「昴。今すぐ逃げるなさい。

 アグニが真の姿を見せるってことは本気であなたを殺しにかかるってことよ。

 時間も稼げた。住民の避難も終わってる頃でしょう。

 あなたには感謝しているわ。私の失態の尻拭いをしてくれて。

 でももういいわ。私が時間を稼ぐから早く逃げなさい。」

「あの人を放って逃げるなんてできませんよ。

 エリカさんこそ早く避難して・・・。」

 

「逃げなさいって言ってるでしょ!!」

 

エリカさんは僕の言葉に被せるように大声を上げた。

エリカさんの手にはいつの間にか銀色の綺麗な剣が握られている。

そしてその顔は血の気は無くよほどまずい状況なんだと教えてくれる。

 

「何だ、逃げる相談か。

 この勝負これからではないか。もっと楽しもうではない。」

 

アグニの纏っていた炎が晴れた。

そこには赤色の体に炎の衣を纏い、二面二臂で七枚の舌を持つ姿のアグニの姿があり、

その纏う氣は先程とは比べものにならない位高まっていた。

 

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