正義の魔王   作:しらこつの

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神殺し

赤色の体に炎の衣を纏い、二面二臂で七枚の舌を持つ姿となり、僕とエリカさんの前に立ちふさがるアグニ。

姿が変わって纏っている氣も格段に跳ね上がった。

 

足が震えて止まらない。

やばい。

気を保つことで精一杯だ。

 

となりにいるエリカさんも同じだろう。

震えているのがわかる。

 

「どうした。

 かかってこないのか。ならこちらから行くぞ。」

 

アグニは四本あるうちの二本の腕にそれぞれ剣と斧を持ってこちらに迫ってくる。

 

だめだ。

体が震えてうまく動かない。

 

アグニはどんどん近づいてきている。

そんな時に僕の前に飛び出す人がいた。

 

となりで同じように震えていたはずのエリカさんだ。

 

「だから早く逃げなさいって言ったのよ。

 気をしっかり持ちなさい。

 神の神気に飲まれちゃだめよ。」

 

そう言いながらエリカさんは周囲に氣をほとばしらせながら何やら言葉を紡ぎだした。

 

「エリ、エリ、レマ・サバクタニ!主よ、何故我を見捨て給う!

 主よ、真昼に我が呼べど御身は応え給わず。

 夜もまた沈黙のみ。

 されど御身は聖なる御方、イスラエルにて諸々の賛歌をうたわれし者なり!」

 

エリカさんから放たれている氣が大気を震わせ周囲の温度を恐ろしい速さで下げている。

 

「我が骨は悉く外れ、我が心は蝋となり、身中に溶けり。

 御身は我を死の塵の内に捨て給う!

 狗どもが我を取り囲み、悪を為す者の群れが我を苛む!」

 

「ほう。呪詛の類か。

 その剣ならば私を傷つけることもできるだろうな。」

 

アグニは歩みを止めてエリカさんを感心したように見ている。

 

「我が力なる御方よ、我を助け給え、急ぎ給え!

 剣より我が魂魄を救い給え。

 獅子の牙より救い給え。

 野牛の角より救い給え!」

 

炎に囲まれていたのに周囲の温度がかなり下がった。

 

「今なら動けるわね。

 時間を稼ぐから早く行きなさい。」

「次は女、お前が相手になるのか。

 ではその呪詛試してみよ!!」

 

アグニがエリカさんに肉迫する。

右からは剣が、左からは斧が。

次々とエリカさんを襲う。

 

エリカさんも何とか捌いている。

そして隙をついて神を相手に一太刀入れた。

傷をつけた所からは一筋の血が流れた。

 

「ほう、私に傷をつけたか。

 なかなかの武を持っているようだな。

 ではこれならばどうだ。」

 

傷をつけられたことを喜んでいるかのようだ。

アグニがエリカさんに迫る。

 

さっきと同じように剣と斧を使って攻める。

エリカさんも同じように捌く。

 

「っ!!」

 

エリカさんがまたしても隙をついて一太刀入れようとしている。

けど僕は分かってしまった。

 

剣と斧を持つ手。

それとアグニには今腕がもう二本ある。

空いた手に火の玉を作ってエリカさんを狙っている。

 

僕はエリカさんに向かって『瞬』を使って飛びついた。

 

「きゃっ!」

「ぐっ。」

 

何とか間に合ってエリカさんに火の玉が当たるのを防ぐことが出来た。

しかし全部避けきれなくて背中に少しくらってしまった。

 

「昴!なにするの・・・っ!

 その背中。私を庇ってくれたの。」

「これくらい気にしないでください。

 それよりエリカさんこそ大丈夫ですか?」

「ええ。大丈夫・・・いたっ!」

 

立ち上がろうとしたエリカさんは足を痛めたのか立ち上がることが出来なかった。

 

「エリカさん。後は任せてください。

 僕が何とかしますから。」

「駄目よ昴。逃げなさいって言ったでしょ。」

 

エリカさんの言葉を無視しアグニに向かって歩き出す。

アグニは冷めた目でこっちを見下している。

 

「僕はあなたを置いて逃げたりなんかしませんよ。

 大丈夫です。あなたは僕が絶対に守り抜いて見せる。」

 

エリカは自分より小さなその背中を、投げかけられたその言葉を聞いて、高鳴る胸の鼓動を抑えることが出来なかった。

 

 

 

 

 

「待ちくたびれたぞ。またお前か。」

「待たせてすみません。これで終わりにしましょう。」

「何を言っている。これからもっともっと私は楽しむのだ。お前は余興に過ぎん。」

「いいえ、終わりです。僕がここで終わらせます。」

 

そう言うと僕はアグニに向かって駈け出す。

アグニも剣と斧を構えて空いた手に火の玉を作る。

 

僕はこの戦闘において幾つかわかった事がある。

無傷で倒すなんて無理だ。

相手は神様なんだ。

それ相応のリスクを負わなくちゃいけない。

そんな僕が選んだ選択は・・・。

 

インファイト

 

とにかく近づいて一つでも多く相手に叩き込む。

致命傷になり得る攻撃だけは回避。

後は無視。

アグニにこぶしを蹴りを叩き込む。

少しでも多く氣を込めて叩き込む。

 

アグニは平気そうだ。

僕はすぐボロボロになっていく。

 

それでも攻撃をやめない。

 

「こいつ!徐々に威力が・・・。」

 

少しはダメージを負って来たのか、アグニの攻撃の手数が減ってきた。

 

まだまだ。

ここで攻撃の手を緩めるわけにはいかない。

 

「っ!!」

 

しまった。血を流しすぎて一瞬意識を離してしまった。

これを食らったらまずい。

僕の腹に向かって手に持った火の玉が迫っている。

 

やられると思ったその時・・・。

その手に剣が刺さり弾き飛ばした。

見るとエリカさんの剣が刺さっていた。

 

そして好機が見えた。

がら空きになった体。

 

ここだ。

ここしかない。

 

「神道流攻式四乃型『連弾・飛針』。」

 

残った氣をすべて注ぎ込む。

攻撃を開始。

 

右のこぶしを。

左のこぶしを。

右肘を、左肘を。

両足を、両膝を。

 

すべて。

一点集中。

 

流れるように滞りなく。

全ての攻撃を一点へ。

 

「この私をなめるなーーーーーー!」

「おおおおぉぉぉぉーーーーーーーーーーー!!」

 

アグニも反撃してくる。

それでも止まらない。止められない。

 

怪我のせいで一瞬動きが止まってしまった。

そこをアグニが右腰から左肩まで切り裂く。

 

「昴!!」

 

エリカさんの声が聞こえた気がした。

でももうこれで・・・。

 

「あああぁぁぁーーーーー!!」

 

この攻撃も最後だ。

体中にある氣をすべて絞りつくせ。

そのすべてを右手に。

 

 

 

僕は右手を振り向いた。

 

 

 

手ごたえはあった。

僕はそこで意識を手放した。

 

 

 

 

 

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アグニに駆け出し戦闘を開始した昴のとったのはインファイトだった。

最初は無謀かと思ったのだが傷を負いながらも徐々に優勢になっていく。

 

昴はこんなにも強かったのか。

私なんか足元にも及ばない。

 

でも何か役に立つかもしれないと思い絶望の言霊を維持しながら足に治癒魔術をかけていく。

 

そんな時一瞬のすきを突かれ昴に火の玉を持った手が迫っていた。

私はとっさに愛剣クオレ・ディ・レオーネをその手に向かって投げた。

何とか刺さり昴の助けになることが出来た。

そしてそれを切っ掛けに昴の猛攻が始まった。

 

その攻撃はすごかった。

流れるような美しさと、力強さを持った攻撃。

その間に昴も致命傷になり得る攻撃を食らって、私も思わず声を上げてしまったが・・・。

 

その直後だった。

昴の右手にすごい量の魔力が集められていく。

 

そしてそれをアグニに叩き込んだ。

そのこぶしはアグニの体を貫いていた。

 

そこで昴は力尽きたのか倒れてしまった。

私は足の治療も完了していたから昴を庇うようにアグニの前に立つ。

 

「ははは。こんな小さな人間にやられてしまうなど。

 本当に現界は面白い。」

 

アグニは私などに目もくれずに笑っている。

 

「パンドラよ。見ているのであろう。」

「もちろんよ、アグニ様。

 この子が新しい私の息子なのね。」

 

エリカは突然現れたパンドラと呼ばれている人を見て息をするのを忘れてしまった。

 

神殺しを生み出す転生の秘儀。

エピメテウスとパンドラが行う愚者と魔女の落とし子を生む暗黒の生誕祭。

今私は神殺しの誕生を目の当たりにしている。

 

「ついこの間最後の鋼が打倒されたばかりだというのに・・・。

 このタイミングで新たな息子が誕生するなんて。」

 

パンドラは慈しむように昴の髪をなでている。

気を取り直したように立ち上がり大声で宣言する。

 

「さあ皆様、祝福と増悪をこの子に与えて頂戴。

 最も若き魔王となるこの子に、聖なる言霊を授けて頂戴。」

 

それにアグニも応える。

 

「いいだろう。

 確か神道 昴と言ったか。

 神殺しの王として新生を遂げるお前に祝福を与えよう。

 お前は私、火の神の権能を簒奪した神殺しだ。

 何よりも熱く強く生きてみせるがいい。」

 

そう言い残してアグニは消えた。

気付いたらパンドラも消えていて、

この場に残っているのは私と、静かに眠る新たな神殺し神藤 昴だけとなったのだった。

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