魔術師
傍で眠る神藤昴を見つめながら立ち尽くす私。
無理もないだろう。
目の前で新たなカンピオーネ誕生を目撃したのだから。
しかしいつまでもこうしている訳にもいかない。
気を取り直した私は電話を掛けることにした。
電話の相手はほとんど間をおかずに電話に出た。
「叔父様。エリカです。」
『エリカ!大丈夫だったか!
神の気配がいきなり消えたものだから心配していたんだ。
そちらの様子はどうだ。』
よほど私の事が心配だったらしい。
矢継ぎ早に話しかけてくる。
こんな叔父様も珍しい。
「私は大丈夫です叔父様。
まず要点だけ話します。まつろわぬ神は討伐されました。」
『なっ!!どういう事だ!!
そのあたりにカンピオーネの方がいるという報告はされていないぞ。
いったいどの御方が討伐されたと言うんだ。』
「いいえ、叔父様。
現存するカンピオーネの方ではございません。」
『まさか・・・。そんなことが・・・。』
「はい。叔父様の思っている通りです。
新たなカンピオーネが誕生いたしました。」
電話の向こうで叔父様が息を呑んだのがわかった。
流石にこれには驚いた事だろう。
『今その御方はどうしている。』
「今は静かに眠っておられます。
負っていた怪我も徐々に治ってきている様子です。」
『どこの所属の方か分かるか。』
「おそらくどこにも所属していないかと・・・。
ただし日本人であり、友人と旅行に来ていた少年だということはわかります。」
『そうか・・・。』
叔父様は深いため息を吐いた。
そして・・・。
『エリカ。その御方はそのままにして今すぐ帰還しなさい。』
私はそう言われる事は予想していた。
イタリアには『剣の王』と呼ばれるサルバトーレ・ドニ様がいらっしゃる。
そのような方がいるのに、何処の馬の骨とも知れない王を担ぐなんて事、赤銅黒十字の総裁として出来るはずもない。
それは理解している・・・。
でも・・・。
「しかし叔父様。私は彼に命を救われました。
何も知らない彼をこのまま放って置く事なんて出来ませんわ。」
『しかし・・・。エリカもわかっているだろう。』
「もちろんわかっています。
わかった上で彼の保護をお願いしております。」
しばし二人の間に沈黙が落ちる。
パオロは観念したように一つ息を吐き、
『・・・わかった。
新たなる王の誕生だ。始めに恩を売っておくのもいいだろう。
その御方も一緒に連れて帰ってきなさい。』
「っ!!
ありがとう叔父様!!」
よかった。
これでひとまず彼の安全を確保できる。
『新たなる王について何かわかっていることはあるか。
急ぎ情報を集めてみようと思うが。』
「はい。
私がわかっていることは、彼が日本人であるという事と、
名前が神藤 昴。
後は神道流の当主だと言っていました。」
電話越しに叔父様が驚いた事がわかった。
『神道流の当主だと!!
・・・それに神藤 昴。』
「どうかなさいましたか?」
それきり突然黙り込み何やら考えている様子。
『事情が変わった。
エリカ。その方は我ら<赤銅黒十字>が責任を持って保護する。
必ず連れて帰ってくるんだ。』
「急にどうしたんですか?
いったいどういう・・・。」
『詳しいことは戻ってきたら説明する。
だから急いで戻ってきなさい。すぐに迎えをよこす。』
「・・・わかりました。」
有無を言わせぬ物言いにそう返事をするしかできずに電話は終了。
しばらくすると私の部下であるアリアンナがやって来た。
帰り道。
彼女の運転に残った体力を根こそぎ持って行かれたのは言うまでもない。
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「ん・・・う~~ん。」
目が覚めた。
あれ?ここはどこだろう?
見覚えのない天井だ・・・。
「目が覚めたようね。気分はどう?」
隣から声がしてそちらを見る。
そこにはエリカさんがいた。
「エリカ・・・さん?」
「ええ、そうよ。
怪我も治ってるし心配なさそうね。」
僕はベットに横になっているみたいだ。
このまま話すのも失礼だろ思い体を起こす。
そこでふと思った。
僕の体を巡る『氣』の量があり得ない位増えていいる。
どうしてだ?
「体でどこかおかしなところがある?」
自分の体について少し考えてしまっていると、心配そうにエリカさんが聞いてきた。
「い、いいえ。大丈夫ですよ。ただ・・・。」
ぐぅ~~~~~~
その時僕のお腹が盛大になってしまった・・・。
「うふふ。
少し待ってて頂戴。今食事を準備するように指示してくるわ。」
そう言ってエリカさんは部屋を出て行った。
は、はずかしい。
ど、ど、どどうしよう。はしたないって思われちゃったかな。
なんてことを考えて顔を赤くしていたら、すぐにエリカさんが戻って来た。
「すぐに準備するそうよ。
もう少し待って頂戴ね。」
「いえ///。すみません///。」
さっきより顔が赤くなった気がする。
何かエリカさんだ微笑ましそうにこっちを見て笑ってるよ~~~。
「昴。さっきのこと何処まで覚えてる?」
「さっき・・・?」
そう言われて思い出した。
確か僕はアグニって神様と戦っていて・・・。
「エ、エリカさん!!あの人は、アグニはどうなりました!」
「落ち着きなさい。これから教えてあげるわ。」
勢い込んで聞いてきた僕をなだめるエリカさん。
僕はエリカさんの方を見て大人しく聞く体制になる。
「まずは私たち魔術師について話すわね。」
「魔術師ですか・・・?」
いきなり普段聞きなれていない言葉が飛び出した。
「そうよ。
手品師とかそういうのじゃなくて、本当の魔術師。」
僕は頭は?がいっぱいだ。
「魔力や呪力、氣なんかの精神力を消費して、超常の術を扱う者たちの事よ。
もちろん私もその一人。そしてあなたもそうよ。」
「ええーーー。僕もですか?
そんなわけないですよ。だって僕普通の一般人ですよ。」
僕も魔術師の仲間入りをされてしまった。
でも呆れた様にエリカさんが言う。
「その言葉に何の信憑性もないわよ。
あなたが使っていた『氣』のことを、私達は『魔力』や『呪力』って言うんだから。」
そうだったのか。
知らなかった。
武術をしていたつもりだったのに僕は魔術を使っていたのか。
「まあ、あなたのあれを魔術と言っていいのかわからないけどね・・・。」
エリカさんは話を続ける。
「魔術師はいくつもの結社に分かれて活動しているの。
私が所属しているのは<赤銅黒十字>と呼ばれる由緒ある結社よ。」
「<赤銅黒十字>ですか。
なんかかっこいい名前ですね。」
僕の子供っぽい感想にもエリカさんは嬉しそうにしてくれた。
やっぱり自分の所属しているところが褒められたら嬉しいんだな。
「<赤銅黒十字>はテンプル騎士団の秘術を継承する魔術結社の中でも最強の一つよ。
私はその末裔なのよ。」
「ふえええぇぇぇ~~~~。」
ってことは、エリカさんってやっぱりお嬢様だったんだ。
僕失礼なことしてないよね・・・。
「ここはその<赤銅黒十字>の客室よ。」
「あ、そうだったんですか。
なんか、すいません。僕なんかを・・・。」
「気にしなくていいのよ。
私が勝手にしたことなんだから。」
恐縮した僕にエリカさんは笑ってくれていた。
「簡単にだけど魔術師界のことはわかってくれたかしら。
次はあなたが戦っていた相手・・・。
まつろわぬ神についてよ。」
「まつろわぬ神・・・。アグニの事ですね。」
なんかちょっと緊張してきた。
「まつろわぬ神。
人の紡いだ神話に背いて自侭に流離い、その先々で人々に災いをもたらす神々を指す言葉よ。
決して朽ちない肉体を持ち、地上の武器や魔術も通じず、闘いが生業の神であればデフォルトで人類最高峰以上の武技を持つ。
そんな出鱈目な存在よ。」
自身の顔が青ざめていくのがわかる・・・。
僕そんなのと戦ってたの。
よく死ななかったな・・・。僕すごい。
「まつろわぬ神は自分の神話と縁もない土地にも勝手に表れて災厄をもたらすの。
神は、ただそこにいるだけで人の世に悪影響を及ぼすの。」
災厄か・・・。
その通りだ。
街が火の海になっていた。
神話の中から出てくるってことは、もっといろんな神様がいるはずだ。
違う神様が現れたら、アグニと違った被害が出るんだろう。
「まつろわぬ神に対していくつかの対処法があるわ。
まず第一に、嵐か地震のようなものと割り切って、やり過ごす方法。
第二に、相手が弱い神格なら、その存在を封じ込める方法。」
エリカさんはここで一旦言葉を切る。
「そして最後に、その神を殺すこと。」
「えっ!!」
あんなバカげた存在を殺す?
そんなことあり得ないんじゃ・・・。
「そう、普通なら天地がひっくり返ってもあり得ない。
そんな所業を成し遂げる人が実際にいるのよ。
そんな恐るべき偉業を成し遂げた彼らの事を私達は『カンピオーネ』と呼んでいるわ。」
「カンピオーネ・・・。」
「そう、イタリア語でチャンピオンって意味ね。
現在この世界には六人のカンピオーネの方がいらっしゃるわ。」
「そんなにいるんですね・・・。
すごいなぁ・・・。」
素直に感心してしまう。
あんなのを殺せる人がそんなにいるなんて・・・。
「もちろん滅多に誕生しないわ。
過去に数百年不在だった事なんてザラにあるのよ。
ここ半世紀は異常なの・・・。
古参と数えられるのは一人だけ。
あとの方はここ数十年で誕生したのよ。」
「そうだったんですか・・・。」
そうですよね。
そんなこと簡単にできたら苦労しませんよね。
「今はここイタリア、そしてイギリス・中国・アメリカ・日本に一人ずつ居られるわ。」
「に、日本にもですか。
知りませんでした。」
日本にもいるんだぁ~。
ん?おかしいぞ?
「エリカさん。今六人いるって言ったのに五人しか言ってませんよ。」
この僕の言葉にエリカさんは深く息を吐いた。
「それはそうよ。
六人目が生まれたことを知っているのは私を含め数人しかいないんだから・・・。」
なぜかこの言葉に僕はすごく嫌な予感がした。
「おめでとう、昴。
あなたが新たに生まれた六人目の神殺しよ。」
その言葉に僕は固まってしまうのだった・・・。