デュエルの基本ルール
マスタールール適用
ライフ4000
表側守備表示の召喚は禁止
ハローハロー、僕らは未来人
21世紀の君へ。
ハローハロー、こちら23世紀。
200年以上前のそちらへ手紙を送ってみることにした。
前略、お変わりありませんか。
最近こっちも厳しくってね。
メール一本送るにも節約しろって怒られるのさ。
全く世知辛い世の中になっちまった、手慰みにも愚痴が混じって嫌になる。
……まぁ、何の意味もないボトルメールをタイムマシンで投げつけようってんだから、然もありなん。
前置きが長くなったな。
この手紙を拾って読んでいるあんた。
喜べ。これは正真正銘23世紀の未来人直筆メッセージだ。アンティークな万年筆と枯れかけのインクが何よりの証拠だ。額縁に入れて飾っとくといい。
200年先の未来がどうなったか聞きたいだろう、そうだろう。俺も書きたいから書いてやる。
ネタバレすると、人類は狂ったコンピュータの暴走によって絶滅の危機に瀕している。
まるで三文SFの世界観のようだが実際その通りで。
埃臭い部屋の外に出れば、濁った大気と砂煙に塗れた不毛の荒野になっちまって草も生えない。
あんたの時代には青い空に緑の草原、青い海と白い砂浜に水着の女の子がいるんだろうが、俺は産まれてこの方、そんなものを見たことがない。
昼も夜も朱く灼けた天球から、既に楽園は消え去った。
今や旧時代のアーカイブに想いを馳せるのみだ。
そんな世界でやることと言ったら、廃墟でのゴミ漁りや、野良ロボット狩り、そしてデュエルくらいしか無い。
せせこましくネズミみたいにひっそり生きてる人類も、最早一刻と保たないだろう。文明に復興の見込みはない。
万物の霊長であったホモ・サピエンスはもう間もなく種としての臨終を迎える。
ああ、暗い内容になってしまった。
別に嘆いている訳じゃないんだ、書けば書くほど俺達の詰みっぷりを自覚してしまっただけで。
だが、希望が無いわけじゃない。
この手紙はタイムマシンで送ったって書いたよな。
近々俺もそっち、21世紀に跳ぶことになっている。
勿論、遊びに行くわけじゃないぜ?
大事な仕事があるんだ。使命と言ってもいい。
もうしばらくしたら、俺はここを旅立つ。
時間を超えた長い旅。行ったら最後、二度と帰ってこれない片道切符。
積み上げてきた無限の絶望をひっくり返す、最後の希望。
俺は、この終わった世界で希望のチケットを託された。
行った先で何をするのか、どこへ行くのかは書かないでおく。
そもそも、この手紙が誰かの手に渡って、読んでもらえる保証も無い。
だからもしも、あんたがこれを読んで信じてくれるような奴で。万に一つ、出会えるような奇跡があるとするなら。
その時は、あんたの話を聞かせて欲しい。
あんたの未来に星の祝福があらん事を祈っている。
23世紀の人類、アダムより。
===============
一度閉じた瞼を開けると、再びの重圧が押し寄せる。
赤紫色の空間の中で、あまりにも静かな駆動音と、尚も迸り火花を散らすエネルギー。
3つ首の機械竜はまるで意思を持つかのように、頭部の半分を覆う仮面の奥からこちらを睥睨する。
その傍らに鎮座する漆黒の邪神像は、自身を楔として周囲と世界の法則を分かつべく仄暗いオーラを放っていた。
そして、その奥に伏せられたセットカード。
あれからはどうにもイヤな予感がひしひしと伝わって来る。
__デュエルモンスターズ。
荒廃し、人類が滅亡に瀕した23世紀に於いても未だに意味を失わない、古代エジプトの神聖儀式をルーツとするカードゲーム。
手首に装着されたデュエルディスクに繋がっているケーブルの先で音を立てるコンデンサーの目盛りが徐々に増えていっているのがその理由だ。
このゲームを行うことによって活動に必要なエネルギーを精製し、賄う事ができる。
「パラドックス」
自らの場に並ぶモンスター達の後ろに控えるプレイヤー、否、決闘者である仮面の男、パラドックスは至って真面目に俺の声へ応じた。
「この盤面はちょっとしんどいんだけど」
「フン、この程度の局面を切り開けずに何とする。我らと同じ特命機体だろう?なぁ、アダム」
「あんたってばそういうヤツだよな……!ターンを貰う」
Turn02 アダム
「ドロー!……スタンバイ」
ターンの初めにデッキトップから1枚ドロー、引いたカードとパラドックスの盤面を見比べて、改めてゲームプランを確認する。
パラドックス LP4000
モンスター
Sin サイバー・エンド・ドラゴンATK4000
深淵の結界像ATK1000
魔法、罠 伏せ1枚
フィールド魔法 Sin World
手札2枚
1ターン目から結構なことである。
パラドックスの扱う『Sin』と名のつくカード群は、高い攻撃力を持つ反面、フィールド魔法が無くては自壊するデメリットを持つ。
逆説的に、フィールド魔法とSinモンスターをセットで手札に引き込んでいなければ運用できない。
それを持ち前の引きの良さとデッキ構築の妙によって実現させているのは、流石と言うべきだろう。
Sinモンスターが共通する闇属性以外の展開に大きく制限をかける『深淵の結界像』まで使ってくるのは、流石に上振れ過ぎだとは思うが。
「メインフェイズ、カードガンナーを通常召喚」
カードガンナー ATK400
「そのまま効果発動だ、デッキトップから3枚まで墓地へ送り、その枚数1枚につき500ポイント、攻撃力をアップさせる。墓地へ送るのは当然3枚!」
ボルト・ヘッジホッグ
ライトロード・ハンター ライコウ
マシンナーズ・ギアフレーム
………しょっぱ………。
カードガンナーATK400→1900
デッキから墓地へ行く3枚のカードを見て、顔には出さないが少し悪態をつきたくなってしまう。
山札が尽きドローできなくなったら負け、所謂LOというルールも存在するが、墓地は手札という格言がある程のリソース源でもある。
俺のデッキも墓地利用を意識した構築をしているため、カードガンナーやライトロード・ハンター ライコウといったカードを採用しているが、結局、カードの流れは確率次第。
落ちはどうあれ、カードガンナーは攻めに転じる事ができる程度にはなった訳だ。
伏せカードは気になるが、敢えて罠を踏む覚悟で攻める他に無い!
「バトルフェイズに移行!カードガンナーで深淵の結界像を攻撃!」
ガシャコン、と音を立ててカードガンナーの備え付けられた銃座が、漆黒の邪神像に向けられ一斉射撃を開始する。
モンスター同士のコンバット、その勝敗は単純明快、数値の勝っている方がフィールドに残る事ができる。敗北したモンスターのプレイヤーは数値の差だけライフポイントにダメージを受け、敗北に近づく訳だ。
「攻撃宣言時、リバースカードを発動する。永続トラップ『スキルドレイン』!」
「人の心とか無いのか……!?」
この野郎絶対に泣かしてやる。
パラドックス LP4000→3000
「スキルドレインの効果は知っての通り、発動時に1000ポイントのライフコストを支払い、フィールドに存在する全てのモンスターの効果を無効にする。これは、既に発動している効果も含まれる。……つまり」
カードガンナー ATK1900→400
「自身の効果でパワーアップしたカードガンナーの攻撃力は、元の数値に戻る……!」
「その通りだ、戦闘を解決するとしよう。深淵の結界像、その玩具を返り討ちにしろ!」
優勢だったはずのカードガンナーの攻撃は、仕掛けられた罠の能力で次第に勢いを失い、豆鉄砲のように弾かれてしまう。
深淵の結界像は自らが放っていたオーラを収束、そして衝撃波として射出する事で、カードガンナーを木っ端微塵に破壊する。
「ぐっ……!」
アダム LP4000→3400
「クク、その程度は予想通りだろう?」
「……『次元幽閉』じゃなくて良かった、くらいさ。破壊されたカードガンナーの効果で1枚ドロー」
墓地はスキルドレインの効果の対象外。
戦闘に負けたとはいえ、カードガンナーは墓地肥やし、手札交換、罠の発見と幾つもの仕事をしてくれた。
この程度のダメージで済んだのならば安いものだ。
「メインフェイズ2に移行する。相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、チューナーモンスター『TG ストライカー』は手札から特殊召喚できる」
TG ストライカー DFF0
「……アンチノミーのカードか。スキルドレインの弊害だな」
スキルドレインはフィールドのモンスター効果を全て無効にするという強力な効果を持つが、それは使い方次第では自分の首をも絞めることになりかねない。
闇属性以外のモンスターの特殊召喚を封じる深淵の結界像も効果を失い、地属性のTG ストライカーが自身の効果で場に出られるようになったのだ。
「カードは貰った、手伝いのお駄賃にな。俺はこれでターンエンド」
アダム LP3400
モンスター
TG ストライカーDFF0
魔法、罠 無し
手札 5枚
Turn03 パラドックス
「私のターン、ドローフェイズにフィールド魔法Sin Worldの効果が発動する。デッキから3枚のSinカードを選択し、相手はその中からランダムに1枚選択し、選ばれたカードを手札に加える。選択するカードは……この3枚」
Sin Cross
Sin トゥルース・ドラゴン
Sin 青眼の白竜
「アダム、君は運命を信じるか」
「アタリしか仕込んでない癖によく言う」
「デュエルの話だけでは無い。目には見えないが確かに存在する大いなる流れ。我々が歴史と呼ぶものと、それは深く結びついている」
パラドックスの問いかけに、ふと先日書いた手紙の事を思い出す。
断片的ではあるが、過去の人間に未来の事を知らせる内容だ。
過去に送られたあの手紙を、その時代に生きる人間がもしも読んだとして何を思うのだろうか。
俺からすれば他愛の無いイタズラのようなものだし、拾った人間だって、まさか本気にするとは思わないはずだ。
「運命か、嫌いな言葉だな」
運命とは何か。
例え全てが定められているのだとして、ならばどうして俺達は、時にそれに対して疑問を持ち、生きているのか。
……俺は、それに対して既に答えを出している。
「まだ生きている俺には、明日があるんだよ。どれだけ虚しくても、明日ってやつは必ず来る」
「だが、その明日とやらも大いなる流れの中に存在する。運命とは果てのない大河だ、その流れを変えることは不可能に近い」
「明日ってのは、未来から見た過去じゃない。俺の未来は俺の進んだ道の先にある。……俺達イリアステルは、それを成そうとしているはずだ、パラドックス!」
“vanitas vanitatum et omnia vanitas“
全ては虚しい、全ては一切の空である。
そうかもしれない。終わりの時は、いつか必ず訪れる。
全てが終わりに向かう、愁嘆場を迎えたこの世界の有り様を見れば、そう思うのも仕方ない。
けれど、それは絶対に今ではない。幾度の絶望を前にしても立ち上がってきたのが、往生際の悪い人類だ。
俺達はまだ、終われない。終わっていない。
「クソくらえだ!運命なんて不確かなモノに、この俺が負けると思うなよ!俺が歩む道は、希望と言うんだ!あんた達がそう言った!」
運命とは。
その問いの答えに、パラドックスは仮面の奥でふと笑みを溢したように見えた。
体格のいい大男の外見をしているが、中身は老人を通り越している彼にとって、歳若い俺の啖呵は威勢のいいものだったのだろう。
「ならば選べ、君自身の運命を!この3枚のカードから!」
「真ん中だ!デュエルを続けろパラドックス!」
選んだカードがパラドックスの手札に加わる。
予想通りと言った風に、それを一瞥することも無く、その手を振り上げ、しもべに闘いの意思を告げる。
「バトルフェイズ!深淵の結界像でTG ストライカーを攻撃する!」
先程カードガンナーを破壊したように、守備力0のTG ストライカーは容易に倒れ伏す。
しかし、守備表示あるが故に、ダメージは発生しない。
「あれだけの啖呵を切ったのだ!防いでみせろ!Sin サイバー・エンド・ドラゴンで、プレイヤーにダイレクトアタック!エターナル・エボリューション・バーストッ!」
三つ首の機械竜は鋼のアギトを開き、口腔へ強力なエネルギーを収束させる。
その攻撃力は4000ポイント。丁度ゲーム開始時のライフと同じ値。
素通しは即ち敗北となる一撃が放たれる。
赤紫色の空間に三条の光芒が奔り、俺を灼こうと放たれた。
「『速攻のかかし』」
バシュ、と飛び出た小さな案山子。
あまりにも頼りないガラクタ人形は、大河に流れる小石のように、エネルギーの奔流に包まれる。
みずぼらしいその身に余る過剰な光に晒されながらも、命を賭けた献身によって機械竜の攻撃を受け切り、そして粒子となって消滅した。
「相手モンスターのダイレクトアタックの宣言時、手札のこのモンスターを捨てる事で攻撃を無効にし……このターンのバトルフェイズを終了させる」
バトルフェイズの終了が強制的に告げられて、眩しい閃光とは裏腹に、ライフの変動も無くあまりに静かに時間が通り過ぎた。
「やはり握っていたか。ボルト・ヘッジホッグを出さないのは不自然だった」
「ダイレクトだけは絶対に防ぐさ。……たかがレベル1、攻守ゼロでもここまでできる。それなら俺に出来ない道理はどこにもない」
「フン……。TG ストライカーを使っていたな。ならば、エンドフェイズに移行する」
「ご丁寧にどうも。TG ストライカーの効果で、デッキから『TG』と名のついたモンスターを手札に加える。選ぶのは『TG ワーウルフ』」
「処理は終わったな。ターンエンドだ」
パラドックス LP3000
モンスター
Sin サイバー・エンド・ドラゴン ATK4000
深淵の結界像 ATK1000
魔法、罠 スキルドレイン
フィールド魔法 Sin World
手札 3枚
Turn 04 アダム
「俺のターン、ドロー!」
ドローしたカードを見て、思わず笑みを浮かべる。
まさしく逆転勝利のカードが来てくれた。
「スタンバイ、メインフェイズ!相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、『サイバー・ドラゴン』は手札から特殊召喚できる!」
サイバー・ドラゴン ATK2100
「サイバー・ドラゴン……!しかし、そのカードでは攻撃力4000のSin サイバー・エンドには届かない!」
「殴り勝つだけがデュエルじゃない。……融合召喚!」
「何ッ!?」
融合召喚。
『融合』というカードによって複数枚のカードを素材とし、強力なモンスターを生み出す召喚法。
サイバー・ドラゴンもまた多くの融合先に対応したカードではあるが、今回の融合先は余りにも特異だ。
何故ならば、融合モンスターであるのに融合を必要とせず、機械族であるのなら相手フィールドのモンスターも利用できる。
サイバー・ドラゴンの系譜であるSin サイバー・エンド・ドラゴンも例に漏れず、機械族だ。
「召喚条件は、サイバー・ドラゴンと、機械族モンスター一体以上。パラドックス、お前のSin サイバー・エンドは頂いていく!」
俺のサイバー・ドラゴンと、パラドックスのSin サイバー・エンド・ドラゴンが共鳴しあい、サイバー・ドラゴンによって捕食されるように混ざり合う。
それによって新たに場に現れたのは、無理矢理にパーツをくっつけたような、巨大な機械竜の姿だった。
「悪食、貪食、鉄を喰む蛇、汝の下僕はその腹の中。『キメラテック・フォートレス・ドラゴン』」
キメラテック・フォートレス・ドラゴン DFF0
「アダム……君に人の心は無いのか」
「あんたが言うな」
サイバー・ドラゴンは、相手が機械族ならなんだって食っちまう。
出しやすい高打点のアタッカーであると同時に、機械族へのメタカードの側面を持つ。
……まぁ、出した先のステータスはスキルドレインのせいで悲しいことになっている訳だが。
「そして、キメラテック・フォートレス・ドラゴンをリリース。奈落の斜影、黒太子、暗黒点がいざ来たる。『邪帝ガイウス』をアドバンス召喚」
邪帝 ガイウス ATK2400
「……!だが、召喚時効果はスキルドレインで無効化されている」
「誠に遺憾だ。バトルフェイズ、ガイウスで深淵の結界像に攻撃!アドヴェント・ダークッ!」
「くっ……!」
パラドックス LP3000→1600
黒衣の帝王が振るう暗黒の槍は、容易く敵を石塊へ変えた。
その効果を使えていれば、パラドックスを下していた一撃だ。
今回のデュエルで初めて通した攻撃は、1400点という十分な戦果を伴い終了する。
「メインフェイズ2に移行する。……パラドックス、あんたは自分の運命を信じられるか?」
「知れたことを!」
「だったら祈りな!手札の『星見獣ガリス』の効果を発動!」
そのカードの宣言に、パラドックスは息を飲む。
それも当然、このカードの効果は、この状況からゲームを終わらせうる効果を持っている。
「ガリスは、自身のデッキトップを一枚墓地へ送り、それがモンスターカードだったなら、自身を特殊召喚する効果を持つ。その際に墓地へ送ったモンスターのレベル一つにつき、200ポイントのダメージを相手に与える。あんたは十分、射程圏内だ」
「私のライフは残り1600……レベル8以上のモンスターを引いたなら、ここで敗北するという訳か」
「その通り。俺のデッキにはレベル8のモンスターこそいないが、レベル10のモンスターは10枚入っている。デッキの残りを考えれば、三割以上。引けない数字じゃない。……行くぞ!」
マシンナーズ・フォートレス ☆7
「〜〜〜〜っ!!」
「なるほど。私の悪運も、捨てたものでは無いらしい。首の皮一枚、繋がったようだ」
「っ、ガリスの特殊召喚には成功!マシンナーズ・フォートレスのレベル分、1400のダメージを食らえ!」
「ぬぅぅっ!」
パラドックス LP1600→200
「さらに、レベル4以下のモンスターの特殊召喚に成功した時、TG ワーウルフは特殊召喚できる、守備表示!これでターンエンドっ!」
アダム LP3400
モンスター
邪帝ガイウス ATK2400
星見獣ガリス DFF800
TG ワーウルフ DFF0
魔法、罠 無し
手札 2枚
Turn05 パラドックス
「私のターン、ドローフェイズ。Sin Worldの効果は使用せず、通常のドローを行う」
これでパラドックスの手札は4枚。
先ほどのターンは俺の手札誘発を見抜いて、手札のカードを使って来なかった。
Sin Worldを使わない事から、攻め手は殆ど揃っているんだろう。
「アダム、君は先ほどのターンで私を倒せなかった事を後悔するがいい!魔法カード『トレード・イン』で、手札の『Sin 青眼の白竜』を墓地へ送り、デッキからカードを2枚ドロー!さらに魔法カード『Sin Selecter』!墓地のSin サイバー・エンド・ドラゴンと、Sin 青眼の白竜をゲームから除外し、デッキから2枚の『Sin』と名のつくカードを手札に加える!私が選ぶのは、『Sin 真紅眼の黒竜』と『Sin トゥルース・ドラゴン』!」
ドローソースとサーチカードで一気にパラドックスの手札が整っていく。
Sinモンスターはフィールドに1体しか存在できないデメリットを持っているが、スキルドレイン適用下では、それも無視できる。
高攻撃力のモンスターがポンポン横に並び攻撃を仕掛けてくるのは、かなりの脅威だ。
「行くぞアダム、君に伝説を見せてやろう!私はデッキから『青眼の白竜』と『真紅眼の黒竜』を除外し、手札からSin 青眼の白竜とSin 真紅眼の黒竜、我がしもべとなった2体の伝説のドラゴンを特殊召喚する!」
Sin 青眼の白竜 ATK3000
Sin 真紅眼の黒竜 ATK2400
「っ……!レッドアイズに、ブルーアイズ……!」
勝利を齎す蒼き竜、それと並び立つ、可能性の紅き竜。
いずれも過去に存在した伝説の決闘者のエースモンスター。
パラドックスと同じ仮面で頭部を覆い、しもべとしてフィールドに君臨する。
特殊な効果など持っていないと分かっていても、魂を揺さぶるようなオーラを放つ、伝説のドラゴン達。
それが二体、俺の敵として立ち塞がる。
「バトルフェイズ!Sin 真紅眼の黒竜で、邪帝ガイウスを攻撃!黒炎弾!」
「迎え撃て!アドヴェント・ダーク!」
黒竜のアギトから放たれる漆黒の火炎。
それに相対する魔人の槍の投擲。
ぶつかり合った攻撃は互角、互いにエネルギーの余波に耐えられず、相討つ形で砕け散った。
「Sin 真紅眼の黒竜が戦闘破壊されたこの瞬間!手札のSin トゥルース・ドラゴンの効果を発動する!ライフを半分支払い、自身を特殊召喚する!現れろぉっ!Sin トゥルース・ドラゴン!」
パラドックス LP200→100
Sin トゥルース・ドラゴン ATK5000
「切り札のお出ましか!」
パラドックスの最終兵器、Sin トゥルース・ドラゴン。
あらゆるSinモンスターのステータスを超える、攻守共に5000という脅威的な数値を誇り、手札、墓地のどちらにあっても召喚条件さえ満たせば何度でも蘇る。
勝利という真実へ到達する為、その黄金に輝く躯体は、どんな犠牲も厭わず、その暴威を以て敵を粉砕する。
その巨竜は逆さ鱗をこちらへ向けて、アギトを開いた。
「バトル!我がしもべ、罪の証の竜達よ、アダムのフィールドを一掃しろ!!」
蹂躙。
為す術なく砕かれるガリスとワーウルフ。
フィールドは更地に変えられ、何も残らない。
竜の暴威は、実際の盤面以上に状況を悪く見せつける。
「……デカブツがよぉ……」
「……あと一手、詰めきれないか。私も甘いな。バトルフェイズを終了し、カードを2枚セットする。エンドフェイズ」
「破壊されたワーウルフの効果で2枚目のストライカーを手札に加える」
「これでターン終了だ。この勝負も大詰めだな」
パラドックス LP100
モンスター
Sin トゥルース・ドラゴン ATK5000
Sin 青眼の白竜 ATK3000
魔法、罠
スキルドレイン
伏せ 2枚
フィールド魔法 Sin World
手札 無し
Turn06 アダム
「ターンを貰う」
……状況は大分悪い。
盤面は更地で、相手の場にはデカブツが2体。
何より、スキルドレインがあるのが最悪だ。
現状、手札には通れば勝てるが、あの伏せカードは絶対にこれを通しはしない。
でー、あれがコレで、あぁなって……。
今デッキに残っている中で、この盤面から勝てるカードを数えると……それは奇しくも、三割程。
前の俺のターンで、パラドックスを仕留められる確率とほぼ同じだった。
「アダム」
「あーん?」
「私はあくまで科学者だ。常にデュエルモンスターズに触れていたという訳では無い。故に、本質的には決闘者という人間を理解しては居ないのだろうが」
パラドックスの歯切れは少し悪い。
普段から小難しい言い回しをする爺さんは、ストレートに言葉を伝える時に言い淀む癖がある。
「歴史に伝わる決闘者というものは皆、いつでもデュエルを楽しんでいた、らしい」
「……」
……ああ。分かっているとも。
「パラドックス、あんた達とのデュエルはいつだって最高に楽しいよ。……だからこそ」
向かい合ったらいつだって真剣になれる。
ピンチやチャンスを迎えるたび、指先が震える。
だからこそ、俺は。
「負けたく、ねぇんだッ!!」
デッキを捲る。
恐らくラストドロー、求めるものは逆転の一手。
運命って言葉は嫌いだ。
けれど、今この一瞬。ほんの少しだけ好きになった。
「来い、アダム!」
「勝負だ、パラドックス!俺は、手札からモンスターを特殊召喚ッ!!」
勝利の一手、手札にあった切り札をデュエルディスクへ叩きつける。
「無限光、十種の神宝、神聖四文字、テトラグラマトン」
「っ_!」
そのモンスターの召喚条件は、自分の墓地に10枚のモンスターが存在すること。
当然満たしているそれは、即ちこのデュエルの軌跡。
パラドックスと戦ってきた歴史そのものが、ここに結実する。
「『究極時械神 セフィロン』」
「通さんっ!『神の宣告』でその召喚を無効にするっ!!!」
パラドックス LP100→50
神に対し、神の力を以てその降臨を棄却する。
残されたライフポイントの半分を以て、何事も無かったかのように俺の切り札は阻止された。
……だが。
「そうだ、ここに使うしか無いよな」
究極時械神 セフィロンの攻撃力は4000、トゥルース・ドラゴンには及ばなくとも、Sin 青眼の白竜を攻撃し、僅かなライフを削るには十分過ぎる。
「魔法カード『ハリケーン』を発動!フィールドの魔法、罠カードを全て手札に戻す!」
「フルモンスターでは無い、だと!?」
フルモンスター。
その名の通り、デッキ全てをモンスターカードで構成する、定石から大幅に外れたデッキタイプ。
メリットとしては、星見獣ガリスの効果を確実に成功させられること、相手の魔法、罠対策を完全に無駄にできること。
デメリットは……何を言わんや。
「誰かさんがスキドレ使うの知ってるからなぁっ!」
スキルドレインや厚めの伏せに滅茶苦茶弱いこのデッキ、その捲り札のハリケーンの採用は、今でもかなり迷っている。
だが、ここ一番で使えるのなら、ガリスの効果を外す裏目を抱えてもお釣りが来る。
「勝ったと思うな!!その発動にチェーンし、ライフを半分払い、罠カード『異次元からの帰還』を発動する!」
パラドックス LP50→25
「おいおい爺さん、ちったぁ身体を労れよ」
「舐めるなよ若造!心配される程ヤワな人生を送ってはいない!異次元より蘇れ、青眼の白竜!真紅眼の黒竜!」
青眼の白竜 DFF2500
真紅眼の黒竜 DFF2000
「うっお……!」
生ブルーアイズに生レッドアイズ。
片方だけでもマッチアップは相当にレアなのに、それが並び立つのなんて歴史上初めてではないだろうか。
余りにも特別な登場に、変な声を漏らしてしまう。
「粋だな。……だがスキルドレインと、フィールド魔法が場を離れた事で、Sinモンスターはその存在を保てない」
「フン、知れたこと。まだ私の場には2体の伝説のドラゴンがいる。これを突破せずして勝ったつもりか?」
赤紫色の空間が景色から剥がれ落ち、周囲は薄錆びた地下のホールの姿を取り戻す。
同時に、世界へ存在する資格を失ったSin 青眼の白竜と、Sinトゥルース・ドラゴンは、溶けるように光の粒子となって消えていった。
そして、スキルドレインが消え去った事で、俺のデッキは、その本領を取り戻す。
「こちらも出し惜しみは無しだ、TG ストライカーを特殊召喚!」
TG ストライカー DFF0
「そして……『ジャンク・シンクロン』を召喚」
ジャンク・シンクロン ATK1300
くすんだオレンジ色のエンジンに、手足が生えた小さな戦士。
ひ弱で、とても一人で戦う強さを持っているとは思えない。
だからこそ、彼は手を取り合って戦う力を持つ、チューナーモンスターだ。
「ジャンク・シンクロンの効果、勿論知ってるよな?」
「……因果だな。是非もない」
「通常召喚時、レベル2以下のモンスターを墓地から特殊召喚する。ライトロード・ハンター ライコウを特殊召喚。続けて、フィールドにチューナーモンスターが存在する場合、ボルト・ヘッジホッグは墓地から特殊召喚できる!」
ライトロード・ハンター ライコウ DFF100
ボルト・ヘッジホッグ DFF800
「ジャンク・シンクロンに、レベル2のモンスター達……。これは……!」
「レベル2のライトロード・ハンター ライコウに、レベル3のジャンク・シンクロンをチューニング!」
☆2+☆3=☆5
調律、それは新たな星座を描く儀式。
ジャンク・シンクロンは胴体のリコイルスターターを引き抜くと、自らを粒子へと分解し、白犬の狩人もそれに同調して溶け合っていく。
融合とは全く違う。
混ざり合うのではなく、星の導きで共鳴し、新たな姿へ至る超越の形。
同時に、俺のデュエルディスクが激しく稼働する。
内臓された半永久機関、モーメントは唸りを上げて、コンデンサーへとエネルギーを供給し始めた。
「共鳴、奮起、絆の闘士、瓦礫の荒野に希望を背負い立ち上がれ!」
星と星が重なり合い、新たな力が紡がれた。
頼りない小さな戦士は、共に戦場に立つ仲間と意思をシンクロさせ、新たな姿に生まれ変わる。
「シンクロ召喚!『ジャンク・ウォリアー』!!」
ジャンク・ウォリアー ATK2300
シンクロ召喚。
チューナーモンスターと素材となるモンスターのレベルの合計が、エクストラデッキのシンクロモンスターと同じになるように墓地へ送ることで可能となる特殊なルール。
それによって現れたのは、紫色の外装を持つ黒鉄の闘士。
素材と同じくジャンクの名を持つ、シンクロ召喚によって現れるレベル5のシンクロモンスター。
「ジャンク・ウォリアーのシンクロ召喚時、自分フィールドのレベル2以下のモンスターの攻撃力の合計分、その攻撃力をアップさせる!パワーオブ・フェローズ!!」
ジャンク・ウォリアー ATK2300→3900
ジャンク・ウォリアーの素の攻撃力は2300と、レベル5相応。
単体では伝説のドラゴンには及ばない。
しかし、隣に立つ仲間たちの協力を受けて、自ら奮い立ちパワーアップする。
かつてこのカードを愛用した伝説の決闘者、不動遊星は、ジャンク・ウォリアーと共に多くの難局を切り開いて来たという。
伝説に相対するのなら、俺もまた、それに相応しい伝説を用意しよう。
「青眼の白竜を超えたか……!だが、私のフィールドのモンスターは全て守備表示、それではこのターンにライフを削り切る事は出来ない!」
「慌てんなよ、本日二度目のTG ストライカーも、チューナーモンスターだ。レベル2、ボルト・ヘッジホッグに、レベル2のTG ストライカーをチューニング!」
☆2+☆2=☆4
「着剣、驀進、魔を裂く爪牙、勇者が佩くその剣の銘は!」
求めるのは勝利に至る翼、或いは伝説を打ち破る勇者の剣。
縛りプレイなんてつまらない、ラストバトルのドレスコードは最強装備に決まっている。
「シンクロ召喚!来い『アームズ・エイド』!!」
アームズ・エイド ATK1800
「アームズ・エイドは、攻撃力を1000ポイントアップする装備カードとして、フィールドのモンスターに装備できる。その対象は勿論、ジャンクウォリアー!」
ジャンク・ウォリアー ATK3900→4900
拳を高く掲げたジャンク・ウォリアー。
その右手にアタッチメントパーツとして装着されるアームズ・エイドによって、その攻撃力はさらに跳ね上がる。
神銀の剣ではなく鋼の拳、どこまでも鉄と油の染み込んだ泥臭い姿。
けれど、これでいい。これがいい。
与えられた運命に縛られる神の使徒でなく、運命の鎖をブチ破る人間の姿だ。
(……ああ、見ているか、Z-ONE……。この光景を)
「アームズ・エイドを装備したモンスターが戦闘に勝利した時、追加でダメージを発生させる。戦化粧は整った、バトルフェイズ!」
宣言と共に、白亜の竜と、黒鉄の闘士が向かい合う。
あくまでこれはルールに則った戦いだ。
数値さえ足りていれば、鼠とて獅子を下せる。
今この瞬間、竜は勇者に勝つ術は無い。
しかし、竜の放つ威容と神秘に一切の翳りは無く。
それは最強種たる驕り、或いはプライドか。
何にせよ、その光輝に最大限の敬意を払おう。
煙を吐き、獣が咆える。
背中のスラスターから放たれる最大最高の出力で大気が震え、張り詰めた弓の如くに解放の瞬間を待っている。
「ジャンク・ウォリアーで、青眼の白竜に攻撃!」
「迎え撃て、青眼の白竜!!」
疾走、抜拳。
黒鉄の闘士は号令と共に、一瞬毎に最高速度を行進しながら、白亜の竜へと驀進した。
当然、その突撃を向かい撃つべく、白き巨竜は飛翔する。
『ウゥオオオオォォォォォッ!!』
『GYAAAAAAAAAAAAAA!!』
竜と闘士の咆哮が交差する。
自由自在に宙を疾駆る蒼き瞳の白竜に、天地を蹴り跳ねるように飛び回る黒鉄の闘士の激闘の余波は凄まじく、新たなる伝説の傷痕を、錆びたホールに刻んでいく。
守勢に徹する白亜の竜は想像以上に硬い。
全身を覆う竜鱗に、美しく飛翔する巨躯は、渾身の一撃を叩き込まんとする黒鉄の闘士の攻撃をいなし続け、遂に樹木のように太い尻尾で黒鉄の闘士を地へ打ち付けた。
「滅びの爆裂疾風弾!」
竜の吐息。
万象一切を灰燼に帰す白き暴威を放つため、頂点生物のエネルギー全てが口腔に集められ、僅か一瞬の後、圧倒的な肺活量と共に暴風が吹き荒れた。
伝説の巨竜に床へと打ち据えられ、傷だらけの人形のように倒れ伏す黒鉄の闘士。
迫る暴風、圧倒的な暴力を前にして尚、仲間達の希望を背負ったジャンク・ウォリアーは、再び立ち上がり、竜の吐息を貫かんと最大出力で飛び立った。
「打ち抜け、スクラップ・フィスト!」
吹き荒れる嵐の中を一直線に驀進し、駆け上がる。
狙うは嵐の根源、喉元の逆さ鱗。
「行けぇぇぇぇぇっ!!」
『ハアアァァァァァァァァァァァッ!!!』
気合いを叫び、遂に到達する黒鉄の闘士。
その剛拳へ最後の力を振り絞った一撃は逆さの竜鱗を砕き、真紅に脈打つ竜の心臓を撃ち抜いた。
戦闘に勝利した後、アームズ・エイドによるダメージが発生する。
数値の確認すらする必要もなく、それはパラドックスの僅かなライフを削り切った。
「俺達の勝ちだ、パラドックス」
攻撃の余波を受けながら、パラドックスは何も言わず天井を仰ぐ。
まるで余韻を噛み締めるように。
仮面の奥に隠されたその表情を、俺は伺い知ることはできなかった。
パラドックス LP50→0
「なんだよ、またすぐ出るのか?」
「D・ホイールの燃料を補充しただけだ。時間が惜しいのは、君も知っているだろう?」
デュエルが終わってすぐ、機器に不具合は無いか、確認しながらパラドックスと会話をする。
今のパラドックスの姿は、半透明なホログラムだ。
先程ここに立っていたのは、この地下拠点のデュエルシステムによって生み出されたソリッドビジョン。
パラドックス本人は、21世紀初頭のどこかにいるはずだ。
「実験の過程はこちらでも観測できている。Z-ONEとアポリアが提唱した通りだった。21世紀半ばのヴェネツィアは廃墟のままだ」
「『枝』はどうなっている?」
「無い。力あるカードによって引き起こされた現象は歴史に焼き付き、あらゆる世界からの修正を受け付けない」
「カードの主たる私が生きている限りは、だろう?」
俺達イリアステルの目的は、滅びに瀕したこの世界を救うこと。
その為には、いくつかのアプローチが存在する。
その内の一つが歴史の改変。
パラドックスが23世紀から過去に飛び立ち、人類が滅びを迎える要因を潰しにいく。
未来を救う為に過去を破壊する、パラドックスの抱えるカルマは、それを善悪の秤にかけるには察するに余りある。
そして、研究を進める中で一番の問題が浮かび上がったのが、平行世界論。
即ち、世界は無数のパラレルワールドに分岐している、という考え方だ。
例えば、イリアステルが過去に干渉し、歴史を改変したとする。
その結果、改変が成功した歴史が誕生すると同時に、改変が失敗した、或いは改変を受けなかったという『もしも』の歴史も、同時に誕生してしまう。
俺達はこの歴史の分岐点から発生した平行世界を『枝』と呼んでいる。
増える分には問題は無いと思うだろうが、厄介なことに、平行世界とは互いに影響しあう事があるらしい。
『一つ歴史を改変する度、また無数の枝が伸びる。改変の影響が大きい程、枝が干渉し合って不確定要素も大きくなり、原因の特定が困難になっていく』
イリアステルの一人、アンチノミーはそう言っていた。
事実、今まで行なっていたイリアステルの歴史改変は、全て失敗に終わっている。
多くの干渉を行なったが、現代は一向に変わる気配が無い。
だが、研究を進めていく内に、ある存在が現状を打破するキーになる事を、イリアステルの長、Z-ONEは発見した。
『赤き竜』『地縛神』『三極神』といった力ある存在。
これらは歴史改変の影響を受けない、特異点とでも言うべきものだった。
その力を上手く扱えば、歴史を変えた先に枝を発生させず、滅びの要因を突き止める事に大いに役に立つ。
現に、パラドックスが21世紀のヴェネツィアで手に入れた『究極宝玉神 レインボー・ドラゴン』の力によって、それは証明されている。
「実験は成功している。他にも力あるカードを手に入れる事によって世界を救うこの事業も、大きく前進する」
「なぁ、パラドックス。やっぱり俺も」
「……駄目だ。アダム、君にもZ-ONEから託された使命があるだろう。君と、君のデッキに入った『時戒神』は、その為のものだ」
俺がイリアステルとして為すべき使命。
それは過去に渡り、力あるカードを集めて歴史を収束させること。
無数の枝葉に広がった平行世界を一本の太い幹にする事で、それ以降の歴史改変を安定させる要石となることだ。
「生身の肉体を持つ君では、複数回のタイムスリップには耐えられない。それ程までに、あの次元振動は凄まじいのだ。私と共に動いて君の耐久年数を減らしては、その後の使命に影響も出よう」
イリアステルのメンバーは、俺を除いて既に人間とは言い難い。
パラドックスも本来の肉体は既に死亡しているのだが、生前の人格と記憶をデータとして機械の身体に写し取って活動している。
「出発は何時だ?」
「来週。今はZ-ONE達と最後の調整中だ」
「そうか。……片道切符だ、世話になった者に挨拶を忘れんようにな」
「……何だよ、もう会えないみたいに」
「タイムスリップは狙った時間丁度、とは行かない。見送りには間に合わないかもしれないと思ってな」
その口調はもう、そういう意味にしか聞こえない。
すぐに最悪の想像が脳裏をよぎる。
「ではな、アダム。風邪をひくなよ」
「パラドックスっ!やっぱり俺もっ……!」
「そこにあるデッキは自由に使え、選別代わりだ」
「ふざけんなっ!死にに行くみたいに言いやがって!絶対戻って来いよ!絶対だからな!」
一方的に通話は途切れ、半透明なホログラムも消えてしまう。
コンデンサーの数値を見れば、満タンだった数値が少しずつ減少を始めた。それはまるでパラドックスの命の砂時計のようで。
最後に残されたカードの束だけが、パラドックスがそこに居た事を証明していた。
暫くして、パラドックスが逝った事を観測用のモニターは無慈悲に告げた。
彼が破壊した街は全てが元通りになり、改変された歴史は正される。
それでも、手元に残った形見のデッキは色褪せないまま。
何故かカードが増えていたのは、枝が揺れたからなのだろうか。
その真実は、誰にも分からない。