ポケモンレジェンズZ-A AnotherZ   作:ひよっこ召喚士

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 列車を降り立つと自分と似ている観光客の姿もあれば、逆に旅行や仕事から帰ってきたミアレ出身らしい人もいる。

 

 忙しそうな人の波を端で避け、走っても余裕があるくらいに空いたホームを歩いていく。

 

 改札を抜けて門の外へと出ると眩しいくらいの陽の光に恵まれる。目が慣れた頃には穏やかな街並みの中で楽しそうに笑い合う人とポケモンの姿が入ってきた。

 

「ここがミアレシティか…期待以上だな」

 

 そんな事を考えながら街全体をおのぼりさんの様に眺めていると突然こちらに声が掛けられる。

 

「駅から出てきたそこのあなた!しかもその大きな旅行カバン、観光客でしょ?」

 

 観光客狙いと言うことは何らかの呼び込みかな。なんて予想をつけながら相手の方を向くととても見慣れたポケモンが彼女の足元を歩いていた。

 

 なんとも単純な事だけどポケモン達がにこやかに付き合ってるだけで悪いやつじゃないと思えてしまうんだから。それが見慣れたポケモンともなれば話に付き合う気もわいてしまう。

 

「正解、僕は旅行客で間違いないよ」

 

「よかった!違ってたらメンタルブレイクしてたよ」

 

 それは字面だけ受け取ればなんとも繊細な事だけど、初対面の観光客にグイグイ来てる時点でそんなに弱くは見えないけどな。

 

「身長もあたしと同じくらい…この方が並んだときの見栄えもいいし」

 

 ブツブツと話す声が少しばかりこちらの耳にも入ってくる。並んだ時の見栄えねぇ…なんかの企画とかだろうか。

 

 ここについて調べた際に特に出てこなかったけど、有名人とかで無ければ良いが。

 

「観光客のあなたにちょっと協力してほしいことがあるんだけどあたしが撮影するから『ホテルZ最高!』っていってみて」

 

 いったい何が飛び出すかと身構えてみればステマですか…ホテルのさくらやらせるんだとしたら来たばかりの観光客捕まえるのは少し違うのでは…?

 

「大丈夫!宣伝してくれたらどのホテルに泊まってもいいし」

 

 いや、より法的にアウトに近付いてるから…なんてツッコミを入れたかったが止める間もなく、話は進んでいき撮影が始まろうとした瞬間。

 

 近くの街頭ビジョンからそれなりに大きい音楽が鳴り始めた。どうやらCMが始まったようだ。

 

 あれは確かミアレシティの再開発を担当しているクエーサー社だったか、色々と力を入れてるらしいけど都市の開発ともなれば大変な事も多そうだな。

 

「あたしらの撮影のジャマされたけどあの社長いいこといってるよね。あなたもきっとこの街とポケモンを好きになるよ」

 

 そうだな…そうなってくれると喜ばしいし、この街を選んだ甲斐があるってもんだな。

 

「じゃあ撮影を続けようか」

 

「いや、流されてたけど撮影については待って欲しいんだけど」

 

「あれ、あなたの旅行カバンは?」

 

「えっ!?」

 

 宣伝ともなれば少なからず目に触れられるだろうから撮影は遠慮させて貰おうと思っていたら、()()()()()()()()()が姿を消していた。

 

 その事実にサーッと頭から血の気が引き、慌てて周囲を見渡すと見覚えのあるカバンを持って飛び跳ねているポケモンの姿が見えた。

 

「なるほどあのポケモンに旅行カバンを運んでもらうんだ?」

 

 こちらの事情を知らない彼女はあいつを僕のポケモンと思っている様だけど、今の僕に付いてきているのはたった一匹だけで、その相棒もカバンの中だ。

 

 その事実がより僕の焦りを強め、考える前に目の前のポケモンを追い掛ける様に知らない街の中を走り出した。

 

 慌てた様相で目の前のポケモンは逃げ出した。足の速さはポケモンの種類にもよるけど何としてでも追い付かないと…そう考えていると足音がもう一つ隣にやってきた。

 

「もしかしなくてもカバンを盗られたんだよね。ごめん、わたしか撮影なんか頼んだから…追い掛けるの手伝うよ」

 

 申し訳無さそうな顔をして此方の歩みに付いてきた。そして彼女が連れていたワニノコとチコリータ、そしてもう一匹が犯ポケモンを追跡し始めた。

 

 ポケモン同士であればそんなに距離を離される事なく、見失わない様に情報を伝えてくれている。何度か角を曲がって路地へ入っていくと…

 

「野生ポケモンのいたずらじゃなかったみたい。あなたのカバンを持ち去ったポケモン、ヤンチャムっていうんだけどだれかのポケモンのようだね」

 

 隠れて姿をみる限り男女一人ずつ、付けているモンスターボールの数からして複数のポケモンを持ってる事が予想できる。

 

「あなたの名前は?」

 

「キョウヤだ」

 

「あたしはタウニー、よろしく!」

 

 今更過ぎる自己紹介だが、これから目の前の事件に一緒に対応するなら名前くらいはお互いに知らないとな。

 

「ちょっとヤンチャム!バックパッカーのあたしでもそんなダサいカバンはいらないよ」

 

「ゴミ拾いのつもりだろ。警察に届けてほめてもらおうぜ」

 

 耳に入ってくる会話から最悪なケースは無さそうだが、知らないとは言え、人のカバンを持ち去っておいてその言い様は無いだろ。

 

 色々と詰め込まないといけなかったから機能性重視で新しく買ったんだけど、ダサいかぁ…いや、そんな事で落ち込んでる暇はないな。タウニーと目を合わせると、同時に角から飛び出した。

 

「そのおしゃれなカバンはこちらの観光客のものだから」

 

 気を使ってくれてるのか、迷惑かけたお詫びのつもりなのか分からないが別にそこを強調してくれなくても…

 

「あんたはタウニー!」

 

「えっ、どちらさま?もしかしていままでの宣伝動画みてる?」

 

 隣の彼女の名前が叫ばれるが、肝心の彼女には覚えがないみたいだ。

 

「アンリだよ!ZAロワイヤルのこと忘れてる!?」

「オレはアンドレ!オレたち昨夜おなじ場所にいたよ」

 

「なんだ…昨晩アタシが勝った人だ」

 

 …これって、僕がとばっちり喰らっただけの可能性が出てきたな。それにしてもZAロワイヤルか…面白そうとは思ったけどタウニーも参加してるのか。

 

「わかった!カバンは返してやる。代わりにここでポケモン勝負しろ」

 

「意味不明…再戦したいなら夜まで待てば」

 

 返さなきゃそもそも犯罪なんだけど、それにタウニーの言う通り、ZAロワイヤルでの再戦なら夜、それも()()()()()()の中でないと意味ないだろうに。

 

「うるせえ!負けたヤンチャムがリベンジしたがっているんだよ!だからカバンを持ってきたんだよ…たぶん」

 

 やっぱり僕が割を食っただけか、一番の原因はヤンチャムってポケモンだとしても、隣にいる彼女がニ番だな。

 

「へぇ、優しいじゃん。でも二人かがりはずるくない?」

 

 ずるいずるくないと言うよりも普通のポケモンバトルとしては成り立たないな。

 

「手を貸せって話なら無理ですよ。僕の手元にポケモンは居ないので」

 

 唯一頼れる相棒も今はカバンの中で声を聞くことしか出来てないでしょうしね。ホテルまでで落とさないようにチャックを閉めたのが仇となったな。

 

「何言ってるの。あなたの周りには3匹の頼れるポケモンがいるでしょ」

 

 どっかの博士みたいな事を言い出したけど、それはちょっと遠慮したい。けど、そうも言ってられなさそうだな。

 

「なんでもいいからはやくして!夜になっちゃうよ!」

 

「相手もOKだって、一緒に戦いたいポケモンを選んで」

 

 大変な事は早めに終わらせるに限るが、相手のトレーナーとしてのレベルが高くない事を祈ろう。

 

 それに戦うポケモンを選ぶって言っても、ワニノコなんて選ぼうもんなら相棒のお叱り待った無しだろ。

 

 それにチコリータに関してもあいつの相棒の事が頭に過ぎるからな。あまり知らないポケモンだし、消去法で悪いが…

 

「このこはなんて言うんだ?」

 

「ひぶたポケモンのポカブ!鼻から吹き出す炎は極上!」

 

 見た目から炎タイプだとは思ってたけどやっぱりか、僕の手持ちにはあまり居なかったけど、やれるだけやってやろう。

 

「よろしく頼むよポカブ」

 

「カブ!!」

 

「とんでもない展開だけどミアレではじめてのポケモン勝負だね!」

 


 

「待たされてモチベがさがったけど気を取り直して、ポケモン初心者に負けるわけないから!!」

 

 互いに向かい合ってポケモンを準備して、勝負前の口上を言い合う。地方によって差はあるけど、そういったパフォーマンスはあまり変わらないな。

 

「ヤンチャムが運んできたリベンジのチャンスを必ず活かします!」

 

「やる気があるのはいいよね。でも初心者に負けたら大恥だし」

 

 僕が初心者と言う前提で話が進んでいくな。まぁ初心者じゃないのを証明できるバッチもカバンの中だし、わざわざ警戒させるのも馬鹿らしい。

 

「ポケモンを信じて戦って!相手の防御をさげる技も使えばはじめてのバトルでも勝てる!」

 

 さてと、今のうちにこの子の出来る事をしっかりと確認しておこう。準備を怠ったら勝てるもんも勝てない。

 

「いいアドバイスだけどあんたが戸惑っている間に勝つから!いけ、ヤンチャム!」

 

「行ってくださいポカブ!!」

 

 この子はまだしっかりとバトルはしてないみたいで高度な炎技は使えなさそうです。技として使えそうなのもたいあたりとしっぽをふるくらい。

 

 ですが、なんでも物は使いようです。調べによるとポカブは鼻から炎を連続で打ち出せるらしいです。それもきのみを焼き焦がす程度の炎を。

 

「ヤンチャム、近付きながらたいあたりだ!」

 

「ポカブ、技じゃなくても構いません。ヤンチャム目掛けて火を吹いてください!」

 

「カブッ!!」

 

「チャ!?」

 

 ひのこにもなって無い火ですが、勢いよく吹き出したソレにヤンチャムはタジタジですね。向こうも焦ってますし、トレーナーのアンリさんの方も突然の事に戸惑ってます。

 

「ふらついてる所にたいあたりです!」

 

「カーブ!!」

 

「チャア!?」

 

 体勢が崩れている所に綺麗に入ったのでヤンチャムはアンリさんの後ろまで吹き飛び、地面に叩きつけられ目を回している。

 

「あんた、本当に初心者!? 見事だけどこっちを気分よくさせなさいよ」

 

 どうやら向こうも終わってるみたいだが、雰囲気からしてタウニーの勝ちで間違い無さそうだ。

 

「カバンは返します。ヤンチャムも反省してるし、さよなら」

 

 圧勝した甲斐あってというのもおかしな話だが、二人組はカバンをおいて逃げる様に去っていった。本当にカバンが戻ってきて良かった。

 

「はい!勝ったならグータッチでしょ」

 

 ま、焦りましたけど旅行先でのトラブルなんてもはや醍醐味みたいなもんだしな。勝利を素直に喜ぶのも悪く無いか。

 

「はじめての勝負で勝つのはすごすぎ!あなたたち運命の出会いでしょ。たぶんバトル自体は初めてじゃ無さそうだけどね」

 

「まぁ、故郷の方はそれなりに旅してたから」

 

「そんだけ優秀なら相性も悪くないし、ポカブだけどこのままあなたの相棒にしたら? あなたとポカブだったらうまくやれそうだし、託せるけど」

 

 その提案には少し苦い顔になりそうだが、ポカブを前に思い切り断るのも、表情を曇らせるのも良くないだろう。

 

「カブ?」

 

 どうしたもんかと内心で悩んでいると、足元で此方を見上げるようにポカブが鳴き声をあげる。

 

 はぁ、あいつらになんて言われるか分かったもんじゃないな。まぁ、()()()()()()()()()()()()()()

 

「僕と来るか?」

 

「カブ!!」

 

 タウニーからモンスターボールも受け取って正式にポカブを託された訳だが、落ち着いたら話してやらないとな。

 

 さてと、ポケモンをしまってとっととホテルに行きたい所だけど、ミアレに着いた時間も遅めだったが、どうやら日が暮れた様だ。

 

「話していたら夜になっちゃった。しかも最悪なことにここら一帯バトルゾーンだ」

 

「赤色のホロ…事前に雑誌やネットで調べた通りだな。参加してなくてもバトルは挑まれるもんなのか?」

 

「ZAロワイヤルを知ってたんだ。それなら話は早いけど参加者はランクを上げるために見境なしだからね。危険地帯だよ」

 

 綺麗な街並みに出来た正式な無法地帯って所か、こんな状況じゃなければ、もしくは当事者で無ければ面白いと笑えそうなんだけどな。

 

「近くに安全な場所があるからそこを目指そう。旅行カバンはポケモンたちに運んでもらう?」

 

「いや、これは自分で持つよ。大事な物ばかりだし、旅をしてたから荷物を持って動くくらい訳無いさ」

 

「そう、それなら戦力も十分だし、早いとこバトルゾーンを抜けちゃおう。ついてきて!」

 

 建物の間を通り抜ける様に右へ左へと曲がっていく、もう少しだろうかと思った所で角からトレーナーが飛び出してきた。

 

「バトルゾーンをうろつくのはポケモン勝負をしたい人たちですね。あなた相手をしてもらいます!」

 

 エントリーしてないなんて事情を話す隙もなく挑まれ、ポケモンを出される。これはもう戦った方が早そうですね。

 

「ポカブ、疲れていませんか?」

 

「カブ!!」

 

 力強い返事を聞いて安心してバトルに送り出す、ダメそうなら怒られるのを承知で相棒に頼む所でしたがなんとかなりそうですね。

 

「ピィは小柄ですので技を当てるのに集中してください。前の戦いでなんとなく掴めてる筈です。鼻から炎を…ひのこを弾かせてください」

 

「カブゥ!!」

 

 ポカブが勢いよく鼻を鳴らすと火の塊がポンポンとピィを目掛けて飛んで行き、初めに狙いをつけさせたのも功をなして綺麗に当たってくれました。

 

「ピィ…今度はそうはいきません。行きなさいホルビー!」

 

「出鼻をくじいて勢いをつけますよ。たいあたりです」

 

 飛び出してきたホルビーと言うポケモン。何タイプか分かりませんが、同じレベル帯なら押してく形で問題なくやれます。

 

「そのまま至近距離でひのこです!!」

 

「カブ!!」

 

 動けない所に間近で放たれた火に成す術無しと言った様子でホルビーと呼ばれたポケモンも倒せた。相手のポケモンはどうやらこれで打ち止めらしい。

 

 ポケモンを倒した事でようやく落ち着いたのかこちらが参加者じゃない事に気付いてウェートレスのトレーナーは別の相手を探しに行ってしまった。

 

 ポカブを褒めてあげてから、近くの出口へと歩みを進めているとその付近にたむろしているトレーナーの集団がいた。

 

「お客さんを案内しているの通して通してくれるとうれしいんだけど」

 

「お客さんだろうがなんだろうがバトルゾーンにいれば勝負の相手だよ」

 

 やっぱりはいどうぞとは行かないみたいだな。タウニーが前に出て相手しようとしているが、チコリータとワニノコだけでは三人を相手にするのは厳しいだろう。

 

 こっそりとカバンのチャックを開けると昼に列車の中で感じた以上に鋭い視線が突き刺さるけど、謝罪の念を送って後ろ手に構える。

 

「キュルル」

 

 僕とタウニー、それぞれが覚悟を決めた頃に上空から知らないポケモンの鳴き声が聴こえ、向こうとこちらの間に降り立った。

 

「黒い花のフラエッテ?珍しいポケモンが相手をしてくれるんだね」

 

 向こうのポケモンが戦闘態勢になったと思うと、フラエッテと呼ばれたポケモンが珍しいらしい黒い花を構えて、何かエネルギーをチャージし始めた。

 

「当てちゃダメ!」

 

 タウニーの焦り様に驚いているとその驚きを軽く上回る威力の光が夜闇を切り裂く様に空の彼方へ消えていった。あれは直撃していたら弱いポケモンなら消し飛んでもおかしくない。

 

 勝ち目はない…それどころかこちらの機嫌一つで命が危ないとでも思ったのかトレーナー達は足をもつれさせながら逃げていった。

 

「キュルル!!」

 

 肝心の技を放ったフラエッテとやらは得意顔で胸を張っている。状況からしてタウニーのポケモンか知り合いのポケモンだろう。

 

「さすがフラエッテ!でもはめつのひかりはやめとこ。あなたのとっておきの技だし」

 

 名前からしてとんでもないな。スクールキッズが考えた最強の技みたいな字面だが、名前に劣らない圧倒的な力が感じられた。

 

「キョウヤ、この子はフラエッテだよ。3000年も生きている特別なポケモンなんだって」

 

 3000年も生きている…その言葉が本当だとしたらその重みは計り知れないな。僕なんかの一生とは比べものにならない時間を過ごしてきた訳だ。

 

 伝説とされるポケモンの中には古代からずっと生き続けてるポケモンもいるらしいが、彼らは寂しくは無いんだろうか。遺すのも遺されのも…いや、口出すことじゃないな。

 

「フラエッテと言う名前だけは聞いたことがあるな…ってことはその子だけが特別なのか…伝説や幻とは少し違う…言い表すなら伝承のポケモンと言った所か」

 

 同じ種ではあるが特別なポケモン、伝説や幻と噂されるポケモンたちよりも珍しい存在かもしれないな。

 

「フラエッテのおかげで道をふさぐ連中がいなくなったし、いまのうちに安全な場所、ホテルZに急ごう!」

 

 バトルゾーンを抜けて初めに宣伝させられそうになったホテルZへと向かっていく、なんとも年季を感じさせる見た目だけど、静けさに包まれた良い雰囲気だ。

 

「お客さま、こちらがホテルZでございます。静かで落ち着けるのが自慢のホテルです」

 

「うん、よく分かるよ」

 

「…他のお客さんが全然いないだけだけど」

 

 まぁ、普通の観光客なら煌びやかな場所を好みそうなもんだからな。でも、街の片隅で静けさの中で溶けていく様な、()()()()()()()()()()()

 

 何ていうのは失礼か、営業してるホテルを朽ち果てるのにちょうど良いなんて言ったら嫌見どころの話じゃないからな。

 

「どうぞ」

 

 タウニーに勧められるがままにホテルZに入る。元々の予定していたホテルでは無いけど、これも縁と思っておこう。

 

「AZさん、ただいま。お客さんだよ!」

 

 カウンターの中にはかなりの巨体を誇るご老人が立っていた。名前もあまり馴染みがない響きだけど、このホテルのオーナーさんだろうか。

 

「その旅行カバン…ふむ…」

 

 此方をじっと見つめるその視線の圧と言えば普通なら気圧されても仕方ない迫力がある。

 

「こちらはキョウヤ、ミアレに来てすぐにメンドーなことに巻きこまれたけど、ポカブとバッチリのコンビネーションで切り抜けたんだ。それであたしのポカブを託したんだ」

 

「よい判断だ。ポケモンと人は出会うべくして出会う」

 

 出会うべくして出会うか…確かにあいつらとの出会いは思い返したらふと笑みが浮かぶな。どんな相手でも出会いと別れは特別なもんだ。

 

 そのままここに来るに至った経緯をタウニーが報告している。どうやらフラエッテはこのAZさんのポケモンらしい。

 

 それにしても自称3000歳のコンビか…それが本当ならば人の身でそれほど生きると言うのはいったいどういう心持ちなんだろうか。

 

「キョウヤよ。きみはなにか大きなものに導かれ、このホテルZ来るべくして来たようだ。わたしはAZ、当ホテルのオーナーとしてきみを歓迎する」

 

「お世話になります」

 

 ミアレシティに泊まり続ける予定だったから、ある意味ちょうどいい拠点が出来た。

 

「力強い目だ…きみにポケモンの話をするのは無粋だな。部屋は202号室を使うといい」

 

 そう言って202と数字の彫られたタグの付いた鍵を手渡された。ホテルの雰囲気にあったこう言った小物も大事だよな。

 

「2階にはエレベータでどうぞ。今日はもう休んだほうがいいよ。明日起きたらロビーに来ればいいし」

 

「そうさせて貰うよ。長時間列車に揺られて、着いたら着いたで走り続けて、もうクタクタだからな」

 

 ワイワイとしていたが疲労自体はしっかりと溜まっている。苦情を浮かべながらタウニーに今日のお礼を伝えてから、年季の入ったエレベータに向かった。

 

「202って事は2階だよな」

 

 扉と柵が開かれ中に入る。階数を指定するとゆっくりとエレベータが上昇していく…備わって無さそうだが階段の方が確実に早そうだ。

 

 入ってすぐ目の前の部屋が202号室の様だ。備え付けられている家具なども凝っているし、よく知らないがこう言った古い雰囲気が好きな層に受けそうなもんだが…

 

「やすめといったばかりで悪いけどちょっといい?」

 

 外から扉を叩く音とタウニーの声が聞こえた。流石にぶっ倒れるほど疲れてはいないし、出てみると…

 

「お客さま、当ホテル自慢のビュースポットをご案内いたします」

 

 芝居がかった所作と口調でそんな事を言ってきた。どうやら屋上の事らしいが、エレベータに揺られてから扉の外へと出てみると…街を一望とはいかないが夜景を楽しめる良い場所だ。

 

「ようこそミアレシティへ」

 

 備え付けられているイスとテーブルはまだ良いが、ソファに置かれているクッションは急に雨でも降り出したらどうするんだろうか。

 

「それでわざわざ呼び出してまでしたい話は?」

 

「はは、気付かれてたか…あたしAZさんに恩があって、恩返しするのにあなたも力を貸してくれない?」

 

 昼間のバトルを見て手を借りられればと思った訳か…まぁ、誰かの為にやれる事をやるってのも悪くはないかもな。素直に言うのもこそばゆいが…

 

「こっちも急に泊めて貰う訳だし、その恩返しって事で手伝わせて貰おうかね」

 

「ありがと!」

 

 そう言って嬉しそうに笑うタウニーの突き出した拳に此方も合わせる。ハイタッチとかはあいつとも良くやったけどこっちはグータッチが主流なのかな。

 

「さてと、それじゃ今度こそ僕は寝させて貰うよ」

 

「ごめんね疲れてるのに、それじゃおやすみキョウヤ」

 

 エレベータは一つしか無いのについてこないって事はまだやる事があるのか、何か整理したい気持ちでもあるのか、まぁ色々と思うところでもあるんだろ。

 

 エレベータでゆっくりと2階まで降りると鍵をあけて再び202号室へ入って、そのままベッドに横になった。

 

 一つ伸びをしていると静かな室内だとよく目立つ鳴き声が耳へ入ってきて、少し気後れしながらもカバンから古いモンスターボールを取り出した。

 

「本当に悪かったってO(オー)、お前が入ってたカバンをスられるとは思ってもみなかったんだ」

 

 有名な観光地だからって油断しきっていた僕が100悪いんだけど、いきなりカバンを狙われるなんて想像できないのもそうだろう。

 

 とは言ってもそれで赦してくれる様な相棒だったら僕についてきてる訳が無いんだから、この頑固者め。

 

 貰ったばかりの傷の無い新しいボールと一緒に放り出すとベッドの前にオーダイルのO(オー)とポカブが現れる。

 

「今日タウニーから受け取った新しい仲間のポカブだ。そしてポカブ、こいつはオーダイルのO(オー)、君の友達のワニノコの最終進化形で僕の一番の相棒だ。仲良くしてほしい」

 

 Oは通常の個体より少し大きめだし、タイプ相性から怖がる可能性も考えたが、僕の相棒と聞いて目を輝かせて挨拶している。

 

 ポカブの姿を見て強く言えなくなったのかOも諦めて…いや、こっちには鋭い視線を送りながらもポカブを受け入れてる。

 

 顔合わせは成功だな。さてと、その間にスマホロトムでポカブについて詳しく調べるか。えっと…進化先はチャオブーにエンブオーか、格好良いじゃん。

 

「ポカブ、お前はエンブオーってポケモンに進化するらしい。だからニックネームでA(エー)って呼びたいんだが良いか?」

 

「カブ!!」

 

 あだ名を付けられたのを喜んでいるのか、先輩であるOと同じ様な呼び方に喜んでるのか分からないが、気に入ってくれたなら良かった。

 

「オーダイ?」

 

「ん、エンブオーならE(イー)じゃ無いのかって? 理由はお前も分かってるだろ。別ポケモンとは言え、Eなんて名付けたらあいつが飛んでくるぞ」

 

「オーダイ…」

 

 Oも名付けを感知した瞬間にテレポートで飛んでくる仲間の姿が思い至ったのか渋い表情だ。あいつの執念なら平然と海を越えられそうだからな。

 

「それに、基本的にミアレではAに頑張って貰うつもりだから、新しいAce(エース)としての願いも込めてだな」

 

 危ない場面とか、自分以外の為ならお前を出すのもやぶさかではないが、お前を出すと強すぎるし、目立つだろ。

 

「オーダイ!!」

 

「分かってる。本当にヤバい時は助けて貰うからな。頼りにしてるぞ相棒」

 

「カブ!!」

 

「そしてAもだな。ミアレでのバトルはお前に前面に出て貰うからな。任せたぞエース」

 

 頼りなるポケモン達だな。こんなトレーナーの事も信じて力を発揮してくれる。こいつらと一緒ならここでの生活もきっと楽しくなるな。

 

「さて、明日からどう過ごす事になるかな」

 

 二匹をモンスターボールに仕舞うと枕元のランプの横へと並べて、ベッドへ横になった。流石にもう眠気がヤバい…あ、一つ大事な事を忘れてた…けど眠いな。

 

「ポカブ…僕は…病気でして、ふわぁ…あまり長く生きれませんので、詳しくはOから聞い……」

 

 意識の遠くで焦ったようにカタカタとボールが震える音が聴こえてきて、少し申し訳無い気持ちになりながら意識はより深くへと落ちていき。

 

 早めに話さないといけなかったのは確かである。それでもこんな急に話して、ましてや寝落ちして全部投げるなというオーダイルの切実な怒りも他所に夢へと旅立っていった。

 


 

 ホテルZのカウンター、キョウヤもタウニーもいなくなり、AZとフラエッテのコンビだけが居た。

 

 AZは今日訪れたばかりであるキョウヤの事を思い出しながら、何か考えにふけっていた。

 

「ジガルデ・セルを連れてきた少年……彼もまたミアレに導かれたか」

 

 タウニーと共に入っきた際にカバンからすり抜ける様に降りていき、何処かへと消えていった。

 

 ジガルデ・セルが、ミアレが選んだ、呼び寄せられてこの地へ来て、ホテルZへやってきたとしか思えない。

 

 出来過ぎた運命の様な出会いからどうなるのかミアレの未来を案じている。そして、それ以上にAZには気になる事があった。

 

「あの目…バトルの強さだけではない…別れを知った目であり…覚悟を決めた者の目だった…わたしと同じ…」

 

「キュルル…」

 

 生と死について彼らほど詳しいコンビはいないだろう。それこそ、生と死を司るポケモンでも無ければ敵わないほどだ。

 

「彼のミアレでの日々が幸せなものである事を祈ろう」

 




言い忘れていましたが基本的にメインのみに注目して進めていきます。サブは基本的に触れずにいきます。拾うとしたら誰かの視点での回想か番外編になるかと。

それとメインというか主人公視点はずっと書いていく予定ですが、時間がかかりすぎるので先にメインが終わったていでそれぞれのキャラの振り返りを先に書こうかなと考えています。

投稿の順番とかが少し面倒な事になりそうですが、そこは仕方がないものと思ってください。

それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。

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