Mirror Rider Stratos【完結】   作:無限正義頑駄無

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第2話 わりとダメな人たち

 

 

春十と光莉はIS学園の応接室に通されていた。

ぶっちゃけいえば、あの状態では収拾がつかないと判断されたのだ。

目の前にいる元の世界での春十(一夏)の姉であり、IS学園の教師でもある織斑千冬によって。

 

「なんか、すみません」

「ご迷惑をおかけしました」

 

と、2人は頭を下げる。

だが、千冬は気にするなといって呆れたような表情を見せてきた。

 

「根本的に緊張感がないんだ、あいつらは。もっとも、今はそれが大事なのだが」

 

「……その」と、春十は口を開こうとしてためらった。

 

この世界に何が起きているのか。

 

おそらく、それはこの世界では常識だ。

この世界に来る前に束が言っていたことを考えると、知らないというのはマズい。

自分たちの素性をうまくごまかしつつ、情報を引き出すことができないだろうかと考える。

それは光莉も同じで、夫婦仲良く悩んでいた。

そんな静寂を破ったのは。

 

「やあやあ、君たちが異世界のいっくんとその奥さんだねっ!」

 

元の世界でもいろいろとお世話になっているというか、そもそもこの世界に飛ばされるきっかけである束。

もっとも、自分の世界とはだいぶ違うのだろうが、何故だか近い雰囲気を感じていた。

とはいえ、間違いなく爆弾発言である。

 

「いやっ、そのっ……」

「何を言っているのか、わかりません」

「ごまかさなくていい」

 

と、そういったのは千冬である。

どうやら、自分たちの素性を既に知っているらしい。

 

「一夏たちはともかく、白虎の目はごまかせん。お前が一夏であることは白虎が教えてくれた」

「白虎?」

 

聞かない名前に春十は首を捻る。

 

「そのあたりも含めて説明してあげるよっ、だからまずはO☆HA☆NA☆SHIしようっ!」

「……すみません、その言い方は何故だか非常に物騒な印象があるのでやめてください」

 

光莉の言葉は春十の心の代弁だ。

桃色の極太レーザーに翻弄される自分しか想像できないからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だいたいわかった、と春十は答えた。

 

「つまり、この世界ではISが人間から自立しようとしているのか」

「まあ、それでいいかな。ちょっと気持ちとしては複雑だけどね」

 

そういった束の表情はまるで慈母のようだった。

姉というより母親らしい愛情を感じるのだ。

ますます自分の世界の束に似た印象を持つ春十と光莉。

以前行った世界の過激すぎる篠ノ之束とは、だいぶ違う。

それだけに安心できた。

 

「結果として、今は戦争に近い状態だ。人間に敵意を持つ者は人を襲う。逆に信頼関係を結んだ者は眠るか……」

「この世界の旦那様(一夏さん)と白虎さん、諒兵さんとレオさんみたいに、一緒に進化するってことなんですね」

 

一夏と白虎。

諒兵とレオ。

現時点では、この二人がISと共に進化できた人間ということができる。

光莉がミラーモンスターの同類だと感じたのはそのためだ。

エンジェル・ハイロゥからきたASと共に進化したことで、人間ではなくなっているのである。

「いいのか?」と、春十は思わず千冬を問い質す。

 

「何がだ?」

「自分の弟が人じゃなくなってるなんて」

 

少なくとも、自分の姉である織斑千冬なら心の底から心配するだろう。

自分も1度は姉にライダーを辞めることを薦められた身だ。

それなのに、目の前の千冬はまるで知らん顔をしているように見える。

束には元の世界の束に似た印象を持つのに、千冬はまったく逆に冷たすぎるように春十は思う。

しかし、気にすることもなく、千冬は口を開いた。

 

「なら聞くぞ。人とはなんだ?」

 

その言葉に、春十は絶句してしまった。

はっきり言って哲学的な問題で、さすがに難しすぎる。

優秀な科学者という一面もある春十だが、逆に優秀すぎてこの問いに対する答えが出てこない。

 

「まあ、答えられんか。しかし行動では示しているぞ、お前は」

「なに?」

「人とは、人の心を持つか否かだ。姿かたちではない。一夏も諒兵も、人の心をちゃんと持っている」

 

なら、一夏も諒兵も人である。

千冬はそう断言した。

それだけではない。

 

「光莉といったな。お前は人ではないのか?」

「そ、それは……」

 

まさか、自分のことも気づかれているのかと光莉は驚く。

それは一夏も同じだ。

正体を明かした覚えはないのに、いったい何故と疑問に思う。

 

「お前の正体はレオが見抜いた。ある意味同類だからな。だが、それはどうでもいい。私はお前には人の心があると感じる。なら、お前は人だ」

 

「そうだろう、一夏?」と、千冬は春十に問いかける。

確かに、光莉は元はミラーモンスターとはいえ、今は人とまったく変わらない。

姿かたちではない。

心が人と同じなら、それは人なのだ。

だからこそ、春十は光莉を生涯の伴侶に選んだのだから。

 

「心がしっかりしてるなら、問題ないってことか」

 

そういって春十は笑った。

少なくとも、この世界の千冬は、自分の世界の千冬と変わらず、強く優しいと感じたからだった。

 

 

束はさすがに興味を持ったのか、龍騎士(ドラグナー)緋鼠の衣(スカーレット・バスター)を調べていたが、とりあえず再現する気はないらしい。

今は戦いを終わらせることを目的としているからだと語った。

それ以外にも情報交換ということで、並行世界について春十と光は説明する。

一番わかりやすいのは、あの世界かと苦笑しながら。

 

「いくらなんでも育て方を間違えすぎだ」と千冬は頭を抱えていた。

四方八方にフラグを建てまくる一夏というのはさすがに千冬としては呆れるしかないらしい。

そんな育て方をしたその世界の織斑千冬に対しては、憤慨していた。

何より。

 

「特に気に入らんのはラウラの扱いだ。もっとしっかり育てるべきだろうに」

「ちーちゃんはあの子に甘いよね」

 

と、束が笑う。

自分の世界の千冬もラウラのことを気にかけている様子だったが、この世界の千冬はむしろ一夏より大事にしているように見える。

それが、光莉には不思議だった。

 

「別に大事にしていないわけではない。一夏は自分でできることは自分でやるからな」

 

そういって、中学時代、荒れていた諒兵と親友になった経緯を簡単に説明する千冬。

それを見て、千冬は一夏のことを弟として、人として信頼することにしたのだ。

そのぶん、ブラコンがシスコンに変化してラウラに劇甘になったようなのだが。

それはともかく、春十にとって、この世界の一夏が諒兵と仲良くなった話は驚きだった。

自分の世界に諒兵はいない。

これは間違いのないことだ。

この世界の一番の違いは、そこにあるのだろうかと考える。

 

「いっくんに関しては差があるとしたらそこだろうね。りょうくんがいなくても、はるくんみたいになることもあるけどさ」

 

『はるくん』とは春十のことである。

さすがに『いっくん』と呼ぶと混同してしまいそうなので、そう呼ぶことにしたらしい。

それはともかくとして、春十にとっては光莉の存在が大きい。

逆に光莉と出会わなければ、自分もフラグを建てまくるハーレム男になったのだろうかと春十は少し複雑な気分だった。

そんな気持ちを知ってか知らずか、光莉が尋ねる。

 

「そう考えると、この世界の旦那様(一夏さん)にとって、諒兵さんの存在は大きいんですか?」

「親友兼ライバルだからな。お互いに競い合ってそこそこは強くなった」

 

お前のように厳しい戦いをしてきたわけではないが、と、千冬はいうが、それでも、競い合う相手がいるというのは確かに大きいのかもしれないと春十は考える。

自分の世界なら鋼夜が相当するだろうか。

 

「あいつが強くなったら、いいライバルになるかもな」

 

戻ったら惚気話と一緒に話してやろうと春十は思う。

鋼夜にしてみれば、嫌味もいいところである。

さらに、やはりこの世界でも見当たらないと感じていた自分の大事な妹について春十は尋ねてみることにした。

だが。

 

「マド……カ?」

「はるくんっ、やめてっ!」

 

「えっ?」と、思う間もなく、いきなり千冬が頭を抱えて苦しみだした。

 

「ぐっ、あっ、うあぁあぁあぁッ!」

 

呻き声を上げる千冬だが、ビシッという音がしたかと思うと、その場にくず折れる。

背後には手刀を構えた束が悲しい顔をして立っていた。

「束さん?」と、光莉が尋ねると、束は表情を変えることなく懇願してくる。

 

「ごめんね、まーちゃんのことは言わないで。少なくともこの世界にいる間は」

「なっ、なんでだよっ!?」

「まーちゃんと、ちーちゃん、いっくんには複雑な関係があるの。解決するのは、私たちに任せてほしいんだよ」

「話しません。ただ、このままでは納得できません」

 

そう光莉が追求すると「だろうね」と、束はため息をつく。

少なくとも、自分がこの2人に説明しておかないと、思わぬときに最悪の結果を起こしかねないと考えたのだろう。

束は素直に説明してきた。

 

「記憶喪失?」

「正確にはちーちゃんといっくんはまーちゃんの記憶を消されてるの」

「誰にッ!?」

「そうだね。一言でいえば、ちーちゃんといっくん、そしてまーちゃんの幸せを願っていた人たちに」

 

束の答えは納得できるものではなかった。

兄弟仲良くするほうが幸せになれるはずなのに、この世界の千冬と一夏はマドカの記憶を消されている。

それでどうして幸せになれるというのか。

 

「それしか方法がなかったんだよ」

「何故、束さんは知ってるのですか?」

「調べて知っちゃっただけ。だから、言う機会を待ってるんだけど、まだそのときじゃない。今のちーちゃんは離反した子たちとの戦いでいっぱいいっぱいだし、いっくんも、今の心の強さじゃ受け止めきれない」

「いつかは言うのか?」

「いつかは言うよ。そのとき、状況がどうなってるのかはわからないけど」

 

少なくとも、束はマドカのことについてほぼ理解しているらしい。

春十が知るマドカに近い素性をちゃんと知っていた。

ただ、いくつか異なる点もあるらしい。

 

「ショック受けるかもしれないから、これ以上は内緒。特にはるくん、亡国にそこまで悪い感情持ってないでしょ」

 

言われた通り、一夏は亡国機業(ファントム・タスク)、正確にはスコールやオータムにはそこまで悪感情を持っていない。

しかし、それではこの世界の亡国機業(ファントム・タスク)を理解できないと束は説明する。

 

「それも大きな違いなんだろうね。だから、知らないでいてほしいし、まーちゃんのことも言わないでほしいんだ」

 

悲しげに笑う束の顔を見ると、さすがに春十も何もいえなかった。

 

「旦那様……」

「心配しないでくれ、光莉。……わかったよ、『束お姉ちゃん』」

 

と、思わず春十は自分の世界の束を呼ぶように、束を呼んでしまう。

 

「にょっ?」

「「は?」」

 

奇声を上げる束に春十と光莉は揃って首を傾げる。

だが、そんなことはお構い無しに、束は異常に強力な力で一夏の両肩を鷲掴む。

 

「もういちどっ!」

「なっ、なっ!?」

「もういちどっ、さんっ、はいっ!」

「た、束お姉ちゃん……」

「なんとぉっ!」

 

身悶えるようにして、床を転げまわる束の姿を春十と光莉は呆然と見つめる。

 

「まさか向こうの私はこんないい思いしてるのっ?」

 

ズルいズルいと身悶え続ける。

 

「『おねえちゃん♪』だなんて、箒ちゃんもいっくんも呼んでくんないのにいっ!」

 

そういえば自分の世界の束も最初は箒が呼ばなくなったことでこの呼び方を気に入ったなあと遠い目をする春十。

 

「こーなったら、強制的に呼ばせる機械を発明するしかっ!」

 

グルグルおめめであらぬ方向に暴走をはじめた束を止めるすべを思いつかない春十に、光莉があくまで冷静に尋ねかける。

 

「どうするんですか、旦那様?」

「どうすりゃいいのか教えてくれ……」

 

ああ、この世界の束はとってもダメな人だったと深いため息をつく。

するとズゴンッと凄まじい音がした。

 

「落ち着かんか、馬鹿者」

 

戦乙女が救世主として舞い降りたのだ。束は見事に沈んでいた。ギリギリ大破で持ち堪えたようだが。

 

「あっ、大丈夫なのか千冬お姉ちゃん」

「すまない。話の途中で気を失うとは……。疲れていたかな」

 

マドカという言葉自体をまったく覚えていないらしく、千冬はどんな話をしていたかと聞いてくる。

それが、悲しい。

しかし、言わないと約束した手前、春十は口を噤んだ。

 

「それと、千冬お姉ちゃんという言い方はやめておけ。そう呼ばれていいのは、お前と同じ時間を過ごしたお前の姉だけだ」

 

そういって笑う千冬の笑顔が、とても悲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず、お互いの情報交換を終えた春十と光莉に、千冬はしばらくはIS学園の寮に居るといいといってくる。

 

「休校にしたのでな。生徒も大半が帰郷しているし、別に2人で泊まってかまわん」

「いや、なんか悪いし、いいよ」

 

と、遠慮する春十。

さすがにこの世界で、特にこの千冬の近くでいちゃいちゃするのは本気で申し訳ない気がしていた。

 

「結婚しているのだろう?」

「そうだけど、節度は守るさ」

「まあ、早すぎる気がしないでもないが、無理に引き裂く気はないぞ」

 

ずいぶん物分りがいいなと春十は思う。

もっともその理由が思いつかない。

対して、光莉はピンときた。

同じ女だからだろうか。

 

「……お義姉様には、好きな人がいるんですか?」

 

とたん、ぼひゅっという勢いで千冬の顔が真っ赤に染まる。

 

「そりゃ、私もいい年だし」

「そろそろ結婚したいかなーとか思うし」

「でもどうアプローチすればいいのかわからないし」

「だいたい、あの人オクテだし」

「今それどころじゃないから言い出せないし」

 

そういってもじもじとしながら、耳まで真っ赤な顔でぶつぶつと呟き続ける千冬。

その姿を見た春十と光莉は思う。

 

(なにこのちょー可愛い生き物)

 

よもや千冬に萌える日が来るとは、と、おかしな方向に感心してしまう春十と光莉である。

この世界、束だけではなく、千冬もけっこうダメだった。

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