Mirror Rider Stratos【完結】   作:無限正義頑駄無

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主人公の機体『龍騎士(ドラグナー)』の装備である連射式ビーム銃『オルトロス』の名称をシャインブラスターに変更しました。


第3話 人と人でないモノ

 

 

翌日。

なんだかんだと一応女子グループ、男子グループに分かれて泊まることにした一夏と光莉。

光莉は、この世界の鈴音・セシリア・シャルロット・ラウラ・本音に歓迎されていた。

今は学生寮の中にあるラウンジで、シャルロットお手製のお菓子と、セシリアが吟味した茶葉の紅茶によるティーパーティーに招かれているのである。

念のため言っておくが、紅茶はセシリアが手ずから入れたわけではなかったりする。

光莉は自分のことを、箱入りであまり外の世界を知らなかったため春十によって新婚旅行という形で世界を見せてもらっていると説明していた。

さすがにミラーモンスターであることは説明できなかったからである。

 

それはそれとして、以前行った別の世界では本音の代わりに箒が一夏の周りのグループに入っていた。

しかし、この世界ではいない。

箒は自分の世界のように逮捕されたのだろうかと思った光莉だが、一応寮内の女子グループのエリアにいるらしい。

他にも更識簪・更識楯無・布仏虚もいるのだが、現状、近づいては来なかった。

いろいろと事情があるのだろうと光莉は思ったが、箒だけは気になるので尋ねてみる。

 

「あの子、離反されちゃったのよ」

「えっ?」

「紅椿は箒を空中に放り出して飛び去っちゃったんだ」

 

シャルロットの説明に光莉は驚いてしまった。

紅椿。

元の世界でも束が箒に与えようとした機体だ。

しかし、この世界のISは自分自身の思い通りに行動できるようになっている。

つまり、紅椿は自分の意志で箒を見捨てたということになる。

まさか、自分の専用機に見捨てられていたとは、と、光莉は少なからず同情の念を覚えた。

自分の世界の箒は逮捕もやむなしといえるほどの非道をした。

だがこの世界の箒は、気が強いのと思い込みが激しい点をマイナスとしても、そこまで暴力的ではないらしいと聞いたからだ。

 

「戻ってきてくれれば良いのですが、こればかりはどうしようもありませんわ」

「いろんなところ、探し回ってるんだけどね~」

「篠ノ之博士の追跡も振り切ってるほどだ。簡単には見つからん」

「そうなんですか。妙なことを聞いてすみません」

 

そういって光莉が頭を下げると、そこにいた全員が気にしないでといって笑う。

 

(ここは、優しい世界なんですね……)

 

鈴音たちは、箒のことを誰も見捨てていない。

現状に対処しつつ、何とかできないかと考えているらしい。

その気持ちは、とても優しく温かい。

打ち明けられているわけではないが、人ではない自分に人の温かさを与えてくれる少女たちに、光莉は思わず顔を綻ばせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方。

IS学園内の武道場にて。

 

「まさか手合わせを望まれるとは思わなかったぞ」

「男同士が話すなら、この方がわかりやすいだろ」

 

そういって、竹刀を担いでいる一夏は春十に笑いかける。

諒兵も一緒に居るあたり、考え方は同じらしい。

ただ、諒兵は単に付き合いで一緒にいるらしいが、今朝一番に声をかけてきたとき、一夏のほうがどうしても戦ってみたいといってきた。

そのことに春十は疑問を持つ。

守ることにこだわる織斑一夏には既に会ってきたが、ここまで好戦的だっただろうかと感じたのだ。

すると、一夏は頭を下げてきた。

 

「ごめんな。白虎は『素直』だからさ、黙ってられなかったんだ。もともと嘘つくのが下手だし」

「ああ、そういうことか」

「さすがに驚いたぜ。お前の嫁さんについても話は聞いてる」

 

どうやら白虎とレオはそれぞれのパートナーに春十と光莉のことを説明していたらしい。

まあ、隠し事をしないのはいい意味で信頼関係ができているということなのだろうと春十は納得した。

 

「素直なのは悪いことじゃないし、かまわない」

『ありがと、ハルト』

 

一夏の頭の上に乗っている小さなパートナー、白虎がお礼をいってくる。

光莉のように完全な人間になるわけではなくホログラフィだという。その外見は獣耳付きのフィギュアが動いているようにしか見えない。

諒兵の肩の上にいるレオも同じだ。

 

「「俺たちの趣味じゃないからな。そこ間違えるな」」

 

しかし、春十がそう感想を述べると一夏と諒兵は必死に否定してきた。

まあ、フィギュア付きの男となると、ある意味ハーレム男よりドン引かれる気がするので、春十は苦笑しつつ肯いた。

そして。

 

「じゃ、やろうか」

「ああ、どこからでも来い」

 

春十がそう答えると、一夏は竹刀を顔まで持ち上げ、切っ先をに向けてきた。

いわゆる、突撃の構えだ。

 

(慣れてるな……。気を抜かないほうがよさそうだ)

 

ISとの戦争で、今は一夏と諒兵がたった二人で最前線に立っているという。

ならば、戦い慣れていてもおかしくない。

それに、ケンカ屋をしていたと千冬が言っていたが、だとしたらかなり前から剣を使った戦いを経験していたことになる。

自分ほどではないと千冬は言っていたが、舐められる相手でもないと春十は感じ取った。

故に、両手をだらりと下げ、利き手に持った竹刀に気を込める。

 

「無形か。怖いな」

「驚いたぞ。この構えに恐怖を感じる奴は並じゃない」

 

無形の位。

 

剣においてはいくつかの構えがあり、それぞれに名前がついているが、春十のものは、形のない形といわれる無形だ。

飛天御剣流を使う春十にとっては抜刀術を除けば当たり前の構えだが、実戦的過ぎるため、自分の世界の箒には否定された。

しかし、この世界の一夏は否定するどころか、怖いと言ってきた。

それはこの構えが実戦的過ぎることを理解し、どう戦うかを考えているということになる。

 

(織斑一夏は可能性次第でこうも変わるのか)

 

並行世界の可能性は無限大といっていい。

その一つである目の前の一夏に春十は少なからず感心していた。

 

「怖いから、手は抜かないぞ」

 

一夏はそう言って笑ったとたん、いきなり突撃してくる。

正面からかと思い、迎え撃とうとした春十。

だが、一夏が突然、自分の視界から消えた。

 

気を抜くな主君っ!

 

あのとき聞こえた『声』が、自分を叱咤してくる。

しかし、おかげで。

 

「くッ!」

「いきなり脇から来るとは思わなかった」

 

突撃から一瞬で真横に回り、脇腹を突こうとしていた一夏を止めることができた。

危なかったと内心冷や汗をかく。

『声』が自分を叱咤してくれなければ、かなり強烈な突きを喰らっていただろう。

目の前にいる一夏は、かつて見た男とは別人だと春十は気合を入れ直す。

すると。

 

これ以上は助けぬ。これは一騎打ち。ビャッコが許さぬであろうからな。

 

再び『声』が聞こえてきた。

確かに、これ以上助けられるのは性に合わないと春十は内心肯く。

自分の頭に響く『声』に関しては後で聞けばいいと意識を切り替え、目の前の剣士と向き合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お茶会を終えると、今度は学園の案内ということで、光莉は鈴音に連れられて歩き回ることになった。

セシリア・シャルロット・ラウラ・本音はそれぞれやることがあるらしく、光莉と鈴音の二人きりだ。

とはいえ、IS学園自体は良く知っているし、構造的にも変わりはない。

厚意で案内してくれているのに退屈と感じるのも悪いと思いつつ、代わり映えのしない建物に感心するふりをする光莉だった。

 

「あっちに見えるのがアリーナ。本来ならISバトルの会場になるんだけど、今はあんまり使ってないかな」

「やはり、外に出て戦わなければならないからですか?」

「そう……なんだけど、ね……」

 

そういって鈴音は悲しそうな顔を見せる。

光莉にとって自分の知る鈴音や出会ってきた鈴音は、どちらかといえば元気な、悪くいうとちょっと凶暴な子だ。

しかし、この世界の鈴音は他の少女たちと違い、やけに思い悩んでいるような悲しい顔をしていた。

ただ、何を思い悩んでいるのかわからず、聞くに聞けないでいるのだが。

そう思っていると、鈴音のほうから尋ねてくる。

 

「あんたはIS抑えられてんの?」

「えっと、私は必要としないので……」

 

ミラーモンスターである光莉は、IS適性が無い。

ミラーモンスターだからこそ、ISを必要としないとも言えるのだが。

そう答えたのだが、鈴音は再びため息をついた。

 

「あの、どうかしましたか?」

「ううん、なんでも。それなら、あの春十って人のISはどうなのか知ってる?」

「どう、とは?」

「えっと、『声』が聞こえたとか言ってなかった?」

 

そういえば、と光莉は思いだした。

この世界に来たときの覚醒ISとの戦いで、春十が自分を助けてくれる声を聞いたと言っていたのを。

義理堅い、『仁義』を通すような雰囲気を感じさせる『声』を。

このことはこの世界の千冬や束には話していない。

ISであるならば可能性はあるかもしれないと二人は言っていたが。

もっとも、鈴音にとって重要なのは、春十も『声』が聞こえたということだったらしく、いきなり表情が変わる。

 

「ホントに!?」

「は、はい……」

「じゃあっ、どうやったら聞こえたのか聞いてみてよっ!」

 

いきなり自分に詰め寄ってくる鈴音に、光莉は別人を見る思いだった。

こんなに必死な鈴音は見たことがない。自分の世界でも、別の世界でも。

まるで、そうしなければ命を失うとでもいわんばかりの様子に、光莉は戸惑う。

 

「いったいどうしたんですか、鈴音さん」

「だって……、今のままじゃ一夏と諒兵の力になれない。背中を守れないんだもん。あいつらだけが傷つくなんて、自分が死ぬよりイヤ。絶対イヤッ!」

 

最後は絶叫といっても良かった。

それほどに、この世界の鈴音は一夏と諒兵を案じている。

覚醒ISとの戦争で最前線で戦う2人を心の底から心配している。

それは、春十を愛する自分と変わらないと光莉は感じ取った。

ただ、それだけに疑問もある。

なぜ、ここまでの感情を顕わにするのに、一夏と諒兵の名前が一緒に出てくるのだろうか、と。

普通なら、好きな人の名だけが出てくるはずだからだ。

そのことを尋ねると、少し悩むそぶりを見せながらも、鈴音は答えてきた。

 

「あんたにはわかんないだろうけど、揺れちゃってるから」

 

そういって泣きそうな顔で鈴音は自分の心の内を打ち明けた。

一夏、そして諒兵。

二人のどちらかを選ぶことができない、ゆらゆら揺れる恋心を。

 

「正直に言うと、共感はできません……」

「だよね。私、中途半端だもん。あんたみたいに一途で、結婚までした子にはわかりにくいと思うわ」

 

でも、それが鈴音の正直な気持ちで、どちらかを選ぶことなんてできない。

どっちとも離れたくない。

いつも、いつでも。

自分を守ってくれた2人の背中を追っているから。

そんな鈴音の心が、光莉には理解できなかった。

これも人の心だというのなら、なんて複雑なのだろう。

だから、光莉に言えるのは……。

 

「愛する人は1人で十分だと思います」

「私もそう思うわ。でもさ……自分の心が1番、自分の思い通りにならないのよ」

 

その言葉には共感できた。

もし、自分の心が自分の思い通りになるのなら、光莉は人の身になることを選ばなかったかもしれない。

優秀な契約者と強力なミラーモンスターという関係のままだったかもしれない。

でも、自分の心は、人を愛し……人として寄り添うことを望んだ。

それは、自分の考えたとおりの結果だっただろうか。

違うのだ。

突き動かされるように、心が暴走したといえるのだ。

そう思うと、鈴音が一夏と諒兵の二人を同時に好きになってしまったことも、あっていいのかもしれないと思える。

自分の心が1番、自分の思い通りにならないということを、光莉自身も経験しているからだ。

 

「後で聞いてみます。『声』について」

「ん、ありがと。ゴメンね、無理言って」

「いえ……」

 

ミラーモンスターである自分が知らない心の在り方。

そのことを教えてくれた人である鈴音に返せるものが、これしかないのが、少しだけ悲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏の剣は、一言でいえば『邪剣』だった。

自分と同じように、敵を倒すための剣になっていた。

実戦の中に身を置いているための変化なのだろうと春十は思う。

ただ、自分のような流派はない。

姉である千冬の剣と、幼いころに学んだ篠ノ之流。

それを自分なりにアレンジしたのだろう。

一夏の剣は完全な我流、一夏流ともいうべき剣だった。

 

(こいつ……面白い!)

 

自分と同じように、でも、自分とは違う成長を見せている一夏の剣に春十は織斑一夏という存在の可能性の大きさを感じて興奮していた。

ゆえに。

 

「本気でお前を倒してやるっ!」

「言ってくれるじゃないかっ!」

 

そういって、虎のような獰猛な笑みを見せてくる一夏に、春十は限りなく必殺に近い一撃を繰りだす。

 

「飛天御剣流、九頭龍閃!!」

 

唐竹、袈裟斬り、胴薙、右斬上、逆風、左斬上、逆胴、逆袈裟、刺突。

九つの連続攻撃で確実に一夏を撃破せんと春十は本気で技を放った。

だが。

 

「負けるかぁ!」

 

一夏は中腰に身体を沈めると左手を切っ先に添え、右の片手持ちになる。

そして一気に、身体を捻るようにして片手突きを放ってきた。

その技を知る者が見れば驚いただろう。

壬生狼(みぶおおかみ)と呼ばれた新撰組三番隊隊長が使う片手平突き。

 

名を『牙突』という。

 

ただし、狼ではなく、虎の牙だが。

ドガァッと互いの技がぶつかり合い、そして。

「いってえ!」と、悲鳴を上げつつ、一夏は座り込んでしまった。

九頭龍閃において、刺突は九発目の攻撃だ。

一夏の突きはその刺突を止めたが、それまでの八連撃を喰らってしまったらしい。

もっとも春十としてはトドメともいえる刺突を完全に止められたことが驚きだった。

何より、今の技によって。

 

「お前、牙突を知ってるのか?」

「がとつ?」

「知らないのか。じゃあ今の技は?」

「いや、お前が両手持ちで連撃を出してきたからさ。胸を狙った片手突きなら、先に届くと思ったんだよ」

 

他の攻撃マトモに喰らっちゃったけど、と、一夏は苦笑いするが、その答えに春十は驚く。

『先に届く』、そう考えて繰りだしただけなのに、荒削りながら技としてほぼ完成している。

実戦の中に身を置いているのは伊達じゃない。

本来ならば、1分、1秒ごとに強くなっていくとんでもない才能の持ち主、それが織斑一夏なのだと春十は驚愕していた。

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