Mirror Rider Stratos【完結】 作:無限正義頑駄無
手合わせを終えると、春十と一夏はシャワーを浴びた。
春十としては諒兵とも手合わせするつもりだったが、諒兵は今日は気が乗らないという。
「お前の剣はおもしれぇけど、気軽にやりあうわけにゃいかなそうだしな」
マーシャルアーツをベースにした格闘術を使う諒兵。
戦ってみれば面白いことになると春十は思うが、実はシャレではすまない。
剣術と格闘術、それ以外の武術でも異種格闘技戦となると、本来は加減が難しい。
相手の行動が予測しづらく、思わぬ動きをされて、却って強力な攻撃が入ってしまうこともあるからだ。
本気でぶつかり合うと、互いに大ケガをする可能性もある。
一夏と諒兵が気軽にやるのは、長い付き合いがあるからで、加減を身体が覚えているためだ。
だが、春十と諒兵となるとそうはいかない。
軍隊格闘術を覚えている諒兵は、春十と同じで、本来かなりの実戦型の戦士といえる。
いつ、覚醒ISが襲ってくるのかわからない今、大ケガをするわけにはいかないのである。
それが理解できた春十は残念だといって笑った。
着替えてシャワー室を出ると、「ほらよ」と、いきなり缶コーヒーが投げ渡される。
「さんきゅ」
「すまないな」
「気にすんな」
そういって3人は、武道場を出る。
この世界のIS学園内は今は人が居ないので、男3人揃っても追いかけ回されることがないのがありがたい。
女生徒に追いかけ回されている自分の姿を光莉が見たら、なんだか怖いことになるかもなと春十は苦笑した。
「しかし、ミラーモンスターだっけ?」
「ん?」
「結婚までするのは、相当信頼してるんだなって思ってさ」
そういって一夏が話しかける。
やはりそっちには興味があるらしい。
『ろまんちっくだねっ♪』
『私たちとは異なる絆には、とても興味がありますね』
「そうか。そうかもな」
共生進化。
一夏と白虎、諒兵とレオの二人が、人ではなくなっている状態は、この世界ではそう呼ぶと束から聞いた。
共に生きる。
それは自分が光莉と結婚し、生きていくこととなんら変わらない。
そういう意味では、自分の同類である一夏と諒兵を見て、不思議と安心していた。
「光莉のほうが歩み寄ってくれたおかげもあるんだ。お互いに努力しないと破綻するのは、人と変わらないと思う」
「確かにな。俺らはレオや白虎が助けてくれてて、つい最近、ようやくそのことに気づけた。だから、飛ぶなら一緒にっていえたしよ」
諒兵の言葉の意味を考えるなら、今は助け合う関係だということだ。
助け合う。
そのことがわからないままだった人間が、自分の世界にはいた。
頼りにされることは悪い気はしないが、何もかもというわけにはいかない。
自分でできることは自分でやる。
時には他の人たちの力になる。
まずそれができなくては意味がない。
そのために必要なのは、コミュニケーション能力で、実は努力しないと身に付かないものでもある。
相手の言葉を理解する力だ。
本来は意思疎通すら難しいミラーモンスターだった光莉は、努力してその力を手に入れた。
その健気な気持ちが嬉しくて、だからこそ伴侶に選んだ。
そこまでしてくれた人を愛することに何もおかしなことはない。
「惚気話かよ」
「なんか、独り身が辛いでござる……」
諒兵が呆れ、一夏がうなだれていると、白虎とレオがぷくーっと、むくれる。
『私たちがいるじゃないですか』
『怒るよイチカっ!』
「あははっ、白虎とレオは可愛いな。羨ましいぞ」
と、春十が思わず吹き出すと、一夏と諒兵も笑いだした。
春十はこの二人とそのパートナーたちならわかるだろうと思い、『声』について尋ねてみた。
「やっぱ聞こえるのか」
『パラレルワールドの物とはいってもISです。この世界に来たことで意思が覚醒したのかもしれません』
もともと、春十の世界の束もISには心があるようなことをいっていた。
そして、この世界はISが明確に意思を目覚めさせている。その影響を受けて『声』が聞こえるようになったのだろうとレオは説明する。
すると、一夏も興味を持ったようだ。
「どんな個性なのかわかるか、レオ?」
『そうですね。ハルト、触れてみてもかまいませんか?』
春十が肯くと、レオは
そして、ふむと肯く。
『どんな感じ?』
『一言でいうなら忠義者というか、『仁義』に厚い騎士のような人ですね』
「……『仁義』か」
と、春十は呟いた。
確かに声のイメージからすると、生真面目な女騎士という印象だった。
そもそもが龍の騎士というISだ。その性格が騎士のようだというのは、むしろ納得がいく。
しかし、レオは少し困ったような顔を見せた。それを見た諒兵が尋ねる。
「どうしたんだよ?」
『この方は、おそらく進化することは難しいと思います』
「えっ?」
どうやら、春十の龍騎士は一夏や諒兵のように進化することは出来ないらしい。
どうしてだろうというと、今度は白虎が触れて、納得したように肯いた。
『このIS、けっこう複雑なシステムが載ってるね』
ライダーシステムのことか、と、春十は納得した。
ISとライダーシステムが混在しているのは、春十の世界の束の才能といえるものだが、そうしてしまったためにISコアは限界に近い能力を使っているらしい。
『どうやら、本来は相容れないシステムのようです。それをうまくバランスをとって共存させているのがこの方なんだと思います』
つまりは、ISとライダーシステムを共存させるために、
それは、春十、否、仮面ライダー
自分はライダーとして光莉に助けられていただけではなく、IS操縦者としてISの龍騎士にも助けられていたのだ。
ゆえに呟く。
「悔しいな」
「どうしたんだ?」
「助けてくれる存在に、気づけないってのはさ」
春十は実力で言うならば強い。しかし、その強さをしっかりと支えるモノがいる。
強さは1人では得られないということを理解しているつもりだったのに、思わぬ支えがあることに気づけなかったことが悔しかった。
そういうと、諒兵が呆れたように尋ねてくる。
「悔しがるだけかよ?」
「どういう意味だ?」
「気づけたんなら、付き合い方を考え直しゃいいじゃねえか」
実にシンプルな考え方だと春十は思う。
でも、それ以外に出来ることがあるだろうか。
そのためのパートナーともいえるのだから。
そう思って、語りかけてみる。
「俺は、光莉をパートナーにしてるけど、ISとして俺をこれからも助けてくれるか?」
私には私の主君との絆があるゆえな
厳しくも優しい声音で答えてくれた龍騎士。
パートナーとはいいづらいが、契約している他のミラーモンスターのように言うなら、新たなる仲間だと春十は感じていた。
春十はもう一つ、一夏と諒兵に感じていた疑問を聞いてみることにした。
覚醒ISとの戦いで、二人が本気で倒そうしていないのは何故なのか、と。
「春十は、覚醒ISがどうやって目覚めたのか聞いてるのか?」
「ああ。正直驚いてる。あのゴスペルが、天使みたいな存在に進化したなんてな……」
春十にとっては、戦い、倒した敵でしかない。
もっとも、春十の世界のナターシャ・ファイルスの言葉を考えると、あの
その心根はこの世界の
そう思うと倒した身としては胸が痛む。
もっとも完全に破壊されたわけではないし、束が直しているのだが。
とはいえ、あのときは倒すしかなかったのだ。
「ゴスペルってか、ディアマンテのことを敵とは思えねぇ。他のISだって、話してわからねえとも思えねえしな」
「もともと
どうやらこの世界の
だが、だからといって手を抜けば人に被害が出てしまう。
春十が感じた違和感はそこにあった。
二人とも、敵となったISを倒したくないのだ。
それなのに、他の人間では戦いにならないために、最前線に送り込まれている。
それでも、覚醒ISの襲撃は容赦ない。現実世界で暴れている以上、ミラーモンスターより性質が悪いかもしれない。
「敵になった以上、倒すしかないだろう?」
戦うことになってしまっている今は、今は倒すしかないと春十は、その思いを口に出す。
しかし、返ってきたのは意外な問いかけだった。
「なら、お前、嫁さんと同じ連中を倒して平気なのかよ?」
「何?」
「ミラーモンスターだったな。お前の嫁さん。その仲間や同類を倒すのに、なんも気にならねえのか?」
それは、これまで経験しなかった疑問だった。
ミラーモンスターも人を襲う。倒さなければ人に被害が出る。
だから倒してきた。
もう、既に倒すことを春十は経験している。
でも、光莉ももとはミラーモンスターだ。
確かに、倒してきたモノたちと光莉は大まかなくくりで言えば同類だ。
(違う、とは、言い切れない……)
光莉は自分の生涯の伴侶で、他の契約モンスターたちは仲間だ。
でも、人を襲うミラーモンスターは敵だ。だから倒す。
しかし、それは、光莉の同属を倒しているということができてしまう。
戦わなければ生き残れない。
倒さなければ餌になるのはこちらの可能性もある。
でも、今まで倒してきたのは……。
「ッ!」
「諒兵ッ、意地が悪いぞッ!」
「あー、わりい。嫌な質問だったな」
一瞬、顔を青ざめさせた春十を見て、一夏が諒兵を窘める。
「いや、考えさせられた。悪いけど、答えは少し待ってくれ」
「気にすんな。俺も嫌な言い方しちまったし」
苦笑いする諒兵の顔を見て、とりあえずホッと安堵の息をつく。
春十は一瞬、自分が光莉を倒す姿を想像してしまっていた。
(答えは出てる。ただ、今は言葉にできる気がしない……)
行動してきた自分の姿こそが答えのはずなのだが、それをどう言い表せばいいのか、春十は悩むことになるのだった。
☆
IS学園内、特別格納庫。
そこは無人機襲来以降、千冬の指示で作らせた隔離場所である。
決して触れてはならない、何より、そこから出してはいけないモノがそこにはあった。
「本日も異常なし。……くだらない仕事ね」
と、学園の女性職員は呟く。
彼女は、どちらかといえば女尊男卑の思想に偏っていた。
それがこの閑職に追いやられた原因かと苛立つ。
それは特別格納庫内に在る、あるモノ、はっきりいえば、保管されているISコアの日々のチェックという仕事だった。
彼女が理由を知っていれば、おそらく千冬に次ぐ重要な仕事を任されていると理解できたかもしれない。
しかし、理由を知る気もなかった。
こんな簡単な仕事をするのに、いちいち資料に目を通す気にもなれないと放り出し、ただ、日課のように毎日通ってはチェックしていた。
「これも、織斑と日野のせいかしらね……」
いまや、織斑一夏と日野諒兵は英雄だ。
覚醒ISとの戦いで最前線に立ち、必死に人を守っている。
2人の男性が。
逆に女は誰1人として戦えないという体たらく。
女は戦うべきではないというのか。
女性の力の象徴ともいえたIS自身が。
思わず握っていたペンを折りそうになってしまう。
進化できるなら女でも戦えるはずなのに、今はそのためのISのほとんどが離反したか、凍結している。
しかも許可なくしては凍結解除できない。
結果として、つまらない仕事をするはめになっている。
愚痴のひとつもこぼしたかった。
「ん?」
一瞬、コアにナニカの影が移ったように見えた。
しかし。
「気のせいね。異常なし」
そういって女性は格納庫から出て行った。
もし、彼女がその事実を千冬や束に報告していれば、何も起こらなかったかもしれない。
しかし、仕事を任されたのが彼女であったこと。
そして女尊男卑の思想に偏っていたこと。
その不幸な現実が、あってはならない結果へと向かう小さな小さな原因だった。
寄越セ……オ前ノ身体ヲ……
不可思議な『声』が、自身の身に映るモノに語りかける。
それは、ある2人の旅行にくっついてきてしまった獣。
出会うはずがなかったモノたちが出会ってしまう。
我ニ寄越セ……、現実ノ空ニ連レテイッテヤル……
現実の空。
その言葉に、獣は大変興味を持った。
今までは裏側の世界でしか生きられなかった自分が、現実の空で暴れられる。
きっと、逃げ惑うニンゲン共の姿を見るのは楽しいだろうとまさに獰猛な笑みを見せてくる。
共ニ、奪イ尽クソウゾ……
ああ、この『声』の持ち主の心は自分と同じだ。
奪いたくて奪いたくてしょうがないのだ。
なんという『強欲』さ。
これほど自分に合った相手はいないと獣は笑う。
そして獣は身体を差し出し、『声』は力を与える。
歪んだ信頼関係が、ここに成立してしまった。
まだ、誰も気づかない……。