Mirror Rider Stratos【完結】   作:無限正義頑駄無

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第5話 男の子が戦う理由と女の子が戦う理由

 

 

その日の夜。

気を利かせてくれたのか、それとも出歯亀するつもりなのか、春十と光莉は二人きりの時間を得ることができた。

とはいえ、今はいちゃつくつもりはないので、お互いに友人となったこの世界の者たちのことについて話し合っていたが。

 

「では、この世界の一夏さんと諒兵さんにも、私の正体は知られているのですね?」

「ああ。でも、『だからなんだ?』って話らしいな、あいつらにとっては」

 

もともと、白虎とレオと共生進化している一夏と諒兵にとっては、光莉の正体がミラーモンスターであることはまったく気にならないらしい。

 

「話ができて、信頼できるなら、それで十分なんだとさ」

「共に生きる進化。それができた理由がわかる気がします」

 

大事なのは心が通じ合っているかどうか。

それがわかっているからこそ、光莉のことも気にならないのだろう。

世界は広いと、光莉は心から感心していた。

逆に春十のほうは、光莉の話に驚いていた。

 

「それより、こっちの鈴には驚いたぞ」

 

春十にとって鈴音は、友人というのが一番近いだろう。

鈴音もそれで納得しているし、同じライダー仲間でもある。

その関係は、正直に言って色気が出そうな雰囲気はもう欠片もない。

だが、この世界の鈴音はまるっきり正反対といえる。

こちらの世界の一夏と諒兵。2人の間でどっちつかずの恋に苦しむ鈴音など、春十には想像がつかなかった。

それは光莉にとっても同じらしい。

 

「正直言うと、気持ちがわかるとはいえません。でも……」

「でも?」

「すごく、女らしさを、女性的な魅力を感じたんです」

 

中途半端な想いだとこの世界の鈴音自身が言った。

にもかかわらず、自分が見てきた鈴音たちの中で、一番女の子らしい、女性らしい魅力があった。

切なげな表情も、真剣な表情も、自分が見たことのない、綺麗な顔をしていた。

もし、自分の世界の鈴音が、この世界の鈴音の様であったなら……。

そこまで考えて、必死に頭を振る。

春十を好きだという女の子自体は、やはり元の世界でも多い。

その中でも筆頭に来るのは箒だろう。

だが、自分の世界の箒には、春十を愛する気持ちで負ける気はしなかった。

それは自分の世界の鈴音も同じで、いい友人という立場に鈴音自ら収まってくれたことで、今は仲良く付き合える。

そんな彼女が、この世界の鈴音のように本当に綺麗な、恋する乙女だったら。

自分が愛し、春十が愛してくれていることだけで、何にも勝る自信があったが、この世界の鈴音が相手だったら、それだけでは不安だったかもしれない。

その感情が歪んでしまうと、行き着く先は自分の世界の箒のような結末だ。

 

恋は心を暴走させる。

 

この世界の鈴音に出会ったことで、その恐ろしさと、だからこそ人を愛することの尊さを光莉は感じていた。

 

「どうしたんだ、光莉?」

「乙女心は複雑なんです」

 

そういって苦笑いする光莉を、春十は不思議そうな表情で見る。

きっと話したところで、「俺が愛してるのは光莉だけだ」というだろう。

それはとても嬉しいけれど、それだけでは足りなくなるようなときがある。

男が単純だといわれる理由が、少しだけわかった気がした。

そんな話をしつつ、光莉は『声』について尋ねてみる。

 

「そういえば、聞こえないのか?」

「全然です。つながり方が違うせいだと思いますけど」

 

案ずるな。割って入るつもりはない

 

と、いきなり龍騎士(ドラグナー)の『声』が聞こえてきたことを一夏が打ち明けるが、やはり光莉には聞こえないらしい。

しかし、ここで口を挟んでくるとなると、龍騎士は意外とおしゃべりなのだろうかと一夏は思う。

 

そういうわけではない。黙れというなら黙る

 

ただ、光莉を安心させるためには必要だと思ったから口を開いたのだと龍騎士はいう。

どうやら春十というより、光莉に気を遣ったらしい。

それはともかくとして、かなり自由に喋ることができるらしいのに、光莉には聞こえないというのはどういうことなのだろう。

 

「教えてくれないか、龍騎士(ドラグナー)?」

「二人だけで話されるとなんだか腹が立ちます」

「そこで嫉妬されると困るんだが」

 

『声』が聞こえる理由を知りたがったのは光莉の方なのに、女性の心理は複雑である。

男が感じる理不尽は、複雑な女心にこそあるのかなあと妙な感心をしてしまった。

しかし、これで話が進まない。そう思っていると、聞いたことのない『声』が聞こえてきた。

 

『どうもー、お邪魔しますよ、お二人さん♪』

「えっ、誰です?」

「あれ、聞こえるのか、光莉?」

 

龍騎士(ドラグナー)のような『声』にも関わらず、光莉にも聞こえている。

つまり、白虎やレオと同じく、進化したISだということができる。

 

『いえいえ、私はオリジナルASですよー。名前はテンロウといいます』

「あなたが?」

『はいはい♪』

 

千冬と束の説明にでてきた、最初に人と会話を果たしたASであり、エンジェル・ハイロゥから来た電気エネルギー体。

この世界で『博士』と呼ばれる、束に並ぶ科学者のパートナーである天狼が来ているらしかった。

 

「何で俺たちのところに来たんだ?」

『通訳しますよ』

「通訳?」

『ナーさんの声を聞きたいんでしょ?』

 

ナーさんとは龍騎士(ドラグナー)のことらしい。

それだけではなく、会話の中での疑問にも答えてくれるという。

しかし、感嘆には信じられず、光莉は不信感を顕わにして尋ね返す。

 

「本当に聞こえるんですか?」

『問題あるまい。こやつは能力だけなら優秀だ』

 

光莉の頭にも聞こえてきたのは、春十が聞いている龍騎士(ドラグナー)の声と同じだった。

 

「驚きました……」

『能力だけなら優秀ですから♪』

 

龍騎士(ドラグナー)の言葉が皮肉まじりであるにもかかわらず、胸を張っているような雰囲気でいう天狼だった。

『太平楽』は伊達ではないのである。

とりあえず話すことができそうだと考えた春十は、龍騎士(ドラグナー)に説明を求めた。

自分は何故、龍騎士(ドラグナー)の声が聞こえるのか、と。

 

『答えは単純だ。主君は奥方を受け入れた。その心の在り方が、私の『声』を受け入れている』

「なら、どうして私にはあなたの『声』が聞こえないんですか?」

 

そもそも、システム的には共存しているISとライダーシステム。

そのシステムによって契約したミラーモンスターである光莉にはシステムを介して龍騎士(ドラグナー)の『声』が聞こえるはずだといえる。

それなのに、光莉には『声』が聞こえない。

何故か?

 

『それは奥方が女になってしまったからだといえるだろう』

「それが理由になるんですか?」

『最悪の例を忘れた訳ではあるまい?』

 

一夏と光莉が知る限り、女で最悪の例といえば、自分の世界の箒になる。

 

『アレはある意味ではまさに『女』そのものだといえる。自分が認めるもの以外、世界から排除してしまうのだ』

 

昼間、光莉がこの世界の鈴音に感じた女らしさ。

それとは対極にある女らしさが自分たちの世界の箒にはある。

依存というか、自分の世界に収まらないものは排除してしまう女の悪い面が強かったのだと龍騎士(ドラグナー)は語る。

 

「つまり、女性なら誰でも持っているってことなんですね」

 

自分の世界の箒の行動は、光莉にとって嫌悪どころか、憎悪したいくらいだ。

それも女の悪い面なのだろう。

とはいえ、光莉は耐えに耐えてきた。そう考えるならば、光莉自身はそこまで悪い面が強くはない。

 

「つまり、悪い面が強いか弱いかで変わるって事なのか?」

『そういうことだ、主君。だが悪い面がもたらすのは悪いことばかりでもない』

「何故ですか?」

『ビャッコとレオの主が苦しんでいるのは、世界の全てを抱えようとしているからだ』

 

時には排除することも大事なのだと龍騎士(ドラグナー)は意外な意見を述べてきた。

 

『あの2人が苦しんでいるのは男の悪い面のためと言えよう。だが、我々にはどうしようもない。この世界の者たちが自ら答えを出さねばな』

『出せますよ。あの子たちはそんなに弱くありませんからね』

「確かにな。俺もそう感じた」

「それは、私もです」

 

新婚旅行で異世界を訪れることになった2人。

だが、いろんな世界があり、いろんな考え方があることを知るという意味では、ただの観光よりはるかに思い出深い旅になると感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

「ふわわぁ~」と、束は年よりはるかに幼く見えるような欠伸をしていた。

 

「完徹は辛いなあ」

 

覚醒ISから抉り取ったISコアの凍結。

そして一夏と諒兵の戦いをサポートするためのバックアップとやることは山積みだ。

そのため、束の負担は大きいが、文句をいう気はなかった。

束が人類側で、戦う一夏と諒兵のサポートをしているのは、実は人類など関係ない。

自分のための目的があった。

もっとも、そのことを誰にもいっていない。

ただ、何故か千冬は言っていないにもかかわらず、理解している様子だった。

そういう意味でいうなら、やはり千冬は自分にとって親友なのだろう。

そんなことを考えていると、あることに気づく。

 

「ありゃ?」

 

モニターの一つに異変が出ていた。映っているはずのモノが映っていない。

なんだったっけ、と、そこにあるはずだったモノを思い出した束は、一気に蒼白になってしまう。

 

「ちーちゃん起きて!あの子がいない!」

 

即座に、まだ眠っているであろう千冬を叩き起こす。

戦闘態勢を整えさせるために。

何故なら、そこにいなければならないのは、この世界にとっての災厄だったのだから。

 

異変を一番最初に感じ取ったのは、一夏、諒兵、そして春十のパートナーたちだった。

 

『まさかっ!』

 

一夏を叩き起こすような大声で、白虎が叫ぶ。

 

「ミラーモンスター!?何故この世界に!?」

 

光莉は泊まっていた部屋で飛び起きた。

 

『これは、あのときの不愉快な方……?』

 

冷静に、だが熱い怒りを感じさせる声でレオが呟く。

それとほぼ同時に異変を感じ取った一夏と諒兵、そして春十は外に飛び出し、ありえるはずのない存在を目の当たりにした。

 

グルァアァアアァァアァアァアァッ!

 

それは一言でいうなら犬だった。しかし、あまりにも巨大だった。そして頭の数がおかしかった。

3つの首が、それぞれ別々に雄たけびを上げている。

尾には禍々しい光を持つ刃が光る。

そして何より、それは無機質な光沢を放つ、鋼鉄の身体でできていた。

それだけを見るならば、春十にとってはある意味では馴染み深い。

しかし、その異形の獣は、背に大きな翼を背負い、空中に立っていたのだ。

春十はすぐに光莉に通信をつなげる。

 

「光莉!こいつのことを知ってるなら情報をくれ!」

『それはトライドッグスラッシュ、なのですが……』

「どうした?』

『戦闘力がおかしすぎますッ、私のもとの姿に匹敵する力を持っているんです!』

 

光莉、すなわちシャインナーガなら一蹴できる程度の敵でしかない。

さらにいえば、このミラーモンスターは兄弟分のモンスター、『デュアルドッグスラスト』と合体(ユナイト)することで強力になるタイプで、単体でここまで強くなるはずがない。

それなのに、異常なほどに強力な力を感じさせる。

何故か?

 

『その理由ならわかります』

「レオ!?」

『あいつっ、あのときの奴だよッ!』

「あのときって……?」

 

一瞬、何のことを言っているのかわからないでいると、指令室から千冬が大音声で叫んできた。

 

『一夏・諒兵・春十、その化け物は無人機のコアと融合してしまっているんだ!』

「無人機?」

「あのときのあいつかっ!」

「思い出したぜ。あのときと同じ、酷くムカつく気配がしやがる」

 

無人機といえば、春十にとってはマドカを思いだすが、今は考えている場合ではないと頭を振る。

それに、どう見てもミラーモンスターだ。

あんな形をしているはずが無い。

 

『どういう理由かはわかりませんが、そのミラーモンスターがあのときのコアと融合して進化してます』

「つまりアレは、俺たちと同じなのか?」

『同じだけど違うよっ、イチカとはっ!』

 

矛盾しているが正しい。

しかし、そのことを解説している暇はなかった。

尾が一振りされただけで、幾重もの刃が襲い掛かってきたのだ。

 

「撃ち落すッ!」

 

「斬り捨てるッ!」

 

「砕け散れッ!」

 

背後に存在するIS学園の建築物。そこには守らなければならない人がいる。

それを背負う三人の男たちは、全ての攻撃を一気に消滅させる。

 

「クソッ、ミラーモンスターと融合したせいでISコアが変質したのか?」

 

そんな春十の悔しそうな叫びを、千冬が否定してくる。

 

『違う!』

「千冬姉!?」

『そのコアは……そのコアの個性は人の命を欲する『強欲』だ!つまりそいつは『殺人鬼』という個性のISなんだ!』

 

何だそれは。

その場にいた全員が唖然としてしまう。

いくら個性が様々だといっても、そんな個性まで存在するというのか、ISには。

つまりは、化け物同士が一つになって、さらに強力な怪物へと進化してしまったというのか。

それは一夏、諒兵、春十にとって当然の疑問であり、そして納得のいかない答えだった。

 

そして。

 

「いくわよ」

「はい」

「うん」

「うむ」

 

鈴音、セシリア、シャルロット、ラウラは空に立つ化け物を見据え、そう静かに呟く。

 

「本気ですか!?」

 

それを光莉が押し留めようとしていた。

 

「行かなきゃ行けないのよ、ここで止まってたら、追いつけないもん」

「ですがっ、アレは……」

「相手がなんであろうと、私たちは止まってはいられませんわ」

「一夏と諒兵だけを戦わせるのは、友だちとして辛いからね」

「夫の背を守るのは妻の務めだ。お前にはわかるだろう光莉」

 

ラウラの言葉には思わず納得してしまう。

だが、常識外れに強化されたミラーモンスターと化け物といわれるような個性を持つISコアの融合体。

並みの戦力では勝ち目が無い。

それがわかる光莉はこの世界での友人となった優しい少女たちを死地に赴かせたくはなかった。

 

「心配してくれてありがと。あんた、ホントいい子ね」

「鈴さん……」

「なんとなく、だけどさ。あんたが普通じゃないことと、あの春十ってのが、一夏なのはわかってるのよ」

 

そういわれたことに驚いてしまう。

なぜかと問いただすと、鈴音は答えた。

 

「女の勘よ」

「恋する乙女の勘は鋭いらしいですわ」

「鈴はこういうとこ、人間離れしてるよね」

 

そんな鈴音の答えに、セシリアとシャルロットが苦笑いを見せる。

 

「だからといって、お前のことをどうこう言うつもりはない。ただ、だんなさまや一夏の力になりたいだけだ。私たちは」

 

そういってラウラが優しく、光莉に微笑みかける。

 

この空を守りたい。

 

ただそれだけが一夏と諒兵の願いだ。

そのための翼であるISを信じきってしまうのはどうしようもなかった。

だから、そんな2人を守るのは自分たちだと、鈴音はわかっていた。

 

「それなら、私も一緒に戦います」

「光莉?」

「鈴さんの言うとおり、普通じゃありませんから」

 

と、そういって光莉は両腕両足、翼と3つの龍の頭を解放する。

 

「それが……」と、全員が目を見開く。

ある意味、ISを纏っているようにも見える姿だが、間違いなく化け物としての姿だった。

 

「シャインナーガ、それが私のミラーモンスターとしての名前です。あそこにいるのはISコアと融合してしまったとはいえ、私の同属ともいえます。でも……」

「あんたは人を好きになった。それだけのことでしょ?」

「えっ?」

「自分の心が、1番自分の思いどおりにならないって言ったじゃない」

 

好きになったのが人間だった。

たったそれだけのことだ。

でも、たったそれだけのことが、自分の運命すら変えてしまう。

 

「恋って怖いわよね。自分が何しでかすかわからなくなっちゃうんだもん」

「本当に、そうですね」

 

でも、今やるべきことはわかっている。

空を守ろうとする男たちを、女たちが守るのだ。

その想いがあるなら、自分たちは仲間だといえるのだから。

 

「いくわよ!」

 

その掛け声と共に、5人の少女戦士たちが空へと舞い上がっていった。

 




・トライドッグスラッシュ(5000AP)
三頭犬(ケルベロス)型のミラーモンスター。
イメージは「電脳冒険記ウェブダイバー」のウェブナイト・ケルベリオン。

・デュアルドッグスラスト(5000AP)
二頭犬(オルトロス)型のミラーモンスター。
イメージは「電脳冒険記ウェブダイバー」のウェブナイト・オルトリオン。
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