ようこそ『喫茶キヴォトス』へ 作:ホットミルクしか勝たん
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『喫茶キヴォトス』を経営する店長から指示を受けたわたしは、大切な生徒を守れなかった無力感を抱えながら店内を飛び出した。
少しでも気を緩めれば、わたしはきっと膝から崩れ落ちてしまう。
先生という”記号”に縋りつきながら、わたしはシャーレまでの道を全力で疾走する。
『──せっ、先生っ! ヒールでそんな風に走ったら危ないですよっ! もう少しゆっくり……っ!?』
元々運動があまり得意ではないわたしは、生徒達と触れ合う中でいつの間にか自身のスペックがキヴォトス水準にあると錯覚していたようだ。
身の丈に合わないハイヒールを履き、“理想の先生像“を体現すべく背伸びを続けた自分にばちが当たったのだろう。
「ぐえっ……!」
靴擦れを起こして重心を崩し、コンクリートに全身を強打してしまった。
受け身を取ることなど到底できるわけもなく。路傍で一人痛みに悶える姿の、なんたる惨めなことか。
『だっ、大丈夫ですか……っ!?』
「……大丈夫」
『気を付けてくださいね! 先程“店長”さんも言っていましたが、シッテムの箱を手放してしまったら、いくら超エリートなアロナちゃんでも先生のことを守れなくなってしまいます!』
「ありがとう、気をつけるね」
転倒の衝撃で手放してしまったシッテムの箱を拾い上げ、わたしは再び駆け出した。
『……それにしても、彼は一体何者なのでしょうか』
部室棟までの道のりを駆ける途中、アロナがわたしの心境を代弁するように口を開いた。
『一喫茶店の店主が……ましてやキヴォトスの外から来た方が“シッテムの箱”の存在を認知しているなんて』
わたしが常に携帯するシッテムの箱は、失踪した連邦生徒会長が残したオーパーツのひとつ。その存在を知るものは学園都市においても、片手で数えられる程度だろう。
『加えて、セリカさんの居場所にも心当たりがあるような印象でした。キヴォトスにおいて最も優秀な秘書であるこのA.R.O.N.Aですら、お手上げだったというのに……っ!」
どこからか取り出したハンカチを口に咥えながら、アロナは『喫茶キヴォトス』の店主に対抗心を燃やしていた。
アロナの指摘通り、店長さんが”シッテムの箱”の存在を認知していたことは確かに不可解だ。
しかし、それ以上にわたしが気になっているのは、店長の隣に立っていた『アロナ』と呼ばれる女の子の存在。
「……アロナちゃんも、教室から見てたよね? 店長さんのそばにいた、女の子のこと」
『……はい。同時に彼女の生体情報を確認したのですが……え、えっと、なんて言えばいいのでしょうか…………』
『喫茶キヴォトス』の常連客として認知されるほど足繁く来店していたわたしだったが、彼女がわたしの前に姿を現したのは今日が初めて。
ユウカちゃんやセリカちゃんとの会話から、『アロナ』という少女が『喫茶キヴォトス』の従業員として働いていることは知っていた。
明らかにわたしとの接触を避けている様子だったが……彼女の容姿をみれば、その理由も納得だ。
となると、『喫茶キヴォトス』の店長は……。
「……ううん。今はそれよりも、セリカちゃんのことを考えなきゃ」
『そうですね! 私もあのお二人に対して聞きしたいことが山ほどありますが、今はセリカさんの救出任務に集中しましょう!』
シャーレのエントランスに到着し、わたしはエレベーターに乗って部室に駆け込む。
部室入り口のシューズボックスを漁って無地のスニーカーに履き替えたあと、すぐさま踵を返してエントランスへ。
店長さんが懸念していた、”シッテムの箱”の充電残量も申し分ない。
”シッテムの箱の演算能力”を駆使しても、アビドス自治区に最も詳しい対策委員会の子たちですらも、誘拐されたセリカちゃんの情報を掴むには至らなかった。
わたし達に残された一縷の望みは、セリカちゃんが信頼を寄せる『喫茶キヴォトス』の店長さんだけ。
『先生……』
無意識に、タブレットを抱える手に力がこもった。
「……大丈夫だよ。セリカちゃんは、とっても強い女の子だから」
どこまでも無責任な発言。けれど、そうやって自身の心に刷り込まなければならないほどに、私は追い込まれている。
……失踪した連邦生徒会長は、一体どうしてこんな弱いわたしを”先生”の役職に指名したのか。
際限なく湧き上がる負の感情を振り払いながら、エントランスで待機することしばらく。
特徴的な電子の駆動音を轟かせながら、遠方から大型の自動二輪車が姿を見せる。
「──お待たせしてしまい、申し訳ありません」
……喫茶店の店主というのだから、わたしはてっきり庶民的な乗り物で迎えに来てくれるものだと思っていた。
しかしわたしの前に現れたのは、キヴォトスの科学技術の粋によって生まれたであろう近未来的なデザイン。日常遣いにはあまりも不便と断言せざるを得ない車体の大きさに、わたしは文字通り言葉を失った。
店長さんは以前ツーリングを趣味として嗜んでいるとは伺っていたが……誰がどう見ても、これがツーリング用だと認識できる人間はいないだろう。
「……先生、あまり時間がありません。詳細は後ほどに、まずはこちらを着用してください」
いつの間にかバイクを降りて目の前に立っていた店長さんから、彼が着用しているヘルメットと同様のものを手渡される。
「先生、二人乗りのご経験は?」
「い、いえ……一度も」
「承知しました。では、簡単な手ほどきをいたします」
言われるがままに手を引かれ、わたしは店長さんの背中へ密着するような姿勢で座席に跨った。少し……いや、だいぶ恥ずかしい。
「そのまま私の腹部に腕を回して……もっと力を込めて下さい。途中で死んでしまいますよ?」
「……っ」
「冗談です、上出来ですよ」
お互いヘルメットを着用しているせいで相手の顔を窺うことはできないが……今の店長さんは間違いなく、悪戯な笑みを浮かべているに違いない。
少しムキになって全力で両腕を固めるが、彼の身体はぴくりとも動かない。スーツの下に、何かを着込んでいる。
「──では、参ります。少々荒い運転にはなりますが……くれぐれも舌などを噛まないように」
***
けたたましい電子の駆動音をあげながら、キヴォトスD.U.の街並みを法外な速度で駆け抜ける。後で何かしらの注意を受けるかも知れないが、その時はリンちゃんに泣きついて謝ろうと思う。
初動の加速こそ凄まじい衝撃だったが、さすがはキヴォトスの科学技術と言うべきか。店長さんの脅しは何だったのかと感じるほどに安定した乗り心地であった。
『──失礼。走行中の会話方法について失念していたのですが』
「は、はいっ!」
『このヘルメットに内蔵された無線機を用いて行います。ミュートにする際は、シールド上に表示されているアイコンを視線で操作して下さい』
ヘルメット越しに、店長さんの言葉が直接届く。最初はどういう仕組みか理解するまでに少々の時間を要したが、コツを掴むと直感的で非常に使い勝手がいい。
何気なく着用したこのヘルメットにも、科学技術の粋が込められている。
「……店長さん、一つお聞きしてもよろしいでしょうか」
『はい』
「店長さんは先ほど、誘拐されたセリカちゃんの居場所に心当たりがある印象でした。今は一体、どちらへ向かわれているのでしょうか?」
シールド上に表示されたマップを確認すると、店長さんはあろうことは……セリカちゃんの端末情報が最後に確認された場所の
彼が目指す方角に広がっているのは砂漠化の進行によって荒廃し、今や地図にすらその詳細が載っていない僻地である。
『…………期待を煽るような発言をしてしまった手前、大変恐縮なのですが。実を言うと私も、確信があるわけではありません』
「……そう、ですよね」
わたしの専属秘書であるA.R.O.N.Aですら、セリカちゃんの痕跡をついぞ辿ることはできなかった。店長さんが謝る必要は全くない。
『……しかし、直感が私に訴えかけているのです。
店長さんの含みのある物言いに、わたしは返す言葉を見つけることが出来なかった。
彼は明らかに何かを知っていて、わたしに何か大切なことを隠している。
言えないのか、言いたくないのか。あるいは、言っても信じてくれないことだから言わないのか。
彼の腹部に回した両腕に、無意識に力がこもった。
『──アロナ。
『──回答。目的地までの所要時間は、五十二分三十四秒です』
わたしと店長さんの無線に、先ほど『喫茶キヴォトス』店内で見かけた少女の声が混ざる。
『ありがとう……先生、まもなくアビドス自治区に入ります。舗装されていない路面が続きますので、衝撃にはくれぐれもご注意下さい』
見慣れたD.U.の街並みを抜け、荒廃したアビドス自治区の市街地を横切る。
『──先生、初めまして。ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません』
「う、ううん。大丈夫だよ……えっと、アロナちゃん、だっけ?」
『はい。『喫茶キヴォトス』バリスタ兼、看板娘を担当しています、アロナと申します。以後、お見知りおきを』
抑揚のない平坦な声が、無線越しにわたしの耳へと届く。
『本日は微力ながら、お二人の後方支援を担当させていただきます。何卒よろしくお願いいたします』
「ありがとう、アロナちゃん」
無線越しに感謝の気持ちを伝えると、胸元にしまったタブレットがわずかに振動する。
わたしの専属秘書が、彼女に対して敵対心を燃やしていた。
それからしばらくの間わたしたちの間に会話はなく、ただひたすらにセリカちゃんの無事を祈る時間が続く。
『……先生、少々場違いな話題になってしまうのですが』
「はい、なんでしょうか?」
『もしよろしければ、普段学校で過ごされている黒見さんの様子についてお聞きしてもよろしいでしょうか? 先生から見た感想で構いません。彼女に関わることであれば、なんでも』
普段のセリカちゃんの様子、か……。
「……すごく真面目で、責任感の強い子だと思います。人一倍仲間想いな女の子だったので、当初は少し衝突してしまうことがありましたが……」
初対面こそ非常に警戒心の強い生徒であったが、ふれ合いを重ねるうちにその印象は大きく変化していった。
「ある時……セリカちゃんが昼食にコーヒーとサンドイッチを振る舞ってくれたんです。あの子から歩み寄ってくれて、気持ちを素直に伝えてくれたことがすごく嬉しくて」
大人という存在に対して不信感を抱いていた彼女が、自分自身で殻を破り、成長する瞬間を目の当たりにしたのだ。
「この前もシャーレの当番に来てくれて、お仕事を手伝ってくれました。ふふっ、ここだけの話ですけど……セリカちゃん、ずっと店長のことを嬉しそうに話してくれるんです」
学校にいる時も、シャーレの部室にいる時も、”店長”という共通の話題が場の雰囲気を和やかにしてくれた。
『……ありがとうございます。その言葉を聞くことができて、心の底から喜ばしく思います。誰かにとっての心の拠り所を作れていたのだと……一喫茶店の店主として、とても誇らしく感じます』
セリカちゃんが音信不通になってしまったことで、店長さんはわたし以上に不安を感じているに違いない。
セリカちゃんの笑顔を見るたびに思うのだ。
あぁ、店長さんは心の底から、彼女のこと大切にしているんだな……と。
その言葉を最後に、わたし達の間に再び沈黙が訪れる。
以降は荒廃したアビドス砂漠の大地を進みながら、時折、店長さんがアロナちゃんと交わす端的なやり取りに耳を傾けていた。
永遠に続くのではないかと錯覚するような砂漠の海を突き進み、そしてついに……その時はやってくる。
『──先生、間もなく目的地に到着します』
悲鳴にも思える電子の駆動音が収まり、わたし達がたどり着いたのは……自然災害によってゴーストタウンと化した旧市街地南方の廃校舎出会った。
大量の砂に覆われ、地図上から塗り潰されたはずの場所にも関わらず……校舎の一部からは人工的な照明の光が漏れ出している。
この場所のどこかに、セリカちゃんが……。
「ここから先は徒歩で移動します……”シッテムの箱”を必ず携帯し、私の傍から決して離れないで下さい」
「は、はいっ!」
店長さんは奪われた日常を取り戻すために、懐から取り出した護身用の拳銃を構える。
そしてわたしは大切な生徒を守るため、“先生”としての使命を果たすべく──”シッテムの箱”を起動した。
***
黒見さんと交わした約束を果たすべく、私は先生を引き連れてアビドス旧市街地の廃校舎へと足を運んだ。
黒見さんが誘拐されたと思われる瞬間から逆算し、かつての記憶を照らし合わせて考えると……タイムリミットは残り数十分といったところか。
廃校舎から人工照明の光が漏れ出ている光景を目の当たりにした瞬間に、私はここに彼女がいると確信する。
廃校舎を根城とする輩に気付かれぬよう気配を殺して移動し、警戒が手薄な校舎裏口の近辺に身を潜めた。
「先生、”シッテムの箱”で周囲の生体反応と廃校舎の構造を解析して下さい」
「分かりました!」
私の指示に従い、先生はタブレット端末を忙しなく操作する。
空間上に無数のホログラムウィンドウが出現し、数分と掛からず解析を完了させた。
「──廃校舎周囲の生体反応は、わたし達を除いて総数十八名。校舎内を巡回する警備が三名。昇降口、裏口、体育倉庫付近にそれぞれ一名ずつ。残りは三階建ての本校舎、一階と二階の教室に六人ずつ行動しています」
「承知しました」
先生と共にウィンドウに出力された情報を確認する。時間帯から察するに、移動が見られない教室の集団は睡眠中だろう。
「店長さんの見立て通り、校舎裏口から内部に侵入することが最も有効だと思います。本校舎の構造上、一階教室に
「承知しました。生徒達の制圧は私が担当します。先生はこの場で待機し、後方から適宜指示をお願いいたします」
私は懐から愛銃の『
「……店長さん、何か必要な装備や支援物資はありますか? 相手はキヴォトスの生徒達ですし、足りないものがあればわたしがカードで──」
「お気遣いありがとうございます。ですが、問題はありません。喫茶店の店主といえど、万が一の出来事に備えて身体は常に鍛えていますので」
先生が懸念している点はもっともだ。私と彼女はあくまでもキヴォトスの外から来た非力な存在であり、相手はこの世界にルーツを持つ屈強な人間達。
銃弾一発が致命傷となる私達が前線に立つことなど、本来は自殺行為に等しいのだから。
建築物の構造や敵が保有する武装を一通り把握し、私は簡単な作戦を組み立てて先生に共有する。
多少リスクの伴う内容ではあるが、黒見さんの安否が確認出来ない以上、一秒でも早く相手を制圧しなければならない。
「どのタイミングで突入するのが最適でしょうか?」
「……四十秒後です。校舎内を巡回する警備の進路から、三階に移動すると考えられます」
「承知しました。以降の連絡や指示はこちらの無線機にてお願いいたします」
先生に無線機を渡して動作に問題がないことを確認しつつ、校舎制圧までの段取りを確認してから私は定位置につく。
作戦開始まで、残り十五秒。
「──A.R.O.N.A」
『命令待機中です』
「万が一の場合は、支援を頼む」
『承知』
かけがえのない相棒と非常に優秀な先生からの後方支援を受けている以上、情けない姿は見せられない。
残り十秒。
『
不意打ちによる奇襲を、奴らは卑怯だと言って憤るに違いない。
しかし、私の大切な
”私”は生憎、キヴォトスの先生ではない。
故に私は、大切な人達を傷つけた暴徒に容赦はしない。
作戦開始まで、残り一秒。
『──セリカちゃん救出作戦。これより、指揮を始めます!』
荒廃した砂漠の一角に、乾いた破裂音が轟いた。
***
『
元々は宿敵から奪取した能力であり、非力な私が前線に出る上で非常に重宝している代物だ。
『
使い方を誤れば非常に危険な代物となるが、今回の作戦に限っては予めアロナが出力を調節してくれている。
一時的に昏睡状態に陥るだけで、しばらくすれば後遺症もなく起き上がることだろう。
奇襲の有利を活かすべく、私は増援が駆けつける前に校舎裏口から内部に侵入し、先生から次の指示を待った。
『先程の銃声で生徒達も違和感に気付いたようです。巡回中の警備三名が階段を下っていて、十秒後に廊下の突き当たりで接敵します』
「承知しました」
本来の屋内戦においては。
敵の数と配置が不明瞭なため、制圧側は本来圧倒的に不利な状況での行動を強いられる。
しかし、先生が持つ”シッテムの箱”の機能を駆使することで、その立場は一変する。
仮に相手がどのような行動を取ったとしても、無線を介して全てが制圧者に筒抜けとなってしまう。
「……ったく、誰だよこんな時に。面倒なことを起こしやがっ──」
異変の対処に向かった三名の生徒達が、文句を溢しながら階段を駆け下りてくる。
廊下の突き当たりから顔を覗かせた時点で、自身の身体が『
「──ッ」
立て続けに鳴り響く三発の銃声。
一瞬で三名の生徒を無力化した私は死角となる廊下の窪みに身を隠し、素早く銃弾を装填する。
『す、凄いですね……』
「日々の射撃訓練の賜物です。早瀬さんに感謝しなければ……先生、目標位置に到着しました。次の指示をお願いします」
『は、はいっ! えっと、昇降口付近を警備していた生徒が一階教室の生徒と合流しました。接敵までおよそ、二十秒です』
「承知しました。それでは、手筈通りに作戦を遂行します」
『……本当に、大丈夫なのですか?』
「問題ありません。私には、優秀な相棒が付いていますので」
耳を澄ますと、廊下の先から侵入者の排除に駆けつけた複数の足音が聞こえてくる。
それらは次第に大きくなり、接敵まで残りわずかとなったタイミングで。
「A.R.O.N.A」
『承知』
私は校舎壁面に取り付けられた
『……ここからは、私が店長の目となります』
いくらキヴォトスの生徒を一撃で無力化できる『
そこで私は侵入口付近の配電設備に目をつけ、相手の視界を奪うことで隙を生み出すと言う作戦を打ち立てた。
私自身も光を失うという致命的な欠点を除けば、相手に数刻の動揺を与えることが可能な一手。
常識から逸脱した作戦が功を奏し、こちらへと接近してくる足音がぴたりと止んだ。
『──こちらです、店長』
暗闇の世界は慣れている。
無線から届く相棒の声に全身を委ね、銃を構える。
トリガーを引く度に激しい反動が全身を襲う。しかし、射線が決して逸れることはない。全身にまとった強化スーツを介して、相棒が私を支えてくれている。
『
残った一人が体勢を立て直そうと遮蔽物に身を隠す。だが、私達の連携からは決して逃れられない。
相手が暗闇に順応するよりも先に駆け出し、距離を詰める。そして装填を終えた銃口をこめかみに突きつけ、狼狽する暴徒を確実に仕留めた。
『…………』
「敵勢力七名を制圧しました。先生、索敵情報の共有をお願いします」
『……えっと。本館二階の教室にいた六名の生徒なのですが、現在は二手に分かれて行動しています。元々の教室に三名、階段を登った先で出待ちを狙う生徒が三名です』
本来の作戦では一階付近で同じ手段を用いて迎え撃つ予定だったが、相手もそれを察して籠城を選択したようだ。
一刻の猶予を争う私達にとっては、非常に厄介な作戦と言える。
「先生、階段付近で待機する生徒達の詳細な位置を教えていただけますか?」
『分かりました……階段を駆け上がった正面に一名。右手の曲がり角に一名、そして三階へと繋がる階段上に一名です」
「承知しました」
『ですが先程とは異なり、相手は階段上にミリタリーライトを設置して視界を確保しています。先程のような奇襲は難しいと思います』
「ありがとうございます。ですが、
『少し待っていて下さい。すぐに打開策を……え? 今、なんと?」
「この場は私にお任せください──A.R.O.N.A」
しかし当然、相手がそのような策を講じることも予測の範囲内。
『承知』
ここで立ち止まるわけにはいかない。私は相棒を信じ、躊躇うことなく階段を駆け上がる。
『──ッ!? 店長さん、一体何を……っ』
階段を登った矢先。案の定、私は強力な光に照らされながら全身に弾丸の雨を浴びることとなった。
回避は不可能。
……もっとも私は、敵の射線を掻い潜ることなど微塵も考えていなかった。
銃弾が絶え間なく降り注ぐ中で、私は努めて冷静に銃を構える。
まずは階段上で待ち構えていた相手に一発。
続いて階段正面に位置取っていた相手に一発。
そして最後に、右手の曲がり角に身を隠した相手へ至近距離から一発。
設置されていたミリタリーライトを破壊し、万が一に備えてシリンダーに消費した分の弾丸を装填する。
『……………………店長さん。あなたは一体、何者なのですか?』
「後ほど全て説明いたします……あらかた、ご想像はついていると思いますが」
後者に残った敵勢力は残り三名。ここまで相手を制圧すれば、残りは消化試合だ。
再び暗闇を取り戻した校舎を進む。私は相手の射線上に乗らないよう注意を払いながら、残党が籠城する教室の扉を開けて閃光弾を投げ込んだ。
強烈な閃光と爆発音で敵の視覚と聴覚を完全に奪い、その隙に残った暴徒達を無力化する。
「──報告します。校舎内の生徒を全て制圧しました」
『お疲れ様です…………あっ、まだです! まだ、体育倉庫付近に一名、生体反応が──』
しかしひと息つく間もなく、私は走る。
「すぐにそちらへ向かって下さい」
『え?』
「そこに、黒見さんがいます!」
『──ッ』
何かが無造作に投げ捨てられた音を最後に、先生との連絡が途絶えた。
私も先生に続いて全速力で階段を駆け下り、本校舎を飛び出す。
渡り廊下を伝って、一刻も早く生体反応が検知された体育倉庫へと向かった。
「──
”シッテムの箱”が示した場所に到着する。
「……っ、店長さん! こっちです!!」
ひと足先に到着した先生が、激しく呼吸を乱しながらしゃがみ込み、自身の両手で一心不乱に地面の土を掻き分けていた。
「この箇所だけ、不自然に掘り返された痕跡があります! おそらくこの地面の中に、セリカちゃんが……っ!」
「承知しました!」
いち早く土を掘り起こすべきだが、素手のままでは効率が悪い。
人が入るような穴を掘ったということは、どこかに土を掘り起こすための道具があるはずだ。
“俺”は体育倉庫に掛けられた南京錠を銃弾で強引に破壊し、シャベルかそれに近い道具を探す。
すると案の定、最近使用した痕跡のあるシャベルをいくつか発見することができた。
「先生! こちらをお使い下さい!」
「っ、ありがとうございます!」
入手したシャベルを用いて、先生と協力しながらひたすらに地面を掘り進める。
感触がなく不安ばかりが募り続ける中で──掘り続けたシャベルの先端がついに、硬質な何かに突き当たった。
明らかに不自然な手応えに、”俺”達は顔を見合わせる。
周囲の土を削って人が入れるスペースを確保し、”俺”は埋め立てられていたドラム缶を力ずくでこじ開けた。
そして、その中で眠っていたのは──。
「…………やっと、見つけた」
「………………っ、……………………ぇ、ぁ」
「待たせて、ごめん」
「………………て、てん、ちょう…………? …………っ、ゎ、わた、し……っ」
「もう大丈夫だよ、セリカ」
「…………っ」
…………良かった。
今度は、君との約束を守ることができた。