超A級小姓 アインクラッドを往く。   作:渚カエデ

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険悪なムードでパーティーを組んだキリトとリズベット。そしてそれに同行したランマル。三人は無事に特殊なインゴットをゲットできるのだろうか……


第10話 ココロの温度【中編】

僕とキリトさんとリズベットさんは鍛冶屋の間で噂になっている【とある金属】を探しに五十五層の小さな村を訪れていた。移動中もキリトさんとリズベットさんは険悪な雰囲気で僕は不安な気持ちに包まれたまま、二人と歩いていた。しかし、そんな中、リズベットさんが寒さのあまり大きなくしゃみをしたことで僕は心の中で笑いかける。

キリト「……余分の服とかないのか?」

リズ「……ない」

するとキリトさんはウインドウを操作し、大きな黒革のマントをオブジェクト化させてリズベットさんの頭に被せた。

リズ「……あんたらは大丈夫なの?」

キリト「精神力の問題だ、きみ。」

ランマル「僕のコートってこう見えて、意外と温かいんですよ。」

リズベットさんも毛皮で裏打ちされたマントのおかげで身体が温まったのか、ほっと一息つく。

キリト「さて……長老の家っていうのはどれかなー」

キリトさんの声を聞いて僕らは小さな村をぐるりと見渡すと、中央広場の向こうに一際高い屋根を持つ家が見えた。

リズ「あれじゃない?」

キリト「あれだな。」

二人は頷き合い、歩き出す。

 

 

 

数分後、予想に違わず、僕らは村の長である白ひげ豊かなNPCを発見し、話を聞くことができた。しかし、その話は彼の幼少時代から始まり、青年期や熟年期の苦労話を経て、唐突にそういえば西の山にはドラゴンが、という経過を辿るとてつもない代物だった。

僕は何度も寝そうになったが、その度にリズベットさんに起こされる。

全ての話が終わると外はすっかり夕方の風景になっていた。

へとへとに消耗して長の家から転がり出る。家々を覆う雪のフードを夕陽がオレンジ色にそめたような風景はとても美しいものだったがー。

キリト「……まさかフラグ立てでこんな時間を食うとはなあ……」

リズ「まったくね……そのせいでランマルも寝かけてたし。」

ランマル「うぅ……校長先生の話より長くてキツかった……」

リズ「ところでどうする?明日また出直す?」

キリト「うーん、でもドラゴンは夜行性とも言ってたしなあ。山ってあれだろ?」

彼が指さすほうを見ると、そう遠くない場所に白く切り立った険しい峰が見えた。と言っても、アインクラッドの構造的制約によってその高さは絶対に百メートルを超えることはない。登頂にはそれほど苦労はしないだろう。

リズ「そうね、行っちゃおうか。あんたが泣きべそかくとこ早く見たいしね。」

キリト「そっちこそ俺の華麗な剣捌きを見て腰抜かすなよ。」

なんだろう。段々二人の仲が良くなり始めてる気がする。なんというか、悪友的な感じかな?

僕たちはザクザクと雪を踏みしめて歩き始めた。

遠くからは険峻と見えた竜の棲む山も、踏みこんでみればさして苦労もせず登ることができた。

よく考えれば、今まで数多の混成パーティーが何度となく登頂に成功している。難易度が高いはずがない。

出現するモンスターの中で最も強力なのは、夜だからか《フロストボーン》という氷製のスケルトンだったけど、ホネ系のモンスターならメイス使いのリズベットさんの敵ではなかった。フロストボーンはあっさりとリズベットさんに蹴散らされていく。

雪道を登ること数十分、一際切り立った氷壁を回り込むと、そこがもう山頂だった。

上層の底部がすぐ近くに見える。そこかしこに、雪を突き破って巨大なクリスタルの柱が伸びている。残照の紫光が乱反射して虹色に輝くその光景はすごく幻想的だった。

リズ「わあ……!」

ランマル「登った甲斐がありましたね〜。」

思わず歓声を上げて走り出そうとしたリズベットさんの襟首を、キリトさんががしっと掴んだ。

リズ「ふぐ!……なにすんのよ!」

キリト「おい、転移結晶の準備しとけよ。」

その表情はやけに真剣で、リズベットさんは素直に頷いていた。彼女はクリスタルをオブジェクト化し、エプロンのポケットに入れる。

キリト「それから、ここからは危険だから俺とランマルでやる。リズはドラゴンが出たらそのへんの水晶の陰に隠れるんだ。絶対顔を出すなよ。」

リズ「……なによ、あたしだってそこそこレベル高いんだから、手伝うわよ。」

キリト「ダメだ!」

ランマル「そうです!僕とキリトさんは攻略組です。安心して任せてください。」

僕たちの真剣さが伝わったのか、リズベットさんは何も言い返さず、こくりと頷く。

キリトさんはにっと笑うと彼女の頭にぽんと手を置き、「じゃあ、行こうか」と言った。リズベットさんは再び、頭をコクコクと振る。

 

 

 

僕たちはすぐに山頂の中央に到達した。ざっと見回したところ、ドラゴンの姿はまだないようだ。しかしその代わりに、水晶柱にぐるりと取り囲まれた空間にはぽっかりと、巨大な穴が開いていた。直径は十メートルもあると思う。壁面は氷に覆われてつるつると輝き、垂直にどこまでも深く伸びている。奥は闇に覆われてまるで見えない。

リズ「うわあ……」

キリト「こりゃあ深いな……」

ランマル「落ちたらひとたまりもありませんね。」

キリトさんがつま先で小さな水晶のかけらを蹴飛ばした。穴に落下したそれは、きらりと光ってすぐに見えなくなり、そのまま何の音も返してこなかった。

キリト「……落ちるなよ」

リズ「落ちないわよ!」

その直後だった。最後の残照で藍色に染めあげられた空気を切り裂いて、猛禽を思わせる高い雄叫びが氷の山頂に響き渡った。

キリト「リズはその陰に入れ!!」

キリトさんが有無を言わせぬ口調で、手近の大きな水晶柱を指した。リズベットさんは慌てて従いながら、僕たちの背中に向かってまくし立てた。

リズ「ええと、ドラゴンの攻撃パターンは、左右の鉤爪と、氷ブレスと、突風攻撃だって!……き、気をつけてね!二人とも!」

キリトさんは聞き終えると、背を向けたままキザな仕草で親指を立てた左拳を振った。僕も背を向けたまま、同じく親指を立てて右拳を振るった。

ほとんど同時にその前方の空間が揺らぎ、滲み出すように巨大なオブジェクトのポップが始まった。

ディティールの粗いポリゴンの塊が、立て続けにごつごつと出現する。それらは次々と接合しては、面を削ぎ落とすように情報量を増していき、やがて巨大な体がほぼ完成した。

その巨大なポリゴンの塊は全身を震わせて再度雄叫びを放った。無数の細片が四方に飛び散り、きらきらと輝きながら蒸発していく。

姿を現したのは氷のように輝く鱗を持った白竜だった。巨大な翼を緩やかにはためかせ、宙にホバリングしている。その光景は恐ろしいというよりも美しいという表現が相応しい姿だ。紅玉のような大きな瞳が、高みから僕たちを見ている。

キリトさんが落ち着いた動作で背に手をやり、漆黒の片手剣を音高く抜き放った。僕も刀を引き抜く。すると、それが合図ででもあったかのようにドラゴンが大きくその顎を開き、硬質のサウンドエフェクトと共に、白く輝く気体の奔流を吐き出した。

リズ「ブレスよ!避けて!」

思わず避けた僕と違い、彼女が叫んでもキリトさんは動かない。それどころか、仁王立ちのまま、右手の剣を縦にかざすように突き出す。

キリトさん……あんな細い剣でブレス攻撃を防ぐなんて無茶だよ……と僕が思ったのも束の間、キリトさんの手を中心に剣が風車のように回転し始めた。薄緑のエフェクトに包まれているところを見るとあれもソードスキルなのだろうか。すぐに刀身が見えないほどに回転が速まり、まるで光の円盾(ラウンドシールド)のように見えた。

そこに向かって、氷のブレスが正面から襲い掛かった。まばゆい純白の閃光に僕は思わず目を瞑ってしまう。しかし、キリトさんの剣が作り出したシールドに打ち当たった冷気の奔流は吹き散らされるように拡散し、蒸発していく。

キリトさんのHPバーを確認すると、完全にはブレスを防げないのか、じわじわと右端から減少していくが、驚いたことに数秒経つとすぐに回復してしまう。

あれは超高レベル戦闘スキルの《バトルヒーリング》だと思う。だけどあれはスキルを上昇させるのに戦闘で大ダメージを受け続ける必要があるので、現実問題として安全に修行するのは不可能と言われている。

す、すごい……キリトさんはあそこまで強くなったんだ……僕も負けてはいられない………

と、その時、ブレス攻撃が途切れたのを見計らったようにキリトさんが動いた。爆発じみた雪煙を立てて、宙のドラゴンへと飛び掛かる。

普通、飛行する敵に対してはポールアーム系や投擲系の、リーチの長い武器で攻撃して地面に引きずり下ろし、それからショートレンジの戦闘に持ち込むのがセオリーだ。でも驚いたことに彼はドラゴンの頭上に迫るほどの高さまで飛翔すると、空中で片手剣の連続技を始動させた。

甲高い音を立てながら、目で追いきれないほどのスピードで攻撃が白竜の体に吸い込まれていく。ドラゴンも左右の鉤爪で応戦するものの、手数が違いすぎる。

この戦いについていけない自分が情けなく感じる。

長い滞空を経て彼が着地した時には、ドラゴンのHPバーは三割以上減少していた。

ドラゴンは地面のキリトさん目掛けてアイスブレスを吐いたが、今度はダッシュで回避して再びジャンプ。重低音を響かせながら、単発の強攻撃を次々と叩き込む。その度にドラゴンのHPががくん、がくんと減少する。

バーは、たちまち黄色を通り越して赤へと突入した。もうあと一、二撃で決着がつくだろう。

そんな中、突然リズベットさんが水晶柱の陰から一歩踏み出す。

キリト「バカ!!まだ出てくるな!!」

ランマル「そうです!まだ戦いは終わっていませんよ!」

リズベット「なによ、もう終わりじゃない。さっさとカタを……」

彼女が声を上げたその時。

一際高く舞い上がったドラゴンが、両の翼を大きく広げた。それが音高く体の前で打ち合わされると同時に、竜の真下の雪がどばっ!と舞い上がった。

キリトさんは地面に片手剣を突き立てて、吹き飛ばされないように防御する。

しかし、リズベットさんはドラゴンの突風攻撃で吹き飛ばされてしまった。

彼女は両手を広げ、着地体勢を取る。

だが、彼女は山頂に開いていた巨大な穴の真上に吹き飛ばされてしまったのだ。

ランマル「リズベットさん!」

僕は走る。穴に落ちる彼女を救うために。

なんとか宙に伸ばされていた彼女の右手を掴むことに成功した。僕はリズベットさんを自分の胸に引き寄せ、いったん離した腕を彼女の背に回し、固く包み込む。

ランマル「摑まっててください!!」

僕は大きく叫び、彼女は両手を僕の体に回す。その直後、落下が始まった。

巨大な縦穴の中央を、二人抱き合ったまま、真っ直ぐに落ちていく。風が耳もとで唸り、彼女のマントがばたばたとはためく。

僕は落下の角度を変えるために刀を握った右手を動かす。背後に引き絞り、次いで前方に撃ち出す。大きな金属音と共に光芒が飛散する。

刀で重く突いた反動で、僕たちは弾かれたように穴の壁面目指して落下の角度を変えた。

青い氷の絶壁がみるみる迫ってくる。思わず歯を食いしばる。だけど諦めるわけにはいかない。

激突の直前、僕は再び右手を振りかぶり、刀を思いっきり壁面に突き立てた。これならせめて落下スピードを抑えられるかもしれない。

金属を引き裂くような音を盛大に飛び散らせながら、(ランマルブレード)が氷の壁を削っていく。

下を見るとあと数秒ぐらいで雪が白く溜まった穴の底に激突するだろう。彼女も僕の体に強くしがみつく。

せめてリズベットさんが大ケガを負わないようにと、僕は刀を手から離す。そして両腕で彼女を固く抱き、体を半回転させて自分が下になる。

その直後、僕が感じたのは雪に叩きつけられた衝撃と轟音だった。

 

 

 

爆発めいた勢いで舞い上がった雪が、ふわふわと落ちてきて頬に触れ、消えた。

その冷たさで僕は飛びかけていた意識を取り戻す。至近距離にはリズベットさんの紅い瞳と視線が交差する。

ランマル「なんとか……生きてましたね……」

リズ「うん……、生きてた。」

僕らは奇跡的にも生きていたのだった。

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