超A級小姓 アインクラッドを往く。   作:渚カエデ

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今回の話はルナとシリカの話です。


相棒のピナを失ったシリカ。ある依頼を受けたルナは、彼女を救うためにピナを生き返らせられる場所に向かおうとする。しかし、それを邪魔する者たちがいた。果たしてルナとシリカはピナを生き返らせられるのか。


第12話 月の名を持つ戦士【前編】

ランマルとAIに対する価値観の相違を感じ、しばらく彼と距離を置いていたある日、フレンドからメッセージが届く。

それはビーストテイマーとして有名なシリカからのメッセージだ。その内容はピナが生き返ったことで、俺に対する感謝の言葉が綴られていた。

生き返ったんだね……ピナ……

俺はあの時のことを思い返す。

 

 

 

2024年2月、俺は三十五層北部の広大な森林地帯、通称《迷いの森》を歩いていた。とても深い森だが、俺にとってはすっかり馴染みの狩り場だ。

そんな森の中を歩いていると、向こうの方から少女のものと思われる叫び声が聞こえた。俺はその叫び声の元に向かう。

そこには少女と猿人型モンスター《ドランクエイプ》が戦っていた。少女のHPゲージは赤になっており、今にも死にそうだ。

俺は少女を助けるために二匹並んだドランクエイプに後ろから横一文字にソードスキルをお見舞いして撃破する。

俺は片手剣を鞘に収めると少女に話しかける。

ルナ「大丈夫だった?君。」

しかし、彼女は答えず、涙を流しながら持っていた短剣を落とすと、視線を地面に落ちている水色の羽根に向けて、その前でがくりとひざまずいた。

ルナ「もしかして君……ビーストテイマーかな?残念だったね……もう少し俺が早く来れれば……」

彼女は嗚咽を洩らしながら、両手を地面につき、言葉を絞り出した。

シリカ「お願いだよ……あたしを独りにしないでよ……ピナ……」

水色の羽根は何の答えも返してくれなかった。

ルナ「ごめん……君の友だち……助けられなくて……」

シリカ「……いいえ……あたしが……バカだったんです……ありがとうございます……助けてくれて……」

彼女は嗚咽を堪えながら、どうにかそれだけを口にする。

俺は彼女にゆっくりと歩み寄ると、その前に跪き、あの水色の羽根について訊ねる。

ルナ「その羽根……アイテム名、設定されてる?」

彼女は涙を拭い、改めて水色の羽根に視線を落とす。そしておそるおそる手を伸ばし、右手の人さし指で羽根の表面をぽんとシングルクリックした。浮き上がった半透明のウインドウには、重量とアイテム名がひっそりと表示されていた。

《ピナの心》。

それを見て彼女はまた泣き出す。俺は彼女の涙を止めるために慌てたような声で言う。

ルナ「ま、待った待った。諦めるのはまだ早いよ!心アイテムが残っていれば、まだ蘇生の可能性がある。」

シリカ「え!?」

彼女は慌てて顔をあげる。その顔は半ば口を開けたまま、ぽかんと俺の顔を見つめている。

ルナ「最近わかったことだから、まだあまり知られてないんだけど……四十七層の南に《思い出の丘》というフィールドダンジョンがある。名前のわりに難易度が高いらしいけど……そこのてっぺんに咲く花が、使い魔蘇生用のアイテムらし……」

シリカ「ほ、ほんとですか!?」

ルナ「話最後まで聞いて。」

シリカ「あ、すいません……でも……四十七層……ですか……」

四十七層はこの三十五層から遥か十二も上のフロアだ。とても安全圏とは言えない。

ルナ「実費と報酬を貰えれば俺がサポートに入る。でも花が咲くには使い魔を亡くしたビーストテイマー本人が行かないといけないらしい。行けるかな?」

俺の言葉に彼女がちょっとだけ微笑むと、言った。

シリカ「いえ……情報だけでも、とってもありがたいです。頑張ってレベル上げすれば、いつかは……」

ルナ「それがそうもいかないんだ。使い魔を蘇生できるのは、死んでから三日だけらしい。それを過ぎると、アイテム名の《心》が《形見》に変化してしまう。」

シリカ「そんな……!」

彼女は思わず叫んでしまう。

現在の彼女のレベルは四十七層で生き残れる最低レベルのレベル55に達してないと思われる。

ルナ「ところで君のレベルは?」

シリカ「……44です。」

ルナ「こうなるとかなり時間がかかるな。よし、君にプレゼントをあげよう。」

俺はトレードウインドウを展開し、彼女に新しい装備を渡す。

《シルバースレッド・アーマー》、《イーボン・ダガー》など……

シリカ「あの……」

ルナ「この装備で五、六レベル分程度底上げできる。俺も行けば、多少なんとかなると思う。」

シリカ「えっ……」

彼女は口を小さく開きかけたまま、立ち上がる。そして俺の顔を見つめる。まあ、このゲームの仕様だと、相手の顔に視線をフォーカスするとシステムが検知し、相手の顔の右上にカーソルが浮かび上がる。

どうやら彼女は俺の真意を測りかねてるらしい。

シリカ「なんで……そこまでしてくれるんですか……?」

俺は一呼吸置いて言う。

ルナ「君、結構ナンパされてたでしょ。しかも遥か年上の男性プレイヤーから。」

シリカ「なんで知っているんですか!?」

ルナ「町中で君がナンパされてるところを見たんだよ。しかも君は一部の男性プレイヤーからアイドル扱いされてるらしい。ビーストテイマーとしても貴重な女の子プレイヤーとしても……」

シリカ「そうなんですか。」

ルナ「実は俺もかなりナンパされてるんだ。もちろん男性プレイヤーがメインだけど。だから君の気持ちがよくわかる。かなり年上の男性からナンパされまくるわ、唯一、信頼できるパートナーを失っちゃうなんてかわいそすぎると俺は思うよ。」

シリカ「あ、そうだったんですか……たしかにあなたは美人ですし……」

ルナ「あ、こう見えて俺、男だから気をつけてね。」

シリカ「え、えーー!?」

それは驚くよね。金髪セミロングの切れ目の美人顔の人がまさか、男だなんて。

シリカ「ちょっと……胸……触っていいですか?」

ルナ「いいよ。」

俺は胸のアーマーを外す。そして彼女が俺の胸を触る。

シリカ「ほ、ホントだ。男の人だ。」

ルナ「でしょ。分かってもらえたかな?」

シリカ「はい……でも今はあなたを信じます。」

ルナ「ありがとう。じゃあアイテムあげるよ。」

シリカ「はい。助けてもらった上に、アイテムまでくれるなんて……」

彼女はトレードウインドウに目をやり、自分のトレード欄に所持している(コル)の全額を入力する。

シリカ「あの……こんなにくれるんじゃ、全然コルが足らないと思うんですけど……」

ルナ「いや、お金はいらないよ。偶然手に入った非売品で、しかも男の俺は装備できないから。」

俺は金を受け取らずにOKボタンを押して、彼女に装備一式を渡す。

シリカ「そうなんですか。すみません。何から何まで……あの、あたし、シリカって言います。」

ルナ「俺の名前はルナ。しばらくの間、よろしくね。」

俺は胸のアーマーをつけ直すと、ポーチから迷いの森の地図アイテムを取り出し、出口に繋がるエリアを確認して歩き出す。シリカはその後を追いながら、右手に握ったピナの羽根を口元に当てている。それを見て、絶対にピナを生き返らすと俺も心に誓う。

 

 

 

三十五層主街区は、白壁に赤い屋根の建物が並ぶ牧歌的な農村のたたずまいだった。それほど大きい街ではないが、現在は中層プレイヤーの主戦場となっていることもあって、行き交う人の数はかなり多い。

シリカ「あたし、ここの宿屋のNPCコックさんの作るチーズケーキがお気に入りなんです。」

ルナ「へ〜、今度俺も食べたいな。」

そんな会話を続けている内に大通りから転移門広場に入ると、どうやらシリカの顔見知りであるプレイヤーたちが声を掛けてきた。彼女がフリーになった話を早くも聞きつけ、パーティーに勧誘しようというのだ。

シリカ「あ、あの……お話はありがたいですけど……」

受け答えが嫌味にならないよう一生懸命頭を下げてそれらの話を断るシリカ。彼女は横にいる俺に視線を送って、言葉を続けた。

シリカ「……しばらくこの人とパーティーを組むことになったので……」

それを聞いたプレイヤーたちは不満の声をあげたり、中には俺に対して下心が入ってそうな視線を送る者もいた。

「おい、金髪の姉ちゃん。」

最も熱心に勧誘していた背の高い両手剣使いが、俺の前に進み出て、見下ろす格好で口を開いた。

「見ない顔だけど、抜け駆けはやめてもらいたいな。俺らはずっと前からこの子に声かけてるんだぜ。」

ルナ「そう言われても……成り行きで……」

困ったな……俺がもっといい返しを考えるために首を斜めにしようとした瞬間、シリカが両手剣使いに言った。

シリカ「あの、あたしから頼んだんです。すみませんっ。」

最後にもう一度深々と頭を下げて、彼女は俺の服を引っ張って歩き出す。後ろからは「今度メッセージ送るよー」と未練がましい声が聞こえて俺も不快だった。

やがて転移門広場を横切り、北へと伸びるメインストリートへと足を踏み入れる。

ようやくプレイヤーたちの姿が見えなくなると、シリカはほっと息をつき、俺の顔を見上げて言った。

シリカ「……す、すみません、迷惑かけちゃって。」

ルナ「いやいや、大丈夫だよ。それにしてもすごい人気だね。シリカさん。」

シリカ「シリカでいいですよ。そんなことはないです。マスコット代わりに誘われてるだけなんです、きっと。それなのに……あたしいい気になっちゃって……一人で森を歩いて……あんなことに……」

ルナ「大丈夫。絶対生き返らせられるさ。心配ないよ。」

ピナのことを思い出して泣きそうになっていた彼女を励ました後、再び歩き始める。

やがて道の右側に、一際大きな二階建ての建物が見えてきた。どうやらシリカの定宿《風見鶏亭(かざみどりてい)》のようだ。

シリカ「あ、ルナさん。ホームはどこに……」

ルナ「いつもは四十九層だけど……わざわざ移動するのも面倒だし、俺もここに泊まろうかな。」

シリカ「そうですか!」

よほど嬉しいのか、シリカは両手をぱんと叩いた。

シリカ「さっき言ったチーズケーキのおいしい宿はここです。」

ルナ「おお、そうか。楽しみだね。」

先程と同じく彼女に袖を引っ張られながら、宿屋に入ろうとした時、隣に建つ道具屋からぞろぞろと四、五人の集団が出てきた。前を歩く男たちはシリカに気付かず広場のほうへ去っていったが、最後尾にいた一人の女性プレイヤーがちらりと振り向いたようだ。シリカは反射的に彼女と目を合わせてしまう。

シリカはすぐに顔を伏せ、無言で宿屋に入ろうとしたが。

ロザリア「あら、シリカじゃない。」

向こうから声をかけられ、仕方なく立ち止まるシリカ。

シリカ「……どうも。」

ロザリア「へぇーえ、森から脱出できたんだ。よかったわね。」

真っ赤な髪を派手にカールさせた、確か名前をロザリアと言った槍使いの女性プレイヤーは口の端を歪めるように笑うと言った。

ロザリア「でも、今更帰ってきても遅いわよ。ついさっきアイテムの分配は終わっちゃったわ。」

シリカ「要らないって言ったはずです!急ぎますから。」

シリカは会話を切り上げようとするが、相手はまだシリカを解放する気はないようだ。目ざとくシリカの肩が空いているのに気付き、嫌な笑いを浮かべる。

ロザリア「あら?あのトカゲ、どうしちゃったの?」

シリカは唇を噛んだ。使い魔はアイテム欄に格納することも、どこかに預けることもできない。つまりシリカの周りからピナの姿が消えていれば、その理由は一つしかない。そんなことはロザリアもわかっているはず。そんなロザリアは薄い笑いを浮かべながらわざとらしく言葉を続けた。

ロザリア「あらら、もしかしてぇ……?」

シリカ「死にました……でも!ピナは、絶対に生き返らせます!」

ロザリア「へえ、てことは、《思い出の丘》に行く気なんだ。でも、あんたのレベルで攻略できるの?」

ルナ「できる。」

俺はシリカが答える前に進み出る。

ロザリア「そんなに難易度の高いダンジョンじゃない。」

ロザリアはあからさまに値踏む視線で俺を眺め回す。気持ち悪い……ロザリアは紅い唇に再び嘲るような笑みを浮かべた。

ロザリア「シリカったら、次は強気な女をたらしこんだのね。顔は強気そうでも、装備はそこまで強そうに見えないけど。」

シリカは悔しさのあまり、体が震えている。

ルナ「シリカ。あんな奴に構うな!行くぞ。」

俺はシリカの肩に手を乗せて宿屋に入る。

ロザリア「ま、せいぜい頑張ってね。」

ロザリアの笑いを含んだ声が背中から聞こえたが、もう振り返ることはしなかった。

 

 

 

風見鶏亭(かざみどりてい)》の一階は広いレストランになっている。その奥まった席にシリカを座らせ、俺はNPCの立つフロントに歩いて行く。チェックインを済ませ、カウンター上のメニューを手早くクリックしてから戻って来る。

シリカ「ごめんなさい。不快な思い……」

俺は手を上げて彼女の言葉を制する。

ルナ「まずは食事にしよう。」

ちょうどその時、ウェイターが湯気の立つマグカップを二つ持ってきた。目の前に置かれたそれには、不思議な香りの立つ赤い液体が満たされている。

ルナ「まあ、せっかくパーティー結成したんだ。乾杯しよう。」

シリカ「そうですね。」

俺とシリカはカップをこちんと合わせると、彼女は熱い液体を一口すすった。

シリカ「……おいしい……でもこのレストランの飲み物を全種類、飲んだことがあるあたしでも知らない味。これは……?」

ルナ「NPCレストランはボトルの持ち込みもできるんだ。これは俺が作った《ルビー・イコール》だよ。カップ一杯で敏捷力(びんしょうりょく)の最大値が1上がるらしい。」

シリカ「そ、そんな貴重なもの……」

ルナ「酒をアイテム欄に寝かせてても、現実世界と違って味が良くなるわけじゃないからね。俺、知り合いが少ないから開ける機会もなかなかないし……」

シリカ「そうなんですか。」

シリカはもう一口ごくんと飲んだ。少しでも彼女の心を癒すことができたかな?

やがてカップが空になっても、その暖かさを惜しむようにシリカはしばらくそれを胸に抱いていた。彼女は視線をテーブルの上に落とし、ぽつりとつぶやく。

シリカ「……なんで……あんな意地悪言うのかな……」

俺はカップを置き、口を開く。

ルナ「君は……大規模ネットゲーム(MMO)は、SAOが初めてかな?」

シリカ「はい。初めてです。」

ルナ「そうか。どんなオンラインゲームでも、キャラクターに身をやつすと人格が変わるプレイヤーは多い。善人になる人、悪人になる奴……それをロールプレイと、従来は言ってたんだけどね……でもSAOの場合は違うと思う。今はこんな、異常な状況なのにね……まあ、プレイヤー全員が一致協力してクリアを目指すなんて不可能だってことはわかっている。でも……他人の不幸を喜ぶ奴、アイテムを奪う奴、ついには殺しまでするプレイヤーが多すぎる。こんなんじゃ、たとえ現実世界に戻っても、人間不信になって生きづらくなるだけだよ……」

シリカ「たしかにそうですよね……でも……中にはルナさんみたいな優しい人もいるじゃないですか。」

ルナ「俺が優しい?いや、俺はある目的があってあの森を歩いていたんだ。人助けはプレイヤーがモンスターに殺されると、攻略組やそれに係わる人が減ってクリアが遠ざかるから……」

俺が言い終わる直前、シリカが割り込むように言う。

シリカ「ルナさんは打算で人助けをするタイプじゃないと、あたしは思います。だって……あの時……助けてくれた時……その時のルナさんの眼は、本気で人助けをしたいと言っている眼でしたよ……それにピナが死んじゃった時も、もっと早く来てればと謝ってましたし……」

俺は思わず、涙が出そうだった。ここまで俺のことを想った言葉を言ってくれるなんて……

ルナ「ありがとう……シリカ。そう言ってくれて……」

シリカ「いえいえ、いつかはあたしがルナさんのことを助ける立場になりたいです。そのためにレベル上げ、頑張ります!」

ルナ「ありがとう。シリカ。」

俺がそう言った時、シリカの顔が赤くなっていた。

ルナ「どうしたの?顔……赤いよ。」

シリカ「な、何でもないです!あたし、お腹空いちゃった。」

ルナ「そうだね。俺もお腹空いちゃったよ。じゃあ食事にしよう。」

 

 

 

シチューと黒パン、デザートにチーズケーキを食べ終えた俺たちはこの宿の二階に上がる。明日の四十七層攻略に備えて早めに寝るために。

シリカの部屋は偶然にも俺の隣だった。

ルナ「じゃあおやすみ。シリカ。明日頑張ろうね。」

シリカ「はい。ルナさん。おやすみなさい。」

俺たちは顔を見合わせて、笑いながらおやすみを言った。

俺は部屋に入ると部屋着に着替え、ベットに横になる。

俺の本来の目的、それはギルド《シルバーフラグス》のリーダーに仲間の仇討ちを依頼をされたことだ。

シルバーフラグスはある日、犯罪者(オレンジギルド)によってリーダーを残し、全滅してしまった。そのオレンジギルドこそ、ロザリア率いる《タイタンズハンド》だ。

タイタンズハンドの悪名は広く知られ、俺も友人(ランマル)に聞かされた。

どうやら犯罪者扱いされてないプレイヤー、いわゆるグリーンプレイヤーが獲物を見繕い、オレンジプレイヤーが待ち伏せているポイントまで誘い込むという手口で様々な犯罪行為をしてきたらしい。

今日見た限り、少なくとも4人のメンバーがいた。オレンジプレイヤーは街に入れないから、他にも数人のメンバーがいることになる。

俺とランマルだけでは数で負ける。ランマルに助っ人追加でも頼むか。

そう考えてると部屋のドアを二回ノックされる。開けるとそこにはチュニック姿のシリカがいた。

ルナ「どうしたんだい?シリカ。」

シリカ「あの……ええと……あ!そうだ!四十七層のこと、聞いておきたいと思って!」

ルナ「ああ、そういうことね。じゃあ階下に行く?」

シリカ「いえ、あの……よかったら、ルナさんのお部屋で……」

ルナ「シリカ。一応俺、男だよ。しかも今日会ったばかりの。」

シリカ「ルナさんなら変なことしなさそうですし、大丈夫です!それに貴重な情報を誰かに聞かれたら大変ですし!」

ルナ「そうだね。じゃあ入って。」

俺は押しに負けて、シリカを部屋に入れる。彼女を椅子に座らせ、俺はベットに腰を掛けてウインドウを開く。そこから小さな小箱を実体化させる。

テーブルに置いた小箱を開けると、中に入っている小さな水晶球を出す。それはランタンの光を受けて輝いている。

シリカ「きれい……。それは何ですか?」

ルナ「《ミラージュ・スフィア》っていうアイテムだよ。」

俺が水晶を指先でクリックすると、メニューウインドウが出現する。手早く操作し、OKボタンに触れる。すると球体が青く発光し、その上に大きな円形のホログラフィックが現れる。それはアインクラッドの層ひとつを丸ごと表示したものだ。街や森が、木の一本に至るまで微細な立体画像で描写されている。システムメニューから表示できる簡素なマップとはえらい違いだ。

シリカ「うわあ……!」

シリカは夢中で青い半透明の地図を覗き込む。そりゃ、こんな精密な地図見たら、こういう反応するよね。

俺は指先を使い、四十七層の地理を説明する。

ルナ「ここが主街区。で、こっちが思い出の丘。この道を通るんだけど……この辺にはちょっと厄介なモンスターがいる。そいつらと戦いながら進むと、橋が見える。その橋を渡ると、もう丘が見え……」

俺は何かの気配を感じ、話を止めた。

シリカ「どうしたん……」

ルナ「しっ……」

厳しい表情で指を唇に当てる。俺は鋭い視線でドアを睨む。

そして、勢いよくベットから飛び出してドアを引き開ける。

ルナ「誰だっ……!」

ドアから顔を出した瞬間、そいつは廊下の突き当たりの階段を駆け下りていった。

シリカ「な、何……!?」

ルナ「……話を聞かれていたようだ……」

シリカ「え……でもドア越しじゃあ声は聞こえないんじゃ……」

ルナ「聞き耳スキルが高いとその限りではないんだ。そんなの上げてる奴は……なかなかいないけど……」

ドアを閉め、部屋に戻る。ベットに腰を下ろし、首を斜めにして考え込む。

シリカ「でも、なんで立ち聞きなんか……」

ルナ「多分、直ぐにわかる。ちょっとメッセージを打つから、待っててね。」

俺は水晶地図を片付けると、ウインドウを開いてホロキーボードでメールを打つ。

メールを打ち終わった時にはシリカは俺のベットで寝ていた。

ルナ「しかたないか……俺は椅子で寝ることにするよ。」

俺は椅子に座って、眠りについた。

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