超A級小姓 アインクラッドを往く。   作:渚カエデ

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ランマルからメールで呼び出されたルナ。そこには森で保護された記憶喪失の少女がいた。果たして彼女の正体は……


第14話 朝露の少女【前編】

俺はランマルに呼ばれて、アインクラッド二十二層のキリトとアスナのプレイヤーホームを訪れた。

ロッジの前には既にランマルがいた。

ランマル「あ!ルナさん!久しぶりですね!」

ルナ「久しぶりだね。ランマル。ところで……一体何が起きたんだい?」

ランマル「キリトさんとアスナさんが小さい女の子を森で保護したらしいんです。それで……その女の子……どうやら記憶がないみたいで……」

ルナ「そうか。とりあえず入れてもらおうか。」

ランマル「そうですね。」

ランマルはノックをする。

ランマル「キリトさん。ランマルです。ルナさんも連れてきました。」

するとドアが開き、中からキリトが出てくる。

キリト「やあ、ランマル、ルナ。」

ランマル「こんにちわ。キリトさん。」

ルナ「久しぶりですね。キリトさん。」

キリト「昼食の準備もしてあるから中に入ってくれ。」

ルナ・ランマル「「お邪魔します。」」

俺とランマルはロッジの中に入る。

ロッジの中には調理中のアスナとソファーで眠っている黒髪の少女がいた。

アスナ「あら、いらっしゃい。ランマルくん、ルナくん。」

ランマル「お邪魔してます。アスナさん。」

ルナ「同じくです。ところでこの娘は?」

キリト「この娘の名前は【ユイ】。どうやらそれしか記憶がないらしい。」

ルナ「名前以外覚えていないんですか……それに見た目が幼すぎる。このゲームはレーティングで13歳未満はログインできないはず。」

ランマル「年齢詐称すればログインできますよ。それにここまで幼い子だと保護者がいるはずですし。」

キリト「昼食を食べたら、【はじまりの街】に行って保護者などの情報収集をする予定だ。できれば……二人とも……手伝ってくれないか?」

ランマル「もちろんですとも。キリトさんは友だちですから。」

ルナ「俺もです。」

キリト「ありがとう。二人とも。とりあえず昼食、一緒に食べないか?」

ランマル「あ、ぜひとも。」

ルナ「ありがとうございます。」

三人で話している間に少女が目覚める。

ユイ「その、人たち、誰ですか?」

キリト「この二人は俺たちの友だちさ。黒い髪の方はランマル。金髪の方はルナっていうんだ。」

ランマル「始めまして。ランマルといいます。」

ルナ「始めまして。ユイちゃん。ルナです。」

ユイ「ランマル……ルナ……覚えました。」

ランマル「ありがとう。ユイちゃん。」

自己紹介を終えると、すでに昼食の準備が終わっていたようだ。俺たちはテーブルに座る。

テーブルには甘そうなフルーツパイとマスタードたっぷりのサンドイッチとミルクティーが置かれていた。

ユイはキリトが旨そうにかぶりついているマスタード入りサンドイッチに興味を示した。

キリト「ユイ、これはな、すごく辛いぞ。」

ユイ「う〜……パパと、おんなじのがいい。」

キリト「そうか。そこまでの覚悟なら俺は止めん。何事も経験だ。」

キリトが彼女にサンドイッチを一つ差し出すと、ユイはためらわず小さな口を精いっぱいあけてがぶりと噛み付いた。

ユイ「おいしい。」

キリト「中々根性のある奴だ。」

キリトも笑いながらユイの頭をぐりぐりと撫でる。

正直、俺は食べているサンドイッチの味を感じなかった。

それはユイが幼いながらも、マスタードの美味しさを理解していることではない。

それは、ユイはキリトのことをパパと呼んでいることである。

ランマル「パ……パ……?」

ランマルも同じ疑問を抱いたそうだ。

キリト「そうなんだ。ユイに俺の名前を教えた直後に突然、パパと呼んできたんだ。」

アスナ「私のほうもママって呼ばれたのよ。」

雛鳥かよってツッコミを入れたくなったが、多分、ユイは記憶喪失の影響でキリトとアスナを本当の両親と間違えているのか、もしくは……今はいない両親を求めてなのか……

なんだか久しぶりに闇を感じる。とりあえず、そのことを忘れて俺はミルクティーを流し込む。

その間にもキリトは、晩飯は激辛フルコースに挑戦しようと言ったり、アスナとランマルがそれを止めたりなど、なんやかんや楽しい昼食でもあった。

 

 

 

昼食後、アスナはユイの服装を見る。白いワンピースは初冬の季節に外出するのには寒そうだ。

アスナはアイテムリストをスクロールさせて、次々と厚手の衣類を実体化させ、どうにか彼女に合いそうなセーターを発見すると、そこではたと動きを止めた。

通常、衣類を装備する時はステータスウィンドウから装備フィギュアを操作することになる。布や液体などの柔らかいオブジェクトの再現はSAOの苦手分野であり、衣類は独立したオブジェクトと言うよりは肉体の一部として扱われている。

キリト「ユイ、ウインドウ、開けるか?」

ユイ「ウインドウ?」

キリト「じゃあ、右手の指を振ってみるんだ。こんなふうに。」

キリトが指を振ると、手の下に紫色の四角い窓が出現する。それを見たユイはおぼつかない手つきで動きを真似るが、ウインドウが開くことはなかった。

キリト「……やっぱり、何かシステムがバグってるな。でも、ステータスウインドウが開けないというのは致命的すぎるぞ……何もできないじゃないか。」

キリトが唇を噛む。その一方、むきになって右手の指を振っていたユイが、今度は左手を振った。すると、手の下に紫に発光するウインドウが表示された。

ユイ「でた!」

嬉しそうにニッコリ笑うユイの頭上で、アスナは呆気にとられてキリトと顔を見合わせた。

アスナ「ユイちゃん、ちょっと見せてね。」

アスナはかがみ込むと、少女のウインドウを覗き込んだ。だが、ステータスは通常本人にしか見ることができず、そこには無地の画面が広がっているだけだ。なぜアスナはユイのステータスを見ようとしてるのか……

アスナ「ごめんね、手を貸して。」

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昼食後、アスナはユイの服装を見る。白いワンピースは初冬の季節に外出するのには寒そうだ。

アスナはアイテムリストをスクロールさせて、次々と厚手の衣類を実体化させ、どうにか彼女に合いそうなセーターを発見すると、そこではたと動きを止めた。

通常、衣類を装備する時はステータスウィンドウから装備フィギュアを操作することになる。布や液体などの柔らかいオブジェクトの再現はSAOの苦手分野であり、衣類は独立したオブジェクトと言うよりは肉体の一部として扱われている。

キリト「ユイ、ウインドウ、開けるか?」

ユイ「ウインドウ?」

キリト「じゃあ、右手の指を振ってみるんだ。こんなふうに。」

キリトが指を振ると、手の下に紫色の四角い窓が出現する。それを見たユイはおぼつかない手つきで動きを真似るが、ウインドウが開くことはなかった。

キリト「……やっぱり、何かシステムがバグってるな。でも、ステータスウインドウが開けないというのは致命的すぎるぞ……何もできないじゃないか。」

キリトが唇を噛む。その一方、むきになって右手の指を振っていたユイが、今度は左手を振った。すると、手の下に紫に発光するウインドウが表示された。

ユイ「でた!」

嬉しそうにニッコリ笑うユイの頭上で、アスナは呆気にとられてキリトと顔を見合わせた。

アスナ「ユイちゃん、ちょっと見せてね。」

アスナはかがみ込むと、少女のウインドウを覗き込んだ。だが、ステータスは通常本人にしか見ることができず、そこには無地の画面が広がっているだけだ。なぜアスナはユイのステータスを見ようとしてるのか……

アスナ「ごめんね、手を貸して。」

アスナはユイの右手を取ると、その細い人差し指を移動させ、勘で可視モードボタンがあると思われるあたりをクリックさせた。

俺も気になってユイのウインドウを見に行く。

短い効果音とともにウインドウの表面に見慣れた画面が浮き上がってきた。俺もだが、基本的に他人のステータスを盗み見るのはマナー違反だと知っているからか、アスナは極力画面に目をやらずにアイテム欄のみを素早く開こうとしたのだが……

アスナ「な……なにこれ!?」

画面上部を見たアスナは驚きの声をあげる。

俺もそこを見ると、衝撃で言葉が出なかった。

なにせ、そこには【Yui-MHCP001】というまるでロボットの型式番号のようなネーム表示があったのだ。こんな小さな女の子がそんなネームを付けるとも思えないし、ウインドウのコマンドボタンも大幅に少なく、わずかに《アイテム》と《オプション》の二つが存在するだけだった。

アスナの動きが止まったことを訝しむように近づいてきたキリトも、ウインドウを覗き込むなり息を呑んだ。

ユイ本人はウインドウの異常など意に介せぬふうで、不思議そうな顔で俺たちを見あげている。

アスナ「これも……システムのバグなのかな……?」

キリト「なんだか……バグというよりは、もともとこういうデザインになってるようにも見えるけどな……くそ、今日ぐらいGM(ゲームマスター)がいないのを歯痒いと思ったことはないぜ。」

アスナ「ふつうはSAOってバグどころかラグることもほとんどないから、GMなんて気にしたことなかったけどね……これ以上考えてもしょうがない、よね……」

アスナは肩をすくめると、改めてユイの指を動かし、アイテム欄を開かせた。その表面にテーブルから取り上げたセーターを置くと、一瞬の光を発してアイテムはウインドウに格納された。次いでセーターの名前をドラッグし、装備フィギュアへとドロップする。

直後、鈴の音のような効果音とともにユイの体が光の粒に包まれ、淡いピンクのセーターがオブジェクト化された。

ユイ「わあ!」

ユイは顔を輝かせ、両手を広げて自分の体を見下ろした。アスナは更に同系色のスカートと黒いタイツ、赤い靴を次々とユイに装備させ、最後に元々着ていたワンピースをアイテム欄に戻すとウインドウを消去した。

すっかり装いを改めたユイは嬉しそうに、ふわふわしたセーターの生地に頬をこすりつけたり、スカートの裾を引っ張りたりしている。

ランマル「かわいいですよね……ルナさん……」

ルナ「ああ……」

たしかにユイは普通の小さい女の子のような動きをしていて、微笑ましく感じるが、俺はあの《MHCP001》の表示が忘れられなくて小さく答えるしかなかった。

アスナ「さ、じゃあお出かけしようね。」

ユイ「うん。パパ、だっこ。」

屈託なく両手を伸ばすユイに、キリトは照れたように苦笑しながら少女の体を横抱きに抱え上げた。そのままちらりとアスナに目を向け、言う。

キリト「アスナ、一応、すぐ武装できるように準備しといてくれ。街から出ないつもりだけど……あそこは《軍》のテリトリーだからな……」

アスナ「ん……。気を抜かないほうがいいね。」

ランマル「そうですよね。僕とルナさんもお供します。」

キリト「ありがとう。ランマル、ルナ。」

俺たちはロッジを出て、転移門を使って【はじまりの街】へと向かった。

 

 

 

俺とランマルはキリトたちと手分けして、ユイの関係者を探す。

それぞれ俺とランマル。キリトとアスナとユイの組み合わせで動いている。

二人で歩いているとランマルが言う。

ランマル「それにしてもやけに人通りが少ないですね。」

ルナ「たしかに、まだ生き残っているプレイヤーは多いのに。」

かつては多くの人……主に攻略を諦めた人たちと、その人たちを相手に商売をする人たちで、溢れかえっていたはじまりの街はすっかり寂れた街に変貌していた。

ランマル「これじゃ情報が集まらなそうですね。困ったな〜。」

ルナ「それじゃ公園に行こう。そこで休んでる人から聞き出そう。」

ランマル「そうですね。行きましょう。」

俺たちは公園を探す。

公園に着くと、そこには街を被写体にしているのか、キャンバスを広げて絵を描いてる女性とその人の友人らしき人がいた。

ランマル「すいません。聞きたいことがある……」

ランマルが女性に声をかけた瞬間、彼女は座っていた椅子から離れて、自身の友人らしき人の後ろに隠れる。

ゴッホ「ゴ、ゴッホはもう持ち金がほとんどないんです!だから徴税は辞めてください!」

ランマル「徴税!?何のことですか!?」

ゴッホという人が怯えていると、その友人が彼女をなだめるかのように言う。

ネモ「大丈夫だよ、ゴッホ。この人たちは軍の装備を着けてない。だから安心して。」

ゴッホ「……たしかに……ごめんなさい……今まで数回、軍に徴税と称してお金をむしり取られていたんで……それ以来、他人に声をかけられると怖くなっちゃうんです……」

ランマル「そうだったんですか……可哀想に……」

ルナ「すいません。軍って今、そんなことをしているんですか?話を聞かせてください。」

ネモ「……徴税っといってもそれは体のいいカツアゲだよ。だからみんな昼間は宿屋に隠れているんだ。」

ランマル「だからはじまりの街なのに人通りが少ないんですね……」

ネモ「奴らは他所者(よそもの)だろうと容赦しないよ。だから君たちも気をつけてね。」

ルナ「わかりました。ところで、そんな状況なのになぜスケッチを?」

ゴッホ「ここって前はいつも人通りが多かったのですが……でも今は、建物が多く立ち並んでるのに人がほとんど居ない……そのギャップがたまらなくて……」

ルナ「そうなんですか。その気持ち、わかります。これも一種の芸術ですよね。」

ゴッホ「わかってくれるんですね……ゴッホ……嬉しいです。せっかくですからフレンド登録しませんか?」

ルナ「あ、一応しましょうか。」

ちょっとこの子の芸術性が気になってきたから、とりあえずフレンド登録をした。

ランマル「すいません。ゴッホさん。僕もフレンド登録していいですか?」

ゴッホ「ぐふふ……いいですよ。」

ランマルもフレンド登録をしたようだ。

ネモ「まったく……自分の作品を理解してくれる人が現れると、すぐにその人とフレンド登録をしちゃうんだから……ここ、アインクラッドでも変な人は多いんだから気をつけてほしいな……」

ゴッホ「襲われそうな時はネモちゃんに守ってもらいます……ネモちゃん……強いですから……」

ネモ「///ゴッホ……」

ネモと呼ばれた人物は顔を赤くする。多分この二人はカップルかもしれない。同性カップルか、異性カップルか、分からないけど……まあ、今はそんなことより、ユイの保護者に関する情報を聞かないと……

ルナ「申し遅れました。私、ルナと言います。」

ランマル「あ、僕はランマルです。これからもよろしくお願いします。ネモさん、ゴッホさん。」

ゴッホ「よろしくお願いします……ルナさん……ランマルさん……」

ネモ「僕はまだ君たちとフレンド登録はしてないけど……僕はゴッホの保護者だから、一応、よろしくお願いします。」

俺たちは互いに挨拶をする。さて、ここで本題に入ろう。

ルナ「すいません。私の友人が二十二層の森で小さい女の子を保護したのですが……その子の保護者を探しています。何か思い当たることはありますか?」

俺はネモに視線を向ける。

ネモ「迷子か……特に子供を探しているプレイヤーは見てないな……でも、東七区に子供プレイヤーを保護している教会がある。そこの管理人のサーシャさんに話を聞いてみたらどうかな?」

ルナ「わかりました。貴重な情報ありがとうございます。」

ランマル「同じくこちらからもありがとうございます。」

ネモ「いいよいいよ。その子が保護者と会えるといいね。」

ルナ「では私たちは教会に向かいます。ゴッホさん、絵が完成したらメールで教えてくださいね。あと、軍にも気をつけてくださいね。」

ゴッホ「はい。ルナさんとランマルさんも見つからないように気をつけてください」

俺とランマルはネモとゴッホに別れを告げて、教会へ向かう。

 

 

 

ランマル「えーと、マップだとここ辺が東七区なんですが……教会っぽい建物ってありますか?」

ルナ「あれじゃないか。」

俺の視線の先には林の向こうに一際高い尖塔があった。青灰色の屋根を持つ塔の天辺(てっぺん)には、十字に円を組み合わせた金属製のアンクが輝いていた。あれは間違いなく教会のしるしだ。

この世界では教会は各街に最低ひとつはある。内部の祭壇ではモンスターの特殊攻撃《呪い(カース)》の解除や対アンデッドモンスター用に武器の祝福などを行うことができる。魔法の要素がほとんど存在しないSAOにおいて、もっとも神秘的な場所と言ってもいい。また、継続的に(コル)を納めることで教会内の小部屋を借り、宿屋の代わりに使う場合もある。

教会の建物は、街の規模に比べると小さなものだった。二階建てで、シンボルである尖塔も一つしかない。

まあ、ここはアインクラッドの中で一番、大きな街だ。他にも複数の教会がある。ゲート広場近くのものはちょっとした城館ほどのサイズがある。

目の前に着くと、キリトからメールが届く。

《今、東七区の教会前にいるか?》

メールにいると返信すると、教会の中からキリトが出てくる。

キリト「おつかれさん。二人のことはすでに伝えてある。中に入ってくれ。」

俺たちは教会内に入る。

教会内に入るとキリトとアスナは子供プレイヤーたちに囲まれていた。

見たところ、最年少は十二歳、最年長は十四歳ぐらいか。

「お、あんたたちもこの2人の仲間?」

ランマル「そうですよ。僕はランマル。よろしくね。」

ランマルは子供の高さに視線を下げる。

俺も同じように腰を下げて視線を子供に合わせる。

ルナ「俺はルナ。攻略組だよ。」

俺たちが自己紹介をすると、子供たちは剣を見せて欲しいとねだる。

ランマル「ごめんね。僕とルナさんは今、武器を装備してないんだ。」

「ちぇっ、あんたらも武器もってないのかよ。」

子供たちは文句を言う。どうやらキリトとアスナも同じ文句を言われたようだ。

???「こらっ、また初対面の方に失礼なこと言うなんて……すみません。お二方。」

シスターのような服装をした女性が謝罪をしてきた。

ルナ「大丈夫です。まだ子供なんですから、多少わがままでもいいですよ。」

ランマル「僕も大丈夫ですけど……ルナさん……子供だからって甘やかしちゃいけませんよ。」

ランマル……君って意外と厳しいところあるね……

「ねえ、黒い兄ちゃん。上から来たってことは武器ぐらいもってるだろ。」

別の子供がキリトに言う。

キリト「あ、ああ……一応持ってるけど……」

キリトが答えると、再び子供たちの顔がぱっと輝いた。子供たちは見せて、見せてと、口々に言い募る。

???「君たち!お客様に失礼でしょ!」

女性は子供たちを叱るが、効果はなさそうだ。女性はこちらに顔を向けると言う。

???「すみません、普段お客様なんてまるでないものですから……」

いかにも恐縮したように頭を下げる女性にこちら側も申し訳ない気持ちになる。

そんな時、アスナは慌てて女性に言う。

アスナ「い、いえ、構わないです。ねえ、キリトくん、幾つかアイテム欄に入れっぱなしだったと思うから、見せてあげたら?」

キリト「う、うん。」

アスナの提案に頷くと、キリトはウインドウを開き、指を動かした。たちまち十個ほどの武器アイテムがオブジェクト化され、傍らの長机の上に積み上げられていく。

ランマル「僕たちも出しましょう。ルナさん。」

ランマルも提案してくる。俺もキリトとランマルのように余剰武器アイテムを出す。そこにはランマルが初期に使っていたカタナや、俺が最初に手にした【アニールブレード】という剣も含まれていた。

子供たちは次々に武器に手を出しては「重〜い」「かっこいい〜。」など歓声を上げる。

端から見るとケガをしそうだと、ヒヤヒヤする人もいるだろう。しかし、ここ、街区圏内では剣の刃先などを触っても、それによってダメージを受けることは一切ない。

???「……すみません、ほんとに……」

眼鏡をかけた女性が、困ったように首を振りつつも、喜ぶ子供たちの様子に笑みを浮かべながら俺たちに言う。

???「……あの、こちらへどうぞ。今、お茶の準備をしますので……」

 

 

 

礼拝堂の右にある小部屋に案内された俺たちは、振舞われた熱いお茶をひとくち飲む。

ランマル「やっぱ温かいお茶って心がホッとしますよね。ルナさん。」

ルナ「そうだね。」

お茶に舌鼓(したづつみ)を打つランマルを横目に俺とキリトとアスナは女性に視線を向ける。

???「それで……人を探してらっしゃるということでしたけど……?」

向かいの椅子に座る女性プレイヤーが、小さく首を傾けて言った。

アスナ「あ、はい。ええと……私の名前はアスナです。こちらの人はキリトといいます。」

???「あっ、すみません、名前も言わずに。私はサーシャです。」

ランマル「僕はランマルです。」

ルナ「ルナといいます。」

俺たちはぺこりと頭を下げあう。

アスナ「で、この子が、ユイです。」

アスナの膝の上で眠り続けるユイの髪を撫でながら、彼女は言葉を続ける。

アスナ「この子、二十二層の森の中で迷子になってたんです。記憶を……なくしてるみたいで……」

サーシャ「まあ……」

サーシャの大きな深緑色の瞳が眼鏡の奥でいっぱいに見開かれる。

アスナ「装備も、服以外はなんにもなくて、上層で暮らしていたとは思えなくて……それで、はじまりの街に保護者とか……この子のことを知ってる人がいるんじゃないかと思って、探しに来たんです。で、こちらの教会で、子供たちが集まって暮らしていると聞いたものですから……」

サーシャ「そうだったんですか……」

サーシャは両手でカップを包み込むと、視線をテーブルに落とす。そして、細い声だが、はっきりとした口調で彼女は話し始める。

サーシャ「……この教会には、いま、小学生から中学生くらいの子供たちが二十人くらい暮らしています。多分、現在この街にいる子供プレイヤーのほぼ全員だと思います。このゲームがデスゲーム化してからは、それぐらいの歳の子供たちのほとんどがパニックを起こして多かれ少なかれ精神的に問題を来しました。勿論ゲームに適応して、街を出ていった子供もいるんですが、それは例外的なことだと思います。」

その例外がシリカやランマルなのだろう。今、思うとその二人はすごい勇気を持っていると感じる。

アスナ「当然ですよね、まだまだ親に甘えたい盛りに、いきなりここから出られない、ひょっとしたら二度と現実に戻れない、なんて言われたんですから……そんな子供たちは大抵虚脱(きょだつ)状態になって、中には何人か……そのまま回線切断してしまった子もいたようです。」

アスナの話を聞き終えた瞬間、サーシャの口許が固く強張る。

サーシャ「私、ゲーム開始から一ヶ月くらいは、ゲームクリアを目指そうと思ってフィールドでレベル上げしてたんですけど……ある日、そんな子供たちの一人を街角で見かけて、どうしても放っておけなくて、連れてきて宿屋で一緒に暮らし始めたんです。それで、そんな子供が他にもいると思ったら居ても立ってもいられなくなって、街じゅうを回っては独りぼっちの子供に声を掛けるようなことを始めて。気付いたら、こんなことになってたんです。だから、なんだか……あなた達みたいに、上層で戦ってらっしゃる方もいるのに、私はドロップアウトしちゃったのが、申し訳なくて。」

アスナ「そんな……そんなこと。」

アスナは首を振りながら、一生懸命言葉を探そうとしているが、中々言葉にすることができなさそうだ。

そんな時、後を引き継ぐようにキリトが言う。

キリト「そんなこと、ないです。サーシャさんは立派に戦ってる……俺なんかより、ずっと。」

サーシャ「ありがとうございます。でも、義務感でやってるわけじゃないんですよ。子供たちと暮らすのはとっても楽しいです。」

ニコリと笑ったサーシャはその後、眠るユイを心配そうに見つめた。

サーシャ「だから……私たち、二年間ずっと、毎日一エリアずつ全ての建物を見て回って、困ってる子供がいないか調べてるんです。そんな小さい子が残されていれば、絶対気づいたはずです。残念ですけど……はじまりの街で暮らしてた子じゃあ、ないと思います。」

アスナ「そうですか……」

アスナは俯き、ユイをぎゅっと抱きしめる。そして気を取り直すように、サーシャの顔を見る。

アスナ「あの、立ち入ったことを聞くようですけど、毎日の生活費とか、どうしてるんですか?」

サーシャ「あ、それは、私の他にも、ここを守ろうとしてくれてる年長の子が何人かいて……彼らは街周辺のフィールドなら絶対大丈夫なレベルになっていますので、食事代くらいはなんとかなってます。ぜいたくはできませんけどね。」

キリト「へえ、それは凄いな……。さっき街で話を聞いたら、フィールドでモンスターを狩るなんて常識外の自殺行為だって言ってましたよ。」

ランマル「たしかにすごい……その子たち、ほんとにサーシャさんの教会が好きなんですね。」

キリトとランマルの言葉に、サーシャはこくりと頷く。

サーシャ「基本的に、今はじまりの街に残ってるプレイヤーは全員、キリトさんが会った人のような考えだと思います。それが悪いとは言いません。死の危険を考えれば仕方ないことなのかもしれないんですが……その分、私たちは相対的に、この街の平均的プレイヤーよりお金を稼いでいることにもなるんです。」

確かに、この教会の客室を常時借り切っているなら、一日あたり百コルは必要になるだろう。

サーシャ「だから、最近目を付けられちゃって……」

アスナ「……誰に、です?」

サーシャの穏やかな眼が一瞬厳しくなる。言葉を続けようと彼女が口を開いた……その時。

「先生!サーシャ先生!大変だ!!」

部屋のドアがばんと開き、数人の子供たちが雪崩込んできた。

サーシャ「こら、お客様に失礼じゃないの!」

「それどころじゃないよ!!」

先ほどの赤毛の少年が、目に涙を浮かべながら叫んだ。

「ギン兄ィたちが、軍のやつらに捕まっちゃったよ!!」

サーシャ「場所は!?」

先ほどとは別人のように毅然とした態度で立ち上がったサーシャが、少年に訊ねた。

「東五区の道具屋裏の空き地。軍が十人くらいで通路をブロックしてる。コッタだけが逃げられたんだ。」

サーシャ「解った、すぐ行くわ。アスナさんたちにはすみませんが……私は子供たちを助けに行かなければなりません。お話はまた後ほど……」

サーシャの言葉に割り込むように赤毛の少年が叫ぶ。

「俺たちも行くよ、先生!!」

「僕も!!」

「私も!!」

少年の後ろにいる子供プレイヤーたちも口々に同意の声を上げた。少年はキリトのそばに駆け寄り、必死の形相で言う。

「兄ちゃん、さっきの武器、貸してくれよ!あれがありゃ、軍の連中もすぐ逃げ出すよ!」

サーシャ「いけません!あなたたちはここで待ってなさい!」

サーシャの叱責が飛ぶ。当たり前だ。腐っても軍の連中は攻略組。子供たち数人で挑んでも返り討ちにあうだけだ。

その時、今まで無言で成り行きを見守っていたキリトが、子供たちをなだめるように右手を上げた。普段は茫洋(ぼうよう)と掴みどころのない態度の彼だが、ここぞという時には不思議な存在感を発揮する。

そんな彼が突然、右手を上げたのを見た子供たちはぴたりと口をつぐむ。

キリトは落ちついた口調で話し始める。

キリト「残念だけど……あの武器は、必要パラメータが高すぎて君じゃ装備できない。俺たちが助けに行くよ。こう見えてもこの三人は無茶苦茶強いんだぞ。」

俺の隣にいるランマルは思わず赤面する。ちらりと俺たちに視線を向けるキリトに、俺とアスナは大きく頷き返した。そして立ち上がり、サーシャに向き直って俺たちは口を開く。

アスナ「私たちにもお手伝いさせてください。少しでも人数が多いほうがいいはずです。」

ルナ「アスナさんの言う通りです。私とランマルも攻略組なので軍の連中、数人程度なら余裕で追い払えます。」

ランマル「僕も同じくです!困っている人たちを放っておくことはできませんから。」

サーシャ「ありがとう、お気持ちに甘えさせていただきます。」

サーシャは深く一礼すると、眼鏡をぐっと押し上げて言う。

サーシャ「それじゃ、すみませんけど走ります!」

 

 

 

教会から飛び出したサーシャは腰の短剣を揺らして一直線に走る。キリトと、ユイを抱いたアスナ、俺とランマルもその後を追う。

走りながらちらりと後ろを振り返ると、大勢の子供たちが付いてくるのが見えたが、サーシャも追い返す気はないようだった。

木立の間を縫って東六区の市街地に入り、裏通りを抜けていく。最短距離をショートカットしているらしく、NPCショップの店先や民家の庭などを突っ切って進むうち、前方の細い道を塞ぐ一団が目に入った。最低でも十人ぐらいはいるだろう。

灰緑と黒鉄色で統一された装備は間違いなく【軍】の者だ。

躊躇せず路地に駆け込んだサーシャが足を止めると、それに気づいた軍のプレイヤーたちが振り向き、にやりと笑みを浮かべた。

「おっ、保母さんの登場だぜ。」

サーシャは軍のプレイヤーに対して、硬い声で言う。

サーシャ「……子供たちを返してください。」

「人聞きの悪いこと言うなって。すぐに返してやるよ、ちょっと社会常識ってもんを教えてやったらな。」

「そうそう。市民には納税の義務があるからな。」

わははは、と男たちが甲高い笑い声を上げた。納税と称して略奪を繰り返す奴らに社会常識があるわけないだろ。

サーシャの方も固く握られた拳がぶるぶると震えていた。

サーシャ「ギン!ケイン!ミナ!!そこにいるの!?」

サーシャが男たちの向こうに呼びかけると、すぐに怯えきった少女の声が聞こえる。

ミナ「先生!先生……助けて!」

サーシャ「お金なんていいから、全部渡してしまいなさい!」

「先生……だめなんだ……!」

今度はしぼり出すような少年の声が聞こえる。

「くひひっ。」

道を塞ぐ男の一人がひきつるような笑いを吐き出した。

「あんたら、ずいぶん税金を滞納してるからなぁ……金だけじゃ足りないよなぁ。」

「そうそう、装備も置いてってもらわないとなぁー。防具も全部……何から何までな。」

男たちの下卑た笑いを見て、俺は察した。恐らくこの【徴税隊】は、少女を含む子供たちに、着衣も全て解除しろと要求しているのだ。

……なんとも薄汚い奴らだ。俺はこいつらを斬ってやりたいという気持ちになったが、ここは抑えよう。

しかし、横のランマルはずっと頭を両手で抑えながら、目を閉じている。そして小言を呟いている。

ランマル「……抑えろ……抑えろ……抑えろ……」

俺は気になってランマルに近づく。

ルナ「ランマル、どうしたんだ。目を開けてくれ。」

ランマル「嫌だ!見せたくない!」

どうしても目を見られるのを拒むランマル。

軍の男たちはそれを見て、ニヤニヤ笑っている。

ルナ「心配だから見たいんだ。開けないのなら無理やり開けるぞ。」

ランマル「嫌!」

俺はランマルの右目を無理やり開ける。右目を開けた瞬間、俺は言葉を失った。

なぜなら、普段は黒い彼の瞳が赤くなっていたからだ。しかもハイライトもない。

ルナ「一体どうしたんだ!ランマル!」

ランマル「わ、わからないんです……ただ……激しい怒りを覚えるとこうなるんです……このことはギルドメンバーに指摘されて気づきました。」

ルナ「そうなのか。もう片方は?」

ランマル「同じかもしれません。」

そう言うとランマルは左目を開ける。意外にも左目は普通だった。

ルナ「ランマル、左目は大丈夫だ。」

ランマル「良かった。」

ルナ「ランマル、痛いかもしれないけど……すまない!」

俺はランマルにビンタした。

ランマル「何するんですか!?」

痛がるランマルの右目はすっかり、元の黒い瞳を取り戻していた。

ルナ「ごめん……ビンタで君の怒りを鎮めようとしたんだ。」

ランマル「そんなことされたら余計に怒りますよ!!」

ルナ「でも、眼の色は元通りだぞ。」

俺は手鏡をランマルに向ける。

ランマル「ああ……たしかに……元に戻ってる……」

ルナ「だろ……次、同じ状態になったら、またビンタで解決するからね。」

ランマル「何度もは辞めてくださいよ!」

ルナ「わかってる。さあ、今は子供たちを取り戻すことを優先するぞ。」

ランマル「わ、わかりました。」

俺とランマルが軍の男たちの方を向くと、サーシャと男たちが言い争っている。

ルナ「犯罪防止コードであいつらをどかすこともできない。どうすれば……」

街区などの"いわゆる"圏内では犯罪防止コードというプログラムが動いている。他のプレイヤーに危害を加えたり、無理やり移動させるということはこのプログラムによって不可能になっている。

だが、裏を返すと、それは行く手を阻む悪質プレイヤーも排除できないということだ。そのため、これを悪用するプレイヤーも一部にいる。

俺がこの厄介な問題の解決策を考えようとした瞬間、アスナはキリトに視線を向ける。そして言う。

アスナ「行こう、キリト君。」

キリト「ああ。」

二人は頷き合い、無造作に地面を蹴る。

敏捷(びんしょう)力と筋力補正を全開にして高く跳躍した二人は、呆然とした表情で見上げるサーシャと軍メンバーの頭上を軽々と飛び越え、四方を壁に囲まれた空き地へと降り立った。

「うわっ!?」

その場にいた数人の軍の男たちが驚愕の表情で声を上げる。どうやら二人は捕らわれた子供たちの元へジャンプしたようだ。

「おい……オイオイオイ!!」

その時、ようやく我に返った軍プレイヤーの一人が喚き声を上げた。

「なんだお前らは!!【軍】の任務を妨害すんのか!!」

「まあ、待て。」

喚く軍プレイヤーを押し留め、ひときわ重武装の男が進み出てきた。どうやらこいつがリーダー格らしい。

「あんたら見ない顔だけど、解放軍に楯突く意味が解ってんだろうな?何なら本部でじっくり話聞いてもいいんだぜ。」

リーダーの細い眼が凶暴な光を帯びた。腰から大振りのブロードソードを引き抜くと、わざとらしい動作でぺたぺた刀身を手のひらに打ち付けながら歩み寄ってくる。剣の表面が低い西日を反射してぎらぎらと光る。あの薄っぺらい輝きからすると、おそらくあの剣は一度の損傷も修理も経験していないようだ。

「それとも《圏外》行くか、圏外?おぉ!?」

リーダー格からその一言が放たれた途端、アスナの方からぎりっ、と食いしばっていた歯が擦れるような音が鳴る。どうやらリーダー格は彼女の怒りに油を注いでしまったらしい。アスナはキリトに「ユイちゃんをお願い」と言い、ユイを渡す。そしてキリトはいつの間にか実体化させていたアスナの細剣を片手でひょいと彼女に放っていく。

彼女は受け取りざま鞘を払い、リーダーに向かってすたすたと歩み寄る。

「お……お……?」

リーダー格の男は状況が飲み込めないらしい。さぞ滑稽だ。

そんなリーダー格の男の顔面に向かってアスナはいきなり全力の片手突きを叩き込んだ。

周囲を紫色の閃光が染める。彼女の全力片手突きの衝撃音はまるで爆発音のようだった。

男の厳つい顔が仰け反り、呆然と眼を見開いたままその場にぺたんと尻餅をついた。

アスナ「そんなに戦闘がお望みなら、わざわざフィールドまで行く必要はないわ。」

男の前まで歩み寄ると、彼女はもう一度右手を閃かせた。アスナはもう一度、全力の片手突きをお見舞いする。リーダーの体が弾かれたように後ろに転がる。

アスナ「安心して、HPは減らないから。その代わり、いつまでも続くけど。」

揺るぎない歩調で近づくアスナの姿を見上げ、リーダーはようやく彼女の意図を悟ったようで、唇をわななかせた。

犯罪防止コード圏内では、武器による攻撃をプレイヤーに命中させても見えない壁に阻まれてダメージが届くことはない。だがこのルールにも裏の意味があり、攻撃者が犯罪者カラーであるオレンジに落ちる心配もないということになる。

それを利用したのが《圏内戦闘》であり、通常は訓練での模擬戦として行われる。しかし、攻撃者のパラメータとスキルが上昇するにつれてコード発動時のシステムカラーの発光と衝撃音は過大なものとなり、またソードスキルの威力によってはわずかながらにノックバックも発生する。慣れない者にとってはHPが減らないとわかっていても、さぞ苦痛だろう。

その証拠にアスナの剣撃を受け続けるリーダーは地面に打ち倒されるたびに甲高い悲鳴を上げる。

「お、お前らっ……見てないで……なんとかしろっ……!!」

その声で我に返った軍メンバーが次々と武器を抜く。南北の通路からも、予想外の事態を察したブロック役のプレイヤーたちが走り込んでくる。

半円型に周囲を取り囲む男たちに、アスナはかつての狂戦士に戻ったような爛々と光る眼を向けた。物も言わず地面を蹴り、集団の真正面に斬りかかる。轟音と絶叫が狭い空き地に充満する。

 

 

 

それから三分後。

我に返ったアスナが足を止め、剣を降ろすと、空き地にはわずか数人の軍プレイヤーたちが虚脱して転がるのみだった。残りは皆リーダーを見捨てて逃げ出したらしい。どうやらリーダー格の男は人望が薄いようだ。

アスナ「ふう……」

大きく一つ息をつき、細剣を鞘に収めた彼女が振り返ると……そこには絶句して立ち尽くすサーシャと、教会の子供たちの姿があった。

アスナ「あ……」

アスナは息を詰めて一歩後ずさった。それはそうだろう。さっきの戦いぶりはまるでバーサーカーのようだったから。それで子供たちを怖がらせてしまったのかと思うと、申し訳ない気持ちになるだろう。

だが突然、子供たちの先頭に立つ例の赤毛で逆毛の少年が、目を輝かせながら叫んだ。

「すげぇ……すっげえよ姉ちゃん!!初めて見たよあんなの!!」

キリト「このお姉ちゃんは無茶苦茶強い、って言ったろう。」

にやにや笑いながらキリトが進み出てきた。左手でユイを抱き、右手には剣を下げている。どうやら数人は彼が相手をしたらしい。

残念ながら俺とランマルはここにいながら、何もできなかったようだ。まだまだ二人(キリトとアスナ)の領域には程遠いようだ。もっと強くならなきゃ。

一方のアスナは困ったように笑う。それと同時に子供たちがわっと歓声を上げて一斉に彼女に飛びついてきた。

サーシャも両手を胸の前で握り締め、両目に涙を溜めて泣き笑いのような表情を浮かべている。

その時だった。

ユイ「みんなの……みんなの、こころが。」

細いが、よく通る声が響いた。アスナははっとして顔を上げた。キリトの腕の中で、いつの間にか目覚めたユイが宙に視線を向け、右手を伸ばしていた。

アスナは慌ててその方角を見やったが、そこには何もない。

ユイ「みんなのこころ……が……」

キリト「ユイ!どうしたんだ、ユイ!!」

ランマル「みんなのこころって……急にどうしたんですか!?」

キリトとランマルが叫ぶとユイは二、三度まばたきをして、きょとんとした表情を浮かべた。アスナも慌てて走り寄り、ユイの手を握る。

アスナ「ユイちゃん……何か、思い出したの!?」

ユイ「……わたし……わたし……」

ユイは眉を寄せ、俯く。

ユイ「わたし、ここには……いなかった……。ずっと、ひとりで、くらいとこにいた……。」

何かを思い出そうとするかのように顔をしかめ、唇をかむ。すると突然。

ユイ「うあ……あ……あああ!!」

その顔が仰け反り、細い喉から高い悲鳴が(ほとばし)った。

ランマル「な、なんなんですか!これは!?」

ザ、ザッという、SAO内で初めて聞くノイズじみた音が俺やランマル、アスナたちの耳に響く。

何が起ころうとしてるんだ……。

ノイズじみた音が響いた直後、ユイの硬直した体のあちこちが、崩壊するように激しく振動した。 

アスナ「ゆ……ユイちゃん……!」

アスナも悲鳴を上げ、その体を両手で必死に包み込む。

ユイ「ママ……こわい……ママ……!!」

かぼそい悲鳴を上げるユイをキリトの腕から抱き上げ、アスナはぎゅっと胸に抱きしめた。

数秒後、怪現象は収まり、硬直したユイの体から力が抜けた。

キリト「なんだよ……今の……」

キリトのうつろな呟きが、静寂に満ちた空き地に低く流れた。

ルナ「ま、まさかね……」

俺はユイの正体について何かを察してしまったようだ。




今回の新キャラ(ネモとゴッホ)



ネモ
CV 花守みゆり
ギルド【チームノーチラス】のギルドマスター。彼のギルドには他にも彼と似た容姿を持つメンバーが複数人所属している。
ゴッホとは恋人同士。


ゴッホ
CV 高橋花林

絵描きスキルを極めた少女。芸術センスは優れているが、反面コミュ障気味な性格をしている。
ネモとは恋人同士。
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