Overlord: Blood Dominion ―血の王と死の王― 作:シュエル
ユグドラシル終焉の夜。
かつて千を超えるギルドが栄華を競った世界は、今やひっそりと終わりを待つのみだった。
ナザリック地下大墳墓――その玉座の間。
重厚な扉が開く音が、虚ろな広間に低く響く。
漆黒のロングコートを翻し、赤い帽子をかぶった男がゆっくりと歩み入った。
その眼は紅蓮の光を宿し、まるで夜の深淵から覗く悪夢のごとし。
Alucard_666(アーカード)。
吸血鬼を模したアバターであり、ヘルシングを完璧に再現したロールプレイヤー。
彼はこの世界で、血と闇の象徴として恐れられていた。
そしてその視線の先に座していたのは、
骸骨の王――モモンガ。
玉座の上で静かに時を待つ彼を見て、アーカードは笑みを浮かべる。
「おやおや、まだ残っていたとはな。骨の王よ、まるで棺の中で永遠の眠りを待つ死者のようだ。」
赤い唇が歪む。
その声音は、楽しげであり、どこか哀しみを含んでいた。
「……アーカードか。お前も最後まで残るのか?」
「当然だろう?」
帽子のつばを軽く押さえながら、彼は肩をすくめる。
「この世界で築き上げた“帝国”の終焉を見届けるのも、王としての嗜みだ。」
「ふ……“王”か。相変わらずだな。」
モモンガの口調に、かすかな笑いが混じる。
共に過ごした時は長い。互いのRPも理解している。
モモンガは死の支配者、アーカードは血の王。
正反対でありながら、互いを理解し、並び立つ存在だった。
時計の針が進む。
サーバー停止まで、残り五分。
玉座の間に、沈黙が流れる。
NPCたちは、かつての仲間たちが残した遺産。
無言のまま佇むシャルティア、デミウルゴス、アルベド――彼らの瞳は空虚なデータのはずだった。
だが、アーカードはふと笑った。
「なあ、モモンガ。もし、この世界が“消えず”に残るとしたら……お前はどうする?」
「……それは、夢物語だ。」
「夢が現実にならない保証はないさ。」
帽子の影から、赤い双眸が覗く。
「もし世界が続くなら、俺は――再び血の雨を降らせよう。
生と死の境を破壊し、この世界を地獄に染め上げる。」
モモンガはその言葉を受け止め、骨の指を顎に当てる。
そして、わずかに笑う。
「なら、私はその地獄の王国を“秩序”で支配してみせよう。」
二人の王が、静かに向き合う。
死と血、闇と闇。
交わることのない支配者たちが、この瞬間だけは並び立っていた。
――そして、時計の針が零を指す。
視界が白く塗りつぶされ、世界が消える。
はずだった。
だが。
次に彼らが目を開けたとき――
空気は生々しい。冷たい。
肌に触れる風が“本物”だった。
床の石は熱を持ち、NPCたちの瞳が、光を宿していた。
「……モモンガ様。」
アルベドが跪く。その声には、確かな“感情”があった。
同時に、アーカードの背後でシャルティアが微笑む。
「ご主人様……血の香りがいたしますわ……。」
アーカードはゆっくりと笑い、指を鳴らした。
影が揺らぎ、そこから無数の黒い獣が這い出す。
「ふはははは……どうやら、本当に“夢”が現実になったようだな。」
モモンガはその光景を静かに見つめ、玉座の上から立ち上がる。
「ならば、我々の王国を築こう。――この新たな世界で。」
赤と黒の支配者が、並び立つ。
その日、異世界に二つの“絶対”が誕生した。
死を統べる王、アインズ・ウール・ゴウン。
そして血を統べる王、アーカード。
世界はまだ知らない。
この二人がもたらす支配と恐怖が、いかなる終焉を呼ぶのかを――。