Overlord: Blood Dominion ―血の王と死の王―   作:シュエル

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第3章:祈りと血と狂信の交差点
第1話 静寂に座す王、夜を招く


ナザリック地下大墳墓・第九階層。

 玉座の間には、いつものように完成された静寂が支配していた。

 広大な空間を、青白い魔光が淡く照らし、冷えた空気が揺らぎもしない。

 

 だがその静寂は――

 アインズ・ウール・ゴウンが抱える懸念によって、わずかに揺れていた。

 

(外界の恐怖の波形……異常増大。

 “血の領域”は既に王国から法国側へと浸透……。

 想定以上に早いな)

 

 浮かぶ情報窓を閉じながら、アインズは骨の指で肘掛けを軽く叩く。

 

(そして……法国側で、妙な動き。

 “処刑異端審問官部隊”の召集……?

 いや――“狂信者級の個体”が一人、国境へ向かっている…)

 

 アインズは首を少し傾けた。

 

(法国に、あんな“個体値の高い戦闘者”がいたか?

 あれは……まるで――)

 

 その瞬間。

 

 ――カツン。

 

 霧が生まれたような錯覚とともに靴音が響く。

 アインズは気配を探り、すぐに察する。

 

「隠密のつもりなら、もっと穏当に着地したらどうだ?」

 

「穏当、か?」

 深紅の影が笑った。

 「夜」はいつも突然やってくる。

 

 アーカード。

 

「王よ。世界は少しずつ楽しくなってきたぞ」

 

「外界の騒ぎはすべてお前の仕業とは限らんぞ?」

 

「全部ではない。

 だが――“彼奴”の匂いは、久しいな」

 

 アーカードが愉悦混じりに目を細める。

 

「彼奴?」

 

「聖堂に仕え、神を握り拳のように扱う狂信者。

 名を――アンデルセンと言ったか」

 

 アインズの思考が一瞬止まりかける。

 

(アンデルセン……?

 記録にある。法国側に出現した“対アンデッド専門処刑官”か)

 

「……お前の“因縁持ち”か?」

 

「因縁というより、“永い夜の続き”だ」

 アーカードは笑った。

 「奴はアンデッドを――絶対に許さない」

 

「アンデッド絶対殺す……か」

 アインズは軽く息を吐くように呟く。

(やっかいな相手だな)

 

「王よ。

 どうやら世界は、我々二人だけの舞台では済まないらしい」

 

「……アンデルセンは何者だ? 法国の人間か?」

 

「人間だが――“あちらの世界”の価値観をそのまま持ってきた、

 狂信の化け物さ」

 

 アーカードは愉快そうに肩を揺らす。

 

「お前の死が嫌いで、私の夜も嫌いで、

 光の沈黙を“神への裏切り”と断じて怒り狂う男だ」

 

(つまり…理性はあるが極端な行動原理の持ち主。

 交渉は困難、敵対確定……)

 

 アインズは深く思考に沈んだ。

 

「……外界は、いよいよ混沌に向かうようだな」

 

「混沌ではない、王よ」

 アーカードが言う。

「“祈りと血と狂信”が交差する地点だ」

 

「その中心に……私と、お前と、そのアンデルセンがいると」

 

「そうだ。

 面白いだろう?」

 

 アインズは沈黙し――

 ゆっくりと玉座に背を預けた。

 

(世界は動く。だが、それは“管理不能な混沌”ではなく――

 私が支配の手を伸ばすための“契機”にもなる)

 

「アーカード」

 

「なんだ、王よ?」

 

「外界での“夜の振る舞い”は許可する。

 だが――アンデルセンと接触した場合、独断で殺すな」

 

「おや?」

 アーカードが笑う。

「止める理由でもあるのか?」

 

「ある。

 “敵として分析する価値がある”。

 奴の狂信は、法国そのものを揺るがす。

 その変化を利用できる」

 

 アーカードは愉快そうに帽子を傾けた。

 

「分析か、交渉か、利用か……

 なるほど。お前はつくづく“王”だな」

 

「お前はつくづく“夜の怪物”だ」

 

「褒め言葉として受け取ろう」

 

 霧が揺れ、アーカードの姿が溶けるように消えていく。

 

「では――私は私で“因縁の続きを”楽しませてもらう」

 

「その狂信者は、お前を殺すためなら本気で世界を敵に回すぞ?」

 

「だからこそ面白い」

 

 赤い残滓だけが空間に揺れ、やがて静寂が戻る。

 

 アインズは杖を軽く叩き、呟いた。

 

「祈り、血、狂信……

 神と夜とアンデッド殺し……

 面倒だが、実に“王向け”の情勢になってきたな」

 

 眼窩の奥で、青い光が静かに揺れた。

 

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