Overlord: Blood Dominion ―血の王と死の王―   作:シュエル

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第七話 王、神父を観る

 

 ナザリック地下大墳墓――第九階層。

 

 玉座の間は、今日も変わらぬ静寂に満ちていた。

 それは空虚ではない。

 すべてが制御下にあるという静けさだった。

 

 アインズ・ウール・ゴウンは玉座に座したまま、

 宙に浮かぶ複数の魔法スクリーンを眺めていた。

 

 映し出されているのは、ひとつの男。

 

 銀の十字を携え、

 夜の圧に身を晒しながらも、

 一歩も退かずに立つ神父。

 

「……アンデルセン」

 

 名を呼ぶ声に、感情はほとんどない。

 そこにあるのは、評価だけだ。

 

「人間としては、異常だな」

 

 背後に控えるデミウルゴスが、静かに頷く。

 

「はい、アインズ様。

 肉体・精神・信仰――

 いずれも、通常の人類の規格を逸脱しています」

 

「だが、我々の“同類”ではない」

 

「ええ。

 あの者は、我々のように世界を俯瞰する存在ではありません」

 

 スクリーンの中で、アンデルセンは聖堂の外庭に立ち、

 夜の気配を“感じ取ろう”としている。

 

 だが、彼は見えていない。

 ナザリックの姿も、魔法スクリーンも、

 骸骨の王も。

 

 それでも――

 

「……気づいているな」

 

 アインズの声は低かった。

 

「“何かがいる”ことには、確実に」

 

「はい」

 デミウルゴスは感嘆を隠さない。

「空間的把握ではなく、

 “世界の重さの変化”として感知しているようです」

 

「勘、というより……

 経験の蓄積か」

 

 アインズは、かつての記憶を辿る。

 

 ユグドラシル時代。

 数多のプレイヤー。

 数多の敵。

 

(こういうタイプは……

 最後まで生き残る)

 

 力があるからではない。

 柔軟だからでもない。

 

(“役割”を疑わない者だ)

 

 アンデルセンは迷わない。

 自分が何をするために存在しているかを、疑問にしない。

 

 それは、ある意味で――

 ナザリックの守護者たちと似ている。

 

「アインズ様」

 

 今度はアルベドが口を開いた。

 

「彼は危険です。

 アーカード様とは違い、

 理性と信念をもって“排除”を行います」

 

「うむ」

 

 否定はしない。

 

「だが、だからこそ厄介だ」

 

 アーカードは夜を撒く。

 恐怖を振りまき、世界を揺らす。

 

 だが、アンデルセンは――

 

「秩序の中で、殺す」

 

 アインズは淡々と分析する。

 

「彼は暴れない。

 侵食もしない。

 必要な時に、必要なだけ刃を振るう」

 

「……最悪の敵ですね」

 

「最悪になり得る、だ」

 

 アインズはスクリーンを切り替える。

 そこには、審問の場を終えた後のレオナの姿が映っていた。

 

「彼が今、刃を向けていない理由は一つ」

 

 骸骨の指が、軽く宙を指す。

 

「聖女だ」

 

 デミウルゴスが即座に理解する。

 

「彼女が“枷”になっている」

 

「そうだ」

 

 アンデルセンは、レオナを守る。

 だが同時に――

 彼女が“越えた”瞬間、

 ためらいなく刃を向ける覚悟も持っている。

 

「……実に、危うい均衡だ」

 

 アインズは、玉座に深く腰を沈めた。

 

(夜と狂信、

 その間に立つ少女)

 

(そこへ、

 “殺すために生きている人間”)

 

 そして――

 それらすべてを、

 盤上から眺める王。

 

「デミウルゴス」

 

「はっ」

 

「アンデルセンと直接対峙するのは、まだ早い」

 

「では、観測のみを?」

 

「いや……」

 

 アインズは一瞬、言葉を止めた。

 

「“選択肢”を与える」

 

 アルベドの瞳が鋭く光る。

 

「……彼に、ですか?」

 

「彼と、聖女の双方にな」

 

 骸骨の王は、静かに宣言する。

 

「光か。

 夜か。

 あるいは――

 我が秩序か」

 

 それは誘いではない。

 罠でもない。

 

「理解できる者なら、

 選ぶ前に“考える”だろう」

 

 そして――

 考える者こそが、

 最も扱いやすく、最も危険だ。

 

          ◇

 

 一方、地上。

 

 アンデルセンは、夜空を見上げていた。

 

 星はある。

 月もある。

 

 だが、どこか“遠い”。

 

(……見られている)

 

 はっきりとは分からない。

 だが、確信だけがある。

 

(吸血鬼ではない。

 もっと……冷たい)

 

 祈りでは届かない。

 怒りでは近づけない。

 

(王、か)

 

 彼は十字架を握り、静かに呟く。

 

「ならば――

 私は、最後まで人間として立つ」

 

 それは宣戦布告ではない。

 挑戦でもない。

 

 ただ、立場の宣言だった。

 

 世界が盤であろうと、

 神が沈黙しようと、

 夜が笑おうと。

 

 神父は歩く。

 人として。

 武器として。

 

 そして王は、それを見ている。

 

 静かに。

 逃がさぬように。

 

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