Overlord: Blood Dominion ―血の王と死の王―   作:シュエル

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第四章:崩れる光、選ばされた者たち
第一話 沈黙の対話、開かれる檻


 

 その日、聖都イシュタルは不思議なほど静かだった。

 

 鐘は鳴っている。

 祈りも捧げられている。

 市場には人が溢れ、巡礼者も絶えない。

 

 ――それでも、どこか“音が薄い”。

 

 レオナは聖堂の回廊を歩きながら、その違和感を拭えずにいた。

 

(……何かが、決まった)

 

 理由は分からない。

 誰かに告げられたわけでもない。

 

 だが、空気が変わった。

 これまでの「様子見」が終わり、

 世界が次の段階に進んだような感覚。

 

 彼女は足を止め、窓から外を見下ろす。

 

 光は、まだ沈黙している。

 

 だがそれは、もはや恐怖ではなかった。

 慣れでも、諦めでもない。

 

(……問われている)

 

 そう、感じていた。

 

          ◇

 

 同じ頃、聖堂の地下――

 枢機卿会議室では、珍しく全員が揃っていた。

 

 誰も声を荒げない。

 だが、沈黙は重い。

 

「……確認しておこう」

 

 最年長の枢機卿が、静かに口を開いた。

 

「聖女レオナは、異端ではない」

 

 誰も反論しない。

 

「しかし――

 “危うい象徴”であることは否定できぬ」

 

 別の枢機卿が、続ける。

 

「民は、神ではなく彼女を見ている。

 これは、信仰国家にとって健全な状態とは言えない」

 

「だからと言って、切るには早すぎる」

 

「切らぬ」

 

 年長の枢機卿が即答した。

 

「だが、“囲う”必要はある」

 

 その言葉に、空気が僅かに冷える。

 

「保護という名目での管理。

 対話という名目での制限。

 選択という名目での誘導」

 

 それは、処刑ではない。

 だが――

 自由でもなかった。

 

          ◇

 

 その決定は、レオナ本人には直接伝えられない。

 

 代わりに、

 ひとりの男が呼ばれた。

 

 アンデルセン。

 

 彼は、会議室に入るなり空気を理解した。

 

(……始まったな)

 

 誰かが“敵”になったわけではない。

 だが、守るべきものの形が変わった。

 

「神父アンデルセン」

 

「はい」

 

「聖女レオナには、近く“特別な対話”の場が与えられる」

 

「……対話、ですか」

 

「彼女のためだ」

 

 その言葉に、アンデルセンは微笑まなかった。

 

「彼女のため、という言葉は便利ですね」

 

 一瞬、枢機卿の一人が眉を動かす。

 

「反論かね?」

 

「確認です」

 

 アンデルセンは、静かに続ける。

 

「彼女は、選べるのですか」

 

 沈黙。

 

 その沈黙こそが、答えだった。

 

「……承知しました」

 

 アンデルセンは、それ以上何も言わなかった。

 

 だが、その胸の奥で、

 何かがきしみ始めている。

 

          ◇

 

 夜。

 

 レオナは自室で、一通の書簡を受け取った。

 

 封蝋には、見慣れない紋章。

 だが、どこか冷たい。

 

 内容は簡潔だった。

 

――近く、

聖女レオナ殿に“対話の場”を設ける。

これは信仰と秩序を守るためのものであり、

危害の意図は一切ない。

 

 言葉は丁寧だ。

 だが、選択肢は示されていない。

 

(……対話)

 

 レオナは、書簡を胸に抱いた。

 

 怖くはない。

 だが――

 逃げ道が消えた感覚がある。

 

(私は……

 何を選ばされるの?)

 

          ◇

 

 その頃、聖都から遠く離れた夜。

 

 赤い霧が、ゆっくりと集まり始めていた。

 

「……くく」

 

 アーカードは、空を見上げて笑った。

 

「面白くなってきたじゃねェか」

 

 血の匂いが濃くなる。

 

「囲い始めたな。

 守るつもりか?

 それとも――

 縛るつもりか?」

 

 彼は知っている。

 

 こういう時、

 必ず“誰か”が壊れる。

 

「……神父」

 

 低く、名を呼ぶ。

 

「お前、まだ祈ってるか?」

 

 答えはない。

 

 だが、夜は知っていた。

 

 この世界は、

 もう一度――

 血を流す準備を始めたのだと。

 

          ◇

 

 そして、さらに遠く。

 

 ナザリック地下大墳墓。

 

 玉座の間で、骸骨の王が静かに呟いた。

 

「……檻は、開いたな」

 

 誰かを捕えるためではない。

 選ばせるための檻だ。

 

 その選択が、

 世界をどう歪めるか――

 

 まだ、誰にも分からない。

 

 だが確かに、

 第四章は動き始めた。

 

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