Overlord: Blood Dominion ―血の王と死の王―   作:シュエル

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幕間 王は評価し、動かない

 

王は評価し、動かない

 

 ナザリック地下大墳墓。

 玉座の間。

 

 静寂は、いつも通り完璧だった。

 

 玉座に腰掛ける骸骨の王は、動かない。

 指一本、動かさない。

 

 だが――

 視ていた。

 

 遠隔視界に映るのは、すでに終わった戦場。

 砕けた石畳。

 血の痕。

 歪んだ夜の名残。

 

「……なるほど」

 

 低く、感情を伴わない声。

 

 王は、戦闘の全てを把握していた。

 初動。

 殺意の質。

 再生速度。

 狂気の方向性。

 

 そして――

 決着がつかなかった理由も。

 

「双方とも、致命的な誤算は犯していない」

 

 それは称賛ではない。

 評価だ。

 

 彼は理解している。

 

 あの戦いは、勝敗を決めるためのものではなかった。

 どちらが強いかを証明するものでもない。

 

 互いが、互いを否定するためだけの衝突。

 

 その構造自体が、すでに異常だ。

 

「……人間側の個体」

 

 王は、アンデルセンという存在を思考の俎上に載せる。

 

 データ的には、明らかに異質。

 信仰を動力とし、

 自己破壊を強化として扱い、

 恐怖よりも“義務”で動く。

 

「秩序にとっては危険だが……

 即時排除対象ではない」

 

 むしろ。

 

「放置した方が、盤面は動く」

 

 王の思考は、常に先を見ている。

 

 あの神父は、

 教会を壊すために存在しているわけではない。

 

 だが、

 壊れかけた秩序に触れれば、必ず亀裂を広げる。

 

「……吸血鬼側も同様だな」

 

 アーカードという存在。

 力は規格外。

 だが、行動原理は単純。

 

 彼は支配しない。

 統治しない。

 ただ――

 否定する。

 

 正義を。

 神を。

 人間の言い訳を。

 

「彼が動くのは、常に“面白くなった時”だ」

 

 だからこそ、危険でもあり、

 同時に――

 予測可能でもある。

 

 王は、玉座の肘掛けに指を置いた。

 

「……介入する理由はない」

 

 その判断に、迷いはない。

 

 なぜなら。

 

 介入すれば、

 この戦いは“意味を失う”。

 

 アンデルセンは、

 誰かに命じられて戦ったわけではない。

 

 アーカードも、

 支配や侵略のために刃を振るったわけではない。

 

 だから、この衝突には“価値”がある。

 

「……そして」

 

 王の思考が、

 ひとりの少女に向かう。

 

 レオナ。

 

 まだ、この戦いを知らない聖女。

 

 彼女は、

 正しい選択をしたつもりで、

 間違いを積み重ねている。

 

「彼女がこの事実を知った時……

 世界は、もう一段階壊れる」

 

 王は、それを止めない。

 

 止める理由がない。

 

 それは残酷だからではない。

 無慈悲だからでもない。

 

 それが、世界の自然な進行だからだ。

 

「……王は、動かない」

 

 それは怠慢ではない。

 放棄でもない。

 

 最も影響力の大きい選択だ。

 

 玉座の間に、再び完全な静寂が戻る。

 

 だがその静寂の裏で、

 世界は確実に、

 次の破滅へ向かって進んでいた。

 

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